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【妄想を】CCさくらSSスレ【垂れ流せ】

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0001CC名無したん
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2018/11/06(火) 20:56:10.87ID:dLExxYrD0
カードキャプターさくらのSSを投稿するスレです。
書式、構成等の上手下手は問いません、好き勝手に書きなぐりましょうw
ただし来た人が引くようなエログロは勘弁な。
参考スレ
【禁断】小狼×知世をひっそり語るスレ【村八分】
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/sakura/1523196233/l50
0227無能物書き
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2019/03/24(日) 01:05:14.59ID:5OxW+Yck0
 魔力の有無を除けば、私たち結構似てるのかな、という話になる。
「そういえば、本物の詩之本さんもさくらに似てる、って言ってたわよね、あの人。」
「うん、おっとりな秋穂ちゃんからは想像できないけど・・・」
「もしそうなったら、今度は3人で競争かしら?」
あのお嬢様気質な秋穂が、苺鈴もかくやな態度でさくらたちの勝負に参入してくる姿を
想像して、二人で笑う。
「案外、どおりゃあー!とか言って月面宙返り決めたりして。」
「ぷくくくっ・・・ちょっと苺鈴ちゃんやめてよ、想像しちゃった・・・」
それはそれで楽しそうだ、とさくらは思う。秋穂に宿ったアリスは確かにさくらに
似ていたところがあったが、どちらかというとふんわりな部分が、いや今は苺鈴と一緒だから
ぽややんな部分が似ていたから、そういう部分も似ていたらさぞ楽しいだろう。

「その為にも、彼女を助けないとね。」
「うん。それで、できればアリスちゃんも。」
と、苺鈴がその足を止める、その先には下に降りる階段。
「終点みたいね。」
「うん、先の道が無い・・・海渡さんもここから降りたのかな?」
「多分ね。しっかしさくらって、おばあさんになっても美人よね〜、羨ましい。」
「ほぇ?」
ふと自分の頬に手を当てるさくら。そのほっぺたも手の平もしわしわなのに今更驚く。
「ほぇえぇぇっ!私、おばあさんになってる!」
「気付いてなかったの?」
「でもでも、苺鈴ちゃんはそのまんまだし・・・」
驚くさくらに、少し考えて答える苺鈴。
「あー、多分『来た方法』が違うからかもね。」
0228無能物書き
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2019/03/24(日) 01:06:26.77ID:5OxW+Yck0
「そうだったの・・・杖が。」
「さっきも試したんだけど、私は階段の下には降りられないみたい。上から見ることは出来るし
腕くらいは掴めるみたいだから、帰りたいときは腕を上に上げなさい、引っ張ってあげるから。」
「うん、じゃあ行ってくる!」
「あ、ちょい待って。一言いっとくけど・・・」
そう言って階段を降りようとするさくらを止める。

「その年で『ほぇー』は止めときなさい、似合わないから。」
「・・・ぷっ!あははははは・・・」
大笑いする二人。さくらは思う、苺鈴ちゃんが追いかけてきてくれて、ホントに良かった。

 さくらは階段を降りる。多分この先は目的の2072年、『時計の国のアリス』が完成した年。
秋穂とアリスの魂を開放する、その方法を探るためにここに来た。階段の最下段に立ち、
後ろの苺鈴を振り向いて手を上げる。笑顔で手を振り返す苺鈴。
 そしてさくらは、その階段の下に身を踊らせる。

−そこは、見たことのない風景。山岳地帯にある湖と、その脇に建つ古風な小屋−

 遠くには雪山、空気は澄み、冷たい。人の気配のない豊かな自然の中に、ぽつんと小屋がある。
さくらはその小屋の前に立つ。ここに来たということは、何か意味があるということ。
こんこん、とドアをノックするが、返事は無い。ノブに手をかけ回す、カギはかかっていない。
きぃ、という音を立ててドアを開ける。
0229無能物書き
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2019/03/24(日) 01:06:58.34ID:5OxW+Yck0
 殺風景な小屋の中。その隅、窓際に机と安楽椅子がある、そこに座っているのは一人の老人。
さくらを見て、言う。
「・・・来ましたか、木之本さくらさん。」
痩せ型で白髪、精悍な表情が、かつてハンサムだったことを思わせる男性。
「私を、ご存知なんですか?」
さくらが返す。今は自分もお婆さんだ、その上で自分を知ってる人って?

「あなたのことはよく知っていますよ、ふたつの意味で。」
「ふたつ・・・?」
「ひとつは、この世界を崩壊に導いた魅惑の魔女として。」
「え、ええええっ!?」
なにかとんでもない評価を受けて驚くさくら。確かに見かけはお婆さんだが、心はいまだ
十代なのに魅惑とか魔女とか・・・あ!
 さくらは思い出す。自分の魔力が周囲に与えていた影響を。そしてそれが高校生になる頃には
世界を歪めてしまうまでになっていたことを。

「心当たりがあるようですね。」
安楽椅子を回し、さくらに正対して老人は言う。
「世界って・・・崩壊したんですか?」
さくらはこの時代はここしか知らない、今の世界がどうなっているのかは知る由もない。
「人類はね、貴方以外を愛せなくなったんですよ。」
「そんな・・・」
「もう40年くらいになりますかね、この世界に「赤ちゃん」がいなくなってしまったのは。」
老人は語る。さくらの発する魔力は世界中に生きわたり、世界人類すべてがさくらを愛するように
なってしまった。男も女も、若者も老人も子供も、その子供が大人になってからも。
「誰も結婚しない、誰も子供を産まない、ただただ貴方の虜になって生きるだけの存在。
社会は機能しなくなりました。そして、繁殖を忘れた人類は、あと70年もすれば滅ぶでしょう。」
0230無能物書き
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2019/03/24(日) 01:07:30.02ID:5OxW+Yck0
 さくらは愕然とする。前に降りた時代ですら小狼を失い、身の回りの人間関係は壊れていた。
千春と山崎はただのクラスメイトになり、利佳はかつての好きな人を忘れたかのように
さくらに好意と恋の目を向けていた。
それが今では、人類全てが?
 一瞬気落ちしかけて、ふるふると首を振る。いけない、めげてちゃ駄目だ。
ついさっき苺鈴ちゃんに言ったばかりだ、こんな結末を変えるんだ、私が。

「そして、もうひとつの意味で、私はあなたを知っています。」
老人が続ける、さくらから視線を外さず、かつ、さくらの魔力に魅了されていない目で。
「私と一緒に、時を超えてここに来た人間として、です。」
「ええっ!そ、それじゃあ・・・あなたは」
老人は頷き、さくらを見据えて言う。
「ええ、ユナ・D・海渡です。」

 彼は二年前にここに来て、この時代の自分と融合し記憶を共有する。そしてさくらが来るまで
彼はここで待っていた、やるべきことを進めながら。
彼は机の上にある本をさくらに見せる。見覚えのある表紙、忘れられない色、作り、サイズ、厚さ
そして、その本のタイトル。
「時計の国のアリス!海渡さん見つけたんだ!!」
 この本の秘密を解き、秋穂の魂を救う。その為に二人は時を超え、この時代にまでやってきた。
「見つけたのではありませんよ。」
「・・・え?」
その次の言葉が、この本の謎を雄弁に語る。
「この本は、私が書いたんです。」
0231無能物書き
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2019/03/24(日) 01:08:02.47ID:5OxW+Yck0
「先ほども言いましたが、この世界はあなたへの愛で壊れてしまっています。」
海渡は語る。彼の目的は変わらない、秋穂を救うこと。
しかしその対象は全く違うものになっていた。
「私は、秋穂さんが好きでした。いえ、好きになろうとしていた、というべきでしょうか。」
彼は秋穂が7歳の時、詩之本家に行き、秋穂に出会った。自分が使うべき『魔法具』として。
それは言い換えれば、彼女とこれから長い時間を一緒に過ごすということ。
「気持ちの良い娘でした。私は昔、人と違う力を持つゆえに暗く歪んでいたんです。
でも、彼女はそれを自然に癒してくれた。その明るさで、笑顔で。」

「いつしか私は、秋穂さんを好きになってしまっていました。おかしいですよね、まだ彼女は
10歳にもなっていなかったのに・・・」
 さくらはふるふると首を振る。知っている、『好き』に年齢は関係ない。かつてのさくらと雪兎のように
先生と生徒で想い想われる仲であったクラスメートのように。
「そして、あの事件が起きました。秋穂さんが本に魂を奪われる事件が。」
ひとつ区切って、意を決して続ける。
「あれは、『今の』私の仕業なんです。」

 この時代に来て、さくらの魔力で壊れたこの世界で、海渡は事件の真相を知る。
あの本は人の魂を食らう本ではない、理不尽な魔力から人の魂を守るシェルターであることを。
「私は、耐えられなかった。秋穂さんが、貴方の虜になることが・・・だからこの本を作ったんです。
時を超えて、貴方がその魔力を撒き散らす前に、秋穂さんを救うために。」
「私の・・・魔力から守るために?」
「ええ、私は秋穂さんを欲した。秋穂さんの心が貴方に奪われるのを止めたかった。
いいえ、本当は私が秋穂さんの『いちばん』になりたかったんです。」
 だから彼はこの本を作り、過去に送る。さくらが魔法に目覚めるその前の時代に。
秋穂やさくらが9歳の時代、さくらがケロと出会い、クロウ・カード集めを始めるその時代に。
0232無能物書き
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2019/03/24(日) 01:08:35.28ID:5OxW+Yck0
「この本の中には世界があります、私が魔法で作った世界が。閉じ込められた秋穂さんが
寂しくないように・・・いつか私の魂と出会えるその時まで。」
「じゃあ・・・アリスさんは?」
「彼女も、私が作った魂です。秋穂さんとの思い出と、私の彼女に対する想いを込めて。」
さくらは納得する。知り会った秋穂は、その心の中にあるアリスの魂は、常に海渡に恋していた。
それは海渡が秋穂を想う恋心そのままだったのだ。
 本の中に世界がある以上、その中に登場人物は必要だ。アリスを作り、モモを作って
秋穂がその本に入るまでその本を生かせていた。

「この本の中には、もうすでに秋穂さんが入っています、アリスもね。」
さくらから視線を外し、外の窓を見て、こう呟く。
「あとは、私が死ぬだけです。そして、私の魂がその本に入ることが出来れば、再び出会えます、彼女と。」
「・・・そんな!」
さくらは叫ぶ。そんな恋なんて可哀想だ、終わった世界で本の中に閉じこもって一緒になっても
そんなのきっと幸せじゃない。

「海渡さん!」
さくらは海渡に詰め寄り、胸に手を当てて宣言する。
「私、もう決めたんです。世界をこんな風にしないようにやり直すって!」
その言葉にうつろに振り向き、さくらを見て自虐的に笑う。
「無理ですよ、未来を見た以上、その運命は変えられない。もう夢の杖は失われたんですよ。
私たちはもう、あの時代には帰れないんです。」
知っている、夢の杖がもう砕け散って、フューチャーのカードが発動を終えていることを。
だけどさくらは諦めない。自分一人の力じゃどうにもできないことも、一緒にやってくれる人がいることを。
0233無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:09:07.18ID:5OxW+Yck0
「海渡さん、秋穂ちゃんともう一度会いたくないですか?こんな世界じゃなく、あの頃に戻って。」
さくらの真剣な提案に、海渡の瞳にわずかに光が灯る。
「もし、もしも海渡さんがそれを望むなら・・・手をあげて下さい、力いっぱい。」
 さくらは両手を天高く突き上げる。
その姿を見た海渡は、そのさくらの意思と決意を感じ取り、立ち上がる。僅かな奇跡を信じさせる
そのさくらの瞳を見て。
「さぁ!」
さくらが再度即する。立ち上がった海渡は、もうすっかり年老いたその腕を、高々と天に掲げる。
夢見た、もうかなわないと思っていた夢を、今だけは信じて!

