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【妄想を】CCさくらSSスレ【垂れ流せ】
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0001CC名無したん
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2018/11/06(火) 20:56:10.87ID:dLExxYrD0
カードキャプターさくらのSSを投稿するスレです。
書式、構成等の上手下手は問いません、好き勝手に書きなぐりましょうw
ただし来た人が引くようなエログロは勘弁な。
参考スレ
【禁断】小狼×知世をひっそり語るスレ【村八分】
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/sakura/1523196233/l50
0040無能物書き
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2019/01/16(水) 23:03:10.73ID:Y59/rKbP0
 オレンジ色の世界−

 幾人もの人が私を見てる、笑ってる。
まるで影絵のような、人の形をした黒いシルエット。
目も、鼻も見えないけど、口元だけが三日月のように笑ってる。
数え切れない程の影が、私に笑顔を向けている。周囲を埋め尽くすほどの人数で、
群れを成すほどの大勢の人影が、私に向かって笑顔を向ける。

 その、地平の遥か向こうに、一本の線が伸びている、下から上に。
あれは、木?ううん、柱・・・だ。根元で大勢の人の影がその柱を垂直に押さえてる。
笑顔をこちらに向けたまま。

 柱の一番上、はるか高い所に、横に一本の短い線がある。柱の先の先、
そこだけがまるで、縦横の線が交わって、十字架みたいになってる・・・。

 目を凝らしてみる。そう、美術の授業で見た絵には、あそこに人が縛られていた。
目を凝らして見る。いた、絵と同じ縛られ方で、絵とは違う感じの人が、そこにいる。

 男の子、知ってる子。影のある表情、華奢だけど体幹の通ってる、物事にまっすぐな・・・

 −私の 大好きな人−
0041無能物書き
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2019/01/16(水) 23:03:59.11ID:Y59/rKbP0
「さくらぁっ!起きんかーーーいっ!!」
「はっ!」
耳元の大声に、がばぁっ!と布団から跳ね起きる。
いきなり変わった世界に思考が追い付かず、きょろきょろと周囲を見渡す。
ここは・・・私の部屋?ベッドの上・・・。

「ほ。ほえぇぇぇっ!!ケロちゃん、いま何時?」
「目覚ましはとっくに鳴り疲れて愛想つかしとるわーいっ!完っ璧に遅刻やでぇっ!」
「ええええーっ!」
目覚ましをひっつかんで時計を凝視する、その時計が表示しているのは信じたくない時間だった。
さーっ、と目の前が暗くなるさくら。
父は発掘旅行で留守、兄は大学の研修で泊まり、さくら一人の朝ゆえの大失態。
中学生活序盤から3ヵ年皆勤賞の消滅が確定しそうだった。

 ふとんから跳ね起き、バジャマを速攻脱いで制服を乱暴に羽織る、朝食の時間なんてない。
いってきます、とケロに告げると、半泣き顔で階段を駆け降り、そのまま玄関に飛び出す。
走り出してすぐに急ブレーキ、玄関にUターンして下駄箱の上にあるカギを取り、外に出て施錠する、
今度こそ全力疾走で学校に突撃するさくら、それを窓から見下ろし、ケロが嘆く。
「ホンマ、中学生になっても変わらんなぁ、さくらは。」
手を水平に広げ、ヤレヤレと首を振る。
0042無能物書き
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2019/01/16(水) 23:04:50.82ID:Y59/rKbP0
「お、おはよう・・・」
青息吐息で教室に駆け込み、机に手を付き挨拶をする。
「さくらちゃん、おはようございます。」
「もう早くは無いけどね〜」
知世のあいさつに続き、友人の千春が現実を告げる。
「でも、幸運でしたわね、さくらさん。」
「ほえ?」
秋穂の言葉の意味が分からず、顔を上げる。教室の黒板に書かれた大きな文字。

『自習』

「ほ、ほぇ〜、助かったよぉ〜」
校門をくぐった時点で始業のチャイムは鳴っていた、教室に先生がいないことに違和感はあったが
そういうコトだったのか、なんとか皆勤賞の可能性は繋いだようだ。
 着席し、とりあえず2時間目の予習を始める。ホントに良かった、と思う。
2つの意味で。

 遅刻が確定しそうになった時、さくらの脳裏に「魔法を使って間に合わせる」という考えが
確かに頭をちらついた。フライト(飛翔)とルシッド(透過)を使えば、誰にも見られる事無く
ひとっとびで学校に着けただろう。
でも、とさくらは思う。魔法は確かに便利だけど、だからといって自分の都合で
使っていい物ではないとも思っていた。寝坊したのは自分の責任、それを魔法で帳消しにするのは
ズルをしているような気がしたのだ。

 特に、さくらの好きなあの人なら、きっとそう思うだろうから。

あれ?そういえば今朝、彼の、小狼君の夢を見たような気が・・・


カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

プロローグ、終わりの始まりの夢
0044無能物書き
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2019/01/20(日) 20:50:45.12ID:PPE7dSh40
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第1話 さくらとチアとマーチング

「さてみなさん、中間テストも終わり、いよいよ夏本番!
 私たちチアリーディング部の活動もこれからが本番です。気合を入れてね!」
「「はいっ!」」
放課後のクラブ活動、運動場の一室にて先生の激を受けているのは、さくらの所属する
チアリーディング部。
夏に向けて、各運動部の大会が盛んになるこの時期、応援団としてのチア部も
応援活動本番の季節である。
 しかし、この友枝中のチア部にとっては、もうひとつの大きなイベントが控えている。
いわゆる「応援」ではなく「主役」としての活躍の場所が。

「8月の『なでしこ祭』、ウチの部は最終日の夜の最終公演が決定しました!」
その先生の発表に、チア部全員から黄色い歓声が上がる。
「うっそー、ファイナルステージで?」
「どうしよう、今から緊張してきたー」

 友枝中チア部はこの辺りではかなり有名だ。そもそもチア部がある中学はこの辺りでは多くなく
そんな中での華やかな演技は毎年『なでしこ祭』を盛り上げている。
昨年のトリこそ友枝小の演劇に譲りはしたが、実質な内容では演目での最高評価を受けていた、
最後の演劇が地震による中止という原因もあったにせよ。

 一息置いて、皆が落ち着いてからさらに付け加える先生。
「で、実は今年に関してはもうひとつ、なでしこ祭にてチア部の出番があります。」
意外な先生の言葉に部員全員が耳を傾ける。なにかの手伝いか、ボランティアの類か・・・
「じゃあ、米田先生からどうぞ。」
いつのまにか顧問の傍らにいたのは、音楽教師であり吹奏楽部の顧問である米田先生、
恰幅のいいオバサン体形に、にこやかな表情とベートーベンのようなパーマヘアの女性。
丸メガネをくいっ、と上げると、前に出て話す。
0045無能物書き
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2019/01/20(日) 20:51:49.99ID:PPE7dSh40
「えー、一年生の皆さんには、吹奏楽部が出るマーチングのお手伝いをしてもらいます、
 よろしくね。」
「「ええっ!?」」
いきなりの言葉に驚きを隠せないチア部一年生。というか私たちが?と顔を見合わせる。

「チアのステージがファイナルなら、マーチングはオープニングセレモニーよ、
でもウチの部はそんなに人数いないから、ガードやドラムメジャーに割ける人がいないのよ・・・
それを先生に相談したら、今年のチアの一年は粒ぞろいって言うじゃない?
それでぜひ皆さんに踊りをお願いしたくてねぇ。」

 皆の注目が特定の二人に集まる。今年の一年生の注目株、木ノ本さくらと三原千春。
小学校からチア部だった二人の実力は折り紙付きで、周りの一年生のよき手本になっていた。
視線を感じてか、千春に話しかけるさくら。
「ね、ねぇ千春ちゃん、マーチングって、何?」

 周囲が一斉にずっこける。チアをやっててマーチングを知らないとは珍しい。
「鼓笛隊の行進みたいなアレよ、去年のなでしこ祭でもやってたでしょ?」
「え・・・そうなんですか?」
あきれる周囲に千春がフォローを入れる。
「さくらちゃんは去年、劇の主役だったものねぇ、なでしこ祭楽しむ余裕も無かったでしょ。」
「ええーっ!あのお姫様って木ノ本さんだったの?」
「ウッソー、すごぉい。緊張しないのって羨ましい!」
「そ、そんなこと無いよ、緊張したよ、すっごく。」
 米田先生がぱんぱんと手をたたき、皆を黙らせる。
「というわけだから、今日からチア部一年は吹奏楽部と合同練習よ、頼むわね。」
0046無能物書き
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2019/01/20(日) 20:52:29.33ID:PPE7dSh40
「へぇ、さくらさん達はマーチングに出るんですか、それは楽しみですね。」
夕食時、父の藤隆がにこやかに話す。
「うん、先頭でバトンを振るドラムメジャーか、真ん中で旗を振るカラーガードのどっちかで。
来週にはドラムメジャーのオーディションがあるの、それに合格したらその人がドラムメジャーで
他の人は全員カラーなんだって。
「それは頑張らないといけませんねぇ。」
にこやかに答える父とは対照的に、兄、桃矢は皮肉いっぱいに返す。
「そりゃ大変だな、万が一さくらがドラムメジャーやったら、公衆の面前でまた
バトンを頭にぶつける羽目になるなぁ・・・」
「お兄ちゃん!」
「あ、でも旗振りで周囲の見物人をなぎ倒すと、さらに厄介かなぁ」
「もーっ!本っ当に意地悪ばっかり!」
そんな兄妹のやりとりを見ながら、ふと藤隆が思い出す。
「そういえば、去年のなでしこ祭りのマーチング、確か・・・」
遠い目をして続きを語る。数秒後、木ノ本家にさくらのほぇぇ絶叫が響き渡るコトになる・・・
0047CC名無したん
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2019/01/20(日) 22:34:27.77ID:iMcFQwWw0
みんな見てるよ
0049無能物書き
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2019/01/24(木) 01:34:47.73ID:K9pJh2Ip0
>>47-48
どもです、お金を取るほどのものは書けませんがw

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第2話 さくらと不思議なメトロノーム

 昼休み、いつものメンツのお弁当の最中、柳沢奈緒子は一枚のプリントを
眺めながら、しみじみと呟く。
「九州の仙空中学に四国の黒花小学校、関西のKUGハイスクール、北関東の社会人チームの
香芝に東北の仙台錦付属中・・・今年も全国の有名どころがうじゃうじゃだねぇ。」
「「はぁ〜」」
同時にため息をつくさくらと千春、奈緒子が見ているのは今年の『なでしこ祭』の
開幕マーチングパレード、その参加チームの一覧だ。

「そんなにすごいチームが来るのか?なでしこ祭に、わざわざ全国から。」
小狼の質問に知世が答える。
「ええ、ああいう『演奏系』のクラブは、発表の場をいつも探してますから、
 わたくしも小学校の合唱部時代から、結構あちこちに遠征してましたのよ。」
はー、という表情で秋穂が続ける。
「そんなチームのトップを切って、友枝中が演奏するんですか、大変ですねぇ。」

 2年前から始まったなでしこ祭のマーチング、初年度は地元の学校だけで
つつましく行われてきたが、噂を聞き付けた2年目、つまり去年から全国の有名チームが
多数参加する目玉イベントになってしまった。
おかげで昨年、友枝中吹奏楽部はそのレベルの差をまざまざと思い知らされる結果に
なってしまった。そこで今回、吹奏楽部は演奏に集中し、チア部に踊りを担当してもらうことで
少しでもレベルアップを果たそうと、今回の依頼となったのである。
 となれば、当然チア1年生、中でも先頭を進むドラムメジャー候補のさくらと千春が
相当なプレッシャーを感じるのもやむなき事態であろう。
0050無能物書き
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2019/01/24(木) 01:36:43.33ID:K9pJh2Ip0
「私としては好都合ですわ。今回コーラス部はチア部のひとつ前の出番ですから、
さくらちゃんがチア部で出場なら、その雄姿を撮影するは難しいですもの。
初日なら日程もかぶりませんから、思う存分さくらちゃんの雄姿を撮影できますわ♪」
「あはは・・・ぶれないね知世ちゃんは。」
冷や汗を流しながら答えるさくら。
「さくらちゃんが先頭を切ってバトンを振り颯爽と行進・・・想像しただけでドキドキですわ〜」

「はーい、それじゃ今日はここまで。各自本番のリズムをしっかりつかんでおいてね。」
今日の吹奏楽部との合同練習がようやく終わる、チア一年生の7人はそれぞれが『チューナー』
というメトロノーム機能を備えた電子機器を渡される。
とにかく暇さえあれば本番の演奏のリズムを体に染み込ませろ、ということだ。
ドラムメジャーは普通の演奏であればコンダクター(指揮者)の役割も果たす。
もしドラムメジャーがリズムを崩せば演奏全体がなだれをうって崩れる羽目になる、責任は重大だ。

「今のところは木ノ本さんと三原さんが一歩リードだけど、他のみんなも諦めずに
ガンガン追い込んでね、少しでもいいマーチングにしたいから。」
笑顔でプレッシャーをかける米田先生、元オペラ歌手だった彼女の声は優しくも魂に響く、
今や一年生全員がさくらたちと同じ光景とプレッシャーを感じていた。
「「はいっ!!」」
全員が元気な返事を返す。米田先生はよろしい、では解散と告げてその日は終了となった。
0051無能物書き
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2019/01/24(木) 01:38:43.88ID:K9pJh2Ip0
「はいあかん、ズレとるで〜」
チューナーを凝視していたケルベロスがさくらの動きにまったをかける。
「はう〜、難しいよぉ」
「1曲は5分くらいやろ、最初の1分でもう1拍子早くなっとるで。」
体内時計を演奏曲に合わせるための自主練、物事に積極的な性格のさくらは
どうしても自然にハイペースになってしまうようだ。
「どうする、もっかいいっとくか?」
「う、うん、頑張る!」
「ほないくでー、3・2・1・ハイ!」
「(いっちにぃさんしっ!いっちにぃさんしっ!!)」
心で数を数えながらリズムにあわせて腕を振るさくら。

ピッ・ピッ・ピッ・ピピピピピピッ・・
カッ・コッ・カッ・・・コッ・・・カッコッ・・・
チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク
そ〜れぇデワアスノおてん〜キデス・・・

「ほぇ?」
「おいいっ!いきなり乱れとるやないかーいっ!」
「じゃなくて、何このリズム・・・?」
「ああ?な、なんやこれぇっ!?」
部屋中から不規則に音がする、リズムを刻む。時計から、テレビから、スマホから
借りてきたチューナーからさえ不規則な音が乱れ飛ぶ。
「ケロちゃん、これ・・・」
「またなんかの気配を感じるんか?」
「うん!封印解除(レリーズ)!」
胸の鍵を杖に変え、構える。さくらにしか感じない魔力を、気配を頼りに探す。
「そこっ!主無きものよ、夢の杖のもと我の力となれ、固着(セキュア)!」
アタリを付けたのはいつもの目覚まし時計、それに夢の杖を打ち下ろす。
と、その時計の脇に一つの台形が現れる、中央には左右に触れる針。
0052無能物書き
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2019/01/24(木) 01:39:42.65ID:K9pJh2Ip0
「メトロノーム?それに・・・封印出来ない、どうして?」
「動きを止めんとアカン・・・わけでもなさそうやなぁ、動いてへんし。」
確かに、そのメトロノームは静止し、規則正しく針を動かしている。ただし音はしていない。
代わりに部屋中には先ほどからの不規則なメロディが躍っているが。
「あーもう、なんやコレ!気が変になりそうや!」

「待って!これって・・・」
さくらには既視感があった。普通の方法で封印が出来ないカード、過去にもあった。
例えば名前を当てる、力比べに勝つ、格闘技で勝利する。相手の得意な分野で勝つことにより
自分に従うカード達。そしてこのカードの得意なことは・・・
そのメトロノームは一定のリズムで左右に揺れる、そしてそのリズムはさくらの
良く知っているリズムだった。
「そうだ、これは、さっきまで私が練習していたマーチングの曲のリズム。」
周囲の音があまりにも不規則に響き渡るため気付きにくいが、そのテンポは確かに
さくらが練習していた曲のテンポだった。

 夢の杖を胸に当て、バトンの動きでメトロノームに合わせて杖を振る。
周囲の雑音に惑わされないように、メトロノームの針に動きを合わせる。
いっちにっさんしっ、いっちにっさんしっ、いっちにっさんしっ・・・
0053無能物書き
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2019/01/24(木) 01:45:10.67ID:K9pJh2Ip0
 さくらの動きが完全にメトロノームとシンクロする。もう乱れない、完全な一体感がある。
と、その時、メトロノームが輝き、光の粒子となってさくらの杖に吸い込まれていく。
そして1枚のカードとなって、さくらの目前にはらり、と落ちる。それを手にするさくら。
「律動(Rhythm『リズム』)・・・」
「なんや、周囲の音ものうなっとるで。そのカードの仕業だったんやなぁ。
「うん、どうもそうみたい。」
自分のカードのホルスターを取り、そのカードを仕舞うさくら。

