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野心的な挑戦

 こう見ていくと、大谷選手は一選手の矩をこえ、チーム強化のためにGM的役割を果たしていることがわかります。それだけワールドチャンピオンへの思いが強いということでしょう。

 プロフィギュアスケーターの羽生結弦選手は大谷選手と同じ1994年生まれの同級生です。大谷選手がプレーヤーとGMの“二刀流”なら、羽生選手はプレーヤーとプロデューサーの“二刀流”です。

 22年11月、プロ転向後、初となる単独アイスショー「プロローグ」の横浜公演を終えた直後、羽生選手はこう語りました。

「会場の近場から見る(僕の)スケート、会場の上の席から見るスケート、そしてカメラを通して見えるスケートは全く違った見え方になります。その違いも楽しんでいただけたらなと思います」

 これはショーの全体を統括し、俯瞰するプロデューサーの視点です。

 羽生プロデューサーは、羽生選手の生かし方を誰よりもわかっています。津軽三味線の世界的奏者である中村滉己さんを起用したのは、実に野心的な挑戦でした。中村さんが奏でる一音、一音に合わせるようにステップを刻み、ターンを決める。異文化との融合を、羽生選手自身が楽しんでいるように映りました。

 24年1月12日と14日、羽生選手は「RE_PRAY」と題したアイスショーを佐賀で行います。羽生選手がSAGAアリーナのリンクに立つのは初めてのことです。2日目の演技はCSテレ朝チャンネル1で生中継されます。私たちは羽生選手が口にした「カメラを通して見えるスケート」を楽しむことができます。

 ところで、佐賀といえば「葉隠」です。武士道の原点です。そこで、どんなサーガを披露してくれるのか。羽生選手にはもうひとつ、演出家としての顔もあります。新年早々、期待が膨らむ佐賀公演です。