 さくらの手が、海渡の手が、ぱしっ!と捕まれる。その上から現れた手に。
「な・・・」
「海渡さん、その手につかまって!」
捕まれていないほうの手で、その手を掴むさくら。海渡もそれにならい、その手を掴む。

「いいよ、苺鈴ちゃん!」
0236無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:29:56.23ID:xBsJFseB0
>>234
胸熱展開は作者の力量が問われますよね・・・もっとセンス欲しい
>>235
ここからクライマックス突入です、願わくば最後までお付き合い願います。

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第22話 おかえり、さくら

「ぜはーっ、ぜはーっ・・・もう!二人まとめて、引っ張り上げさせないでよ!」
階段の一番下でへたりこみながら抗議する苺鈴。
その際にさくらと海渡がいる。さくらは申し訳なさそうに、海渡は驚きの表情で。
「あはは、ごめーん。」
手を合わせて謝るさくら。そんな二人に海渡が呆然として、問う。
「李苺鈴さん・・・あなたが何故、どうやって?」
息を切らしながら、その質問に答える。
「そうね・・・頑張って来た、とでも言っとくわ。」

 ふぅ、と息を正し、立ち上がって二人を見て言う。
「それで、詩之本さんを助ける方法は見つかったの?」
「え!?あー、何というか、その・・・」
言葉を濁すさくら、海渡が現状を代返する。
「こちらが聞きたいくらいですよ。」
その返事にがくっ、と体を傾ける苺鈴。
「何しに行ってたのよ!」
「あはは、でもなんか、何とかなるような気がするの。」
ふっ、と笑ってさくらを見る苺鈴。相変わらずこの娘は・・・おばあさんだけど。
0237無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:30:33.38ID:xBsJFseB0
「ま、いいわ。それじゃ帰るわよ、二人とも。」
行って階段を上がり、時の回廊に戻る苺鈴たち3人。
「でも、どうやって?」
時の回廊は、さくら達が歩くたび、歩いた後が消えて行っていた。進むことは出来ても
後戻りはできない道。現に階段の上は、もう踊り場くらいのスペースしか残っていない。
「何が?」
理解できないといった表情で苺鈴が返す。
「道、あるじゃない。あれを辿っていけば帰れるでしょ?」
苺鈴が示した先、さくらと海渡には空間しか見えない。が、苺鈴には何かが見えているようだ。
「私たちには見えないんですよ。多分、夢の杖が壊れて、フューチャーのカードが
発動していないから、過去と私たちの『縁』が切れているのでしょう。」

 ふむ、という顔で考える苺鈴。縁、ねぇ・・・
魔術の家に生まれた苺鈴にとって、その言葉は馴染み深い。魔術を使う際も、人間構成も。
「んじゃ、手をつないでたら大丈夫なんじゃない?」
そう提案する苺鈴。彼女は帰れるが、さくらと海渡は帰れない。だったら3人が手をつないでいたら
帰れる苺鈴の『縁』に引っ張られて二人も帰れるかもしれない。
 両手をさくらと海渡に差し出す苺鈴。さくらはすっとその手を取る。海渡は少しためらいながら
その手にそっと触れる。それをぐっ、と握り返す苺鈴。

「じゃ、行くわよ!」
両手で二人を引っ張ってダッシュする苺鈴。さくらと海渡は足元のない空間に引っ張り込まれる。が、
そこには床が確かにあった。白と黒のタイルで構成された時の回廊が。
あるいは、杖が壊れたことで『もう戻れない』という思い込みが、二人にこの回廊を見せないで
いたのかも知れない。
0238無能物書き
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2019/03/25(月) 23:31:31.55ID:xBsJFseB0
 3人は走る、過去に向かって、戻るべき時に向かって。
彼らが通り過ぎた後、その回廊はまるで積み木のように、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
まるでもう役目を終えたかのように。
 過去に走るたびに、さくらと海渡は若返っていく。50代、40代、30代・・・そして20代。
そして最初にさくらが下りた階段の際を通過する。小狼が処刑されたあの時代。
あんな未来にはさせない、絶対に!
さくらは通り過ぎながら、決意を新たにする。

 やがて苺鈴が声を上げる。時の回廊がそこで途切れている。その先に向かって掛け、飛ぶ。
「いくわよっ!」
苺鈴が、3人が飛ぶ。何もない空間に向かって、未来を変える決意、その先に向かって。
回廊の先、その下に落ちる3人。足元の霧を突き破り、抜ける。

−そこにあったのは、翼−

 3人は落下する。その『翼』の上に。
「ぐはあぁぁぁぁっっ!」
翼と、その翼の持ち主がクッションになって、3人は無事軟着陸する。
代わりに3人に下敷きになったその翼の持ち主が、いきなり潰されたことによる悲鳴を上げる。
さくらは周囲を見渡す。そこにあったのは懐かしい顔、顔、顔。

「さくら!苺鈴!」
「さくら!」
「さくらちゃん、苺鈴ちゃん!」
「主(あるじ)!」
「木之本さん、李さん!」
0239無能物書き
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2019/03/25(月) 23:31:59.91ID:xBsJFseB0
 小狼、桃矢、知世、ユエ、観月、エリオル、なくる、スピネル、そしてモモ。
そしてこの場所、あの懐かしい詩之本邸、さくらたちが未来に旅立った、あの部屋。
・・・あれ、誰か足りない?
「ぐ、ぐおぉぉ・・・早よどかんかいっ・・・」
彼らの下敷きになっているのは、本来の獣の姿に戻っているケルベロス。
「こ、こらエリオル、わいに『ここに居(お)れ』つったのは、このためかい・・・」
3人に下敷きになったまま抗議の声を上げるケロ。エリオルはまぁまぁ、という表情で
片手でケロをたしなめる。もう片手で操っていたカード『ミラーに映ったリターン>フューチャー』を
停止させる。

 桃矢も、小狼も、さくら達が無事帰ってきたことを確認し、発動させていたカードを停止させる。
よかった、みんな無事に帰ってこられた。安堵する一同。
と、そんな中さくらは、小狼を正面に見据え、目を潤ませる。
「さくら・・・?」
小狼の問いにさくらは答えない。代わりにその表情はどんどん崩れていく。
感極まってしゃくり上げ、涙をとめどなく落とす、その顔をくしゃくしゃに歪めて。

 それを見て、苺鈴がぽんっ、とさくらの背中を押す。その瞬間に決壊するさくらの感情。
「うわあぁぁぁぁぁん!」
泣き叫び、小狼に駆け寄り、抱き着いて泣く、泣き叫び、愛しい人の名前を呼ぶ。
「小狼君!小狼君だよね、小狼君だ・・・うわあぁぁぁぁん!」
「ど、どうした!?」
小狼の胸にすがり付き、声をあげて泣く。さくらが今の今まで失っていたその顔、体、
そして温もり。
 頭の中でさえほぼ丸一日、彼の死後の世界を過ごしてきた。ましてその体は、小狼がいない世界を
50年以上経験していたのだ。
 愛しい人を、心が、そして体全体が求める、感動する、そこにいる喜びをかみしめる。
小狼君。その言葉が、その存在がさくらの世界を変える。なんて素敵な世界なんだろう、
彼がいる世界が、生きていることが、彼の温度を感じることが、そのすべてがさくらを幸せに浸し、泣かせる。
0240無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:32:27.46ID:xBsJFseB0
「おかえり、さくら。」
小狼はそっとさくらの頭を撫でる。彼にはさくらがどんな経験をしてきたかは分からない。
だけど、さくらのその感極まった態度が、未来の旅の過酷さを物語っていた。
「大丈夫だ、俺はずっとここにいるよ、さくらのそばに。」
その一言に、小狼の胸に顔をうずめながら、うんうんと頷くさくら。
「約束だよ・・・本当に、ずっといてね。いなくなったり・・・しないでね。」
ああ、と頷く小狼。

 そんな光景を見て、皆、優しい笑顔を向ける。まぁ知世は恍惚の表情でビデオを向けてるし
桃矢は怒りの血管を頭に浮かべ、ちっ、という表情を隠さないが。
 それを少し距離を置いて海渡は見ていた。二人の姿を自分と秋穂に重ねる。
「羨ましいです・・・」
そう呟く海渡。彼らは無事再会を果たしたが、自分たちは未だ引き裂かれたままだから。

 さくらが、海渡が、真相を皆に語る。さくらの魔力によって壊れた未来。
『時計の国のアリス』が、秋穂を閉じ込めたのではなく、さくらの魔力から逃れるため
海渡がその魔力を惜しみなく注ぎ、生み出した本であること。
 ソファーに横たわる秋穂の体を見て、海渡はこう付け足す。
「結局、私のしたことはみんな裏目に出てしまいました。秋穂さんを幸せにしたいがために
したことが、結局彼女を不幸にしてしまいました・・・」
そんな海渡に、観月はこう語りかける。
「先を読みすぎなんじゃないかしら?」
その言葉に、え?という顔で振り向く海渡。
「今だけ幸せでもいいじゃない。とりあえず秋穂ちゃんの魂を元に戻しましょ。」
0241無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:33:01.88ID:xBsJFseB0
「しかし、いったいどうやって?」
その海渡の言葉に、さくらに問う苺鈴。
「さくら、なんとかなるって言ってたわよね。どうするつもり?」
「うん・・・海渡さん言ってたよね。この本の中には『世界』があるって。」
「え、ええ。」
「じゃあ、私たちがその世界に入って、秋穂ちゃんやアリスちゃんを連れ出せばいいんじゃないかな?」
出来るかどうかわからないけど、という表情で頬をかくさくら。
 その提案に全員が息をのむ。もともとこの本は『人の魂を閉じ込める』性質のある本だ。
そんな中に自分から入っていくなど、下手をすれば自殺行為だ。
「ダメだ、危険すぎる!」
そういう小狼の手をそっと取り、自分の胸にあてがうさくら。
「小狼君、一緒に行ってくれるよね。」
「え・・・」
「さっき言ってくれたよね、ずっとそばにいてくれる、って。」
「あ、ああ。」
その返事に満面の笑顔になるさくら。そして、無敵の呪文。

「だったら、絶対大丈夫だよ。小狼君がいっしょだもん。」

「しょうがないわね、ここは私が一肌脱ぎますかね〜」
そう言ったのはモモだ。彼女はもともとこの『時計の国のアリス』の登場人物。
そして有名作品『不思議の国のアリス』における案内人のウサギにあたるキャラクター。
「私が案内してあげるわ。ただし、その世界に入る方法はそっちで考えて。」
入る方法、そんなものがあればとっくに海渡が秋穂の魂を救っていただろう。
秋穂に取り付いていたアリスの魂を返す時は『スピリット』のカードを使ったが
夢の杖を失った今、その方法は使えない。
0242無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:33:28.30ID:xBsJFseB0
「その本の入り口は、太陽の魔力と月の魔力で封印されています。入るためには、
その両方の魔力で封印を解く必要があります。」
海渡が語る。小狼の魔力は月のそれだが、さくらの魔力は太陽ではなく星の魔力だ。
しかもさくらはともかく、小狼の魔力では、とても晩年の熟成された海渡の魔力による封印を
破ることは出来ないだろう、難題に沈む一同。

「この世に偶然は無い、全ては必然、だったな、柊沢。」
口を開いたのは桃矢だ。全員が思わぬ発言に注目する。
桃矢は、やれやれ出来すぎだ、という表情で頭をかいて、続ける。
「明日、満月だぞ。」
全員があっ、という顔をする。確かに明日は『中秋の名月』。月の魔力が飛躍的に伸びる特異日。
かつてのユエの『最後の審判』の日がそうであったように。
ひとつの問題、小狼の魔力不足がまず解決する。

「いけるで!満月の日っちゅーんは、日没の直前に月が昇る。月と太陽が両方出てる時やったら
両方の魔力を最大に持っていけるで!」
ケロが言う。その瞬間ならあるいは、さくらと小狼で本の封印を破ることも可能かもしれない。
残る問題は・・・ひとつ。

「しかし、主の魔力はどうする。星の魔力では太陽の魔力の代わりにはならないぞ!」
ユエが最後の問題提起をする。それに対してケロはふふん、と言った表情で返す。
「ワイに任せや。ユエ、忘れたワケやないやろ、あのエリオルの最後の試練を。」
あ、という表情の後、アゴに手を当てて頷くユエ。
「なるほど・・・」
0243無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:33:55.68ID:xBsJFseB0
 そして翌日の午後、皆は再び詩之本邸に集結する。さくらは懐かしい星のペンダント『星の杖』を
胸に下げている。腰には昨日返してもらった『さくらカード』が入ったホルスター。
そしてその自然に横に立つ小狼。二人は顔を見合わせ、柔らかに笑う。
 海渡は『時計の国のアリス』を手に、申し訳なさそうに言う。
「本当は、私が行くべきだったのですが、未来の私の魔力で作った本に、今の私では入れません。
未来の私が書いた本の内容を、過去の私が訂正することは出来ないように。」
そんな海渡に、さくらはこう返す。
「大丈夫、海渡さんは秋穂ちゃんのそばにいてあげてください。秋穂ちゃんが目を覚ました時
いちばん近くにいてあげてほしいんです。」
「・・・分かりました。」