「なんや、使わんのかさくら。それ使えば練習になるやろ。」
「うん、それはダメだよ、みんな魔法なしで練習してるんだから。」
さくらは先ほどの『律動』とのシンクロに少し怖さを覚えた。自分でも不思議なくらい
リズムに乗れたその動きは、練習の成果とはまた違う不自然さを感じた。
「それもそうやなぁ、魔法をそういうコトに使うのはたしかによーないわ。」
二人は偶然、同じカードのことを思い出していた。クロウ・カードだった頃のダッシュ(駆)。
魔法の使用は時として不公平を生む、それで不利益を被る人間がいるならそれを使うべきではない
そんなことを学ばせてくれたカードの事を。

「まぁ誰かさんは、ケーキが少ないとか言って魔法で小さくなってたけどね〜」
少しイジワルな表情でケロを見るさくら。ケロがぎくっ、と硬直する。
「ま、まぁ人生いろいろやでぇ〜。さ、寝よ寝よ。」
ごまかして布団に入るケロに続いてさくらも布団に入る。
まどろみの中でさくらは、ひとつの事を考えていた。

『魔法って、どの程度までなら使っていいんだろう・・・』
やがて眠りに落ちるさくら。そして夢の中、ひとつの言葉が頭に響く。


 −お前はもう、戻れない−
0054CC名無したん
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2019/01/24(木) 06:23:39.57ID:ECZJShe80
たしかいつかさくらもフライトで空を散歩したいなんて言ってなかったっけ?
0055CC名無したん
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2019/01/24(木) 17:45:54.56ID:L7a4Q3GH0
>>37
>>38
セックスコスチュームとはなんぞやwwwww
0056無能物書き
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2019/01/27(日) 19:33:01.67ID:GC0rj20L0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第3話 さくらと千春とオーディション

「ふぅ・・・」
借り住まいのマンションの一室、明かりが消された部屋でひとつ息をつく少年、李小狼。
扉は閉ざされ、カーテンも閉められ、その部屋に明かりは無い。
ただ、足元の魔法陣だけが青く輝き、少年の顔を下から照らしている。 
 そしてその周囲には、無数の精霊が漂っている。あるものは成人女性の姿、あるものは少女の姿、
あるいは小動物、剣や天秤などの道具など、多種多様な精霊たちが、小狼の周りに浮かび
彼から発せられる魔力を吸い込み、そして消えていく。

 さくらカード。小狼がさくらから奪ったカードの精霊、あの日から小狼には義務ができた。
この精霊たちが存在し続けるための魔力を供給し続けるという義務が。
そのため彼の放課後は、彼自身の魔力を高めるための儀式と精神集中に費やさなければならない、
今の彼に、普通の中学生の放課後は望むべくも無かった。

 高位の精霊、ライト(光)とダーク(闇)が、おつかれさま、と小狼を労い、そして消える。
最後に残った一体、ホープ(希望)が小狼に寄りかかり、額を小狼の胸に当てて感謝を示し、
すっと後ろに飛ぶ。タンスの上に置かれたくまのぬいぐるみに向かい、吸い込まれるようにその姿を消す。
消える魔法陣、小狼は部屋の電気をつけると、ようやく日常的なマンションの部屋がそこに戻った。

「お腹、空いたな・・・」
魔力のオーバーワークは肉体に過度の負担を強いる、かつての雪兎=ユエがそうであったように、
人として魔力の回復を図るなら、まず肉体を万全のコンディションにする必要がある。
よく食べ、よく眠る。今、彼にできることはそのくらいしかなかった。
以前は自炊が当たり前ではあったが、今はもう料理をするのもおっくうだ。余裕のある日は
まだ出来るが、今日はどうももう限界のようだ。
今夜はコンビニの食事でいだろう、汗を拭き、服を着替えて外に出る。
0057無能物書き
垢版 |
2019/01/27(日) 19:33:32.00ID:GC0rj20L0
 帰り道、すっかり暗くなった夜道を歩く。と、彼の耳に聞きなれた声が漂ってくる、
知ってる声、いつも聞いてる男子の声が、少し離れた公園から聞こえてくる。これは・・・

「イチ・ニ・サン・シ、イチ・ニ・サン・シ、イチ・ニ・サン・シッ!」
公園にはふたつの人影があった。ひとりは声の主、クラスメイトの山崎貴史、
その声に合わせて踊っているのは、彼の幼馴染でさくらの友人の三原千春。
そういやマーチングのオーディションが近いはずだ、二人ともそれぞれのクラブの後
こんなところで練習してたのか、と感心する。こりゃさくらも大変だな、と。
 いつまでも覗き見るのはよくない、心の中でがんばれよ、とエールを送って去ろうとしたその時、
千春の言葉が小狼の足を止める。

−うん、今回は・・・負けたくないから、『さくらちゃん』に−

「それにしても、ずいぶん頑張るねぇ、今回は。」
天真爛漫な表情でタオルを渡す山崎に、千春は少しためらいながらこう返した。
「うん、今回は・・・負けたくないから、『さくらちゃん』に。」
え?という表情で固まる山崎。どちらかと言うと競争意識はあまりない性格だと思っていただけに。
そんな山崎を見つめて、千春はこう続ける。

「だって・・・そうでしょ?5年生の時の劇はさくらちゃんと小狼君が主役だった、それはいいわ。
でも6年の時、本当は山崎君が王子様のはずだったのに・・・直前でケガしちゃって、
また李君に主役を取られちゃったじゃない!」
しばし沈黙の後、千春は続ける。
「私・・・楽しみにしてた。山崎君の王子様、本当だよ!」
自分がお姫様役ならなお良かった、という贅沢は心に押し込める。
「だから、その分も私が頑張るの。今年は私が主役になって、マーチングの先頭を切って踊るわ、
去年の山崎君の分まで!」
0058無能物書き
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2019/01/27(日) 19:34:16.48ID:GC0rj20L0
 その後の二人の会話は聞いていない。多分山崎がおちゃらけた言動で千春を和ませ、
軽いツッコミの後、練習を再開したんだろう。だが、小狼にとってそんなことはどうでも良かった。
マンションまで逃げるように走り帰ると、部屋に入って弁当を放り出し、ベッドに突っ伏す。
胃の中に鉛を流し込まれたような自己嫌悪、不快感、焦燥感、そんな感情に押しつぶされて
食欲は完全に失せてしまっていた。

 去年のなでしこ祭の練習期間、さくらはナッシング(無)のカードの災いに巻き込まれた。
その災いは学校にまで及び、対処のため周囲にいた生徒たちをスリープ(眠)で眠らせた。
その際に山崎は左手を巻き込んで倒れ怪我をし、主役の座を断念せざるをえなかった。
そして交代要員として白羽の矢が立ったのが小狼だったのだ。

 あのときスリープを使ったのは他ならぬさくらだ、あくまで自分たちの都合で。
魔法の事が周囲にバレるのを恐れるあまり、クラスメイトにケガを負わせ、出るべき舞台に
出られなかった。そして今この時までその傷を心に残している。
そんな事実を突きつけられ、小狼の心は痛んだ。

−このことをもし、さくらが知ったら−



 オーディション当日。夕闇に染まる校舎、その3階で小狼はクラスメイトの柳沢奈緒子と日直の仕事に
追われていた。クラスの一人が他校とのトラブルを起こしたらしく、担任の先生が対応に当たる都合上
日直の二人は抜けた先生の穴埋めに奔走していた。
ようやく目途もつき、日誌を抱えて職員室を後にし、二人で廊下を歩く。
と、奈緒子がふと中庭を見て足を止める。
「あ、やってるやってる。ほら李君、オーディションやってるよ。」
「え、もう?」
中庭でチア部一年生の7人が行進し、バトンを振り、踊る。
その際を各部の先生と部長が真剣な表情で審査している。なるほど、オーディションの真っ最中のようだ。
0059無能物書き
垢版 |
2019/01/27(日) 19:34:51.76ID:GC0rj20L0
「今から行ってももう間に合わないね〜、このさいここで見ていこうか。
「ああ。」
二人並んで窓から眼下の踊りを見る。素人の小狼から見ても、やはりさくらと千春の演技は
一歩抜けているのがよくわかる。
小狼は複雑だった。本来ならさくらを応援したいところだが、先日の一件もあって、今年は三原に、という
気持ちも強かった。なにより去年の件が魔法に起因しているだけに。

 踊りも終盤に差し掛かろうとした時、奈緒子が思わぬ言葉をよこす。
「こりゃあ李君、今年は残念だったねぇ。」
「・・・え?」
「千春ちゃんすこいわ、正直さくらちゃんと比べても完全にレベルが一段階上だよ。」
「そうなのか?」
柳沢も小学校時代はチア部所属だった。素人には分からない明確な差があるのだろう。
小狼は残念な気持ちと、ほっとした安心感を同時に胸に抱える。
「まぁ、しっかり慰めてあげなさい、それは李君の役目だから。」
そう言って日直の仕事に戻る、少し片づけをすれば仕事は終わる、二人ともチア部に合流できるだろう。

「それでは、今年のドラムメジャー担当を発表します。」
採点表を手に、米田先生が一年生と吹奏楽部員を前にして言う。
小狼や奈緒子、合唱部の知世や秋穂、ラクロス部の練習を終えた山崎もそこに駆け付け、発表を待つ。

「木ノ本さん、しっかり頼むわね。」

 周囲に起こる拍手、祝福。
そんな中、小狼と奈緒子だけは意外な表情を隠さなかった。思わず奈緒子を見る小狼。
彼女はうつむいたまま、小声で呟く。
(ウソ、でしょ・・・?私にはわからない中学生レベルでさくらちゃんが上回ってた?
でも、そんな・・・自信無くすなぁ・・・)
どうやら見当違いな評価だったらしい、小狼ははっ!として千春を探す、あれだけ頑張って
決意をもって臨んでいただけに、その落胆はさぞかし大きいに違いない・・・
0060無能物書き
垢版 |
2019/01/27(日) 19:37:07.58ID:GC0rj20L0
「おめでとう、さくらちゃん。本番頑張ってね〜」
・・・え?
当の千春は、悔しさも残念さもみじんも見せず、にこやかにさくらを祝福していた。
それは表情を隠すというレベルではない。演技で決定的な失敗をして「仕方ない」という
感情の在り方でもない。まるであの夜の特訓も、断固たる決意も無かったかのように
わずかな暗い影も見せずにさくらに接している。
 母と、4人の姉と、元婚約者の苺鈴という女系家族に囲まれて、女性の表情を見る目には
自信があった。それだけに今の三原千春のその表情、態度には不思議な違和感があった。

 結局、さくらを祝福することも忘れ、小狼は帰宅する。
そして、日課の魔力供給を済ませ、今日もコンビニに夜食を買いに行く。
その帰り道、彼はまた二人を目にする。同じ場所、同じ時間、先日とは真逆の感情を抱いた彼女を。

「どうして!どうしてよ!!私は全力で、完璧にやったつもりだったのに・・・
また、またさくらちゃんに・・・」
千春が山崎に抱き着いて、人目もはばからずに泣き叫んでいる。山崎は優しい表情でその頭をなでる。
「私は、私たちは脇役だっていうの?どうしていつもさくらちゃんと李君ばっかり・・・
うわあぁぁぁぁん!」

 その光景を見て、小狼は背筋が凍り付くのを覚えた。そう、今のような態度こそ、あの時見た三原の
決意に相応の態度なのだ。なのに何故、さっきはさくらに対してああもにこやかでいられたのか・・・
帰り道、小狼は思う。何かがおかしい、三原のあの態度の違い、柳沢の評価と先生や部長の評価の差、
さくら、魔法、カードの精霊、色々な思いがぐるぐると小狼の頭を回り巡る。
 何か、この違和感を埋めるピースが何か足りない。ただ、嫌な予感だけが小狼の中で大きくなっていく。
マンションに到着し、玄関に入ろうとした小狼は、後ろからの声に呼び止められる。
0061無能物書き
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2019/01/27(日) 19:38:17.04ID:GC0rj20L0
「こんばんわ、君も夜食の買い出し?」
すらっとした華奢な体つき、薄紫色の髪型に眼鏡、その手には食料を山ほど抱えて微笑む青年。
−月代雪兎−
クロウ・カードの守護者、ユエの仮の姿であり、かつてさくらと小狼が惹かれた青年。
「どうしたの?難しい顔してるよ。」
「い、いえ・・・何も。」
「当ててみようか。多分、さくらちゃんのコトでしょ。」
「は、はい・・・」
クスクスと笑う雪兎。どうもこのヒトがいると調子が狂う、とため息をつく小狼。
この穏やかな人があのユエと同じ人とはどうしても思えない。あの最後の審判を戦った・・・

 小狼の全身に電撃が走った、気がした。最後のピースを見つけた、見つけてしまった。
ユエ、最後の審判、それを乗り越えたさくら、その先にある最後のピース、それはさくらの言葉。


 −私と『なかよし』になってほしいな−
0064無能物書き
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2019/01/31(木) 23:57:02.63ID:fJZ7TgkO0
>>62
スマヌ・・・スマヌ・・・
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第4話 さくらとロバの耳の王様

 クロウ・リードの手記より。

−この手紙を読んでいる貴方へ−
−この手紙を読んでいるということは、貴方も魔法が使えるのでしょう−
−ならばよくお読みなさい−

−魔法は時として、貴方に素晴らしい体験や恩恵を与えてくれるでしょう−
−しかし、同時に貴方を不幸にする力でもあります−
−過ぎた力は、時に他人からの嫉妬や恐れを受けることがあります−
−他人には無い力は、やがて貴方を孤独にすることになるでしょう−
−そしてその先、さらに待つ不幸−

−魔力は、やがて貴方の願いを叶えるようになるでしょう、この私のように−

−私はもう、私の望みであった『知の探究』ができなくなってしまいました−
−私の体から溢れ出る魔力は、私の願いを勝手に叶えてしまいます−
−私が知ろうとする知識は、すでに魔力によって私の中で勝手に解き明かされてしまいます−

−退屈ですー
−願いを叶えられない人生は、退屈で、そして不幸ですー
−願わくば、この手紙を読んでいる貴方が、この退屈に埋もれませんように−

−世界一の『愚かな』魔術師、クロウ・リード−
0065無能物書き
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2019/01/31(木) 23:57:42.18ID:fJZ7TgkO0
 ブツン!ツーッ、ツーッ、ツーッ・・・

「くそ!やっぱりダメか・・・」
携帯を睨み、焦りの表情を隠さない小狼。
この春先以来、何度やってもイギリスの柊沢エリオル、つまりクロウ・リードの転生人と
連絡が取れなくなっていた。
さくらの友人、詩ノ本秋穂の執事であり、魔法教会を破門になった魔術師でもある
ユナ・D・海渡がなんらかの原因ではあるようだが・・・

 小狼は焦っていた。先日のマーチングのオーディションの一件で、彼の危惧する事態が
進展していることを知ってしまったから。
かつて実家で読んだクロウ・リードの手記、そこに記された『不幸』が、さくらの身に
すでに起き始めているであろう事を。

 小学生の頃、さくらは魔力に目覚め、カードキャプターとして幾多のカードを集め
そして変化させていくことで、膨大な魔力を身につけるに至った。
それはクロウカード改めさくらカードを維持するのに必要なことではあったが、
同時に増えすぎた魔力は、さくらに更なる不幸を呼ぶ危険があった。
そのため小狼は日本を去った後、柊沢エリオルに師事し、魔法の応用と知識を学んでいた、
さくらのそばで、さくらに起こる不幸を取り除くために。

 くまのぬいぐるみを触媒にして、さくらカードの精霊を奪った。
魔力は一度魔法を使うと一時的に失われ、その後、以前以上に多く回復する。
まるで筋力トレーニングによる筋肉の超回復のように。
だからさくらが魔法を使えないように、カードを使えなくしたのだ。
0066無能物書き
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2019/01/31(木) 23:58:20.62ID:fJZ7TgkO0
 だが、さくらは自分でも気づかないうちに、新たなカードを作り出すようになった。
クリアカード。さくらが純粋に、そして無意識に自身の力で生み出した魔法のカード。
まるでクロウカード集めをなぞるように、さくらは次々とカードを集め、そして魔力を
さらに高めていってしまった。
小狼には打つ手が無かった。さくらの魔力が精霊による騒動を起こしてしまっている以上
関わるな、とは言えない。クロウカードの封印を無意識になぞっているだけに、カードの起こす騒動は
周囲の人を危険に晒す心配がある。ならばさくらが(無意識に)起こした騒動をさくらが止めるのに
口を挟むわけにはいかない。もし多くの人がケガをするなど不幸な目にあって、その原因がさくらの
魔力にあると知ったら、さくらはどれだけ悲しむか知れないから。

