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競技者としては五輪2連覇を成し遂げ、前人未到の4回転半ジャンプに挑戦。プロ転向後も、異例の東京ドーム単独公演などを成功させてきた。トークセッションでは最近、周囲の人に「そんなに命を削りながら頑張らなくてもいいんじゃない?」と言われたことを明かした。ファンからもSNSなどを通じて心配の声をかけられるという。自身でも、1人で長時間滑り続ける単独ツアーについて「大変で、ひいひい言っている」と舞台裏を語る。それでも、羽生さんは「どうしても、削って頑張らないと納得いかない」と言い切る。

 「今は、この全力の姿を、魂を削りながらでも表現したい」

 世界情勢は不安定で、2024年は元日から能登半島地震が発生するなど日本でも暗いニュースが相次ぐ。東日本大震災を経験した羽生さんは「世の中は今、本当に大変で、能登半島のこともそうですし、いまだに世界情勢がよくなくて…。いろんなことで、個人のことでも悩んでいることもきっとあると思います」と苦悩の淵にいる人々に寄り添う。この日の演技には「ちょっとだけでも、仮想の元気でも、みなさんに楽しんでいただけるように」との祈りを込めた。

 「歩みを止めない限りは、明日はやってくる。だから、明日に向かって進みたくない時もあるかもしれないですけど、僕自身も3・11の時にそういう風に感じたので、ぜひぜひみなさんがちょっとでもこのストーリーを通して、希望に向かって歩いていこうって、明日も頑張っていこうって思ってもらえたら、うれしいなと思います」

 明日への希望を信じ、羽生さんは今年もしなやかに、力強く、滑り続ける。(伊藤瀬里加)