http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201605/CK2016050102000120.html
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201605/images/PK2016050102100051_size0.jpg
辰巳水泳場、20年以降も存続へ 隣接地に680億円の五輪用新施設
2016年5月1日 朝刊

東京都は、国内外の主要な大会が開催されてきた東京辰巳国際水泳場(江東区)を、
二〇二〇年東京五輪・パラリンピック後も存続させる方針を決めた。都幹部が明らかにした。
隣接地に水泳場のオリンピックアクアティクスセンターを新設するため、存続か廃止かを検討していた。
都はアクアセンターと異なる活用法を探るとするが、
巨額の投資に見合うだけの必要性や採算性があるのか議論を呼びそうだ。 (中沢誠)

辰巳水泳場は観客席が三千六百席しかなく、運河に面していて大幅な拡張工事も難しい。
このため都は、五輪の競泳会場などとして一回り大きいアクアセンターを新設。
辰巳水泳場は水球会場として使うことになった。
アクアセンターは、隣の都立公園内に六百八十三億円で建設し、
大会時は二万席を確保、大会後は五千席に縮小する。

都は二年前から、新設の競技施設を大会後にどう利用するかについて、有識者の助言を得ながら探ってきた。
アクアセンターは、辰巳水泳場が担ってきた主要大会の会場として活用する方向で検討。
辰巳水泳場は大会後の必要性や採算性を調査するなど、廃止を含め検討してきた。

ただ、辰巳水泳場は築二十年以上で老朽化が進んでいるため、
都は一二年度から既に大規模な改修工事を進めている。
一期工事では十五億円を支出。東京での五輪の開催決定後、会場の全体計画が見直され、
大会後の見通しも立たなかったため、二期工事はいったん見合わせていた。
今回、存続の方針を決めたことで、本年度中に二期工事の基本設計をやり直す。
一九年十二月の完成を目指し、五千席に増やすなど五輪会場として必要な工事や改修を終えるとしている。
都オリンピック・パラリンピック準備局スポーツ推進部の小室明子部長は、
本紙の取材に「アクアティクスセンターとは異なる機能を有するスポーツ施設として活用を検討する」と説明。
地元の江東区が、どちらかの水泳場をアイススケート場にと要望していることについて
「江東区の要望も視野に、プールに限らず広くスポーツ施設として活用法を考えたい」と話している。

◆問われる必要性
辰巳水泳場が五輪の競泳会場に使えないという事情はあるものの、
六百億円を超える巨額の税金を投じ、アクアセンターを隣接地に建てることに、
都民からは「二つも無駄では」と厳しい目が注がれてきた。
今回、辰巳水泳場を存続する方針を決めたことで、都にはなぜ残す必要があるのかの説明が求められる。

そもそもアクアセンターの建設地が辰巳水泳場の隣接地になったのは
二〇二〇年東京大会が、選手村から半径八キロ圏内に会場を集めるコンパクト五輪をうたうからだ。
都オリンピック・パラリンピック準備局の担当者は「選手村近くで他に適した都有地がなかった」と説明。
さらに「大会後も都民や国民の貴重な財産として有効活用されるため」として恒久施設とする。
だが、大会後も二つの大型水泳場を運営するには、都民の理解が不可欠だ。

辰巳水泳場は、既に十五億円かけた大規模改修工事をしており、廃止となればその工費は無駄になる。
一方、辰巳水泳場だけでも年五億円弱の維持費が必要で、存続させれば二施設分の維持費が毎年かかる。
「現時点では、内部で検討した結果としか言えない」。
同準備局の小室部長は、本紙の取材に対し、辰巳の存続を決めた理由を明確にしていない。
一九六四年の東京大会で競泳と飛び込みの会場だった代々木第一体育館は、
大会後、プールに床を張り、今はバレーボールの世界大会やコンサート会場などとして使用されている。
二〇一六年大会の招致活動で都担当課長だった鈴木知幸・日本スポーツ法学会理事は
「有効利用するには、いかに新しい水泳場とのすみ分けを図るかが課題。
存続するなら、都は都民からも意見を聞いて活用法を検討するべきだ」と話す。

<東京辰巳国際水泳場> 1993年に開館。世界水泳や五輪選考会など
国内外の主要大会が開かれてきた国内スイマーの聖地。
50メートルのメインとサブのプール、飛び込みのプールがある。一般にも開放している。
事業費は181億円、維持費は年間4億7000万円。
2008年には、五輪競泳の金メダリスト北島康介選手が、200メートル平泳ぎで世界新記録を出した。