 さくらの魔力は、もうさくら自身を不幸にするレベルまで高まってしまっている。
唯一の頼れる存在、柊沢エリオルとは、もうずっと連絡が取れないでいる。
エリオルにしても、直接日本に来てさくらの力になれない理由がある。
ならば俺が、さくらを助けなければいけない、俺自身の判断で。

 さくらの魔力は、もうすでに『さくらの願い』を『勝手に』叶え始めてしまっている、
さくらの心の奥にある、さくらの純粋な思いを、間違った形で。

 −私と、なかよしになってほしいな−
0067無能物書き
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2019/02/01(金) 00:00:21.92ID:D5201tp50
 今のさくらは、周囲の人間に(惚れ薬)を撒き散らして歩いているようなものだ。
だからオーディションの審査員たちは、そのさくらの魔力に当てられ、さくらの演技を
魅力的に感じてしまった。遠目で見ていた柳沢だけが正しい審査ができたんだ。
さくらに絶対に勝ちたかった三原は、さくらに負けた時、その悔しさをさくらの魔力で
かき消されていたんだ。だから笑ったんだ、普段のお弁当の時のように。

 だが、まだ間に合う。今ならまだその影響はさくらの近くにいる人間だけだ。
クロウのように、世界中の知識が否応なしに流れ込んでくるレベルには達していない、
今のうちに何か、何か手を打たないと。

 そこで小狼は気づく、絶望的な未来に。
そう、さくらはオーディションでドラムメジャーの座を勝ち取っていたんだ。
なでしこ祭、さくらはそのオープニングセレモニーで先頭を切って行進し、踊る。
大勢の人が注目する中で、惚れ薬のような魔力を撒き散らしながら、自分の魅力を
体いっぱいに表現して・・・
 もしそんな事態になったら、さくらは否応なく注目を浴びる存在になってしまう、
魔力によって人を惹きつけ、魅了する存在に。
それがさくらの人生に良い影響など与えるわけがない。周囲の人すべてを振り向かせ
称賛させ、だれも彼女を否定しない、そんな異常な『優しい』世界。
議論も、刺激も、争いも、悲しみも、驚きも存在しない、狂った世界。
自分以外の人間が、さくらに笑いかけるだけの、乾いた孤独な世界・・・

 もう時間が無い、なでしこ祭までに何か手を打たないと!
小狼は再び電話をかける。イギリスではなく、香港。自分の実家へ。
「もしもし、俺です、小狼です。偉(ウェイ)をお願いします・・・」
0068無能物書き
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2019/02/01(金) 00:02:05.78ID:D5201tp50
「おはよう、秋穂ちゃん。また本?」
朝、登校したさくらの隣で、上機嫌で本を読んでいる秋穂に話しかけるさくら。
「ええさくらさん、昨日、前から欲しかった本が一冊、手に入ったんですよ。」
その本を横にしてさくらに見せる秋穂。
「ほぇ〜、外国の本なんだ。ええと、ミダ・・・なんていう本?」
ローマ字で書かれたタイトルを読もうとするが、見慣れない文字もあってよく読めない。
その背後から知世がひょっこり顔を出し、笑顔で解説する。

「ミダース、ですね。」
「すごい!知世ちゃん読めるの?」
「はい。実はそれ、さくらちゃんも多分知ってる物語ですわ。」
言って知世は秋穂と顔を見合わせ、くすくすと笑う。
「ほぇ?私そんな話聞いたこと無いけど・・・」

「ミダースって言うのはねぇ!」
「「うわっ!!」」
いきなり背後に山崎が現れ、解説を始める。
「名前の通り、この世を乱す悪い魔法使いの名前だよ。人の心を他人と入れ替えたり、
生き物を石に変えたりと、それはもうやりたい放題だったんだ!」
「ほ、ほぇ〜・・・酷い魔法使いだね〜。」
「でもね、あるとき現れた床屋さんが、彼の頭を大仏のような仏さんヘアーにしたんだよ、
それ以来、ミダースはいい人になって、人々から信頼される王様になったんだよ〜」
「「ふんふん・・・」」
いつの間にか小狼もさくらの隣に並んで話を聞いている。
0069無能物書き
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2019/02/01(金) 00:02:48.63ID:D5201tp50
「またいーかげんな嘘ついてる・わ・ね。」
がしっ、と山崎の頭をわしづかみにする千春。
「しかも微妙に帳尻を合わせようとしない!授業が始まるわよ、山崎君はクラス隣りでしょ!」
言ってドアまで山崎を引きずって、ドアの外に放り出す千春。
「・・・嘘だったの?」
「お・・・俺は知ってたぞ。」
「李君も急がないと、授業始まりますわよ。」
「あ・・・そうか、じゃあまた。」
「うん、またね小狼君。」

教室から出ていく小狼を見送って、改めて秋穂を見るさくら。本当は一体どんな話なんだろ?
と、秋穂がアゴに手を当てて考え込んでいる。
「本の伝承と山崎君のお話、どちらが本当なんでしょうか・・・」
その秋穂のセリフに千春が一言発して絶句する。
「信じた!?」

「いつの日か、山崎君の話が本当になるといいですわねぇ。」
「というか知世ちゃん、本当はどんな話なの〜?」
「さくらちゃんも良く知る童話ですわ、『王様の耳はロバの耳』の王様の名前ですのよ。」
さくらの頭上に電球が、ぱぁっ、と灯る。
「ほぇ〜、あの王様、ミダースって名前だったんだ。」
「「はい。」」
知世と秋穂が同時に答える。

 ミダース。黄金を欲するあまり、触れるもの全てを黄金に変える願いを叶えた王。
しかしそれはすぐに絶望への能力であることを思い知らされる。
パンも、肉も、水も、彼に触れた途端黄金に変わってしまうのだから。
やがては彼の愛娘さえも黄金の像に変えてしまうことになる・・・
0070無能物書き
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2019/02/01(金) 00:03:14.16ID:D5201tp50
 願いを叶える力、それがその本人にとって決して幸せではない力であること。
かつてミダースが歩んだ不幸を、今、さくらが歩みつつあることを、さくらはまだ知らない。
0072無能物書き
垢版 |
2019/02/09(土) 00:09:28.87ID:t3kjm2Th0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第5話 さくらと小狼と最大の危機

「ほぇ〜、終わったぁ。」
テスト用紙が集められ、机に突っ伏すさくら。1学期最後の難関、期末テストの
最後の教科がようやく終了した。
「さくらちゃん、お疲れ様。」
知世が余裕の表情で笑顔を見せる。成績抜群の優等生にとってそのイベントは
通常授業とそう変わりないものかもしれない。しかし、さくらにとっては・・・

「大丈夫かなぁ、もし万が一、赤点だったら大変だよぉ〜」
不安げに呟くさくら。友枝中では平均点の半分を下回ると『赤点』となり
追試、夏休み中の補習授業、そしてクラブ活動参加への制限もかかる、
マーチングでドラムメジャーを務める以上、赤点で練習参加が出来ないなんて事態は
絶対に避けたいところだ。
「大丈夫ですわ、さくらちゃんなら。」
「そうだといいけど・・・あーもう、数学と英語が不安だよぉ〜」
本来大の苦手の算数(数学)と、普通の学校より外国人が多い友枝中において
英語の得点は特に気になるところだ。

 翌日、廊下に張り出される成績表、成績優秀者から順に名前が羅列された表の前で
生徒たちが自分の名前を探して賑わっている、その中にさくらと知世もいた。
「あった!あったよ〜、良かったぁ〜。」
215人中142位木ノ本さくら 402点。しかしさくらの安堵は順位でも点数でもない。
赤点を一教科でも取ったものは張り出された成績表に名前が載らないのだ、
ここに名前があるということは、無事赤点を回避できたということになる。
0073無能物書き
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2019/02/09(土) 00:10:39.20ID:t3kjm2Th0
「よかったですわね、さくらちゃん。」
「ありがと。知世ちゃんはどうだった?」
笑顔で祝福する知世に」さくらが問う。
「おかげさまで、無事満点でしたわ。」
知世が指差す先、成績表の端っこの方、3列目に『1位 大道寺知世 500点』の文字。
知世含め全問満点は計7人、最高の中学生活スタートダッシュが切れたようだ。
「ほぇ〜、やっぱりすごいね、知世ちゃんは。」
「ちなみに、山崎君も満点でしたわよ。」
確かに、7列目に『山崎貴史』の名前もある。飄々としていながら何かと万能な山崎である、
他にも友人たちの名前を見て回る。60位三原千春、72位柳沢奈緒子、146位詩ノ本秋穂・・・

「・・・小狼君の、名前が無い。」
さくらの言葉に思わず振り向く知世。まさか、赤点?彼が・・・?
小学生の時は、国語こそ手こずっていたが、他の教科は成績優秀だった。その小狼の名前が
ここにないということは、やはり・・・
「やっぱり、国語がダメだったのかなぁ。」
「大丈夫でしょうか、あまり悪いと香港に強制送還なんてことにならなければいいんですが。」
はっとするさくら。そういえば小学校の時も通知表を異常に気にしていた。もし成績が悪ければ
母親に相当怒られそうな家庭であったから。

「ふぅ。」
ため息をついて椅子に腰を下ろし、教科書を取り出す小狼。赤点を取ってしまった以上
追試を受けねばならず、それをパスできなければ夏休みには補習が待っている。
彼のやらなければならない事の為にも、それは避けなければいけない。
赤点教科は2つ、国語と社会。どちらも日本と香港では内容に差があり、向こうで習った知識は
ほとんど通用しない。
0074無能物書き
垢版 |
2019/02/09(土) 00:11:40.10ID:t3kjm2Th0
 それでも小学校時代はなんとかついては行けていた。しかし中学校に入ってからは
国語のわび・さびや日本史の戦国武将など、日本人としてはある程度の基本的知識を
前提としての授業に理解が追い付かなくなって来ていた。
 加えて毎日の魔力供給とそのための精神集中、儀式の労力が堪えている、予習も復習もあまり
出来ずに、そのまま寝落ちする日さえあるほどだ。
かくして小狼はさくらのサポート以前に、自分の問題を解決しなければならなくなった。

 お昼休み、いつものメンツが集まってお弁当を広げる中、小狼だけは早々に食べ終え、
教科書を広げて真剣な眼差しで文字を追っていた。心配そうなさくらが声をかける。
「ねぇ小狼君、何か手伝えることがあったら言ってね。」
「大丈夫だ、勉強は自分で理解してこそ身に付くものだからな、心配かけてすまない。」
「う、うん・・・」
「それにしても、李君がまさか2教科赤点とはねぇ〜」
国語と社会で満点だった柳沢がしみじみと呟く。秋穂がそれを聞いて一言。
「実は私も、その2教科は赤点のボーダーライン上でした・・・。」
やはりその2教科は外国暮らしが長い者にとっては鬼門のようだ。
海渡という優秀な家庭教師がいなければ、秋穂も赤点回避は困難だったかもしれない。

「しかし知世さんと山崎さん、全教科満点なんてホントすごいです!」
目をうるませ、二人を交互に見て秋穂が言う。
「いやぁ、ボクはヤマが当たったのが大きかったけどね。」
「私も似たようなものですわ。」
そんな二人に千春がツッコミを入れる。
「知世ちゃん、全範囲を完璧に理解するのをヤマとは言わないわよ。」
同じクラスだけに知世の優秀さは否応なく理解している千春。なにしろ先生が
残り時間を気にして授業をしている時、当てられるのは高確率で知世になるほどだ。
「そうそう、ヤマといえばねぇ・・・」
「勉強している人の集中力を乱さないの!」
山崎のボケを千春が阻止する。山崎の語りは小狼も興味津々なだけに、今は控えておくべきだろう。
0075無能物書き
垢版 |
2019/02/09(土) 00:13:03.46ID:t3kjm2Th0
「ふーん、小僧が赤点をなぁ・・・」
「そーなのよ、らしくないっていうか、ちょっと心配。」
事の次第をケロと相談するさくら。
「まぁ心配ないやろ、あの小僧はマジメだけが取り柄やから、追試までヘタはうたんわ。」
「だといいけど・・・何かしてあげられないかなぁ。」
「さくらはクラブが忙しいやろ、小僧の勉強に付き合ってやれる余裕はないハズやで。」
「うっ・・・」
マーチングの練習はまだまだ継続中だ、未だ完璧にはほど遠いレベルにあり、他人の心配を
している余裕はさくらには無かった。
「そうだ!前みたいにミラー(鏡像)さんを使えば!」
さくらの提案に、冷徹に返すケロ。
「ほぉ〜、ミラーにドラムメジャーを譲るんかい。」
「そ、そうじゃなくて・・・私はクラブ出て、ミラーさんが・・・」
「小僧と仲良く勉強するんかい、まぁさくらがそれでいいんやったらええけどな〜。」
「そ、それは・・・絶対に嫌。」
言って自分の提案が無意味なことを知る。
「は、はぅ〜・・・」
「ま、小僧を信じてやるこっちゃな。アイツにも試練は必要やろ、人生いろいろやからなぁ。」

さくらが夕食に降りている間、ケロはこっそり電話をかける。
「あ、ユエ、ワイや。実は小僧がなぁ・・・」
「ふむ、赤点か。まぁ無理もない、いくら真面目な彼でも、今の状態ではな。」
ケルベロスもユエも、小狼の事情は理解している。さくらカードの力を奪ったが故の
日常の時間と精神を削り取られている生活、13歳の少年には楽なわけがない。
「ほんでなぁ、よかったらやけど、ユキウサギの奴に協力を頼めへんか?」
「雪兎に、か。いいと言ってるぞ。」
「早っ、返事はやっ!!」
電話の向こうでユエと雪兎が入れ替わる。
「ようするに、家庭教師をすればいいんだよね。」
「ああ、たださくらや兄ちゃんにバレんように頼むわ。小僧にもプライドがあるからなぁ」
「桃矢にバレたら関係も悪化するかもしれないしね。うん、分かった。」
「・・・兄ちゃんと小僧の関係、これ以上悪ぅなるんかな?」
0076無能物書き
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2019/02/09(土) 00:14:12.68ID:t3kjm2Th0
 翌日の夜、小狼の暮らすアパートで、小狼の向かいに座っている2名と1匹。
正面の男をジト目で睨む小狼。
「あははは、ごめんね小狼君。桃矢はどうにもカンが鋭くって・・・」
小狼の正面に座るさくらの兄、桃矢は意地悪く目をニヤつかせながら彼を見下ろす。
「よう赤点男、それでさくらと付き合おうとか、ずーずーしーにも程があるな。」
「ぐ・・・」
横でケルベロス(成体)が頭を抱えて大きなため息ひとつ。
「で、他の教科はどうだったんだ?」
「ん!」
3枚のテスト用紙を桃矢に突き出す。英語、数学、理科。最上段に輝く『100』の文字。
「へ〜ぇ、やっぱり優秀だね。他の2教科も赤点って言っても、ボーダーギリギリだし。」
「ちっ、相変わらず可愛げのねー奴だ。」
居住まいを正し、小狼に向き直る桃矢。
「おめーがだらしねーと、さくらの練習に身が入らねーからな、さっさとやるぞ。」
え?という表情を隠さない2人と1匹。無視して教科書を広げる桃矢。
「さくらと父さんには外泊すると言ってある、時間を無駄にするなよ!」
「・・・はい。」
毒舌ではあるが、今は桃矢も小狼に協力すると言っている。その意気は無駄に
するべきではない、今は素直に従い、教科書を見る小狼。

「あーゆーのを、ツンデレって言うんだよ♪」
横で雪兎がケロに耳打ちする、くっくっく、と笑うケルベロス。
「聞こえてるぞ!デレてねぇよ、こんなガキに。」
桃矢が小狼を気に入らないのは出会ってからずっとだ。しかし勘のいい彼には
コイツがさくらの為にずっと身を削っていることはなんとなく分かっていた。
それはこの部屋に入って確信していた。隠れているつもりだろうが、さくらカードの精霊の
気配がそこらじゅうにアリアリだ。
そして、それはさらなる事態の深刻さを悟らせる。
0077無能物書き
垢版 |
2019/02/09(土) 00:15:58.22ID:t3kjm2Th0
「じゃあ俺たちは帰るが、ちゃんと言った課題やっておけよ!」
はい、とうなずく小狼。2人と1匹(小さくなった)がアパートを出る。
と、桃矢が小狼のほうに引き返し告げる、雪兎とケロに聞こえないように。
「さくらは、もう『はじまっちまった』んだな?」
びくっ!と体を強張らせる小狼、うつむいて返す。
「はい!」
「・・・そうか。」
それだけを言うと、桃矢はきびずを返し、雪兎たちの方に向かう。