「しっかし、知世はどうしたんや?」
昨日のメンツの中で、知世だけがまだ来ていない。と、噂をすれば何とやら、大道寺家の
キャンピングカーが詩之本家の敷地に入ってくる。
その車を見た時、さくらには次の展開が予想できた。
「お待たせしました〜、さぁさくらちゃん、李君、特性コスチュームに着替えて下さいな〜♪」
・・・やっぱり。

 最初に連行されたのは小狼の方だった。出てきた彼が身にまとっていたのは、かつて彼が
纏っていた式服風のグリーンのデザインに、西洋の燕尾服をミックスしたような衣裳。
東洋の魔術師風の印象と西洋紳士のイメージの両方を併せ持つ、凛とした伊達達ち。
 その姿にさくらの目がキラキラと輝く。いtもの小狼のカッコよさが2倍くらい増して見える。
「うわぁ、カッコいいっ!小狼君似合うよ〜。」
「さて、次はさくらちゃんですわ。」
堪能する暇もなく車内に連行されるさくら。ドアを閉め密室になると、知世はさくらに向き直り
改まった態度を取る。
0244無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:34:19.97ID:xBsJFseB0
「知世ちゃん?」
おかしい。いつもの知世なら嬉々としてさくらの身だしなみを始めるのだけど。
 知世は肩に下げたポーチを開け、ひとつの小箱を取り出す。
さくらの目を見つめ、優しく語り駆ける。
「さくらちゃん、昨日おっしゃってましたよね。さくらちゃんの魔力が、周りの人を
好きにしてしまう、って。」
「あ、う、うん。」
さくらはそれが良くないことを知っていた。その先にあるのは破滅だったから。
「これを開けてみてくださいな。」
さくらに箱を渡す。どこかで見た箱、どこだったかな・・・思い出せないまま箱を開ける。

「あ・・・」
そこにあったのは、ウサギの形をした消しゴム。
「これ、覚えてる。知世ちゃんに最初にあげた消しゴムだよね。」
「はい。」
柔らかい笑顔で答え、続ける知世。
「私がさくらちゃんを好きになったキッカケですわ。」
「そうなんだ・・・あ!」
一瞬遅れて、さくらは知世の言いたいことを理解する。知世がさくらを好きなのは
決して魔力のせいなんかじゃない、と言うことを。
さくらと知世が、本当の親友であるという証。自分の魔力による洗脳に嫌悪感を感じていた
さくらにとって、その事実は救いだった。
「ありがとう、知世ちゃん・・・」

 昨日さくらが見てきた『未来』を語る時、さくらは本当に辛そうだった。
そんなさくらの為に、知世は本来なら生涯胸の内にしまっておこうと思っていた秘密を
さくらに打ち明ける。それでさくらの心が少しでも軽くなるなら、と。
0245無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:34:49.11ID:xBsJFseB0
「さぁ、それではお着換えタイムですわ〜♪」
「ありゃ!」
がっくりとコケるさくら。やっぱりソレは外さないのね・・・

「「おおーっ!」」
さくらの衣裳のお疲労目に、周囲が一斉に声を上げる。白を基調にした半袖のドレス。
胴の部分に金色のラインが入ったコルセットが巻かれ、胸には青紫のアクセントリボン。
スカートには骨組みに金のスリットが入っており、下に流れるように羽根が重なっている。
背中にあるのは、クリアカードでの空を飛ぶ『フライト(飛翔)』のような蝶の羽根。
頭の上には薄い王冠、白い手袋から肩までの間に限定された肌色がなんとも色っぽい。
小狼にの前に立つさくら。どうかな?とは問わない。彼のその表情が明々白々な返事だ。

 二人は旅立つ、これから、危険な旅に。魂を閉じ込める呪われた本の中に。
それでも、この二人の表情と、その衣裳を見ているとそんな不安は微塵も感じない。
「なーんか、これから新婚旅行にでも行くみたいねぇ〜」
 苺鈴の的を得た感想がすべてを物語っている。この先にあるのは、きっとハッピーエンドだけだ。
皆がそう信じていた。

 −そして、陽が傾き、月が出る−
0246CC名無したん
垢版 |
2019/03/25(月) 23:45:50.39ID:mlC5RUXR0
うああ…。(°´Д⊂ヽ
おまえ天才やろ…
0247CC名無したん
垢版 |
2019/03/26(火) 14:38:08.27ID:n6DsqNny0
今日暑いなぁ
目から汗がでるぜ・・・
0248CC名無したん
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2019/03/26(火) 17:01:35.24ID:NVEVVPnv0
ちゃんとさくらちゃんの声で聞こえる
0249無能物書き
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2019/03/28(木) 01:25:46.67ID:jtk3GfxC0
>>246-248
感想ありがとうございます。さて、11話に続いて書きたかった話、例によって長めです。
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第23話 さくらと小狼の円舞曲(ワルツ)

 紅に染まる詩之本家の庭。魔法陣と、その上には1冊の本。その『時計の国のアリス』
を中心に遠巻きに輪を作る、エリオル、観月、スピネル、なくる、桃矢、苺鈴、知世、
そして海渡とその脇のアウトドアチェアーにもたれて眠る秋穂。
 本の西側、夕焼けの中心に赤く火照る太陽を背中に、木之本さくらが立つ。
本の東側、昇ったばかりの赤紫色の満月を背に、李小狼が立つ。

「ほな、始めるで。さくら!」
「うん!」
ケルベロスに促され、さくらは胸のペンダントを外し、手に取る。『星の杖』を。
「レリーズ(封印解除)!」
いつ以来になるか、さくらが『さくらカード』を使うための杖の封印が解除される。
 ケルベロスとユエは顔を見合わせ、頷く。
「よっしゃ、いこか!」
「ああ。」
 そう言うとふたりの守護者は光り輝き、その身を霊体に変え、星の杖に吸い込まれる。
すると、星の杖が二人の力を宿し、大きく、荘厳なデザインに成長する。
 かつてのエリオルの試練、『ライト』と『ダーク』をさくらカードに変える時に
ケロとユエが行った方法。太陽と月の魔力を飛躍的に伸ばす力を杖に与える。
その代償は、目的が果たせなければ永久に杖の中に封じられる、というリスク。

 『時計の国のアリス』の中に入るには、月と太陽の魔力が必要となる。
しかしさくらの力は星の魔力。そこでケルベロスが杖の中に入り、さくらの力を
太陽の魔力に変換する役目を担う。同時にさくらに比して魔力量の劣る小狼の
不足分を補うためにユエも杖と同化したのだ。
0250無能物書き
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2019/03/28(木) 01:26:20.38ID:jtk3GfxC0
「ケロちゃんユエさん、待ってて。きっと、きっと秋穂ちゃんを助けて、二人を元に戻すから。」
さくらは杖を握りしめ、危険を顧みずにさくらに協力してくれた二人に誓う。
「大丈夫だ。さくらなら・・・」
そう言いかけて言葉を止める、そして言い直す小狼。
「俺たちなら、大丈夫だ。」
「うん!」
 この半年ほどで二人が学んだこと。それは一人よりふたりの力。助け合うこと、信頼し合うこと。
認め合い、力を合わせる。悩みも、思いも、ふたりで分かつ。その想いの頼もしさ。
 思いがすれ違う時、ふたりは自分の思いだけを抱え、悩み、落ち込んだ。
海岸でそれを話した。想い想われることの大切さ、対等の関係で助け合うことの喜び。
未来で小狼を失う経験をした。その彼がいまここにいることの頼もしさ、頼っていい存在の有難さ。

 さくらは星の杖を本の上にかざす。その杖を小狼も握る。そして・・・
「あ、ちょっと待って〜」
止めたのはモモだ。本の際にいた彼女はぴょんぴょんと跳ね、ビデオを構える知世のもとへ。
「それ、貸してくれない?」
「えっと・・・ビデオですか、どうしますの?」
言いながらもモモにビデオカメラを渡す知世。
「これで中から中継してあげるわ、お楽しみに〜。」
ふふん、と笑ってモモが本の際に戻る。その背に知世が声をかける。
「いい絵、お願いしますね。」

「さ、いいわよ。」
モモのその言葉に、さくらと小狼が周りの皆を見回し、言う。
「じゃあ、行ってきます。」
「必ず助け出す!」
二人は向かい合って握った星の杖を上に掲げ、半回転して杖の先を下に向ける。その先の地面には本。

「「『時計の国のアリス』よ!我らをその世界に導け!」」
0251無能物書き
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2019/03/28(木) 01:27:10.28ID:jtk3GfxC0
魔力をこめ、杖を本に打ち付ける。その瞬間、本が輝き、光の仗が立ち昇る。
さくらと小狼は、ふたりで星の杖を握ったまま、その光に包まれる。
「それじゃあ、Let`s go!」
光の中、モモのその言葉を残し、二人は消える。やがて本から発せられていたの光の仗が収まる。
ことっ、と地面に落ちる本。皆が駆け寄り、本に注目する。

 すると、本は自然に表紙を開き、そこから淡い光を発する。
と、その本の1mくらい上に、まるでVR(バーチャルリアリティ)のような立体映像が浮かび上がる。
 そこは緑の草原、そしてさくらと小狼が星の杖を握ったまま立ち、きょろきょろと周囲を見回す様が
映し出されていた。
「まぁ!」
知世が声を上げる。その映像の隅には、知世が見慣れたビデオカメラのデジタル表示。
「これ、あのウサギの仕業なの?」
苺鈴の問いに知世が答える。
「ええ、なかなかのカメラワーク、これは期待できますわ〜。」

「ここは・・・?」
周囲を見渡し、状況を確認する小狼。どこまでも続く緑の平原と青い空、風は心地よく
ふたりの頬を撫でる。
「ようこそ、時計の国のアリスの世界へ!」
モモがふたりにビデオカメラを向けながら、案内人さながらに言う。
「ここが・・・秋穂ちゃんはどこなの?」
ふっふーん、という顔をしてモモが返す。
「彼女たちはこの世界の最深部よ。あななたちはここ、つまりスタート地点から、
ステージごとの試練を乗り越えていかなければ、秋穂やアリスのもとには辿り着けないわ。

 その説明を聞いたさくらが頬をかき、呆れ汗を流して言う。
「なんか、テレビの番組によくあるよね・・・そういうの。」
がくっ、とコケそうになるモモに、小狼がフォローを入れる。
「面白そうだな、そういうのやってみたかったんだ!」
キラキラした男の子の目で語る小狼。もう彼にさくらの前で自分を隠す必要はない。
0252無能物書き
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2019/03/28(木) 01:27:51.22ID:jtk3GfxC0
「じゃ、じゃあ最初の試練〜あそこまで行って。」
モモが指さしたのは斜め上、空の上だった。そこにはなぜか薄い大地が空中に浮いて、その上には
荘厳な西洋の城が鎮座していた。
「わ!お城が飛んでる。」
「あそこに行けばいいのか?」
こくりと頷くモモに、小狼はさくらを見て促する。さくらはホルスターから1枚のカードを抜き取り、
放り投げて星の杖で打ち据える。

「フライ(翔)!」
さくらカードを発動させる・・・ハズだった。しかしカードはなんの反応も示さず、その場にはらり、と落ちる。
「え・・・どうして?」
その言葉にモモはやれやれと手を広げる。
「ここの世界に来る時、どうやったか忘れたのかしら?」
その言葉に顔を見合わせるさくらと小狼。確かふたりで杖を振るい、太陽と月の魔力で・・・あ!
「そうか、太陽と月、両方の魔力がなければ駄目なんだ。」
うん、と頷き、フライのカードを拾って小狼の隣に並ぶさくら。小狼は杖を握り、さくらと一緒に
声をそろえ、カードを打ち据える。
「「カードよ、我らをあの城まで運べ、フライっ!!」」

 さくらカードが発動する。しかしさくらの背中に翼は生えない。小狼にも、杖にも。
カードから発した光は一気に巨大な光の玉となる、そしてその光が消えた時、二人の前には
身の丈5メートルはあろうかという巨大な鳥が存在していた。
「なっ・・・!」
驚き、さくらの前に立ち構える小狼。だがさくらはその肩に手を置き、小狼の前に出る。
「フライさん!」
「え?」
嬉しそうな、そして懐かしい顔でその鳥を見る。さくらが最初に封印したクロウ・カード。
カードに戻すまでのその姿は、今目の前にいる巨大な鳥の姿だったから。
0253無能物書き
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2019/03/28(木) 01:28:25.95ID:jtk3GfxC0
「クエェッ!」
二人を見て、いななくフライ。頭を下げ背中を晒す。
「乗れって。」
「そ、そうか・・・」
さくらと小狼はその背中に乗る。フライは首を回し、ふたりが乗ったのを確認すると。
立ち上がり背筋を伸ばす。そしてぐぐっ、と体を縮めたたと思うと、一気に大地を蹴り、飛び上がる。
「「わぁっ!」」
両翼幅10mを超えようかというその巨大な羽根が、力強く、猛然と空気をかき回す。
嵐のような気流を巻き起こしながら、フライは空に進む。やがて風を受け、羽ばたきを止めて滑空、
上昇気流に乗ると、トンビのように旋回しながら舞い上がっていく。

