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それからは、村での暮らしの再現だった。
男達は何かにつけてAと主人公を比べ、嘲笑う。
天真爛漫としたAは、たちまち周囲の好意を集めていく。
CもAに惹かれていっていることが、主人公にはすぐ分かった。
そんなある夜、一人で仕事中の主人公のところにAがやって来る。

A「Cさんに求婚されたの。だから私、それなら主人公ちゃんを私と一生一緒にいられるようにしてくれって頼んだわ」
主人公「私に、一生小間使いになれっての?」
A「まさか。主人公ちゃんは私のお姉さんも同然だもの。一緒に家の仕事を・・・」

我慢の限界だった。
反射的に主人公は手元の石でAを滅多打ちにして殺し、亡骸を川に投げ捨てる。
数日後、変わり果てたAの死体が打ち上げられた。
死体は水に揉まれてぼろぼろであり、主人公が殴った痕跡には誰も気づかず、<夜、うっかり足を滑らせて川に落ちた>と結論付けられる。
無惨なAの死体と、子どもの頃からずっと一緒にいたAの笑顔が交錯し、泣き崩れる主人公。

その後、主人公とCは結婚した。
共にAの思い出話をし、慰め合ううちに情が湧いたのだ。
主人公は女将や大女将に気に入られていたため話はすんなりまとまり、間もなく男の子を授かる。
主人公の内助の功もあって商売は順調、家は大きくなるばかり。
唯一の不安は、もうすぐ三歳になろうとする息子が、いつまで経っても喋らないことだ。
これは、Aの祟りなのだろうか。
ならばどうか、私に祟ってほしい。
この子は許してやってほしい。
苦悩する主人公の前で、ある時、とうとう息子が「かあちゃん」と喋る。
狂喜し、Cや舅姑を呼び集める主人公。
家族全員が揃う前で、息子は言った。
「こんな夜だったね、主人公ちゃん。あんたが私を殺したのは」
それは間違いなく、Aの声だった。

Aは鈍感だったかもしれないけど、主人公を引き立て役扱いする気は一切なく、本人主観では大好きな幼馴染として慕っていただけ。
主人公も、Aが善良な子だということはよく分かっていたからこそ、距離を置いて新天地で居場所を得ようとした。
善意や努力がすべて無に帰す展開が後味悪かった。