代々の沿岸漁師は出汁の歴史が太古に遡ることを体で確信している。
ハマグリ、鯛、イサキ、コチ 等々に僅かの塩を足すだけで「潮汁」ができる。
さらに、海老殻、干し貝、スルメ、煮干類、干し海老からも出汁がとれることを発見したに違いない。
ホンビノス貝からも出汁がとれるので、ここまでは世界共通の漁民の味覚だったろう。
偶々日本近海のプランクトンが良質な出汁の生成に適していたため独自の発展を遂げたのだろう。
臭みやえぐみがなければ、素材の味をなるべく生かしたいという傾向も出汁に由来。
天婦羅や牡蠣フライを塩味で食いたくなるのも同様。

鰹節、干し昆布、干し椎茸は、以上の基底の上に後発的に追加されたもの。
特に、鰹節と昆布については凝りに凝った発展をたどった。
「旨味」を感じる味蕾が発見されるまで、欧米人は旨味・出汁の実在に懐疑的だった。
獣骨やベイコン、各種熟成物から出るものは「出汁」ではなく、あくまでも「味」だったのである。

不思議なのは鮪のトロ、霜降り肉の愛好だ。鴨肉や猪肉の脂が旨いのは知られていたが葱と一緒でなければ食べる気がしなかった。鮭も脂がのっていると保存・熟成に適さず、脂まみれのトロサーモンを旨いと感じる舌は近代の産物だろう。

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