「(なんだろう、この感じ・・・違う。)」
さくらは違和感を覚えていた。以前フライを封印する時も、こうやって背中に取り付いた経験がある。
しかしその時は、ここまで『飛ぶ』という行為を意識させる飛び方ではなかった。
魔法の力で、まるで泳ぐように空中を飛んでいた。その背中もそのときはあまり意識しなかったが
今ではその筋肉の力強さや、体温の温かさを感じるほどにリアルだ。

 やがて空の城に到着し、滑空して着陸する。いなないて降りるよう催促するフライ。
さくらと小狼は鳥の背中から降りる。と、フライはキューゥ、といななくと、地面を蹴り、
再びその身を大空に舞わせる。二人を残したまま。
「え?あ、フライさん!」
さくらは叫ぶが、フライはそのままどんどん遠ざかっていく。そしてその先には別の鳥の群れ。
フライはその鳥たちに合流すると、嬉しそうに鳴きながら彼らと空のランデブーをする。
サイズが違いすぎるため、若干他の鳥たちには迷惑そうではあるが。
「あはは、お友達だ。」
「ああ、そうだな。」
柔らかな表情でフライを見送る。そして城に向かう二人。
0254無能物書き
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2019/03/28(木) 01:28:53.24ID:jtk3GfxC0
 詩之本邸の庭。アリスの本。さくら達が城に到達したことで、ページが1枚めくれ、
次の立体映像が現れる。
「まずは1面クリア、ってとこかしら?」
なくるが言う。全員がそのファンタジーな映像を楽しんでいた、一人を除いて。
 柊沢エリオル、彼だけは顔を真っ青にして、その光景を驚愕の汗を流しながら見入る。

 その城の庭園、そこはまるで何年も手入れされてないような有り様だった。
草は生気無く、木々は花はおろか葉っぱさえつけていない。
城の入り口の門は固く閉ざされ、その上からいつのまにか居るモモがビデオを構えている。
「この門、開かないのかな?」
二人は門を触り、いろいろ調べてみるが、その門はそもそも開くようにさえ作られていない。
 モモが二人を撮影しながら声をかける。
「言うまでもないけど、ここの試練はこの城に入る事、頑張って〜」

と、さくらは門の鍵の部分に金属のレリーフを見つける。それは花の形をしていた。
ただ、それは『盛り上がっている』のではなく『えぐれている』彫り方のレリーフ。
ちょうどそこに花を埋め込むスペースでもあるかのように。
ふと、思いついたことを小狼に耳打ちする。彼はうーん、と考えた後、やってみるか、と答える。
「うん!このお庭もこのままじゃ寂しいし。」

 ふたりは杖を構え、カードを放り杖で打ち据える。もうすっかりおなじみのその姿は
ケーキカットのような共同作業に見えた。
「「庭園と鍵を花で満たせ!フラワーっ!!」」
ふたりの魔力を得、カードが発動する。が、花は出ない。代わりに一人の少女がカードから具現化する。
「フラワーさん!」
運動会に現れたその精霊。その時の姿そのままに彼女は現れると、さくらと小狼に向き直る。
そしてふたりの手を取ると、彼女はふたりを振り回すようにして踊る、庭園を。満面の笑顔で。
そして踊りながらフラワーは花粉のような粉を撒き散らす。その粉が舞った樹が、草が、次々と
花を咲かせていく。
0255無能物書き
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2019/03/28(木) 01:29:25.10ID:jtk3GfxC0
「あははっ、すっごーい!」
「日本の昔話にこういうのあったな。」
踊りながらさくらが、小狼が笑う。庭園に花が咲き乱れ、死んだ城の玄関が生き返ったように明るくなる。
 やがて花で満たされると、フラワーは門の前まで行き、そこでその姿をいばらの枝を持つ草の蕪に変える。
そしていばらが伸び、そこから次々と咲くバラの花。そのうちの一輪の青いバラが、門のレリーフに
近づき、はまる。

 その時だった。ガキン!と何かが入ったような機械音がすると、その門が音を立てて開いていく。
その先には無数の歯車が回っている、機械仕掛けの時計のように。
「あらあら、ここもあっさりクリア?もうヒントいらないかもね〜」
ビデオを回しながらモモが言う。さくらと小狼はフラワーを見る。他の花と楽しそうに
咲き乱れるさまを見て、笑い合い、城の中に進む。

「一体・・・どういうことなんです!」
詩之本邸、突然叫ぶエリオルに全員が注目する。その普段見無い剣幕に、観月やなくるが驚く。
「どうしたの?」
エリオルは理解できないといった表情で、鼻から下を手で押さえてつぶやく。
「太陽の魔力と月の魔力を与えたとしても、こんなことは起こりえない、ありえません・・・」
そこで一度言葉を区切る、周囲の皆も次の言葉を待つ。
「カードに・・・本当の『命』を与えるなんて!」

 城の中、その廊下は動く歯車で埋め尽くされている。機械的なリズムを刻む回廊を進み
ひとつのドアに突き当たる。ドアを開け、中に入る二人。
 ばたん!入るなりいきなり背後のドアが閉められる。小狼が慌ててドアに取り付くが、
いくらノブを回してもビクともしない。
「小狼君、あれ!」
さくらが上を指さして叫ぶ。立方体のその部屋の天井が下がってくる、ゆっくりと。
「吊り天井!」
古来の城などの罠としてメジャーな仕掛け。このままでは二人ともぺしゃんこだ。
0256無能物書き
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2019/03/28(木) 01:30:07.11ID:jtk3GfxC0
 さくらは1枚のカードを取り出し、小狼と共に杖を振る。
「「天井を押し返せ、パワー(力)っ!」」
カードが発動する。現れたのは一見どう見ても、このピンチには役に立ちそうにない
5歳くらいの可愛い女の子。彼女は二人に笑顔を向けると、むん!とガッツポーズを作る。
「あれ、お願い。」
迫りくる天井を差すさくらに、うんうんと頷くパワー。
ぐっ、としゃがみ込んで力をためると、そこから一気に大ジャンプ!天井にもろ手突きを食らわすと
下がっていた天井が上に向かって吹き飛んだ。まるで発砲スチロールのように。

 頭上には青い空と、吹き飛んだ天井を繋いでいる鎖が見える。パワーはその鎖を辿って
巻き取り機の歯車に取り付くと、今度はその歯車と力比べをはじめる。
周囲には調速機や振り子など、パワーが力比べをする道具がいくつも稼働している。
パワーは楽しそうに、様々な機械と力比べをする。
「楽しそうだねー。」
「行こうか。」
とりあえず先を急ぐさくらと小狼、目の前に現れた階段を斜めに上っていく。

 階段の先には、また部屋があった。今度は罠にかからないように慎重に入る。
そこはテーブルのある小さな部屋だった。机には『eat me』と張り紙がしてある。
その脇には大き目の皿がふたつ、その上には灰色の、三角形の食べ物が湯気を出して鎮座していた。
「こんにゃく?これを食べればいいのか。ここは簡単だな・・・さくら?」
 さくらは目を点にして石化していた。よりによってここで天敵のご登場とは。
「もしかして、こんにゃくが苦手なのか?」
さくらは涙目でこくこく頷く。少しでも苦手なのに、よりによって一皿で電話帳大の特大こんにゃく!

 さくらは一枚のカードを取り出し、小狼に懇願する。
「小狼君、お願い〜」
そのカードを見て笑い、さくらに返す小狼。
「好き嫌いはよくないぞ。」
とか言いつつ杖を握る小狼。さくらは、『やっぱり小狼君優しい』と困り笑顔を向けるが
実は小狼もこんにゃくは苦手だった、ただ躾の厳しい家の出なので、嫌いだからと残すのは許されないから
さくらほど無理ではなかったのだが・・・
0257無能物書き
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2019/03/28(木) 01:30:38.31ID:jtk3GfxC0
「「美味なる味を付けよ、スウィート(甘)っ!」」
小さな妖精のような少女が登場すると、その杖から粉をこんにゃくに振りかける。
かくしてこんにゃくはこんにゃくゼリーへと変化する、それを美味しそうに口に運ぶさくら。
「これならいけるんだけど・・・」
「帰ったらこんにゃく食べる特訓な。」
小狼もこんにゃくゼリーを頬張りながら、内心してやったり、と喜ぶ。試練とはいえこんなとこで
苦手なこんにゃくを食べたくはなかった。
「うー、小狼君、お兄ちゃんみたい・・・イジワル。」

 こんにゃくを平らげると、出口のドアが現れる。それを開けると・・・そこは、空。
ドアの際には1台のトロッコ、そこからレールが空中を縦横無尽に走っており、そのレールを辿っていくと
向かいの城の塔の部分に繋がっている。これに乗って行けというのは間違いなさそうだが、これは・・・
「わぁっ、ジェットコースターみたい!」
キラキラと目を輝かせるさくら。これを小狼と一緒に乗る楽しい予感に胸躍らせて小狼を見る。
そこには、見事に石化した彼氏がいた。
「え”、もしかして小狼君、ジェットコースター、苦手?」
真っ青な顔でこくこく頷く小狼。さくらカードの入ったホルスターを借り、探る。
1枚のカードを抜き取り、さくらに示す。
「すまない、さくら・・・頼む。」

「「到着まで、彼(我)を眠らせよ、スリープ(眠)っ!」」
スウィート同様、妖精のような少女が登場し、小狼を眠らせる。さくらは小狼を抱えてトロッコに乗り
ブレーキレバーを解除し、トロッコを走らせる。
 猛スピードで上下左右に走るトロッコ。本来ならそのスリルを楽しみたいところだが、
小狼をしっかり抱えてないと、放り出されたら一大事だ。彼をぎゅっ、と抱きしめながら左右のGに耐える。
あ、スリルよりこっちの方がいいかも、と顔を赤らめて笑うさくら。

 スリープはスウィーツと、そしてパワーと合流し、こんにゃくの部屋で楽しそうに遊んでいる。
その映像は、本を通して詩之本邸のみんなにも見えている。
エリオルが彼らを、かつてクロウだった頃のの眷属を、信じられないものを見る目で眺め、言う。
「間違いありません、今の彼女らは、『生物』です。カードの精霊ではありません!」
0258無能物書き
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2019/03/28(木) 01:31:07.91ID:jtk3GfxC0
 トロッコがゴールに到着する。かたん、と停止すると同時に小狼が目を覚ます。
「あ、着いたか・・・うわぁっ!」
露骨に抱き着いているさくらに驚き、声を上げる。
「あ、ゴメン。落ちるかと思ったから。」
へへっと笑うさくらに、顔を赤らめる小狼。
「い、いや・・・ありがとう。」
照れる顔をそっぽを向いて隠し、トロッコを降りる。さくらは思わぬ嬉しい時間にニンマリする。
こーゆーのを役得って言うのかな?

