俺のクルマは『カムリ』
もう長い付き合いだ。おそらく物心ついた頃にはカラダの一部のような存在になっていた。
今では自分の『息子』のようにかわいがっている。
毎日の洗車もかかさない。特に室内は念入りに清掃をする。何故かやけに湿りがちで、汚れが溜まるのが気になるからだ。
ある夜我が『息子』で高速道路を快調に流していると、煽ってくる1台のマシンがいた。
『何だ・・・?』最初は気にも止めなかったが、車種が分かった時、俺は一瞬にして青ざめた・・・!
『ビガー!!』
そう、ホンダのプレミアムセダンである。自分にも分からないが、
あのクルマ『ビガー』には絶対に抜かれてはいけないのだ。
男としてのプライド、俺のアイデンティティが崩壊してしまう。俺が俺でなくなってしまうだろう。
奴『ビガー』の侵略は『カムリ』乗りにとって、カラダごとひんむかれるような屈辱を感じるのだ。
『チッ・・・』俺は軽く舌打ちをして、すかさず俺は相棒『カムリ』のシフトレバーを1速落とす。
そう、奴とのドッグファイト開始である。
いきり立つように吠える我が息子『カムリ』。一気にレッドゾーンまでまわるエンジン!!
バックミラーに小さくなる『ビガー』が映る。俺は少しの安堵を抱いたものの、さらなる危機がすぐそこに迫っていた。
俺は他のクルマの流れに合わせようと前方のクルマに目をやると、そこには小さいキャビンのセダンが走っていた。カリーナ『ED』である。
何とも哀愁漂う雰囲気は、俺をあざ笑うかのようにゆったりと走行していた。
だがコイツだけは抜いてはいけないのだ。何故なら『ED』を越してしまうと、
その先にあることは、我が息子『カムリ』が排気という機能をするだけの
『物』に成り下がってしまうからだ!
そこには『ED』を追い越せずに、『ビガー』の追随に焦りと不安を募らせる
『カムリ』がいたのだった・・・