そして追試の日、放課後の2時間、赤点の生徒は教室に集められ、追試を今、終えた。
「あ、小狼君、追試どうだった・・・?」
教室から出てきた小狼に、さくらが声をかける。
「ああ、採点まで終わってる、大丈夫だったよ。」
ほっ、と胸をなでおろすさくら。外国人である小狼の日本での生活が酷なものに
ならないといい、という心配から解放され良かった、と思う。
そういえば、中学生になって再会してからは、思ったより一緒にいられる時間が少ない。
クラスも違うし、クラブもある。カードの騒動の時以外は積極的に二人でいることは
あまりなかった。
「ね、私も今クラブ終わったし、一緒に帰ろ!」
そうだ、もうすぐ夏休み。小狼君も補習を回避できたし、私もなでしこ祭以降は
そう忙しくはない、もっともっと一緒にいる時間が出来る。
そんな夏の日常を想像してテンションが上がるさくら。
「あ、ああ。」
照れながら返す小狼、その笑顔は小学校の時に何度も見た、さくらの無邪気な笑顔。
久しぶりに小学生時代を思い出し顔を赤らめる。
そんな赤面は夕焼けの紅がうまく隠してくれた。小狼の赤面も、そしてさくらの
赤くなった頬も・・・。
0079無能物書き
垢版 |
2019/02/12(火) 00:19:52.73ID:1kckDH8c0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第6話 さくらと苺鈴とお友達

「ごめーん、みんなお待たせー。」
集合場所のバス停に向かって走るさくら、その先にはいつものメンバーが待っている。
知世、千春、山崎、奈緒子、秋穂、そして利佳。
 今日は夏休みの『休部日』、全ての部活が練習休みの日。
結果重視の学生部活動において、スパルタ的な練習スケジュールによる熱中症等
生徒の負担が全国的に問題になる中、友枝中では月に2回、こういった休部日を設けている。
それに合わせて皆で遊びに行こう、と企画したのは意外なことに小狼だった。
唯一、部活動に参加していない彼のこの提案に皆は乗ったのではあるが・・・

「あれ、小狼君まだ?」
さくらが見渡す。肝心の発案者が未だここにいない。時間は・・・もうすぐリミットなのだが。
と、向こうの角から小狼が姿を現し、こっちに歩いてくる、ゆっくりと。
全員が小狼の方に向き直る。
「あ、小狼君、こっちだよー。」
手を振るさくら。しかし何かその姿に違和感を感じる。なんで歩いてるの?
彼の性格からして、最後の一人になったのなら皆を待たせまいと小走りに駆けてくる
イメージがある。しかし今の彼はのんびりとこっちに歩いてくる。
やがて皆の前まで到着する小狼。
「お待たせ。」
「あ、うん。」
0080無能物書き
垢版 |
2019/02/12(火) 00:20:24.87ID:1kckDH8c0
その瞬間だった、いきなり背後から知世とさくらと利佳にタックルするように
抱き着いてくる人物。
「やっほー、おまったせーっ!」
目を丸くして振り向く一同。小狼だけはやれやれ、と頬を掻いている。
「め、苺鈴ちゃん!?」
「あらまぁ」
「うわっ、久しぶり〜」
思わぬサプライズに抱き着かれた3人が思わず反応する、他の面々も突然の来訪に驚きを隠せない。
なるほど、小狼が走らず歩いてきたのは、背後から苺鈴がこっそり近づくための囮だったらしい。
「言ってたでしょ、夏休みには来るって!」
「あ、そっか。」

山崎がアゴに手を当て、ふんふんと納得して口を開く。
「今日の本当の提案は苺鈴さんの方だったんだね〜」
全員があっ!という顔をする。小狼にしてはらしくない提案だと思っていたが
なるほど苺鈴なら納得だ。
 と、その苺鈴はぴょん、と後方に飛び跳ね、居住まいを正す。
その後ろには二人の少女が並んで立っていた。
一人は長身の金髪、もう一人はやや背の低いショートヘアの娘。

「紹介するわね、私の香港での友達、ステラ・ブラウニーと王林杏(ワン・リンシン)よ。
なでしこ祭見たいって言うから連れてきたの!」
おおーっ、という表情で全員が2人を見る、見た目にも対照的な二人。
 山崎以上の長身で金髪碧眼をポニーテールにまとめ、肩口をリボンで止める白い
トップスTシャツのへそ出しルック、ホットパンツから伸びるすらりとした足、いかにも
アメリカンなプロポーションはいわゆるモデル体型の見本のようなスタイルだ。
 かたや髪型を男の子並みに短く刈り込んで、それでも一目で女子とわかる優しげな表情、
ソデの無い青い服装の中央はトグルで止まっており、いわゆる人民服系のファッションに
長めの紺色スカート、全身からえもいわれぬ気品が漂っている。
0081無能物書き
垢版 |
2019/02/12(火) 00:21:32.00ID:1kckDH8c0
 と、山崎が臆することなく前に出る。両者の前に立って挨拶。
「山崎隆司です、小狼君と苺鈴ちゃんとは仲良くさせていただいてます。」
さすがに度胸と社交性あるなぁ、と皆が感心する、金髪の方に手を差し出して一言。
「ワン・リンシンさんでしたね、よろしく!」
山崎と金髪以外の全員がずっこける、逆でしょ普通、と千春がツッコミを入れようとしたその時、
金髪娘が絶叫する。
「NO!!!なんで私がリンシンだと分かったネ!?お前タダモノじゃないネ、さてはCIAの諜報員か?」
ふっふっふ、と得意げに笑い、ショートヘアに向き直る山崎。
「で、こちらがステラさんですね、山崎です、よろしく。」
「あ、あの、そうじゃなくて・・・」
困惑する表情を向けるショートヘアの女の子。

「「いいかげんにしなさーいっ!」」
千春が山崎に、苺鈴がボケ続ける金髪にツッコミを入れる、両者の頭をハタいた音が
パシーン、と気持ち良くハモる。
どうやら金髪がステラ、黒髪がリンシンの見た目通りで間違いなさそうだ。

「イヤー、お前とはウマいリカーが飲めそうダ!」
すっかり意気投合した山崎にステラがばんばんと肩をたたきながら話す。
一方リンシンは知世や秋穂とにこやかに話している、出会ってものの数分で両者のキャラが
必要以上に掴めてしまった。
「ダケドこのグループ、ほとんどガールばっかりネ、ボーイは李とヤマザキだけ?」
ステラの質問に苺鈴か返す。
「しかも二人とも予約済みだからね、とっちゃダメよステラ。」
「OH!ソーなの?ザーンネン。」
「ええ、お二方、お付き合いしてる方がいるんですか?」
思いもかけず食いつく林杏、知世が横から解説を入れる。
「山崎君と千春ちゃんは、10年来の幼馴染ですのよ。」
「ナールホド、ドーリで、さっきのツッコミが胴に入ってたと思ったヨ。」
「ま、まぁ私がつっこまないと、山崎君ひたすらボケ続けるからねぇ・・・」
顔を赤らめた千春が照れ照れで返す。
0082無能物書き
垢版 |
2019/02/12(火) 00:22:47.25ID:1kckDH8c0
「で、李さんの彼女、誰なんですか?」
林杏が目を潤ませながら周囲を見渡す。その一言と同時にさくらがぼふっ!と顔から煙を出し
耳まで真っ赤っかになり、俯く。
リアクションを起こさない小狼に、知世が横から軽く、苺鈴が後方から強めに肘鉄を入れる。
「あ、ああ。王、こちらが木ノ本さくら・・・で、俺の・・・」
言ってこちらも瞬間湯沸かし器のように赤面し、頭から煙を出す。

「変わらないわねー、二組とも。」
利佳が二人を見てにこやかに言う。さくらと千春の手を取り、ぐいっ、と引き寄せて耳打ち。
「もっと積極的にいかなきゃ、今時は草食系男子が多いんだから。」
「「え”・・・」」
積極的に、と言われてもかなり難しい。小狼も山崎も性格は違えど女子の方から距離を詰めるのは
なかなかに難儀なキャラクターだから。いろいろ妄想しながらもじもじと両手の人差し指を
胸の前で合わせる二人。
「だ・か・ら、これからプールでしょ、健闘を祈るわ♪」
ウインクして離れる利佳、どうやら恋愛に関しては遥かに上級者のようだ。

 残念ながらその目論見は外れた。更衣室から登場したステラのプロポーションたるや
お前のような中学生がいるかと言いたくなる迫力だ。赤青のワイヤービキニに身を包み
早くも周囲の注目を集めている。
さくら、秋穂、千春、奈緒子、そして林杏の5人は、胸に手を当てて、はぁ、とため息。
苺鈴はステラをジト目で見ながら毒を吐く。
「ホンッとに、何食べたらこんな体になるのかしらねぇ・・・」
「でもさくらちゃんも、水着似合ってますわ♪」
知世だけは他には目もくれず、早速さくらにビデオを向けている。
0083無能物書き
垢版 |
2019/02/12(火) 00:24:07.50ID:1kckDH8c0
「こっちこっちー」
山崎が女子連に声をかける。男子は着替えが早いので、もう二人ともプールサイドで待機中だ。
皆が二人の方に走る、集まったところで利佳がさくらの背中を押し、小狼の前に立たせる。
「あ・・・」
「ど、どうかな、似合ってる・・・?」
さくらの水着はひらひらのフリル付きバンドゥビキニ。赤を基調にピンクや白の桜の花が
デザインされたフリルが胸と腰を覆っている。
「あ、ああ・・・似合ってる。」
直視できないといった表情でやや目をそらし、赤面して答える小狼。
 隣では千春が山崎に水着を披露している、こちらはセパレートタイプながら、カラフルな
ストライプが入ったデザイン。スクール水着に比べて若干ハイレッグになっており、色気もある。
「うーん、いいんじゃないかな。似合ってるよ。」
「ホント?よかったぁ。」
実は事前に山崎は利佳からメールを受けていた、内容はこうだ。
”千春ちゃんの水着をホメること!ボケたら承知しませんよ!”
しぶしぶ冗談にするのを諦める山崎、隣で嬉々としている千春を見て、まぁいいか、と納得する。

 楽しい時間は過ぎるのも早い。競泳水着に身を包んだ苺鈴がさくらと競争したり、
リンシンが迷子と間違われたり、探しに行った秋穂が二重遭難したり、知世は終始さくらを撮影したり
ステラがナンパ男に絡まれては年齢を告げて引かれたり、奈緒子と千春が利佳との話に花を咲かせたり
売店には案の定、桃矢と雪兎がいてさくらをずっこけさせたり、クリームソーダを注文してから
さくらがやたら周囲を警戒してたり、その時すでに売店の中でケロが雪兎におごってもらった
クリームソーダに舌鼓を打っていたりしているうちに、あっという間に夕方が来てしまった。
0084無能物書き
垢版 |
2019/02/12(火) 00:25:30.98ID:1kckDH8c0
「それじゃみんな、またね。なでしこ祭、楽しみにしてるわ。」
苺鈴がステラと林杏を連れて一行と別れる。他のみんなも解散、という時、利佳がいきなり声を出す。
「そーれっ!」
その合図とともに奈緒子、知世、秋穂、そして利佳が一斉に駆け出す、別々の方向に。
「じゃあ、またー」
「またねー」
「お疲れ様でしたー」
「頑張ってねー」
何事が起ったのか理解できぬまま、その場に残されるさくら、小狼、千春、山崎の4人。
いち早く状況を悟ったのは山崎、ふぅ、とため息ひとつ。
「じゃあ帰ろうか、僕と千春ちゃんはこっちだから、またね。」
自然に千春の手を取り、歩き出す山崎。思わぬリアクションに驚く千春、無論悪い気はしない。
「うん、またねさくらちゃん、李君。」
満面の笑顔でひらひらと手を振って去っていく、夕焼けの街角に消えるのを見送って、小狼が
さくらに話す。
「俺たちも・・・行こうか。」
「うん。」
歩き出そうとして、ふと止まる。
さくらから顔をそらしたまま、すっ、と手を出す小狼。
「あ・・・」
少しの間、そして次の瞬間、さくらはその手を掴む、両手で、ぎゅっ、と。
こぼれるような笑顔のさくら、目線を泳がせながらもさくらの手を握り返す小狼。
そのまま二人は歩き出す。泳ぎの疲れも忘れて。

マーチングのことも、さくらの魔力の事も、今この時だけは忘れて−
0085無能物書き
垢版 |
2019/02/12(火) 00:26:28.55ID:1kckDH8c0
「フーン、アレがクロウ・カードの所有者ネぇ」
「とんでもない魔力でした、小狼さんが私たちを呼ぶのもうなずけますね。」
ホテルのロビーのテーブルで、少女3人と初老の男性が話している。
「さくら様はもう危険な状態だそうで、苺鈴様、ステラ様、林杏様、どうかよろしくお願いします。」
「任せてよ偉(ウェイ)、私がいるんだから何にも心配ないわよ!」
どんっ、と胸をたたく苺鈴。
「その意気ですよ、大事なのは『きっと上手くいく』という意志なのですから。」

4人は知らない。木ノ本さくらも、その考えを身上としていることに。

 −絶対、だいじょうぶだよ−
0087CC名無したん
垢版 |
2019/02/12(火) 12:44:08.43ID:J64OppWj0
あっ不穏な流れになってきた
毎回楽しませてもらってます
0088CC名無したん
垢版 |
2019/02/12(火) 23:38:34.01ID:M0NTiqvY0
SSごとにスレを立てればいいと思うんですけど(提案)
0089無能物書き
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2019/02/15(金) 00:18:35.19ID:WpItpYiJ0
>>86-87
こんな駄文に感想頂きありがとうございます、ヤル気でますよホント。
>>88
あんまスレ乱立すると叩かれるってじっちゃん言ってたw
同人板でやれ!とかオ〇ニーうぜぇ、とか言われそうですし・・・
あ、割り込みは自由ですよ、どんどん投稿しちゃって下さい、他の板でも
そういう流れのスレありますし。
ここ見てる他の人の意見はどうかな?
0090無能物書き
垢版 |
2019/02/15(金) 00:19:35.43ID:WpItpYiJ0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第7話 さくらとみんなの大行進

ぽん、ぽんっ!
夏の青空に花火が響く。友枝町なでしこ祭、いよいよ開幕の時!
さくらはオープニングのマーチングを直前に控え、メンバーと共に緊張した面持ちで
その時を待っていた。
 なにしろ彼女たち友枝中吹奏楽・チアリーディング合同のすぐ後ろには、全国に名をはせる
有名マーチングチームがずらりと並んでいるのだから緊張もひとしおだ。
そんな中、知世はさくらの至近距離まで来てビデオを構え、感動の瞳を浮かべている。
「ああ、これからさくらちゃんが大観衆の中、先頭を私の作ったコスチュームを着て
行進なさるんですね・・・感動ですわ〜」
聞き捨てならない一言にさくらが固まる。
「え・・・知世ちゃんが、作ったの?コレ。」

 マーチングのユニフォームは基本、派手である。それは友枝中も、他のチームも同様だ。
そんな中でも演奏する吹奏楽部のコスチュームはやや地味で、踊りを担当するカラーガードや
ドラムメジャーの衣裳は特に派手なのが一般的だ。
友枝中の場合、演奏陣は紫地に黄色のストライプ、カラーガードはワインレッドのフラメンコ風、
そしてドラムメジャーは白いシャツに黒のジャケット+赤蝶ネクタイ、下はラメの入った黒い長ズボン
頭には小さなシルクハットがピンで止められている。
ボーイッシュではあるが動きやすく、長袖長ズボンではあるが通気性もバツグンだ。
なるほど、よくよく見れば知世のセンスらしさが伺える。

「友枝町中の服飾店に手を回した甲斐がありましたわ〜」
「と、知世ちゃん・・・」
そういえば今年のユニフォームはどこからか寄贈されたって話を聞いた気がする。
今日のこの日に備えてきたのはさくらたちだけでは無かったようだ。
「ワイも見とるで、がんばりや〜。」
ケロはちゃっかり知世のハンドバッグの中に潜り込んで、顔だけ出して激励する。
0091無能物書き
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2019/02/15(金) 00:21:10.70ID:WpItpYiJ0
「さぁみなさん、いよいよ本番です。この2か月の練習の成果、存分に見せてあげなさい!」
米田先生が全員にハッパをかける。
「「はいっ!!」」
皆が元気よく答える。やれる事はすべてやってきた、あとは本番あるのみだ。
「それじゃ最終チェックに入って、自分のやることをしっかり理解してね。」
各自が服装や楽器のチューニング等のチェックに入る。さくらもバトンの感触を確かめ
ホイッスルの試し吹きも行う。うん、問題なし。

 いよいよ本番、整列する友枝中チームの先頭に立つさくら。
ひとつ深呼吸して前を見る、正面には良く知った顔がずらりと並ぶ。
お父さん、お兄ちゃん、雪兎さん、知世ちゃん、ケロちゃん、山崎君、奈緒子ちゃん、秋穂ちゃん、
そして、小狼君。
あと、そこかしこにビデオを構えた知世ちゃんのボディガードの皆さん。知世ちゃんってば・・・

『さぁ、それでは第3回、友枝町なでしこ祭、いよいよ開幕です!』
その場内放送が流れるのを合図に、さくらがホイッスルをくわえ、バトンを持つ右手を高々と上げる。
同時に後ろの演奏隊が楽器をすちゃっ!と構え、カラーガードが旗をびっ!と構える。
さぁ、出発だ!