 その場所にはまるで駅のような標識があった。そこに書かれている文字は・・・
『お化け屋敷』
またまたさくらが石化する番が来た。

 二人は進む、『時計の国のアリス』の世界を。
お化け屋敷をイレイズ(消)で抜け、巨大な楽器が狂った音を演奏するホールはサイレント(静)で黙らせる。
綱渡りの部屋では、ライブラ(秤)を長いポールにしてバランスを取って渡り、
風車式のエレベーターをウィンディ(風)で回し、落とし穴をフロート(浮)で這い上がる。
トランプの兵隊が襲い掛かってきた時は、ファイト(闘)の助っ人と、ソード(剣)、シールド(盾)を
駆使して撃退する。

 そしてその際使われたカード達は皆、生物や道具として実体化し、思い思いにこの世界を楽しんでいる。

「ありえない・・・あのカードはあくまで精霊のはず・・・いくらふたつの、いや、星も含めて3つの魔力と
この本の魔力をもってしても、彼らに命と肉体と、そして寿命を与えるなどという真似は・・・」
エリオルは青い顔でブツブツと呟く。クロウの記憶をいくら探っても、その答えが見つからない。
聡明すぎる彼にとって、理解できない事態ということそのものに慣れない、混乱するエリオル。
0259無能物書き
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2019/03/28(木) 01:32:09.07ID:jtk3GfxC0
 そんな彼を見て、知世と苺鈴はうふふ、と笑い合う。エリオルに語る知世。
「柊沢君、大事なことが抜けてますわ。」
「・・・え?」
「太陽の魔力と月の魔力を使う、『愛し合う男性と女性』の力ですわ。」
その言葉を聞いて、エリオルの目が点になる。
「は?」

「まぁつまり、あの二人の子供になった、ってワケでしょ、あのカード達は。」
「お二人の愛が生み出した、命を与えたというワケですわ。」
エリオルの眼鏡がずるりと半分落ちる。そんな馬鹿なことが・・・そう言い切るには、彼にも、そして前世の
クロウ・リードにも、恋愛経験も性愛経験も縁が無さすぎた。

「つ、つまり・・・戦いながら子作りしていると!?」
その言葉に知世と苺鈴は『まぁ♪』と顔を赤らめる。すぱんっ!とエリオルの後頭部をひっぱたく観月。
桃矢は桃矢で詩之本家の家壁にパンチをくれている。壊さないでくださいね、と海渡が釘を差す。

 さくらが、小狼が舞う。カードを使う。命を生み出す。
『時計の国のアリス』を舞台に、ふたりの魔法使いが、生命の円舞曲(ワルツ)を踊る。

不可能という言葉を、遥か遠くに置き去りにして−
0260CC名無したん
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2019/03/28(木) 15:09:20.90ID:Q4xBB+OO0
さくらちゃんが選んだ道なら絶対大丈夫だよ
0261CC名無したん
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2019/03/28(木) 21:18:58.65ID:gxausHsI0
最高じゃね?
最高ついでに二人のコスチューム絵も見たいわ
絵心もあるってことは知ってるしさ
0262CC名無したん
垢版 |
2019/03/28(木) 22:42:35.73ID:DAkjtxmC0
53人の子持ちか…(しみじみ)

読みながらアニメで脳内再生されるくらい違和感ない傑作二次創作だと思います
毎回楽しませてもらってます執筆頑張ってください
0263CC名無したん
垢版 |
2019/03/29(金) 07:07:17.26ID:nwsfNg830
桜さんとくまいさんの声で再生される
構成がアニメみたいだから音楽も流れる
是非ともコスが見たい
0264無能物書き
垢版 |
2019/03/31(日) 18:18:16.35ID:72N8T1530
>>262
ありがとうございます。あと少しなので最後までお付き合いいただければ幸いです
ちなみに53人ではなくて・・・?
>>261>>263
だーかーらー、絵は苦手だってwまぁ書くけど。
つかさくらのコスはアニメのクリア編の前期OPのつもりだったんだけどなw

そんなわけで、ケロちゃんにおまかせ、その2!
http://imepic.jp/20190331/655910

・・・日曜潰れた、もう描かんぞorz
0266CC名無したん
垢版 |
2019/03/31(日) 21:50:39.77ID:r2NqP+Ko0
私も好き!!w

乙でした、ありがとう!
0267無能物書き
垢版 |
2019/04/03(水) 01:10:35.63ID:O+OhGSBb0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第24話 さくらと秋穂とアリスの心

 城を抜け、砂漠を潤し、山を駆ける。広大な『時計の国のアリス』の世界を
さくらカードを実体化させながら、次々と走破していくさくらと小狼。
森で追いかけてくる狼の群れをメイズ(迷)で振り切り、激流の川をフリーズ(凍)
で止める。ミニチュアの館が現れればリトル(小)で入り、出たらビッグ(大)で元に戻る。
巨大な振り子ハンマーが行く手をさえぎれば、ループ(輪)で反対側に来ないようにして抜け、
突然の地震はウッド(木)で止め、空から複数の太陽が照り付けた時はクラウド(雲)で涼を取る。

 詩之本邸。アリスの本がまた1ページめくれる。もう残りわずかだ。
映し出された新たな立体映像に見入る一同、その中で柊沢エリオルだけは相変わらず
訝し気な顔を隠さない。
「どうするつもりです・・・彼らが実体化したなら、それはもう人間でも生物でもない。
彼らはいわばUMAに相当する存在、カードであることを捨てて彼らが現代社会で
生きていく方法など皆無です。」
 確かに、今は情報化の時代。インターネットの地図で家や景色すら表示できる時代だ。
ましてや海渡が使っていたように、魔力のある存在を感知する魔法すら存在する。
エリオル達がかくまうにしても限度がある、カードは53枚もあるのだから
0268無能物書き
垢版 |
2019/04/03(水) 01:11:01.95ID:O+OhGSBb0
 ごちるエリオルに、なくるが能天気に提案する。
「じゃあさぁ、この本の世界ので暮らせばいいんじゃない?広そうだし。」
「え?」
きょとんとするエリオル、その隣で観月がぽんっ、と手を打つ。
「名案よ、それ。」
そう言って海渡に向き直り、問う。」
「この本って、中に魂がいないと維持できないんでしょ?確か。」
「え、ええ、確かにそうですが・・・」
「なら好都合じゃない?あのカード達がこの中で暮らせば賑やかになるし、秋穂ちゃんも
この中にいなくて済むかも。」
 時計の国のアリス、魂を閉じ込める本。逆に言えば中に魂が無いと存在できない本とも言える。
カードから実体化した53もの魂があれば、あえて秋穂の魂を留めようとはしないかもしれない。

 エリオルは呆然とした表情で立ち上がる。肩を落とし、ジャケットがそこからずるっ、と
ズレて落ちそうになり、止まる。
「この世に偶然は無い、すべては必然、だとしたら・・・」

 天才魔導士クロウ・リードが生み出した生きたカード達。
若き天才ユナ・D・海渡が齢を重ねて生み出した魔法の本の世界。
 クロウカードはさくらカードとなり、さらに実態を持つ生物や道具となった。
彼らは自分たちが生きていける世界を必要としている。
 そして『時計の国のアリス』は生物の魂を必要としている、魔導士が作ったふたつの存在は
お互いがお互いを必要として引きあったのか、木之本さくらと李小狼、そして詩之本秋穂という
存在を結び目として。
「ほらほら、詮索は後!いよいよクライマックスっぽいわよ。」
苺鈴が言う。本が最終章のページを開く。そこに映されたのは、大量の歯車が構成する館。
0269無能物書き
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2019/04/03(水) 01:11:39.21ID:O+OhGSBb0
 さくらと小狼はついに最深部にある建物に到着する。それは時計の形をした館。
館にも、周囲の庭にも、無数の歯車が絶え間なく動き、時を刻む音を奏でる。
「ここが・・・最深部。」
「ああ、間違いない。」
さくらと小狼が顔を見合わせて頷く。道中でモモに聞いた『時計の館』。
「ここに、秋穂ちゃんが・・・アリスさんがいるのね。」
モモに振り返ってさくらが問う。モモはビデオカメラを構えたまま、こう返す。
「そうよ〜、でも中に入る前に、もうひと試練あるかも〜」

「それは、どんな試練だ?」
小狼が問うが、当然モモが正解を教えるわけもない。手の平を上に向け、首を振る。
「とにかく行こ!小狼君。」
さくらがはやる気持ちを抑えられずに庭に入る門扉に向かう。頷いてあとを追う小狼。
鋳造の門のハンドルを手にかけ、回す。そして扉を開くさくら。
 と、その瞬間、ガチン!という音と共に全ての歯車が停止すると、突然逆回転を始める。
「な、何!?」
「さくら!」
さくらに駆け寄り、その手を取る小狼。その瞬間周囲の景色がぐにゃあぁっ、と歪み、消失する。
しっかりと手を繋いで、周囲の状況に警戒する二人。

 少しの間の後、再び景色がぐにゃっと歪み、現れる。
そこは・・・緑の平原だった。
風は心地よく、遠目には宙に浮かぶ大地と、その上に鎮座する城。遠方には鳥の群れと、
それに交じる1羽の巨大な鳥。
「さくら、ここって・・・まさか。」
さくらは目を点にして、顔をさーっ、と青くする。信じたくない現実、
「ほ、ほえぇぇぇぇっ!振り出しにもどっちゃったあぁぁぁぁっ!!」
0270無能物書き
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2019/04/03(水) 01:12:04.74ID:O+OhGSBb0
 時計の館の前、モモがため息をついて、一言。
「はい、2週目がんばってね〜。」

「はぁ〜、また1からやり直しかぁ。」
しょんぼりとうなだれるさくら。小狼はそんなさくらを叱咤する。
「しょげててもしょうがないだろ、とにかく行くぞ。さぁ、フライ(翔)を!」
「う、うん・・・。」
仕方なく、といった表情でホルスターからカードを取ろうとする。が・・・
「え!ない・・・フライさんのカードが、というか使ったカードがみんな無いよ〜!」
「なんだって!?」
 よく見れば、はるか遠方で飛んでる大きい鳥はさっき実体化したフライだ。
カードを消費した状態で、文字通りスタート地点に戻されるという理不尽、なんという無理ゲー。

「なんか、前もあったけど・・・やり直すのって疲れるよね。」
「え、前?」
「ほら、小学生の時。なんども同じ日をやり直した事あったでしょ・・・あ。」
「・・・あ。」
さくらは残った7枚のカードを扇状に広げ、そしてその中に件のカードを見つける。
ここに戻されたのは『時計の館』の力。なら、このカードを使えば・・・

 モモは時計の館の前で、リクライニングチェアーに座ってチョコをつまんでいる。
「さてさて、あの状態でまたここに来るのに何日かかるかしら〜」
ムグムグとチョコを頬張るモモの背後で、声。
「ただいま。」
ぶはぁっ!とチョコを豪快に吐き出すモモ。振り向けばそこにはさくらと小狼、そして
ローブに身を纏った一人の老人が立っている。
「ど、どーやって!?」
さくらと小狼は平手でその老人を差す、笑顔で。彼の手柄だ、と。
0271無能物書き
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2019/04/03(水) 01:12:32.71ID:O+OhGSBb0
 老人は門扉のドアノブに触れ、その仕組みを調べている。
「なるほどな。主(あるじ)様、先ほどはこのノブを左に回しましたな。」
「う、うん・・・」
「このノブ、どうやら左方向、つまり時計と逆に回すと時間を戻される仕組みのようですじゃ。」
「じゃあ、右に回すと時間が進むのか?」
「左様。この門扉にはそもそも鍵などありませぬ、ただ押せば・・・ほれ。」
普通にぎぎぃっ、と開いていく扉、さくらも小狼も目が点になって呆れる。

「他にも時間を進めたり、戻したりする仕掛けがありますな、どれ・・・」
老人はそう言ってその身を輝かせると、ひとつの巨大な歯車に変身する。その中心に顔だけ
のぞかせながら、周囲の歯車にガキンとはまる。
「これで大丈夫ですじゃ、もう時間を操作されることはありますまい。」
歯車の中央の顔がにこりと笑う、なかなかにシュールな光景だが、とりあえず助かった。
「ありがとう、タイム(時)さん。」

「じゃ、私が案内できるのはここまで。あとはあなたたちで何とかしなさいね〜」
モモはイスに座り直し、テーブルの上のチョコをつまんで言う。なるほどそこはモモの本来の
居場所とでも言うように、モモのサイズに合わせたくつろぎ空間が構成されている。
「うん、ありがとう、モモちゃん!」
律義に礼を言うさくら。さぁ、いよいよ二人に会える!

 門扉を抜け、庭を駆け、館の入り口のドアを開ける。中は、廊下。
白と黒のタイルが交互に、チェック模様に並んでいる。さくらはその廊下に見覚えがあった。
 そう、未来に言った時に通った『時の回廊』、あの通路にそっくりだったから。
悲しい記憶を思い出し、小狼の手を取り、ぎゅっ、と握る。さくらの不安を察し、その手を
力強く握り返す小狼。
0272無能物書き
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2019/04/03(水) 01:13:04.89ID:O+OhGSBb0
 二人は歩く、その廊下を。周囲には時計の歯車と、それが刻む針の音。
やがてひとつのドアに突き当たると、それを慎重に押し開く二人。
ぎぃぃっ、と鈍い音を立てて開く扉、そこは広い部屋、地面に白黒のタイルが並べられ
8×8のマス目を刻んでいた。そのいくつかには、黒と白の駒、チェスの駒だ!

