>>885
羽生選手は天井の高さについても言及していました。天井といえば、2008年北京オリンピック競泳男子メドレーリレーで銅メダルを獲得した宮下純一さんから、こんな話を聞いたことがあります。


目を瞑ってジャンプ

「僕は天井がドーム型のプールが苦手でした。背泳ぎの場合、天井の鉄骨などを目印にしながら自分の位置を把握します。ドーム型は端のスタート地点は天井が低く、プールの真ん中が高くなっています。すると、スタート直後はどんどん天井の目印が変わるので、速く進んでいる感覚を受けるのですが、どんどん天井が高くなるにつれ、目印があまり動かなくなるので、前へ進んでいない気分になる。“あれ? 今日は調子が悪いのかな”と不安になってしまいます。“あの鉄柱が見えたら、スパートする”などの作戦を立てるんですが、コースによって見え方は違う。たとえば3コースで泳ぐことが決まったら、必ず練習でも同じコースで泳ぐようにします」

 タイムを争う競泳の選手ですら天井が気になるというのですから、リンク全体を使って高難度のジャンプを次々に繰り出すフィギュアスケーターは、その比ではありません。

 自らの空間認知能力を極限まで研ぎ澄ませるため、羽生選手は「目を瞑ってジャンプを跳ぶ練習」に没頭することもあるそうです。

「視覚を遮断することによって、他の感覚がすごく強くなるので、精度が高まる」と羽生選手は語ります。

 当然のことながら、こうした練習には危険が伴います。障害物に足をとられて転んでしまうこともあります。

 安全のことだけを考えれば、ヒジやヒザにはサポーターを巻いた方がいいでしょう。しかし、それでは微妙な感覚に狂いが生じてしまう。羽生選手はそう考えているのではないでしょうか。

 世界最高峰のアイスショーは、一朝一夕に構築できるものではありません。文字通り、命がけの練習が“羽生ワールド”を支えているのです。