ピーッ、ピーッ、ピッピッピッ!!
さくらのホイッスル&バトンに合わせて全員が足踏みを開始する。
全員が一歩踏み出すと同時に、金管楽器が音楽を奏でる。
0092無能物書き
垢版 |
2019/02/15(金) 00:22:30.36ID:WpItpYiJ0
※TVアニメ「カードキャプターさくら、さくらのテーマI」

トランペットがメロディを奏で、ホルンが高らかに音を響かせる。パーカッションがリズムを刻み
ユーフォニウムやチューバーが重厚な音を染み渡らせる。
千春率いるカラーガードは情熱的に、そして妖艶に舞い、一糸乱れぬタイミングで旗を振り回す。
その先頭でさくらはバトンでリズムを刻み、皆を先導して行進し、皆の指揮を執る。
大事なのは笑顔を絶やさぬこと、その為には何よりこの行進を楽しむこと、それが米田先生の教え。
バトンを天高く放り投げ、側転からの宙返りで落下点に入り、見事バトンをキャッチする、
そしてそのまま行進を続けながら観客に敬礼、拍手喝采が沿道に巻き起こる。

「なに、あそこ凄いな、どこのチーム?」
「地元の友枝中?こんなに上手かったっけ。」
2番手以降の有名どころを見に来たマニアも、思わぬダークホースに注目する。
友枝中に合わせて移動しているのは最初は身内だけだったが、そのうち他の見物客も
友枝中を追いかけ始める。

 こうしてゴールの友枝商店街広場まで、約500mの大行進が始まった。
夏の太陽は容赦なく照り付け、地面からの熱波がみんなの体力を奪っていく。
それでも、彼女たちにとってこの舞台は一生に何度もない『晴れ舞台』だ。
みんなが私の演奏を聴いてくれる、私の踊りを見てくれる、身内だけではない、
大勢の見知らぬ人が。暑いなんて言ってられない、気にもならない。

 それを追いかける大観衆、ある吹奏楽好きは演奏に聞き入り、あるマーチングファンは
ガードの旗振りに熱い視線を送り、そしてあるビデオ撮影少女は先頭のドラムメジャーを追って歩く、
沿道もまた行進の列ができており、皆が一つの流れとなってゴールを目指す。

 トロンボーンが銃剣のように天を差し吠える。アルトサックスが夏の日差しを受けて輝き
ガードの旗が行進に勇ましい華を添える、ゴールまであと少し。
やっと終われる、もっと続けたい。矛盾する二つの感情を全員が胸に抱き、ラストスパートをかける。
友枝商店街広場に到着、さぁ、いよいよフィナーレ!
0093無能物書き
垢版 |
2019/02/15(金) 00:23:27.56ID:WpItpYiJ0
 縦列していた一行が方向を変え、横一列に並び、一歩また一歩と行進
「カンパニー」と呼ばれるフィニッシュに向かう。
 ガードの千春ともう一人が旗を預け、行進の先頭に走り、さくらの前に出る。
さくらは再びバトンを高々と放り投げ、前の二人に向けてダッシュ、二人が組んだ手の上に乗り
そのまま二人に天高く放り投げてもらう。そして空中で見事バトンをキャッチ、
落ちてくるさくらを下の二人がしっかりと受け止める、間髪入れずさくらは地面に降り、
バトンをびっ!と皆の方にかざす。
その瞬間、最大の音を出していた演奏がきれいに止まる、一糸乱れぬフィニッシュが決まった。

 大歓声に包まれる会場、祝福の拍手が鳴り響く。
さくらの知人も、吹奏楽部の身内も、見知らぬ大勢の観客も、惜しみなく絶賛の柏手を打つ。
 全員が深々と一礼しそれに答える。達成感と疲労感、やり遂げた思いと終わりの未練。
みんな汗だく、そしていい笑顔で駆け足して退場する。

 終了後の待機スペースには、チア部の先輩たちが飲み物を用意して待ってくれていた。
「お疲れ様、木ノ本さん凄かったわよ!」
「ガードも良かったよ〜これは来年以降が楽しみねぇ」
「私たちも負けてられないわね、最終日見てなさい!凄い演技するから。」
コップに注いでくれたスポーツドリンクを飲み干すさくら達。玉の汗を光らせながら
先輩たちの絶賛に笑顔、涙する娘もいる。
「んもー、先生感動しちゃったわよ、ホントによかったわよみんな。」
米田先生が大声で吹奏楽部とチア1年を労う。皆で団結し、努力し、結果を出した。
去年のくやしさを思い出したか、吹奏楽部の2,3年の多くが涙する。
0094無能物書き
垢版 |
2019/02/15(金) 00:24:32.98ID:WpItpYiJ0
 解散となった後、さくら達は友人たちに囲まれて祝福を受ける。
「ホントにかっこよかったですわさくらちゃん、これはビデオ編集が楽しみですわ〜」
目を星印にしてうっとり語る知世に、秋穂が釘を刺す。」
「あ、あの、知世さん。明日は私たちなんですから、編集はそれ以降に・・・」
コーラス部は明日、最終日のラスト2の出番だ。ビデオ編集で夜更かしして
風邪でも引かれたら大事である。

「ま、よかったじゃねぇか、バトン頭に落とさなくて。」
「そういう桃矢が一番感動してたけどね〜」
「ユキ!」
兄と雪兎の会話にも思わず笑みがこぼれる。奈緒子や他地区から駆け付けた利佳も
さくらたちに称賛を送る。
「そういえば、マーチングっていうのはねぇ・・・」
感動を阻止されてはたまらないと、千春が山崎にクローを極めて黙らせる。

「・・・あれ、小狼君は?」
そういえば小狼がいない。スタート地点では確かにいたのに。
「ああ、小狼なら、サッカー部の手伝いに、駆り出されてたわよ・・・。」
苺鈴がちょっと息切れしながら説明する。確かに午後の部にサッカー部主催の
リフティング大会が予定されている。
「え!?」
「あ、大丈夫。さくらの演技は、ちゃんと最後まで、見てたわよ、伝言よ。
『ホントにすごかった、それしか言えない』だって。」
「・・・そう、良かった。」
さくらは複雑な気持ちだった。本当なら、いの一番に小狼にここに来て祝福して欲しかった。
でも、どこか孤独なイメージのある小狼に男友達が出来るのは悪い事じゃない。
もしサッカー部に入部ともなれば、彼の運動神経ならレギュラーは間違いないだろう、
チームが活躍すれば、以前知世が言ってたように、チア部として応援する
未来もあるかもしれない。今日以上の演技を、小狼君の為に。
それに、明日は一緒になでしこ祭を回る約束をしている。今ここにいない埋め合わせは
きっと明日にしてくれるだろう。
0095無能物書き
垢版 |
2019/02/15(金) 00:25:55.99ID:WpItpYiJ0
「そういえばあの二人は?」
奈緒子が苺鈴に問う。わざわざ香港から、なでしこ祭を見に来た外国人2人。
「あ、ああ、ステラと、林杏なら、他のマーチング見るって、言ってたわ。」
今やマーチングは最高潮、全国の有名チームが次々と極上の演奏演技を披露している
悲しい事ながら、すでに友枝中の演技を覚えてる人は多くない。

 ふと、知世が苺鈴に声をかける。
「苺鈴ちゃん、大丈夫ですか、どこか御気分でも・・・」
見ればあのタフな苺鈴が汗だくになっている、呼吸も切れ切れで、まるで全力疾走した
後のようだ。
「だ、大丈夫大丈夫。ちょっと人波にもまれただけよ。」
その時、会場の裏側の方向で、サイレンの音が鳴り響く、救急車の音だ。
「どなたか熱中症になられたんでしょうか。」
真夏の午前10時半。こういうイベントなら残念ながらよくある光景。
やがて遠ざかっていくサイレン音。

 なでしこ祭初日、さくらとみんなの挑戦は、こうして無事、大成功に終わった。
充実感と達成感み満たされて帰宅したさくらは、疲労感からか夕食も取らずに
泥のように寝入ってしまった。父、藤隆が布団をかけ、ご苦労様、と声をかけて退室する。
そしてさくらは夢を見る−

オレンジ色の世界、みんながさくらに笑いかける世界、はるか向こうの十字架に
さくらの大好きな人が磔にされている世界・・・
0096CC名無したん
垢版 |
2019/02/15(金) 23:51:50.07ID:3n05yvhR0
スレいっぱい立ったら追いかけるの大変だから個人的にはこのままでおk
今書き込んでらっしゃる物書さんは他スレにもいらっしゃった物書きさん?
0097無能物書き
垢版 |
2019/02/17(日) 00:04:15.57ID:0tP79XvQ0
>>96
以前「さくらと小狼ちお泊り」スレでいくつか書いてました、スレ落ちましたがw
他の板でもSS書いたことがあります、HNは別ですが。

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第8話 さくらの魔力と小狼の戦い

「鏡よ、我を映し出し、我の分身となれ、ミラー(鏡)」
マーチングのスタート地点から少し離れた建物の陰、小狼は手鏡に自分を映し、そう唱える。
鏡に映った小狼に、さくらカードの精霊『ミラー』が憑依する。
そして鏡から飛び出し、小狼の分身となって彼の前に立つ。
「じゃあ、頼むぞ。」
こくり、と頷く小狼の分身。
「スタートの前にさくらに見える位置にいてくれればいい。あと、さくらの兄上には
絶対に近づくなよ、あの人の勘の鋭さは異常だからな。」
あ・・・という表情を見せた後、少し残念そうな表情で頷く分身。

 まもなくなでしこ祭、開幕のマーチングパレード出発の時。小狼、偉(ウェイ)、
ステラ・ブラウニー、王林杏(ワン・リンシン)、そして苺鈴が所定の場所についている。
今やさくらの魔力は、さくらの周辺の人間を魅了する性質を備えてしまっている。
この大勢が注目するイベントで、そんなものを撒き散らしながら行進すればどうなるか、
さくらの周囲の状況が激変するのは間違いないだろう、さくらの望まぬ形で。
 それを阻止すべく、香港に連絡を取り、準備してきた、この日の為に。
さくらの魔力を封じ、純粋にマーチングの演技をやり遂げてもらうために。
母の弟子、ステラと林杏の二人に来日してもらい、5人でさくらのマーチングを
魔力の介入なしにやり遂げてもらうために。

 小狼に化けたミラーが沿道の脇につく。言った通り桃矢とは離れた位置に。
さくらがそちらに目をやってくれるのを期待して、小狼はかがんで護符を取り出す。
『封魔』と書かれたその護符は、この日の為に母上に作ってもらった特別制。
魔力を持つ人の体外に溢れた力を無効化する能力がある。
0098無能物書き
垢版 |
2019/02/17(日) 00:05:49.35ID:0tP79XvQ0
ピーッ、ピーッ、ピッピッピッ

 始まった!
小狼が、マーチングの進路となる道路を挟んだ向こう側でステラが、林杏が、一斉に護符を発動させる。
「封魔!」
「フーマ!」
「封魔っ!」
3人の位置は三角形の頂点になっており、その3点の中にさくらがいる。
護符で三角の結界を作り、その中にさくらがいる間は魔力の影響が出ないようにするのが狙いだ、
しかしマーチングは行進である。さくらがその結界から出るとその効果は消失する。
さくらを先頭とする行進が動き始める、小狼はスマホのイヤホンを通じて他の4人に連絡する。
「始まったぞ、次!偉(ウェイ)、頼む!」
「かしこまりました。」
小狼と同じく、道路のこちら側、小狼の位置から100mほど進んだ位置に待機しているウェイが返す。
ステラは全力で次のポイントに向かう、苺鈴が人目につかない場所を確保しているはずだ。

さくらが3人の結界から出る瞬間、今度は小狼とウェイと林杏が次の護符を発動させる。
「封魔!」
「封魔っ!」
「封魔。」
さくらが結界から出る瞬間、新たな結界がさくらの進路に現れ、その中に進むさくら。
小狼は全力でマーチングの進行方向に走る。結界を張っているウェイを追い越し、その先
100mほどの地点に駆けつけてきた苺鈴を見つける。
「小狼、こっち!」
苺鈴が小狼を手招きし、すぐ近くの建物の陰に誘導する。人前で護符の発動をするわけにはいかない
誰にも見られず護符が使える空間をキープし、見つからなければ苺鈴自身が術者を隠すのが
魔力を持たない苺鈴の役目だった。
0099無能物書き
垢版 |
2019/02/17(日) 00:24:11.61ID:0tP79XvQ0
「じゃあ、次のポイントにいくわ!頼むわよ!!」
そう小狼に言い残し、今度は苺鈴がダッシュする。すでに対岸では林杏が次のポイントに
向かっているはずだ、時間が惜しい。
マーチングのずっと先までダッシュして、道路を横切り、あらかじめ探しておいた場所に
全力疾走で向かう、林杏より先に着かないと意味が無い。
なんとかそのポイント、木陰に到着し、走ってくる林杏を呼ぶ。
ウェイ、ステラ、小狼による3つめの結界が生まれる。行進が思ったより早い、急ぐ必要がある!
苺鈴は再び引き返して道路の反対側へ走り、ウェイを商店街の裏路地に誘導する。
そしてまた道路をまたいで、今度は次のポイントにステラを呼ぶ。

 幸いにも友枝中のマーチングは好評のようだ。見物者の列の後ろで忙しく動いている小狼たちを
気にとめるものは誰もいない。そんな中、小狼たちは次々に結界を張り、走る。
中でも道路のあちらとこちらを往復している苺鈴の運動量は異常だ。ポイントで合流するたび
彼女の呼吸は荒く、激しくなっていく。
ステラも林杏もウェイも、魔力を使いながらの運動に徐々に体力を奪われていく、まして今は真夏、
香港の暑さよりマシとはいえ、この作業がキツくないはずは無かった。
そして、最初にミラーのカードを使った小狼の疲労も相当なものだ。

 と、その小狼の所にひとつの精霊がすっ、と現れる。緑の髪に赤いリボン、ミラーだ。
「うまくいきました、主(さくら)は出発前、私を貴方として認めました。」
「そうか、ありがとう!」
そう言って宝玉を出す小狼、ミラーはすっ、とその中に吸い込まれるように姿を消す。
そして走りながらマーチングを見る、さくらの見事な演技に歓声が沸いている。
しかしそれは決してさくらだけが注目されているわけではない、ある人は演奏される音楽に耳を傾け
またある人はカラーガードの見事な旗振りに目を奪われている。
0100無能物書き
垢版 |
2019/02/17(日) 00:25:55.20ID:0tP79XvQ0
 よかった、心底そう思う。もしさくらの魔力がダダ洩れな上体でマーチングが行われたら・・・
確かに友枝中は並み居る強豪チームを押しのけ、評価一位をモノにするかもしれない。
しかしそれはさくら一人の成果でしかない。誰も演奏を聞かず、演技や行進も見ず、
ただたださくら(の魔力)に魅了されるだけの、いわば洗脳に近い評価。
チームメイトの2か月の努力も、わざわざ遠征に来てくれた他チームの演技も、
みんな無駄にする『魔法の暴挙』。
 さくらにそんな事をさせるわけにはいかない、さくらが自身の魔力で自分を不幸にするのは
なんとしても阻止してみせる!そんな決意が疲れ切った小狼の体を引き起こし、走らせる。

 やっとフィニッシュの友枝商店街広場まで来た、あと一息だ。
最後のカンパニーの行進が始まるのを合図に、小狼が、ステラが、林杏が、最後の札を発動させる。
「「「封魔!!」」」
今日何度目か分からない言葉を、最後の力を振り絞って叫ぶ。
最後の結界が発動し、さくらを含むマーチング一同を取り囲む。そしてさくらはジャンプして
見事なフィニッシュを決める。