「兵士(ポーン)、bの8へ!」
女の子の声、上から聞こえる。それを見上げる二人。そこには、二人のよく知る少女が
まるでビーチバレーの審判が座るような、高い高いイスに腰かけていた。
「秋穂ちゃん!」
さくらは叫ぶが、秋穂はさくら達を一瞥すると、興味なさそうに再び視線を前に戻す。
 真っ白なそのイスの下、チェックのタイルには、チェスの駒。
白いポーンが一歩前に動き、そこにいる黒のナイトを倒す。

 ドクン!と心臓の音のような嫌な響きがする。その方向を見上げると、ちょうど秋穂と
向かい合うようにして黒く高いイスがある。そこに座っているのは、秋穂と同じ金髪の少女。
胸を抑え、苦しそうな表情。それでも彼女は足下のコマに指示を出す。
「クィーン(女王)、bの8!」
黒のクィーンが白のポーンを倒す。と、またドクン!という心音のような音。
見上げるとコマを取られた秋穂が苦しそうに胸を押さえている。
「はぁ、はぁ・・・」
苦しそうに息を継ぎながらも、秋穂は眼下のチェスの配列を見て次の一手を思案する。

「さくらさん、李さん・・・どうしてここに?」
「「え?」」
呼びかけに二人が同時に反応する。見上げた先は黒いイスに座っている金髪の少女。
こちらに気づいて声をかけてきたようだ。
「私です、秋穂です・・・あ。」
言ってなにかに気づいたようにしょげかえる少女。自分の言ったことが間違いであるように。
0273無能物書き
垢版 |
2019/04/03(水) 01:13:32.44ID:O+OhGSBb0
「そうか、彼女がアリスなんだ。詩之本の体の中にいた・・・」
小狼の言葉にさくらも頷く。彼女は9歳の時から本物と入れ替わり詩之本秋穂として
存在していた、元々はモモ同じこの世界を維持するための魂。
「え・・・何故それをご存知なのですか?」
「あ、まぁ、色々あってね。」
苦笑いでさくらが返す。

「ビショップ!eの5!」
秋穂の声が二人の会話を中断する。白いビショップが黒いルックを倒す。
ドクン!
その音と同時に、アリスが顔をゆがめ、胸を抑える。
「アリスちゃん、どうしたの?」
その問いには答えす、アリスはうつむいたまま胸を抑え、絞り出すような声で言う。
「いやだ・・・負けたくない。この世界にいたい、帰りたくない!」
そして盤面を見下ろし、駒に指示を出す。
「クィーン!dの3へ!」
 再びクィーンがナイトを倒す。またドクンという音、そして苦しそうに胸を抑える
白いイスの上の秋穂。
「今更、よく言うわね・・・貴方が私をここに閉じ込めておいて。」

 さくらは二人を交互に見上げ、心配そうな表情をする。
「ど、どうしたの二人とも。なんか苦しそうだよ、どこか痛いの?」
その隣で小狼が説明する、驚愕の表情で。
「あのコマを取られるたびに、取られた方の魂が削られていってる・・・」
「ええっ!?」
「たぶん、負けたほうはこの世界に存在できなくなるんだ。」
ふたりをちらりと目にして秋穂が言う。
「正解よ。負けたほうは元の世界に戻されるのよ、『詩之本秋穂』としてね。」
0274無能物書き
垢版 |
2019/04/03(水) 01:13:58.60ID:O+OhGSBb0
「え?どうして・・・」
さくらにも、小狼にも分からない。秋穂もアリスもまるで『元の世界に帰りたくない』
と言っているようだ。
 ただひとつの心当たり、アリスの魂をクリアカード『スピリット』で戻した時
秋穂の魂は帰ってこなかった、アリスの魂もまたしかり。
両者が『帰りたくない』と思っていたから帰ってこなかったと言うことなのか?

「どうして?どうして帰りたくないの?海渡さん待ってるよ!」
そのさくらの言葉に、ふたりはびくっ!と反応する。秋穂は怒りの目で、アリスは
悲しげな眼をして。
「ふん!」
そっぽを向いてそう吐き捨てたのは秋穂だ。
「私は『魔法具』なのよ。あの日も彼は私にこの本を与えて、ここに私を閉じ込めた、
4年間もね!」
「え・・・違うよ秋穂ちゃん!海渡さんはそんなつもりじゃ」
「違わないわ!この本を作ったのがアイツだっていうのは分かってるんだから!」
 彼女は誤解している。しかしそれも無理もない事、海渡に贈られた本に閉じ込められ
その本を作ったのもまた彼であること、詩之本家の『魔法具』である自分ととそれを使う
『マスター』の関係であること、その判断材料ならどう考えても彼女は海渡に弄ばれている、
という結論にしか行きつきようが無い。

「私は・・・海渡さんに必要ないと判断されたんです。」
アリスが顔を抑えて、涙声で語る。アリスが秋穂と入れ替わってから、海渡は何とか秋穂の魂を
取り戻そうとしていた。それは言い換えれば、アリスの魂を本の中へ追い返そうと
していたと言うこと。
それは海渡に恋していたアリスにとっては耐え難い行為、彼の自分に対する『拒否』。
そんな過程を経てこの本に再び押し込められた彼女には、今更海渡に会う気が起こらない、
心の奥底の恋心は少しも萎えてないないのに。
0275無能物書き
垢版 |
2019/04/03(水) 01:14:33.99ID:O+OhGSBb0
「違うよ、ふたりとも誤解してる!」
さくらは叫ぶが、二人は魂を削るチェスを続ける。これに勝てばもう辛い現実に戻らなくて済む、
その思いに呪われ、ただ勝つために心をすり減らしていく。
「さくら、止めるぞ。」
「どうやって?」
小狼はさくらのホルスターを取り、2枚のカードを手にする。
「このチェス、どうやら東洋魔術のものらしい。なら同じ術式で止められるハズだ。」
2枚のカードを放り投げ、さくらに発動の言霊を教え、唱和しつつ杖を打ち下ろす。
「「陰と陽を溶け合わせ、融和せよ!ライト(光)、ダーク(闇)っ!」」

 カードが輝き、やがて二人の成人女性の姿を取る。二人は宙に浮かび、まるで泳ぐように
お互いを逆さに見ながら回転をはじめ、やがて白と黒の演舞、陰陽紋太極図となる。
その力を受け、足元のチェスの駒も、その下の盤面も、白と黒の色を失い、まるでガラスのような
透明な色になっていく。
そしてそのまま消えて行くチェスの駒、そしてふたりが座る背の高いイス。それにより
秋穂が、アリスが、ふわりと地面に着地する。

「・・・消えた?」
呆然と周囲を見渡す秋穂。地面に降りたことで初めてさくら達と同じ高さの目線になる。
「あなたたち、あの娘の知り合い?」
アリスを差してそう問う秋穂にさくらが答える。
「うん、貴方を・・・ううん、ふたりを連れ戻しに来たの。」
0276無能物書き
垢版 |
2019/04/03(水) 01:15:03.25ID:O+OhGSBb0
「え・・・私も、ですか?さくらさん。」
不思議そうに答えるアリス。彼女はモモ同様もともとここの住人だ、一時期幸運にも
秋穂の体を得て外の世界を体験できた。そしてさくらと出会い、様々な楽しい体験をした。
 でもそれは本来なら『あっちの』秋穂がするはずの経験。それを奪った自分には
ただでさえ戻る資格はない、まして自分は好きな人に拒絶されここに来さされたのだ。

「秋穂ちゃん、アリスさん、ふたりは同じ『詩之本秋穂』さんなんだよ。」
 その肉体と魂を持ち、本人として生まれた秋穂。
海渡に想われ、その秋穂への思いを具現化して生まれたアリス。
人を想う存在と、人に想われる存在、どっちが偽物なんてない、二人とも本物なんだよ。
ただ思いがすれ違い、食い違ったために遠ざかってしまった、そんな二人。

 だけど、二人の心は固く閉ざされ、さくら達の説得にも応じようとはしなかった。
何よりさくらと小狼が相思相愛なのは見て取れたから、それが余計に二人の心の傷に
痛みを与える。自分にだって好きな人はいる、しかし私たちはその人に拒絶された存在だから。

 二人の悲しみは理解できる。でも今のさくらも小狼もそれを乗り越えるアドバイスは思いつかない。
ただ辛いよね、と思う。好きな人に思いが届かないことの辛さ−

 と、さくらのカードホルスターが輝き、中から2枚のカードがゆっくり出てくる。
さくらと小狼の前で停止する、まるで使ってもらえるのを待つかのように。

−アロー(矢)−
−ホープ(希望)−
0277CC名無したん
垢版 |
2019/04/03(水) 06:47:12.11ID:1HyGYzpM0
なんかこれが本編のような気がしてきた
0278CC名無したん
垢版 |
2019/04/03(水) 12:03:44.12ID:6+BkiAKd0
劇場版カードキタ━(゚∀゚)━!
0279CC名無したん
垢版 |
2019/04/03(水) 20:25:47.12ID:hGiLqSVQ0
残り7枚から時、光、闇、矢、希望登場
あとの2枚は何だろう
楽しみにしてます
0280CC名無したん
垢版 |
2019/04/05(金) 01:04:14.91ID:hf2calju0
>>277
本編より確実に優れていることがひとつ!展開の速さw(それだけかいっ!)
>>278
よく分かるなぁ、そう狙ってました。
>>279
その答えは、この後すぐ!(そしてCMw)

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第25話 さくらとアリスのラストページ


 アロー(矢)とホープ(希望)。
さくらと小狼の魔力により具現化し、実体化したふたりの少女。
アローはアリスに、ホープは秋穂に歩み寄り、その前で止まる。

「な、なんなの、この子?」
秋穂はカードから実体化した二人を見て驚く。先ほどのライトとダークを発現させた時は
チェスに夢中であまり気にならなかっただけに今回は衝撃的のようだ。
ホープは秋穂には答えす、アリスの前のアローの方を見て促す。まずはそっち、と。

 アリスは秋穂よりは理解していた、元々この本に憑く精霊である彼女は、知識としてではなく
実感として目の前の少女が、精霊から実在の生物に昇華した存在であると。
アローはアリスを見て、ややつたない言葉を紡ぐ。
「待ってても、だめ。」
え?という顔をするアリスに、アローは続ける。
「私、知っている。ずっと待ってた人、その人がもういないのも気付かづに、待ち続けて
そして、願いが叶わなかった人。」
 アローがさくらを主としてから最初に使役された時。相対したのは好きな人を待ち続けた女性の
悲しい、そして歪んだ心。壊れた体、アリスと同じように本の世界で意中の人を待ち、
主に諭され、その事実を知って悲しみに消えた哀れな女(ひと)。
0281無能物書き(>>280名前入れ忘れorz
垢版 |
2019/04/05(金) 01:05:17.08ID:hf2calju0
「好きな人は、待ってても手に入らない、そして、後悔する。きっと、あの人みたいに。」
そんなアローの言葉にアリスは顔をゆがめ、ぎゅっ、と胸の服を握る。
「でも、海渡さんは・・・私を拒絶したの。」
うつむいて涙声で話す。私が彼を思っても彼は私を想ってくれない、その先には悲しい結末が
待っているだけだ、と自分に言い聞かせるアリス。
 ふと、うつむいてるアリスに、アローが何かを差し出す気配がした、顔を上げるアリス。
のばされたアローの手の中にあったのは、一本の『矢』。
矢尾には優しい、丸みを帯びた羽根、そして矢じりにはピンク色をしたハートの刃。

「これは・・・?」
「好きなら、自分から言う。それでもだめなら、この矢を使う。」
それはおとぎ話によくあるキューピットの矢、そんなデザインの矢をそっとアリスに渡す。
「言わなければ伝わらない、何も変わらない、そして、あの人のようになる。きっと。」
あ・・・という顔をするアリス。そうだ、このままここにいても悲しみに堕ちていくしかない。
だけど、もしあの人に自分の思いを伝えることが出来たら、私も変われるかもしれない、
精霊から実体化を果たした、目の前の彼女のように。
 それは怖い、そして勇気がいる。勇気、それはアリスに最も足りなかったこと、
秋穂の肉体を得てもいつも引け目を感じ、控えめに過ごしてきたアリス。
他人の後ろに立ち、「すごいです」と人を持ち上げ、目立たないようにしてきた。

