>>878
糸井
つまり、羽生さんはそういうことを、ぜんぶやろうとしているわけですね。要するに、余計なこと?

羽生
余計なことをやってるんですよね、たしかに。

糸井
(笑)

羽生
でも、競技時代だったら、そういうことは点数としては出ないんだけど、プロになって、その演技自体を見られる、お客さんに見てもらう、ってなったとき、そこに求められる質感は、正直、圧倒的に違うと思うので。

糸井
じゃあ競技じゃない道に移った選手の方がおもしろいかもしれないですね。

羽生
というよりも、そこまで目指すというのが、競技のフィギュアスケート界にないんですよ。

糸井
それは、目指す道がないんですか。

羽生
というよりも、意識がないというか。

糸井
ああ、そうですか

羽生
フィギュアスケートってどっちかというと、やっぱりバレエの方に近くて、バレエっていうのは音楽にピタッとはめることがすべてではないんですよね。バレエの原点に立ち返っていうと、生のオーケストラが存在していて、ステージ前のピットで演奏している。その曲に合わせてバレリーナが踊りをピタっと全部はめられるかといったらそんなことはなくて、バレエはどっちかというと、流れてきたオーケストラの音に合わせにいくというほうが近い。フィギュアスケートもそういう感じで、技の構成があって、そこに向かう助走があって、ジャンプを跳びました、下りました、音がきます、合わせましょう、っていうことのほうが、やっぱり多いんです。だから、そういう面では、フィギュアにそれは求められてはいない。