「ああ・・・ホントに凄いな、さくらは・・・」
そう言いながら崩れ落ちる小狼、隣にいた苺鈴がとっさに抱きとめる、息も絶え絶えに。
「しゃ、シャオ・ラン、しっかり・・・」
疲労で抱えきれず、そのままそこにへたりこむ二人、そこにウェイが駆けてくる。
「しっかりなさって下さい、小狼様、苺鈴様、お気を確かに。」
そしてスマホを取り出しダイヤルしながら、告げる。
「救急車をお呼びいたしますから、それまでご辛抱ください。」
0101無能物書き
垢版 |
2019/02/17(日) 00:27:27.60ID:0tP79XvQ0
 電話を終えたころ、千鳥足のステラが林杏の肩を担いで合流してくる。
「ア〜、私タチも、乗ってイクネ〜」
かろうじてそう答えるステラ。林杏はもう言葉を発するのもおっくうそうだ。
 地面に横になった小狼が、苺鈴に伝える。
「苺鈴、すまないが、お前は残ってくれ・・・」
肩で息をしながら苺鈴が返す。
「わ・・分かってる・・・わよ。さくらを・・・安心させるん、でしょ・・・」
「ああ・・・すまない。」
それだけ答えると小狼はふっ、と気を失う。

遠くに救急車のサイレンを聴きながら、疲れ切った、そして満足した表情のまま−
0103無能物書き
垢版 |
2019/02/18(月) 00:24:21.13ID:GS/hiYES0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第9話 さくらと小狼のすれ違い

「・・・あれ?」
朝、目覚めたさくらは、何故か悲しみの感情と共に、涙を流していた。
何か、何か嫌な夢を見ていた気がする。とても悲しく、切ない夢。
でも・・・その内容を思い出せない、唯一思い出せるのは、度々聞くその声、その台詞。

−お前はもう、戻れない−

「おー、やっと起きたかさくら・・・どないした?」
ケロがさくらに問う。さくらの表情を見て取って、怪訝そうな顔で。
「あ、おはようケロちゃん、なんだか嫌な夢を見たような気がするの、
でも・・・思い出せない。」
何故だろう、昨日マーチングをやり終えて、充実感に満たされていたはずなのに
こんな沈んだ気分になるなんて。
「まー、それはええとして、ゆっくりしててええんか?」
「え、何が?」
「今日は小僧とデートやなかったんか?一緒になでしこ祭回るってゆうとったやないか。」
言って時計を差し出すケロ。それを受け取り、さくらの顔が見る見る真っ青になっていく。

「ほ、ほえぇぇぇぇぇっ!!!」
木ノ本家に響く恒例の騒音、そして振動、どっすんばったん!
怪獣さながらのドタバタで階段を駆け下り、父、藤隆の焼いたホットケーキを口に詰め込み
紅茶でのどに流し込む、思わずムセるさくら。
「いってきまふー!」
「行ってらっしゃい、気をつけてね。」
そんなさくらにも平然と対応する藤隆。中学生になって回数が減った光景だが
完全に抜けるほど一気に成長するはずもない。相変わらずですね、とだけ呟いて
食器を片付けにかかる。
0104無能物書き
垢版 |
2019/02/18(月) 00:25:05.51ID:GS/hiYES0
 一方、2階ではケロが専用スマホで電話をかけていた。送信相手は『李苺鈴』。
ガチャ
『もしもし、ぬいぐるみ?』
「ちゃうわ!史上最高にかっこええさくらカードの守護者、ケルベロスやっ!」
『はいはい、それはもういいから。家の前まで来てるわよ、もう。』
「いよっしゃー!ほな、いこかーっ!!」
 お邪魔しないようにと知世に釘を刺され、今日はさくらに同伴できないケロ。
しかしなでしこ祭の出店に美味いモノが多数あるなら、行かない理由にはならない。
いつもなら知世と食べ歩く所だが、今日は知世は夜のコーラス部のステージ準備のため
付き合えない。交渉の結果、今日は苺鈴に『さくらと小狼の邪魔をしない事』を条件に
同伴の約束を取り付けていた。
「よっしゃー、食って食って食いまくるでぇーっ!!」
言って2階のさくらの部屋の窓から猛然と飛び出す、おった!小娘や・・・ん?
「げぇーっ!」
驚愕して固まる。てっきり小娘一人かと思ったら、傍らにもう二人おるやないかーい!
マズイ、ワイの正体がバレる、ぬいぐるみのフリせな!

 固まったケロは、そのまま放物線を描き、地面にべしゃっ、と落ちる。
痛みを必死にこらえ、ひたすらぬいぐるみのフリをする。早よせぇ小娘、誰かが2階から
わいを放り投げた設定にして回収せんかい・・・ん?
「ぷくくくく・・・あはははははは」
腹を抱えて笑っている苺鈴。その横で黒髪ショートカットの少女が、うわぁ痛そう、という
表情でケロを見ている。
 と、首根っこをつかまれ、ひょいと持ち上げられるケロ。目の前には金髪碧眼の少女。
「ヘェ、コレがクロウ・カードの守護者ネェ、なかなかキュートね。」
「へ?」
元々目が点なケロがさらに目を点にして、間抜けな表情で返す。
「あははは、ゴメンゴメン。二人とも知ってるのよ、さくらやあんたのこと。
叔母様、つまり小狼のお母さまの弟子なのよ、この二人。」
「ステラ・ブラウニーよ、よろしくネ、ケルベロス!」
「王林杏です、ご噂はかねがね李さん達に聞いております。」
ステラがウインクして、林杏がお辞儀して自己紹介する。
0105無能物書き
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2019/02/18(月) 00:25:45.94ID:GS/hiYES0
「なんや、ワイは痛い思いをし損かーいっ!」
言って苺鈴を追い回すケロ。
「そういうことは、もっと早よ言わんかーい!!」
追いかけられついでに、なでしこ祭会場に向かう3人と一匹。その先の商店街にはすでに
大勢の人がごったがえしていた。

「お待たせ、小狼君!ごめんなさい、待った?」
待ち合わせの自販機前のベンチに座る小狼に言う。二人きりの待ち合わせでさくらが
小狼より先に来れたためしがない、今日こそは、と思っていたが寝坊には勝てなかった。
「いや、今来た所だ、気にするな。」
小狼らしい返事が返ってくる、その返事を聞いてさくらは思う、ホント紳士だな、って。
きっと彼なら何分待たせても同じことを言うだろう、そんな私への気遣いと、そんな人と
付き合えていることを意識して思わず頬が赤くなる。
「じゃあ、行こうか。」
ベンチから立ち上がる小狼。ここはまだ人が疎らだが、少し歩くとなでしこ祭のエリアに入る、
すでに人混みが出来ており、突入するには少々の気合が必要だ。

「待って!」
さくらが小狼を止める。どうした?、と返す小狼。
さくらは少しおねだりをするような目で小狼を見つめ、そしてポケットから3枚の
カードを取り出す。
「ね、なでしこ祭、一緒に上から見てみない?」
さくらが手にしているのはクリアカード、フライ(飛翔)、ミラー(鏡)、
そしてルシッド(透過)の3枚。
 以前、ミラーのカードを入手した時、それでフライをコピーして一緒に空を飛んだことがあった、
あの時の楽しさが忘れられないさくらは、それで空からなでしこ祭を一緒に見てみたいと思っていた。
ルシッドで姿を隠せば他の人に見られる心配もない。
0106無能物書き
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2019/02/18(月) 00:26:23.43ID:GS/hiYES0
「ダメだ!!」
さくらの予想以上に厳しい剣幕で小狼が拒否する。思わぬ態度に少しおびえた表情を見せるさくら。
「あ・・・すまない。でもむやみに魔法を使うのは、良くない。」
思わず語気を強めたことを反省する。しかしそれも仕方のないことだ、つい昨日、小狼は
他の4人と、さくらから漏れ出る魔力を抑えるために奮闘したばかりだ。
魔力を使い果たし、暑気に当てられ、救急車で運ばれるほどに。今朝も点滴を受けてなんとか
病院を抜け出してきたばかりなのだ。
 そんな事はつゆ知らず、魔法を使うというさくらに少し腹が立った気持ちもあった。
魔法は使うほどに本人の魔力を底上げする、魔法を使えば使うだけ、さくらは破滅に
確実に近づいていくコトになるのだ。

「あ、ゴメン・・・そうだよね、やっぱ。」
少し困り顔で、それでも笑ってさくらが返す。さくらにすれば今回のデートの
ひとつの目玉として『小狼との空のランデブー』を楽しみにしていた。
それだけに小狼のこの反応は残念だった、さくらは半分納得しながらも、半分はこの
ナイスアイデアへの未練を断ち切れないでいた。

 そんなこともあって、最初はぎこちなく始まった二人のデートだが、祭りという
イベントの中ではそんな気持ちは結構簡単にほぐれていく。
路上のジャグリングショーで昨日のバトンさばきを思い出したり、大食い大会に何故か
参加している苺鈴の服の中からこっそり料理を飲み込んでいく黄色い生き物を見つけたり
例によって出店している桃矢に「中にユキがいるぞ」とだまされて入った先がお化け屋敷だったり
利佳と寺田先生にばったり会って、両者の関係を知らない小狼が空気を読めずに
かつての恩師と長話になりかけたりしているうちに、夏の陽も西に沈みかけていた。

「そろそろだな、行こうか。」
「うん、まずは奈緒子ちゃんの演劇だね。」
夕方からは立て続けに舞台でのショーが予定されている。友枝中はまず演劇部の公演、
ふたつ挟んでコーラス部の合唱、そしてチアリーディング部の演技でフィナーレとなる。
0107無能物書き
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2019/02/18(月) 00:27:14.09ID:GS/hiYES0
 奈緒子がシナリオを書いた演劇は本当に良い出来だった。自分たちも去年ここで演じたが
さすがに中学生の演技力に比べると自分たちはまだまだ大根役者だったな、と思う。
 コーラス部の合唱、ソロパートを務めるのは、昨日までさくらが指導を受けていた
吹奏楽部顧問の米田先生の娘、米田歩(3年)だった。知世のソロが透き通るような美声なのに対し
歩の歌は力強く、魂に響くような熱があった。さすが元オペラ歌手の米田先生の娘さんだ。
再び合唱に入った後、再度ソロになる、出てきたのは・・・なんと秋穂だ。
『Even if you dislike me, I think of you・・・』
なるほど、英語の歌詞の部分。イギリス生活が長かった秋穂は、英語の発音ならお手の物だ。
それでこの抜擢となったらしい、恥ずかしがり屋の秋穂が皆の前で懸命に歌を紡ぐ。
『Let me fall to hell before you become unhappy・・・』
その歌詞を聞いて、小狼が少し悲しそうな顔をしたことに、さくらは気づかなかった。

 いよいよグランドフィナーレ、チア部2,3年によるチアリーディングの演技。
さくらは小狼を残し、舞台裏に駆け付けて先輩の衣裳や照明の手伝いをする。
千春や他のチア部1年も皆揃っている、本当は来なくてもいいよ、と言われてたのだが
やはり同じ部員として何か役に立ちたい、という思いが彼女たちを集めた。
 そして始まる演技。バトンを、リボンを、ポンポンを、そして同じ部員すらも華麗に振り回し、
踊り、駆け、飛ぶ。優雅に、美しく。
マーチングのガードやドラムメジャーすら比べ物にならない見事な演技、そのダイナミックで
美しい演技に会場中が驚嘆のため息を漏らす。
演技が終了した時、それは大喝采に代わっていた。
さくらも、千春も、他の1年も思う。来年は自分たちがあの舞台に立つんだ、と。
0108無能物書き
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2019/02/18(月) 00:27:53.35ID:GS/hiYES0
 夜も更け、祭りが終わる。
さくらと小狼も帰路を歩く、さっきまでの舞台の数々、そして昨日のマーチングなど
話題は尽きない。
 だけど、さくらにはたったひとつ、心残りがあった。
意を決し、小狼の方に向き直る。手に3枚のカードを持って。
「ね、やっぱりダメかな・・・?」
そのカードを見て小狼は固まる。今朝、さくらが提案した空飛ぶランデブー。

さくらはずっと心に残っていた、今日は絶対に一緒に飛びたい、と。
小狼はさっきの秋穂の歌う歌詞を思い出していた、例え貴方に嫌われても、私は・・・

「いい加減にしろ!」
語気を強めて怒鳴る小狼、はっ!と硬直し、まばたきも忘れて小狼を見るさくら。
「魔法を何だと思ってるんだ、そんな目的の為に使っていいものじゃないんだぞ!!」
今回は怒りは無い、しかし語気を強めないわけにはいかなかった。例えさくらに嫌われても。

「・・・『そんな』、目的?」
さくらの目が潤む。二人で楽しい想いをすることを『そんな』と称されて愕然とする。
心が冷えていくのを感じた。今日の楽しかった出来事も、昨日のマーチングの充実も
目の前の男の子に対する恋心さえも・・・その熱を失っていく。

「・・・じゃあ」
やっとそれだけを絞り出して、さくらは逃げるように駆け出す、涙を道標のように落としながら。
小狼は追わない、追えない。自分にその資格は無い、彼女を泣かせてしまったのだから。
さくらは木ノ本家に駆け込むのを見送って、きびすを返し、歩く

胸をかきむしられるような焦燥と、悲しさと、喪失感を胸に抱いて・・・
0111無能物書き
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2019/02/19(火) 22:33:28.34ID:dAFl+7lX0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第10話 さくら達へのアドバイス

「さぁて、待ちに待った編集タイムですわ〜♪」
なでしこ祭が終わった夜、大道寺家のシアタールームで、知世は恍惚の表情で
数枚のディスクを準備していた。
 昨日のさくらのマーチング、知世本人はもちろんのこと、自分のボディガード達にも
ビデオを持たせ、様々な角度からさくらの演技を撮影させていた。
今からそれを吟味編集し、さくらのマーチングPVを作り上げる、知世の至福の時間が
やっと始まるのだ。

 まずは自分の撮影ビデオを一通り見て、メインの編集の流れをイメージする。
続いてボディガードたちの撮った絵、左右から、後方から、逆光から、ドローンを使った空撮、
それらをどのタイミングに差し込むか、イメージしながら脳内でPVの流れを作り上げていく。
そして最後のディスクを挿入する、これまでに無い試みを企画したその一枚。
「さぁ、いよいよ楽しみにしていた1枚、良い絵が撮れているといいですわね〜」
 それはボディガードの中でも1番の撮影技術を持つ人にお願いした、ちょっと違った視点の映像
『さくらちゃんの演技を見る李君を追いかけてくださいな。』というもの。
うまく編集できれば、このPVを見るさくらちゃんと李君がどんな顔をするか、とても楽しみだ。

「・・・なんですの、これは。」
愕然とする知世。そこに映っていたのは知世の想像とは程遠い、小狼達の『奮闘』だった。
0112無能物書き
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2019/02/19(火) 22:34:18.72ID:dAFl+7lX0
「では、説明してもらおうか、李小狼。」
ユエが小狼を見下ろして問う、厳しい表情で。
「まぁ落ち着けやユエ、小僧にしたかて考えあってのコトやろ。」
夜、月城家の部屋。ピリピリした空気の中で、成体のケルベロスとユエが小狼を問い詰める。
 先日のなでしこ祭の最終日、泣きながら家に帰ったさくらはそのまま
布団に突っ伏して泣き、そのまま寝入ってしまった。
心配したケロはユエに相談する。連絡を受けたユエは怒りをあらわにして小狼を呼びつけた。
雪兎からさくらを任せられながら泣かせるとは何事か、と。

「まぁせやけど、説明はしてもらうで小僧。お前、さくらに何言うたんや?」
ケルベロスの質問に小狼は少しためらいながら答える。
「やたらと魔法を使うな、そう釘を刺した。それだけだ。」
「さくらが魔法使おうとしたんか?」
「ああ、一緒に空を飛びたいって。」
その説明を聞いてケロとユエが、ん?という表情をする。
「何や、それだけかいな。」
「飛んでやればいいだろう!」
その言葉に黙り込む小狼。

「なんや、女心の分からんやっちゃなぁ〜、そのくらい融通効かせや。」
その言葉にユエもこくりと頷く。
小狼は分かっていた。この二人に今のさくらの状態を『危機』と認識させるのは難しいと。
彼らはさくらの魔力を吸ってこそ存在できる魔力生命体なのだ。さくらの魔力が増すことは
彼らにとって喜ばしい事ではあれ、困ることではないのだから。
押し黙る小狼にユエが話す。
「言い訳があるなら聞こう・・・雪兎がそう言っている。」
あ、という表情で顔を上げる。彼も聴いていることが小狼の認識を変える、この場に自分の
考えを理解しうる『味方』がいることに。
0113無能物書き
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2019/02/19(火) 22:35:29.08ID:dAFl+7lX0
「さくらの魔力が、さくらを不幸にし始めている、その可能性がある。」
「何!?」
「なんやて?」
小狼は持ってきたカバンを開け、1冊の古い本を取り出す。古い外国の文字で書かれた
その本には、クロウ・リードの名がある。思わず釘付けになるユエとケロ。
「李家に伝わる本、苺鈴に持ってきてもらった。見るなら・・・覚悟してほしい。」
そう言ってしおりの挟んだノートを渡す。が、ユエやケロにとってクロウの手記なら
読まないという選択肢はありえなかった。ページを開き目を走らせるユエとケロ。