 それは勇気が無かったから、自分を出すことが怖かったから。
借り物の体の自分には、本の精霊でしかない自分では、自分を出す勇気を持てなかった。
アリスはその矢をぎゅっ、と握る。その矢じりのハートに自分の心を重ねる。
勇気、その心を、決意を。
「私、やってみます。」
力強くそう答えるアリス。向かい合うアローは優しく笑う。
そしてホープと秋穂に向け、どうぞ、と手を出す。
0282無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:05:51.26ID:hf2calju0
 その動作を受け、ホープは秋穂に向かい合う。秋穂は一歩後ずさり、ホープを見る。
「な、何よ。」
ホープは自分の胸に手を当て、悲しい目で語りかける。
「私は、あなたと似ている。」
「え?」
「あなたは自分を『道具』だと言った。私もそうなの。クロウカードの陰陽のバランスを
取るための『道具』。」
言葉なく聞き入る秋穂に続けるホープ。
「私は生み出されてすぐ閉じ込められた。何もすることも許されずに、一人ぼっちで。
寂しかった、とっても。」

「どうして・・・」
「私は『無くす』存在だった。私が外に出ると、いろんなものが『無くなる』の。
物も、人も、心さえも。そういうふうに『作られた』から。」
「な、何よそれぇっ!」
その理不尽な存在、非情な仕打ちに秋穂は叫ぶ。そこに存在するだけで周囲の物を
失っていくなんて、そんなの悲しすぎると。
「でも、私は動いた。たとえ誰かを不幸にしても、自分を見てほしかった、知ってほしかった。
そして、主(あるじ)は私を見てくれた。」
自分の胸にあるハートマークを優しく撫でるホープ。
「私はこの心を主にもらった、そして私が消したものを元に戻してくれた。
私には友達が出来た。私は変われたの、文字通り『ナッシング』から『ホープ』に。

 無くす者から希望を持つ者へ。そのキッカケは、封印を解かれた彼女が動いたから。
「あなたもそう。道具であっても、それに嘆いては何も変わらない。」
魔法具、それが秋穂に課せられた十字架、魔法の家で魔力を持たず生まれてきた彼女の宿命への罰。
でもそれを嫌って引きこもっていても何も変わらない、変えるのは自分しかないのだ。
0283無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:06:20.50ID:hf2calju0
 秋穂はホープを見返し、思う。確かに自分は魔力が無い、魔法具だ。そう、不幸な少女だ。
でも目の前にいるこの娘は自分よりもっと辛い世界で生きてきたんだ、そう思うと
自分が不幸に甘えている存在に思えてくる。
「私ね、本当はずっと確かめたかったの、海渡の真意を。でも考えれば考えるほど悪い方向にしか
いかなくて・・・」
「その答えは、彼女が知ってる。」
「え?」
言ってホープが、秋穂が、アリスを見る。そう、海渡の秋穂に対する恋心を具現化した少女。

「彼女を受け入れて、それできっとあなたは知る、いちばん知りたかったことを。」

 さくらが、小狼が、ライトとダークが、アローとホープが見守る中、秋穂とアリスは
ゆっくりと近づいていく。
お互いが予感していた、この人とひとつになれば、きっと願いが叶う。勇気が持てる、真実を知れる、と。
 ふたりの距離が詰まる。3m、2m、1m、やがて目の前まで接近し、それでも止まらない。
ふたりはすぅっ、と重な・・・

−ごちんっ!−

 鈍い音と共に、頭を抱えてうずくまる秋穂とアリス。さくらは派手にずっこけて、小狼も
がくっ、と体を傾ける。
「あ、あはは。そのまま合体するのかと思った。」
「そ、そんなアニメみたいなことが起こるはずないだろう!」
リアリストを気取る小狼だが、周りから見ればさくらと同じ期待をしていたのはバレバレだ。
思わずクスクス笑うライトとダーク。
0284無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:06:55.49ID:hf2calju0
「ちょっと、どうすればいいのよ!」
額を抑えながら秋穂がホープに抗議する。ホープはさくらの方を、その腰のカードホルスターを
すっ、と指さす。
「ほぇ、カード?」
さくらは腰のカードを取り出す、最後の2枚を。

−ツイン(双)−
−ミラー(鏡)−

 さくらはぱぁっ、と明るい顔でカードを見る。
「そっか!ツインさんを使えば秋穂ちゃんもアリスちゃんも2人に増えて4人、ミラーさんを使えば
2倍の8人に!って・・・あれ?」
さくらの頭の中に、杖の中にいるケルベロスの強烈なツッコミが聞こえた気がした。
増やしてどないすんねん!!!と。
さくらの背後ではライトが困り顔ででっかい汗を額から頬にスライドさせる。

 小狼の後ろにいたダークが背後から顔を近づけ、そっと彼にささやく。
「貴方なら分かるはずよ。思い出して、あの娘の使い方。」
そう言われて小狼はさくらの持つ2枚のカードを見る。ツインの方の絵柄はふたり、
ミラ−には鏡の少女がひとり。ダークの『あの娘』という言葉に、意識をミラーに向ける。
「・・・そうか!」
ミラーの性質。コピーを生み出す、光を反射する、そしてカードの性質を反転させる。
つい先日『リターン(戻)』を反転させて『フューチャー(先)』を生み出し、苺鈴を
未来に送ったように。

「ほぇ〜、そんなこと出来るんだ。」
小狼の説明にさくらが感心する。
「ツインはひとつのものをふたつに分けるカードだ、その性質が逆になれば・・・」
向かい合い、次のセリフを自然にハモらせる二人。
「「ふたりを、一人にするカードになる!!」」
0285無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:07:53.19ID:hf2calju0
「「彼のカードの能力を逆転させよ、ミラー(鏡)っ!」」
カードを打ち据え、そこから一人の少女が具現化する。胸に鏡を抱いた娘。
そして宙に浮かぶ最後の1枚のカード、ツインを鏡に映す。そこに映るカードの文字、

−FUSION(合)−

「「ふたつの魂をひとつに!フュージョンっ!!」」
鏡の中のカードを打ち据えるさくらと小狼。鏡に映るカードが輝き、中からピエロの姿をした
少年とも少女とも取れる中性的な子供が二人現れる。
 一人は秋穂に、一人はアリスに向かうと、手を繋ぎ踊り始める。秋穂もアリスも自然にそのダンスに
合わせて動く。まるで舞踏会のように踊りながら少しずつ接近していく二組。
「「5・4・3・2・1」」
ツインがカウントダウンを唱和し、回転の流れからふたりを押し出し、体当たりにもっていく。
衝突する瞬間、ツインが両手を広げて叫ぶ。
「「ゼロ!」」
 接触した瞬間、光に包まれるふたり。そしてその光が収まった時、そこには一人の少女、
詩之本秋穂だけが座っていた。自分の手を、姿を、きょろきょろと見る。
くるくる巻きにした髪型、手に持ったキューピットの矢。彼女は秋穂でありアリスでもある。
その後ろではツインがイェーイ!とハイタッチをする。

「ちょっと、何よコレ・・・」
立ち上がった秋穂が言う。目から涙をぽろぽろとこぼしながら。
「何よもう、海渡ったら。本っ当に奥手なんだから・・・」
私もだ、と心の中で想う。今の彼女にあるもの、それは海渡の自分に対する恋心と
現実に立ち向かう勇気。秋穂が知らなかったことをアリスが教え、アリスに無かったものを
秋穂が埋める。

 ひとしきり泣いた後、秋穂はみんなに向き直り、涙をぬぐって言う。
「ありがとう皆さん。私、帰ります!」
その言葉にさくらも小狼も、カード達も皆うんうんと頷く。

 一行は廊下を抜け、ドアをぎぃっ、と開ける。そして時計の館の外に出る。
0286無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:08:30.84ID:hf2calju0
ぱん、ぱん、ぱんっ!
とたんに鳴り響くクラッカーの音。秋穂も、さくらも、小狼も、紙テープや紙吹雪を
頭からいくつもかぶる。
「クリアおめでとーーーーっ!!」
そう叫んで紙吹雪の中を跳ねるのはモモだ。タキシードを着こんで杖を持ち、踊る。
そしてその後ろにも大勢の者たちが彼らを祝福する。それはさくらと小狼が生み出した
さくらカードの精霊たち、そしてこの『時計の国のアリス』の住人たち。
トランプの兵隊も、森で追われた狼たちも、ウィンディ、ウォーティ、ファイアリー、アーシーの
4大元素をはじめとするカード達も、みんな大喜びでこの達成を祝う。

「あははっ、みんなー、やったよーっ!」
さくらが喜んで手を振り返す。そんなさくらを見て負けじと秋穂も手を振る。
小狼は達成感と、その二人を見て思わず笑顔になる。
と、突然3人は背後から抱き着かれる。さくらをライトが、小狼をダークが、そして秋穂をホープが
抱きかかえて、みんなの上空に運ぶ。

「さぁ、胴上げの時間よ♪」
ライトがそう言った瞬間、3人は大勢の中に落とされる。無数の手に受け止められた3人は
そのまま何度も上空に放り上げられ、落とされる。
−わっしょい!わっしょい!わっしょい!−

 時計の国のアリス、その世界でのささやかなパレードが見る者を魅了する。
それはつかの間の祝福、救われた少女の、報われた少年の、そして新たな命を与えられた
精霊たちに対する、福音−
0287無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:10:02.21ID:hf2calju0
 宴は終わり、別れの時。

「ほぇ!カードさんたちみんな、この世界に残るの!?」
驚くさくらに、ウィンディが漂いながら髪をかき上げ、答える。
「この姿で『そっち』に行ったら大騒ぎでしょ?」
「この世界って面白いんだ!もっといたいし!」
ファイアリーが生意気そうにそう続ける。
「そっか、そうだよね・・・」
少し寂し気に返すさくら。
「あら、ずっとお別れじゃないでしょ?」
ライトに続いてダークが続ける。
「またいらっしゃい、この世界に。いつでも大歓迎よ!」
モモがそれに賛同し、語る。
「この本は貴方のそばに置いてもらって。いつでもピクニック気分で来ていいから〜」
その言葉にさくらの表情がほころぶ。

「じゃあ、いつでも会えるんだ。」
ニコッと笑う、みんなも笑顔を返す。
「この世界、こんだけゲストが来たら多分ガラッと変わるわよ〜」
モモの言葉に小狼が驚く。
「え・・・じゃあ、次はもっと難しくなってるのか?」
「そうかもね〜。ま、こうご期待ってことで〜」
そして秋穂に向かい、告げる。
「秋穂も来なさい、あの頑固者も連れてね〜」
その言葉に満面の笑顔を返す秋穂。
「うん!」

と、そのスキにホープがさくらと小狼に近づき、耳元で囁く。
「もしよければ、結婚式とか新婚旅行もこちらで。」
そのセリフにふたりがぼふっ!と赤面する。
 周囲の全員がクスクス笑う、微笑ましく初々しいカップル、カードだった者たちの
父親と母親の初々しさに。
0288無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:11:24.88ID:hf2calju0
「あ、あとこれ。」
未だ赤面冷めやらぬさくらに、ホープが銀色のネックレスをさくらの首にかける。
「ほぇ、これは?」
楕円形のペンダント部分には開閉のポッチがある。それを押すとふたつにパカッと開く。
しかし中には何もない、表面は鏡のように磨かれた銀色が、さくらの顔を映し出す。
「それを必要としている人がいます、その方に差し上げて。」
横からダークがそう語る。そしてホープとダークがすっ、と離れると、さくら達の足元から
1艘のボートが現れ、3人を乗せたまま宙に浮かぶ。

「では、お元気で。」
ライトがそう告げ、にこやかに手をあげる。それに対応して皆も元気よく手を振る。
「まーたねーっ!」
その瞬間、ボートは勢いよく上昇を始める。またたく間に小さくなっていくみんな。
さくらはボートの淵に乗り出し、みんなに手を振る、そして叫ぶ。
「絶対また来るから!絶対だよーーーっ!!」
小狼も秋穂も手を振る、そして叫ぶ。
「俺もまた来るよーっ!絶対にーっ!」
「楽しみに待っててねーーーっ!!」

 ボートは飛ぶ、アリスの世界を。
美しい平原、荒涼たる砂漠、広いお城、それらの景色をまるでエンディングロールのように
見せながら、魔法の絨毯のように。
 やがて景色が消え、白い世界に包まれる。音のない、色のない世界。
そこにあるのは、一つの言葉。

 −Fin−

 そして3人は、友枝町に、詩之本邸に帰る。さくらと小狼は本からまるで放り出されるように。
秋穂はその魂が、チェアーに眠る本体に宿るように−
0290CC名無したん
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2019/04/05(金) 13:21:25.54ID:9D1g2/090
劇2のみならず劇1までもぶっこんでくるとは…
もうこれアニメ化しよ?
0291CC名無したん
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2019/04/06(土) 17:38:43.83ID:kARdMGhh0
そういや劇1の占い師も本の中にいたんだよな
井戸の印象が強くて忘れてた。
0292CC名無したん
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2019/04/07(日) 22:07:23.43ID:2t3ZP2UQ0
>>290
脳内ではいつもアニメ化されてるんですがねぇw

