奴等はさも何もない雪面をゆっくりと、スノーボードで横切ろうとしているのである。おりしも、太陽は真上にあり、
日中の気温は上昇中である。放っておいても滑り出したくなっている新雪の斜面を不用意に横切るのは、表層にナイフをいれるような行為だ。
「あいつら山を知らねえ」
「まずいよ、そのままこっちへ斜めに滑ってくるつもりだろうか」
「たぶん、下のクラックが連中(スノーボーダー)には見えてないよ」
 あわてて稜線に残っていた我々も一緒になって、スノボ連中に稜線に戻るよう身ぶり手ぶりで伝えるが、あっというまもなく連中はクラック直下に突入し、そして大きなくの字を描いて雪面を往復して行った。
 案の定、部分的に表層のパウダースノーが小さな崩落をおこし、幅約1〜2mほどの雪の帯がトラバースルートを2箇所程分断して流れて行った。先の2名の登山者は、約4分の3を通過したところであったため
 結果的に被害はなかったが、もはやこのルートは上部に爆弾を抱えているようなものだった。気温が上がった上に、表層によけいな刺激をあたえたせいで、大きな雪崩が今にも起きそうである。