 数分後、そのノートを置いて固まる二人。
「こんな・・・クロウにそんな悩みがあったというのか・・・」
「アイツはいっつも一人でおった。人間嫌いやと思とったんやが、こんな事情があったんかい・・・」
愕然とした表情をするユエとケロ。
 クロウの不幸、有り余る魔力が彼の深層の願いを勝手に叶える現象、魔力のオーバーラン。
知識の探究が趣味だったクロウの願いは、彼の魔力によって全て解き明かされてしまう。
結果、彼の望む『理論を解き明かす』過程を全て魔力に奪われてしまう。

 例えば、今でいう運動量保存の法則。この世の運動はすべてが過去からの連動であるという理論。
その始まりはビッグ・バンという宇宙誕生の爆発から、と言われている。
この世の全ての出来事も、生命の進化も、人間の思考さえも、すべてはそこから続いている
一つの流れである、という理論。
クロウは己の周囲に起きる全ての出来事さえ、魔力による連動の計算によってそれを理解し得てしまう。
つまり、未来すら魔力で読めてしまうのだ。
 彼にとって偶然という言葉は無い、すべては必然だ。落としたグラスが必ず割れるように。
そんな彼が誰かと一緒に居られるはずなどない、その人間の思考、願い、性癖から死期に至るまで
勝手に理解してしまうのだから。
0114無能物書き
垢版 |
2019/02/19(火) 22:37:23.09ID:dAFl+7lX0
「案外、クロウの奴も寂しかったんとちゃうか?せやからワイらやカード達を作ったんか・・・」
ケロが寂しそうにつぶやく。長くクロウといながら、彼の孤独に気づけなかった自分を悔やむ。
「なら、今の主、さくらの望みは一体何だ!」
ユエが絞り出すように言う。
「なかよしに・・・なる、ことだ。」
がくっ、とケルベロスがずっこける。
「ええ事やないんかいっ!」
「・・・普通に過程を経てなら、と言っている、雪兎が。」
ユエが雪兎の代弁をする。魔力で他人に好意を強要するような所作など、本当の『なかよし』ではない。
何より、もしさくらがその事実を知ったら、自分の周囲にいる『なかよし』な人達が、
普通に仲良くなったのか、魔力で洗脳して仲良くなったのか分からなくなる。
 優秀な自分よりも常にさくらを優先する知世、娘以上にさくらにぞっこんな知世の母・園美、、
最初はカードを奪い合う仲だったのに、今や恋心を抱き抱かれる小狼、父や兄、クラスの友達、
そして思い人を奪われたにもかかわらず親友になった苺鈴・・・
さくらが自分の魔力の暴走を知った時、それらに対してほんとうの『なかよし』を信じられるだろうか。

「さくらの魔力を必要とする二人には悪いと思っている。だけど俺は、これ以上さくらが
魔力を強くするのを見過ごすわけにはいかないんだ。」
「解決方法は、何かあるのか?」
ユエの問いに小狼は言葉を詰まらせる。
「今は、とにかくさくらの魔力を抑えるしか方法が無い。柊沢なら何か知ってるかもしれないが、
連絡が取れない。」
「八方ふさがり、やなぁ・・・」
0115無能物書き
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2019/02/19(火) 22:42:52.20ID:dAFl+7lX0
「本人のいない所でコソコソやってたってしょうがないだろ!」
いきなりの声、振り返ると廊下側に一人の男が立っていた。
「桃矢!」
「勝手に上がらせてもらったぞ。たく、さっきから聞いてりゃ揃いもそろって・・・全く。」
言ってユエの前に歩いていく桃矢。
「さくらの魔力が大きくなって困る、だがさくらの魔力が無くても困る、お前らはそうなんだな。」
こくりと頷くケロとユエ。続いて小狼の方に向き直り、言う、厳しい目で。
「で、お前はどうしたいんだ?」
「お、俺は・・・決まってる。さくらを救いたい!」
決意の目で返す小狼、だが桃矢はあきれたようにそっぽを向き、こう続ける。
「じゃあさくらが救われれば、お前は不幸になってもいい、とでも言うのか?」
あ、という表情を一瞬見せるが、すぐにこくり、と頷く。

「だ・か・ら・ガキだっつーんだよお前は。自分に酔ってるんじゃねぇ!」
思わぬ厳しい口調に小狼も少し引く。
「お前は何か?小説や漫画の登場人物かよ。お前の人生はさくらの為に投げ捨ててもいいような
薄っぺらいもんなのか?」
「雪兎も、それはいけない、と言ってる。」
ユエがまたも雪兎の代弁をする。
「お前の将来を考えろ。お前はどんな人間になって、さくらとどう付き合っていくのか、
どんな人生を送っていくのか、そんなことを考えられねーんじゃ、誰も幸せにできねぇよ。」
0116無能物書き
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2019/02/19(火) 22:43:29.82ID:dAFl+7lX0
 こんな話をする桃矢には裏の事情があった。家で聞くさくらと父の会話、所用で小狼が
クラブに入らず、放課後を楽しめてない事、故にさくらのチア部が彼を応援できない事。
 桃矢にはすぐに予想がついた。あのガキはさくらの近くにいたくて日本にきたんじゃない、
さくらに起こる『何か』を取り除くために日本に来たことを。
いつも張り詰めて、何かに追い立てられている顔、真面目そうな性格にも関わらず
赤点を取るほど日常生活が追い詰められている事、彼に起こる全てが雄弁に語っていた、
さくらの為に、と。
そこに李小狼という一個の人間の存在は無い。さくらの為にのみ在る小説の活字のような存在。

「ま、ここまで言っても分かんないなら、お前は本当にただのガキだ。そんな奴にさくらは
任せられねーな。」
0117無能物書き
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2019/02/19(火) 22:44:31.49ID:dAFl+7lX0
 さくらはあれから小狼に会ってない。何度もスマホを手にしては、発信ボランを押せないでいた。
友枝中の運動部が好調なこともあり、チア部の活動も忙しい。そんな活動に忙殺されている間は
あの夜の事を忘れられる。
 しかし今日はそうはいかないだろう。山崎の所属するラクロス部の応援、友人の小狼が
来ないはずはない、会いたいけど会いたくない、そんな気持ちがさくらを沈ませる。
 案の定、多くの友人と共に小狼はスタジアムに姿を見せる。菜穂子や苺鈴、ステラに林杏。
知世だけはチア部の至近距離から、嬉々としてさくらにカメラを向けているが。
 さくらは小狼を見る。目が合う、どちらともなく視線を外す。もやもやする、晴れない気持ち。
小狼とのすれ違い、なんで小狼君はあんなに怒ったんだろう、なんで私は彼を怒らせたんだろう・・・

 試合が始まり、千春が目いっぱいの応援を披露する。その隣でさくらは冴えない表情で踊る。
小狼もさくらの方は見ずに、顔を伏せる。繋がらない心、通じない気持ち。

 やがて試合が終わる。小狼はスタジアムを出て、外でさくらを待つ。
が、チア部が服を着替え、ミーティングが終わって解散となった時点で知世にこう言われる。
「今日はさくらちゃんを貸してくださいな。」
語気は柔らかいが有無を言わせぬ知世の目。その目に押されて、仕方なく引き下がる小狼。
解散するさくらに知世が近づき、こう告げる。
「さくらちゃん、これから少しお時間を頂けますか?」
「え・・・な、何?」
「このあいだのマーチングのビデオ編集ができましたの、是非さくらちゃんに見てほしいですわ♪」
0118無能物書き
垢版 |
2019/02/19(火) 22:45:49.77ID:dAFl+7lX0
 大道寺家のシアタールーム、その映像を見てさくらは愕然とする。
小狼を追いかけていた映像。だが小狼は見物人を離れ、変身を解き、さくらのよく知る精霊へと変わる。
「ミラーさん・・・な、なんで?」
その後の映像も衝撃的だ。小狼が、苺鈴が、ウェイ、ステラ、林杏が走る。手に『封魔』と書かれた
お札をもって。
さくらを中心に三角形を描き、発動させる。そしてまた走る、悲壮な表情のまま、懸命に駆け、発動。
そして最後には力尽き、倒れる。やがて救急車で搬送される小狼。
「ウソ・・・そんな。」
小狼とデートし、喧嘩別れしたのはこの翌日のことだ。さくらには今、はっきりと小狼が
魔法を使うことを拒んだ意味が理解できた。理屈ではない、小狼の性格を考えるなら。

「一度、李君とじっくりお話をしたほうがいいと思いますわ。」
知世の提案にこく、と頷く。
さくらはスマホを取ると『小狼君』の画面を呼び出し、迷わず発信ボタンを押す。

「あ、もしもし、小狼君。あのね・・・」
0120無能物書き
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2019/02/22(金) 01:55:23.40ID:3aq3UWmc0
>>119
ありがとうございます。さて、書きたかった話です、少し長め。
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第11話 さくらと小狼と夏の終わりの海

 8月30日朝、さくらは鏡の前で身だしなみを整える。
今日は小狼とお出かけ。ただし遊びではない、小狼と話をするのが目的だ。
とりあえず話したいことがいっぱいある、楽しくなくてもいい、知りたい、お互いをもっと。
そのための一日、さくらが考えに考えた末のスケジュール。
 そして出発前の最後の準備、さくらは引き出しからふたつの髪飾り付きの
髪留めゴムを取り出す、片方に2コ、左右で4コの赤い玉のついたそれを頭に結ぶ。
そして鏡をたたみ、振り返ってドアへ向かう。途中、ケロに出発を告げる。
「じゃあ、いってきます。」
おお!という表情のケロを尻目にさくらが出ていく。久々に見るさくらのあの姿。
「おー、気合い入っとるなぁ。」

 小狼は待ち合わせ場所のバス停で、落ち着く無くさくらを待つ。
あの一件の後、二人で会うのは久しぶりだ。彼女を泣かせてからしばらく会わず、
ここにきて彼女からの呼び出し、絶交を宣言されるのでは、という不安も頭をよぎる。
例えそうなっても、自分がさくらを魔力の呪詛から守る決意は変わらないだろう、
しかし、やはりさくらに嫌われるのは身を切るように辛い、それも自業自得ではある。
ただ、その未来を受け入れるには、小狼はさくらを好きになりすぎてしまっていた。
今日、さくらは自分に笑顔を見せてくれるだろうか、それとも・・・

「小狼君、お待たせ。」
そのさくらを見た小狼は、鼓動の高鳴りを抑えられなかった。いつも見てたのに、いつもと違う。
以前、自分がさくらを好きになった時を思い出す、なつかしいさくらのその姿。
さくらは髪型をハーフツインにして、懐かしい赤玉の髪留めで止めていた。
そう、小学生の時に、いつもしていたあの髪型、髪飾り。
中学生になってからは見なくなったその姿、小狼が恋をしたその髪型で、笑顔を向ける。
0121無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 01:56:04.36ID:3aq3UWmc0
「ど、どう、似合うかな・・・久しぶりに使ってみたけど、やっぱ子供っぽい、かな?」
固まる小狼に、困り笑顔で問うさくら。小狼は首をぶんぶんと振り、赤面しつつ
向き直って言う。
「いい、似合ってる、本当に。」
「ホント、良かった〜」
花が咲くような笑顔を向ける。小狼が耐えきれずが視線を外した時、ちょうどバスがやって来る。
「じゃあ、行こっか。」
「え・・・どこへ?」
「行ってからのお楽しみ♪」
そう言って小狼の背中を押し、バスに押し込む。中に客はまばらで、二人は一番後ろに並んで座る。
 バスの中では、とりとめもない話をした。こないだのマーチングの、なでしこ祭の話、
今日は知世が尾行してないかとか、こないだのラクロスの試合の山崎の活躍に小躍りして喜んだ
千春の話とか、一足先に帰国した苺鈴、ステラ、林杏の話など。
そうこうしているうちに、バスが目的地に到着する、潮の匂い、どこかの海岸線だ。

 バスから降り、その海を見て既視感を感じる小狼。この海岸、その向こうの大きな宿舎、
そしてその先にある岩場、それを知っている。
「さくら、ここって・・・」
「覚えてた?そうだよ、林間学校で来たところ。」
さくらがにっこりと笑って、そして付け足す。
「私が初めて、小狼君とお話した場所だよ。」
記憶が巡る。そう、ここは確かにさくらと小狼が初めてカード以外で話した場所。
奈緒子の怪談話で寝られなくなったさくらが起き出し、外をウロついていて小狼と出会う。
そこで彼と彼の家族の話をした場所だった。
0122無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 01:57:55.09ID:3aq3UWmc0
「確かその後、イレイズ(消)のカードを封印したんだったな、あの洞窟で。」
「うん、あの時も助けられたよね、いっぱい。」
そんなことはない、と言おうとして止まる。確かにさくらはあの時、皆が消えたことと
幽霊を恐れてパニックになっていた。当時はこんな娘が継承者候補かと思ったものだが
今思えば、苦手なものや困難にも泣きながらでも立ち向かっていくさくらの強さの
一端を見た出来事だった。

「今日はね、小狼君とお話ししたくてここに来たの。」
両手を広げてそう小狼に告げる。確かにもう夏も終わりで海水浴客はおらず、
宿舎を利用する団体もない。たまに海岸線を通る車のほかはほぼ無人、ふたりきりで
話をするにはもってこいのロケーションだ。

 二人は海岸を歩いて宿舎の前、かつて話をした階段へ向かう。そこにビニールシートを
長く敷いて並んで座る。夏の終わりの日差しを木の葉が程よく遮り、風はわずかに秋の気配。
心地よい環境にしばし浸る二人。

 少しの時を置いて、さくらが話かける。
「ね、小狼君って前に私を・・・す、好きだ、って、言ってくれたよね。」
「え!?あ、ああ・・・。」
突然のヘビーな質問に赤面する両者。
「・・・それって、いつ頃から、なのかな?」
「・・・分からない。」
確かに、小狼はさくらを『この時』好きになった、という明確な自覚は無かった。
張り合ってカードを集め、授業の体育で競い合い、一緒に雪兎に魅かれて・・・あ!
0123無能物書き
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2019/02/22(金) 01:58:37.57ID:3aq3UWmc0
「多分、最初はあの時、だったと思う。」
「あの時?」
「ほら、リターン(戻)のカードを封印した時だ、月峯神社で。」
「あ、あったねー。あれ?でもあの時は小狼君、雪兎さんのことが好きなんじゃなかったっけ?」
はっ、として考え込む、そして現実問題に引き戻される小狼。かつて彼は雪兎の持つ
「月の魔力」に魅かれ、彼に恋心のような感情を抱いていた。
そしてそれは今現在、さくらが抱えている問題『魔力による他人の魅了』とほぼ同じ状態ではないか。
深刻そうな顔をして黙り込む小狼を見て、さくらが状況を動かす。

「私が小狼君を好きになったのは、小狼君が『好きだ』って言ってくれて、しばらくしてから、かな。」
「そ、そうなのか・・・」
少し残念そうな顔をする小狼、だが無理もない。さくらは雪兎に告白し、そして失恋するまで
さくらの『一番』は雪兎であり、小狼ではなかったのだから。
「私ね、最初に小狼君と合った時、イジワルされるかと思ってた。」
「え?」
「だって、いきなり『俺にカードをよこせ』だもん。」
「あ!す、すまない、あの時は。本当に悪かった、ごめん。」
律義に頭を下げる小狼にさくらが返す。
「でも、小狼君はイジワルどころか、何度も助けてくれたよね。ここでも、月峯神社でも、
ペンギン公園、図書館、東京タワー、劇の練習の時も、いっぱいいっぱい助けてくれた。」
ひと呼吸置いてさくらは続ける。
「だからね、小狼君は私よりずっと凄い人だって、立派な人だって思ってた。」
「そ、そんなことは」
「聞いて。だから私は小狼君がその、なんていうか、私のナイト様みたいに思ってた。
私より立派で、いつも私を助けてくれる、頼りになる、でも同い年の、特別な男の子。」
そんないいもんじゃない、と思いながらも、さくらの話を中断させまいと聞くに徹する。
0124無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 01:59:44.23ID:3aq3UWmc0
「だからね、『お前が好きだ』っていってくれたあの時、それが全部無くなっちゃったの。」

さくらは小狼に告白されて、それまでの世界が全然違う世界にさえ見えていた。
あの小狼が自分を好き?その意味が分からない。今までの小狼像が霞に消えていく。
「いっぱいいっぱい考えたよ、私。私の気持ち、小狼君の気持ち、考えて考えて、
でも、答えは出なかった。
だけど知世ちゃんに連絡貰って、小狼君が香港に帰るって聞いた時、やっと分かった。
私は小狼君が好きなんだ、って。」
「そ、そうか・・・」

 大事なもの、それは失って、または失いかけて初めてその大切さに気づくもの。
さくらは小狼と一緒に居たかった、だが一緒にいてはその気持ちに気づけない、
小狼の『好きだ』をきっかけに、さくらはそれを失うことの悲しさを悟った、
ああ、木ノ本さくらは李小狼を好きなんだ、と。

「私が、雪兎さんに『好きです』って言った時の事、覚えてる?」
「あ、ああ。」
さくらはかつて恋をして、告白し、失恋した。そして小狼の胸で泣いたことがあった。
「雪兎さんは、雪兎さんへの『好き』と、お父さんへの『好き』が同じものだって言ってた。
実際にそれは似てたけど、あの時はそのワケまでは分からなかった、でも今は分かる気がするの。」
「ワケ?」
うつむいていたさくらが顔を上げ、続きの言葉を絞り出す。
「だって・・・私は雪兎さんに甘えられるけど、雪兎さんは私に甘えられないもん。」
0125無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 02:00:33.03ID:3aq3UWmc0
「雪兎さんだって人間だよ、きっと怒る時だって、悲しむときだってあるよ、
でも私はそんなとき、雪兎さんを慰めてあげられない、元気づけてあげることが出来ない。
きっと雪兎さんは私の前じゃ我慢して、辛いことも悲しいことも隠して笑っちゃうよ、
私は雪兎さんにいくらでも甘えることが出来るのに。・・・これって本当、私とお父さんの
関係みたいだもん。」
 確かにそうだ。本来、人間ではない雪兎に失意の感情があるかどうかは分からない。
だがもしあるなら、それはさくらにも、そして小狼にも、癒してあげることは出来ないだろう、
そもそも雪兎がさくらに弱い所を見せるなどまず無い。そういう人だ、月城雪兎という人は。

「好き、っていう事はきっとそういう事なんだと思うの。その人が何かをしてくれる、
そして何かをしてあげられる、だから一緒にいたいと思うんだよ、きっと。」
そこまで言ってさくらは立ち上がる。そして階段をひとつ降りて、小狼の正面に立ち、
顔を近づけて小狼に告げる。

「・・・だから小狼君、私も小狼君に何かをしてあげたい、小狼君の役に立ちたい!
小狼君に助けられる『だけ』の私でいたくないの!」

 さくらは知っている、小狼がさくらに何かを隠して、一人で苦労していること。
それがさくらの為であること、そしてさくらにそれを語らないことも。

「私にできることがあったら言ってね、私も小狼君が『大好き』だから。」
胸に手を当て、小狼の目の前でさくらはそう宣言する。
「あ・・・」
頬を赤らめながらも、それ以上にさくらの『決意』を感じ、目線をそらさずさくらを見る。
彼は嬉しかった。自分の好きな人が、自分の力になりたいと言ってくれる。
それは何より力強く、そして頼りになる言葉だった。ひとりで悩まなくてもいいんだ、
小狼はその時、今までよりまた一歩、さくらとの距離が近くなった気がした。
0126無能物書き
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2019/02/22(金) 02:01:27.33ID:3aq3UWmc0
「ありがとう。」
俯いて答える小狼、しばし間を置き、顔を上げてさくらに向き直る。
「じゃあ、ひとつだけ言っておきたい。」
「うん!」
真剣な小狼の眼差しに、頼られることの嬉しさを感じてさくらは笑顔で答える。
「・・・俺は、お前が好きだ。」
「ほぇっ!?」
予想外の答えに戸惑い、赤面して困惑するさくら、構わず続ける小狼。
「聞いてくれ。その気持ちは、俺の『本当の気持ち』だ。誰にそうさせられたわけでも
強要されたわけでもない、俺自身が、さくらを好きなんだ。」
一度区切って、言葉を紡ぐ。
「今は、それだけを心に止めておいてくれれば、嬉しい。」
 さくらは知る由もない。それは小狼のさくらへの好意が、さくらの魔力に
よるものではなく、純粋に李小狼という人物の本心であるという意図を。
いつかさくらが自分の魔力の暴走に気づいた時、少なくともここに一人、純粋な
「なかよし」がいることを知ってもらう為の言葉だった。

 が、それを理解しないさくらは混乱する。いきなり面と向かってそう言われると
顔が熱をもってしょうがない。小狼君の役に立ちたいと思って言ったのに、帰ってきた返事が
告白だったのだから。
でも、嬉しい。それは事実だ。少し落ち着くとさくらは、その思いに応えたい、という
感情が沸いてくる。そうだ、私は小狼君が好きだ。そして小狼君も私を好きだと言ってくれた。
そんな思いに応える方法は・・・
0127無能物書き
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2019/02/22(金) 02:01:57.79ID:3aq3UWmc0
 さくらは自然に体を、顔を、小狼に近づける。『行為』を意識したわけではない。
ただ小狼への思いが、もっと近づきたい、近くにいたいと彼との距離を詰める。
顔と顔が10センチまで近づいた時、真っ赤になった小狼が声を出す。
「お、おい・・・」
「あ・・・」
小狼の指摘でさくらも気付く、このシュチエーションが意味することを。
ああ、こういう気持ちなんだな、好きな人同士が、キスをするというのは。
さくらはその流れに、感情に逆らわず、すっと目を閉じ、口を紡ぐ。あとは・・・

 どちらからともなく交わされる、初めてのキス。
唇が軽く触れるだけの、ささやかなものであったが、それでも最初の一歩、初めての
愛のスキンシップ。

 数分後、恥ずかしさにのたうち回るさくらと、全身真っ赤なまま像のように動かない小狼の
姿だけが木漏れ日の中にあった、知世がいたら恰好の被写体になっていただろう。

 さくらの作ってきたお弁当を二人で食べ、その後は宿舎や洞窟を散策する。
一通り回って後、海岸線を散歩しながら、さくらは小狼に問う。
「でもでも、雪兎さんもだけど、小狼君が困ってたり怒ってたりするのって、
なんか想像できないよね。」
普段からおこりんぼな印象はあるが、本気で怒りをあらわにしたり、悩みに潰されて鬱になる
イメージは無かった。
「そんなことはない!」
強い調子で小狼は返す。
「俺だって、嘆いたり、怒ったり、憂鬱になったりは・・・する。」
さくらにとってそれは意外な言葉だった。さくらくらいの年齢なら誰でも精神的にナーバスに
なることがあって当然だ。しかし李小狼という人物に、それを当てはめるのは難しかった。
0128無能物書き
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2019/02/22(金) 02:02:30.93ID:3aq3UWmc0
「覚えているか、2年前、クロウカードの最後の審判の後の、夏休み。」
「ほぇ?」
いきなりそう言われても記憶にない。カード集めがすべて終わり、普通に夏休みを
過ごしていたはずだ。そして、そこに小狼との思い出は・・・無かった。
「俺は、さくらとずっと会わなかっただろう、実はあのとき俺、すごくダメになってたんだ。」

 小狼が日本に来た目的、それはクロウ・カードの起こすこの世の災いを阻止するため。
しかし本音の部分では、自分がカードの主となって、より強い魔力を手に入れたいと思っていた。
またそうすることで、李家の次期当主としての力量を示すことになると信じていた。
 しかし現実は非情だった。審判でユエに手もなく破れ、カードの主の座を女の子に奪われた。

「でもでも、あの時は、瑞樹先生が私にもういちどチャンスをくれたから・・・」
「そう、『さくらに』チャンスをくれたんだ・・・俺じゃなかった。」
言葉に詰まるさくら。同じカード集めをしていながらも、確かに自分が優遇されていることを
今更ながらに感じ、気持ちが沈むのを自覚する。
「ユエに負け、さくらに負け、瑞樹先生やクロウ・リードに『お前じゃない』って
言われた気がした。悔しかったよ、暴れたり、物に当たったり、大声でわめいたりしてた。
とてもあの時の俺は、さくらに見せられるものじゃなかったよ。」

「そうなんだ・・・」
それだけを言う、それ以上はかける言葉が見つからなかったから。
「だけどそんな時、ウェイにこう言われたんだ。」

−おやおや、李家の跡取りともあろうお方が、人様の作ったカードで簡単に強くなる
 おつもりでしたか?−
−そんな便利なものは、女の子に、さくらさんに差し上げてしまえばよいのですよ
 男子たるもの、己の力でこそ強くあらねばなりませんー
0129無能物書き
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2019/02/22(金) 02:03:07.43ID:3aq3UWmc0
「俺は、そのウェイの言葉に救われた。」
その話を聞いたさくらは、心にじわっ、と染み渡る感情があった。
私とは違う葛藤。そう、男の子だ。男の子の世界のお話だ。小狼とウェイの男の世界、考え方。
好きになった人の、自分の知らない心の世界に感動するさくら。
「で、夏休み中ずっと、ウェイに修行をしてもらってたんだ。」
「・・・素敵な話、だね。」
「いや、恥ずかしい話だよ。」
そんな話も、今のさくらにはためらわずに話せる。これからもこういう話を聞いてほしいと思う。

「そういえばウェイさんって、小狼君と苺鈴ちゃんの格闘技の先生なんだよね、やっぱり強いの?」
その言葉を聞いた小狼がさーっ、と青い顔になる。
「強いなんてもんじゃない・・・魔力は俺のほうが強いけど、実際に戦うとなると俺や苺鈴はもちろん、
母上やユエや、カードを使ったさくらでも・・・下手すると柊沢より強いかも。」
「ほぇーっ」
いつもにこやかな顔を絶やさない初老の紳士、そんなイメージだったウェイがあのエリオル君より?
ちょっと想像できない世界である。

「でもな、立ち直ったとはいえ、やっぱりさくらにどんな顔をして会えばいいのかは
分からなかった。」
勝者と敗者、得た者と失った者、そんな二人が今まで通りの関係を続けるのは困難かもしれない。
「え?でもでも、小狼君と2学期に会った時は全然普通だったと思うけど・・・」
その言葉に、えっ!?と言う表情で引く小狼。
「お前・・・覚えてないのか?」
さくら、ではなく、お前、と言うほど動揺する。
「何が?」
「おま・・・さくらと俺は新学期の始業式、日直だったんだよ。」
「あ!そうだったそうだった、覚えてる覚えてる。それで?」
「やっぱり覚えてないのか・・・」
頭を抱える小狼。さくらは頭の上にハテナマークを浮かべている。
0130無能物書き
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2019/02/22(金) 02:04:43.37ID:3aq3UWmc0
「あの日、俺が先に教室にいてさ、さくらは歌を歌いながら入ってきたんだ。」
その能天気な歌を聞いた時、小狼は自分の不安の馬鹿馬鹿しさに気が付いた。
勝者とかカードの主とかは関係なく、彼女は普通の女の子なのだから。
「え、歌?そうなんだ・・・」
うーん、と考えるさくら。あのとき私、歌なんて歌ってたっけ、どんな歌だったかなぁ。
流行りの曲はあまり聞かなかったし・・・知世ちゃんの歌だったのかな?

 ふと小狼を見上げ、さくらの頭上に電球がぱぁっ、と輝く。
「そうだ小狼君!歌ってくれない?そのときの歌!!」
「え”!」
「前の約束!一緒に劇の練習してたとき、香港の学芸会で歌を歌ったって。
確かあの時、いつか小狼君の歌を聞かせてね、って約束したよ!」
記憶を辿る。白樺の木の上と下で、確かにそんな話をしていたのを思い出す。
「だから歌って!その時の歌。私もどんな歌を歌ってたか忘れっちゃってるから
是非歌って思い出させてほしいな。」
子供のような笑顔でおねだりするさくら。本音を言えば歌の内容はどうでもいい。
小狼の歌を初めて聞けることがさくらにとって重要だった、このチャンスは逃さない、
とばかりに小狼にかぶりつくさくら。

「い、いいんだな!」
「うん♪」
「じゃ、じゃあ歌うぞ・・・」
「わーい。」
ぱちぱちと拍手をして待つさくら。小狼はすぅっ、と息を吸い込み、右手でマイクを
持つ仕草をして歌い出す、『あの歌』を。
0131無能物書き
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2019/02/22(金) 02:05:29.52ID:3aq3UWmc0
「日直日直にっちょくちょく!夏休み〜の〜宿題も〜何とか終わったし〜♪」
歌い出してすぐ、笑顔のままさくらの目が点になる。やがて黒歴史の記憶が、さくらの意識を
真っ黒に染め上げていく。
「ほ、ほえぇぇぇ〜〜〜〜」
「日誌を付け〜て〜、お花〜変えて〜みんなの机をキレイにしよう♪日直日直わたしの・・・」
「ストップ!ストーップ!!もういい、もういいよ〜」
小狼にしがみついて歌を止めるさくら。

「ああああ・・・小狼君の初めて歌ってくれた歌が・・・」
頭を抱えて後悔するさくら。はじめての歌がよりによってコレとは。黒歴史を黒歴史で
上塗りしてしまったことを後悔する。ああ、記憶を消して違う歌を歌ってほしい・・・
「くっくっく・・・あはははははは。」
そんなさくらのリアクションと、その原因である自滅との可笑しさに思わす笑う小狼。
「笑うなんてひっどーい、もう、小狼君!」
ぷぅっ、と膨れて怒るさくら。しかし自業自得である以上それ以上強くも言えない。
「あはは・・・すまない。でもやっぱ可笑しくって、クックックッ」
ふと、さくらは膨れながら思う。こんなに屈託のない笑い顔の小狼君を見るのは初めてだ。
どこか大人びた印象のある彼の、まるで子供のような笑顔、それを見ていると黒歴史はどこへやら
こっちまで楽しくなってくるのがわかる。なんか当時の私の滑稽さが、自分にも面白おかしく
感じられてきた。
「あははははははははは・・・」
「はっはっはっはっは・・・」
海岸線で大笑いする二人、日は西に落ちていき、海と空と砂浜をを、紅に染め上げていく。
0132無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 02:06:03.88ID:3aq3UWmc0
「そろそろ帰ろうか。」
「うん。」
自然に手を出す小狼、自然にその手を掴むさくら。ふたりは気持ちも一つに砂浜から
道路に上がり、そのままバス停に向かう。
と、さくらの提案。
「ねぇ、バス停まで一緒に歌お。」
「いいけど、・・・何の歌を?」
「さっきの歌。」
言ってにっこりと笑うさくら。海の波は夕日を反射し、二人をまばゆく、優しく包む。
潮騒も、夕日が落とす二人の影も、すべてがこの二人を見守っている。

 手を振って、大仰に行進しながら高らかに歌う二人。
「「日直日直にっちょくちょく!夏休み〜の〜宿題も〜何とか終わったし〜♪」」
通りの少ない海岸線道路、その先、ずっと先まで、二人は歩いていく、未来へ。

「日誌を付け〜て〜、お花〜変えて〜♪・・・ん、どうした?」
突然歌を止めるさくら。爽やかだった顔がみるみるギャグ的に青くなっていく。
「ほ、ほえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!夏休みの宿題まだ残ってたあぁぁぁっ!!!」
「何だって!?もう明後日は始業式だぞ!!」
「お願い!小狼君、手伝って〜!」
「宿題は自分の力でやらなきゃダメだろう!」
「でもでも、私ひとりじゃとても無理〜」

 バス亭にダッシュする二人。日は暮れ、夜になり、

 そして、秋が来る−
0133CC名無したん
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2019/02/22(金) 08:36:22.43ID:wWbAWaIN0
「お父さんへの『好き』と同じ」ってそういうことかもしれないね
はじめてストンと落ちる解釈に出会ったよ
小狼の空白の夏休みもうまく使えてる
乙!
0134CC名無したん
垢版 |
2019/02/22(金) 13:40:43.06ID:4HqvqGdR0
うわあああすごくいい話だ
ここの住民しか読めないのもったいないくらいだ
0135CC名無したん
垢版 |
2019/02/23(土) 07:24:45.25ID:bFcTc1iH0
シーンまで想像できて、こっちが正史だと記憶がすり替わりそう
0136無能物書き
垢版 |
2019/02/25(月) 00:39:15.82ID:MNoq0k+G0
ちょっと息切れ気味なんで気分転換。
http://imepic.jp/20190225/021740(下手絵注意)

・・・話考えるより疲れたw
0137無能物書き
垢版 |
2019/02/25(月) 00:47:06.82ID:MNoq0k+G0
感想忘れてどーするw
>>133
私なりの見解ですけど、雪兎に対する「好き」は、アイドルや王子様といった
女の子の「憧れ」を具現化したものだと思ってます。気に入ってもらえて何より。
>>134
ありがとうございます。世に出るとすさまじい勢いで叩かれるのは目に見えてますので
ここでひっそりとやっていきたいと思ってます、こういう時、過疎板は便利ですw
>>135
私自身も「アニメ・クリアカード編」の消化不良にアレ?と思ったクチですから。
少しでもそれを補完できるストーリーを目指してはいます。おこがましいですが・・・
0138CC名無したん
垢版 |
2019/02/25(月) 08:59:54.73ID:8C4uf4hZ0
>>136
全然上手いじゃんか!
続き楽しみにしてるけどマイペースでええでー
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