さて、いよいよあと2話!最後までお付き合いください。

 どさ、どさっ!
閉じられたアリスの時計の本の横、突然空中からさくらと小狼が出現し、
そのまま尻もちをつく。
「さくら!」
「さくらちゃん、李君!」
「木之本さん、大丈夫?」
居並ぶ面々が二人を心配する。さくらはお尻を抑え、さすりながら立ち上がる。
「あいたた・・・あ、帰ってこれた!」
周囲はまだ薄暗い。日の出前の早朝、さくら達が本に突入してからほぼ半日。

 と、さくらの持っていた星の杖が光り輝く。しばらく光を発した後、そこから2筋の
光が分離し、ふたりの守護者が姿を現す。
「ケロちゃん、ユエさん!良かった。無事に戻れた!」
ふたりは一息置いて、さくらの方に向き直る。
「ああ、ま、さくらとワイの実力やったら当然やな!」
きっちりユエと小狼を抜いて自慢するケルベロス。その頭上に小さな光が灯る、
それはすぐに形を成し、ケルベロスの後頭部に落下する。
 
ごいんっ!
0293無能物書き(>>292また名前入れ忘れorz
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2019/04/07(日) 22:08:11.55ID:2t3ZP2UQ0
 不意打ちを食らって突っ伏すケロ。落ちてきたのは知世がモモに貸したビデオカメラだ。
「な、なんやワイ・・・こんなんばっかや。」
後頭部を抑えてごちるケロ。そのビデオを知世が回収して微笑む。
「これは視聴が楽しみですわ。」
そのセリフにはっ!と反応するケロ。
「しもた!ワイそん中でずっと杖やないかーっ!」
笑いに包まれる一同。ケロだけはさくらにもっかい行こうで、と無茶振りをする。

「そうだ、詩之本は!?」
小狼の言葉に、全員が一斉に秋穂の眠るアウトドアチェアーに注目する。
傍らでは海渡が心配そうにその表情を覗き込んでいる。
「起きません、眠ったままです。」
「そんな!どうして・・・」
 確かに秋穂の魂は戻ってきたはずだ。なのにどうして起きないのか、もしかすると
秋穂とアリスが合体したことが何か悪い影響を与えてしまったのか・・・?

 観月が秋穂をじっ、と見る。そして指を一本立てて、にっこり笑って言う。
「やっぱりここは、王子様のキスで起こすべきじゃないかしら?」
周囲が一斉にえっ!?という反応をする。お約束だけど、それで本当に?
 そういいつつも、周囲が海渡に注目する。
「え、私・・・ですか?」
「あんた意外に誰がいるのよ!」
苺鈴がぴしゃりと一言。他のみんなもうんうんと頷く。
0294無能物書き
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2019/04/07(日) 22:08:35.78ID:2t3ZP2UQ0
 みんなが注目する中、顔を赤らめた海渡が秋穂を覗き込む。彼女は穏やかに寝息を立て
無防備に唇を少し開けている。まるでキスされるのを待つかのように。
ごくっ、と生唾を飲み込み、一歩引く海渡。しかし後ろを見れば全員が『行け!』と
圧をかけてくる(特に女性陣)。
 はぁ、とため息一つついて、海渡が秋穂に顔を近づける。一同興味津々で注視する。
特にさくらと小狼は学芸会で身に覚えのあるシーンを思い出し、並んで赤面しながら
次の展開を待つ。
やがて海渡の顔が秋穂に重なり、唇が触れようとしたその時!

「あーーーっもう!、あなたたち、空気を読んで消えなさいよーーーっ!!!」
秋穂が突然叫ぶ、真っ赤な顔で。さくら達を見ながら、普段観ない怒りの表情で。
 その抗議に全員が、あっ、という表情をする。一息置いてばたばたと家の裏に引っ込む面々。
観月だけは笑顔で、ごゆっくり、という表情でひらひら手を振って退散する。
家の反対側に集まると、やがて一同は笑いをこらえきれずに吹き出し、大笑いする。
「あはははは・・・良かった。」
「起きてたんだ、やるわねー詩之本さん。」
「まぁ今回は撮影は控えておきましょう。」
ひとしきり笑い、さくらと小狼は顔を見合わせ、言う。
「良かったな。」
「うんっ!」

 朝日が昇る。詩之本邸を、海渡と秋穂を、黄金色の朝日が照らす。
やっと会えた、やっと戻ってこられた、ようやく気持ちが通じ合った。
魔法に翻弄され、紆余曲折を経た二人が今、唇を重ねる。澄み渡る朝日の中で−
0295無能物書き
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2019/04/07(日) 22:09:03.89ID:2t3ZP2UQ0
 テーブルの上に、海渡がお茶とお菓子を置き、皆を見て一言。
「本当にお世話になりました。みなさんのおかげです。」
「ありがとね、さくらさん、みなさん。」
秋穂も続く。アリスの時とは若干違った物言いに違和感があるが、これが本来の
秋穂なんだろうと皆が顔を見合わせて頷く。
 テーブルの傍らには『時計の国のアリス』の本。秋穂はそれを取り、さくらに差し出す。
「じゃ、これ。モモが言ってた通り、あなたに預けるわ。」
「いいの?」
「うん!ただしその中に行くときは声かけてよね。」
「もちろん!」
本を受け取り、胸に抱えて笑顔のさくら。この本の中にはカードさん達と、彼らが暮らす
世界がある。いつかまた行く世界が。

 柊沢エリオルが、ふとさくらを見て驚く。そして立ち上がり、言う。
「さくらさん!あなた・・・まさか!?」
「ほぇ?」
エリオルはさくらに近づき、手をかざして続ける。驚愕の表情で。
「魔力が・・・失われています。」
「「ええっ!?」」
皆が驚く。しかしケルベロスとユエだけは平静を保っている。ケロがさらに一言。
「さくらだけやない、小僧もやで。」
「え、あ・・・俺も?」
小狼が自分の両手を見て固まる。一息置いて宝玉を取り出し、精神集中するが
宝玉は光らず、剣も出なかった。
0296無能物書き
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2019/04/07(日) 22:09:35.51ID:2t3ZP2UQ0
 呆然として顔を見合わせるさくらと小狼。ふたりに手をかざし、海渡が告げる。
「完全に失ったわけではなさそうですね、普通の人なみの魔力まで落ち込んでいます。」
一体なぜ、という一同に、ユエが解説を与える。
「カード達に魔力を、命を分け与えたのだ、失われて当然だろう。」
え?という表情のさくらと小狼。逆に知世や苺鈴、なくるや観月は、あ、そうか、という表情。
「命を・・・与えた?」
「お気づきにならなかったのですか?」
「さくらと小狼の魔力を得て、あなたたちの子供になったのよ、あのカードたち。」
「「え・・・ええーーーーーっ!!」」
さくらと小狼の驚き声がハモる。なくるが「子だくさんね〜」とからかうと
おなじみ瞬間湯沸かし器のように居並んで赤面する二人。

「あ!ということは・・・」
エリオルがケロとユエを見る。彼らはさくらの守護者、さくらの魔力が糧であり、生命エネルギー。
特にユエは自分で魔力を生み出せない、さくらの魔力が失われれば・・・
「んー、ワイらか?心配ないで。」
ケロ(小)がお菓子を頬張りながら返す。ユエがそれに続く。
「主(あるじ)と李小狼の魔力で変化したのは、何もカード達だけではない、ということだ。」
言ってテーブルからチョコをひとつまみ取り、その口に放り込む。
「ふむ・・・『食べる』という感覚も悪くないな。」

 その光景を見てエリオルが固まる。引きつった表情で辛うじて絞り出す。
「ユエが・・・物を食べた!?しかも、エネルギーを魔力に・・・?」
「そのようだな、私もケルベロスと同じ、主の魔力に頼らなくても存在できるようだ。」
ユエが返す、そして立ち上がり、さくらと小狼の前に立つ。
「だが、本当に驚くのはここからだ。」
 ユエの言葉に体を硬直させるさくらと小狼。隣りではケロがむっふっふ、という顔をして
次の展開を待つ。
0297無能物書き
垢版 |
2019/04/07(日) 22:10:08.82ID:2t3ZP2UQ0
 ユエはふたりに背中を向け、体を青白く輝かせる。そして羽根を丸める。
それはいままで何度も見た、ユエが雪兎に戻る時のアクション。
だけど、今回はいつもとは違っていた。羽根はユエを包まずに、その背中の何もない空間を
包み込む。まるで背中に繭(まゆ)かランドセルでも背負うかのように。
 そして一層まばゆく輝くと、その羽根をほどく。その中にはひとりの青年、華奢な体。
端正な顔に眼鏡をかけた、さくらのよく知る人物。
「雪兎さん!」

「分離・・・した???」
次々起こる理解を超える現象に凍り付くエリオル。もともと表と裏の存在であるユエと雪兎が
別々の存在としてそこに立っている。もはやエリオルにいつものクールさは無く、引きつった顔と
頭の上のハテナマークが彼のキャラを完全に変えていた。

 雪兎は居ずまいを正すと、さくらと小狼に向けて一歩踏み出す。そしてふたりをじっ、と見る。
「雪兎・・・さん?」
「あ、あの・・・」
じっと見られて硬直するさくらと小狼。雪兎はふたりを見るその表情が、徐々に崩れていく。
そして雪兎は前方に倒れ込み、がばぁっ、とさくらと小狼に抱き着く。

「ありがとう、ありがとう・・・ありがとおぉぉぉっ!!」
突如、号泣する雪兎。ふたりも、周囲の人間もそのリアクションに固まる。ケロとユエを除いて。
「ほ、、ほえええっ!?」
「ど、どうしたんですか?」
雪兎は泣きながら、二人に言葉を紡ぐ。感謝の言葉を。
「僕は、僕は・・・人間になれたんだよ、ふたりのおかげで・・・ありがとう、ありがとうっ・・・」
「「えええっ!?」」
「ずっと・・・ずっと、コンプレックスだったんだ・・・僕が、人間じゃないことに・・・
子供の頃なんて無くて、僕のお爺さんとお婆さんなんて、本当はいなくて・・・」
0298無能物書き
垢版 |
2019/04/07(日) 22:11:26.71ID:2t3ZP2UQ0
 月城雪兎。クロウカードの守護者ユエの『表の顔』として、この世界にその存在を許された
偽りの存在。やがて来る『最後の審判』の為に、さくらのそばに居るための『作られた』存在。
 いつも明るく笑って、悩みなどおくびにも見せず、そこに居ただけの人形。
さくらの魔力が少なくなった時は、その存在さえ消えかけ、桃矢の力をもらってようやく存続を
許された希薄な存在。
 そんな彼の心の闇、それは人間への憧れ。ずっと決してかなわないと思っていた願い。
そんな彼の願いは、さくらと小狼によって叶えられた。カード達と同様『思い合う男女』の魔力によって
彼は人間としての肉体と、存在と、そして寿命を与えられた。

「あ・・・」
さくらは気づく。そんな雪兎の悩みに、そしてそれを解消してあげた自分たちの功績に。
「・・・よかった。」
さくらはかつて海岸で小狼に話したことを思い出していた。自分じゃ雪兎の力になれない、彼の悩みを
解決してあげられらい、そもそも雪兎は自分なんかに自分の悩みを見せたりしない。
 そんな自分が雪兎の願いを叶えられた、雪兎にいっぱいいっぱい大切なものをもらったさくらが
初めて雪兎に恩返しができた。そんな思いがさくらにその答えを返させる。
「私、ずっと思ってたの。雪兎さんには貰ってばかりで、なんにもかえせない。そんな自分は
やっぱり子供なんだ、って。」
「・・・え?」
「だから嬉しい。私が雪兎さんの役に立てたことが。」
0299無能物書き
垢版 |
2019/04/07(日) 22:11:55.71ID:2t3ZP2UQ0
「俺も同じです。」
小狼が雪兎にそう語る。雪兎はふたりから離れ、小狼の方を見る。
「貴方の泰然自若とした態度は、いつも見習うべき自分の手本だと思っていました。
そんな貴方のお役に立てたのなら・・・俺も、嬉しいです。」
 彼にはそういう見本とも言うべき人間がいた。李家の執事である偉(ウェイ)。彼はいつも
泰然自若としてにこやかな笑顔を絶やさなかった。だがそれは齢を重ねた彼だからこそだと思っていた。
 だが、小狼は自分とそれほど変わらない年齢でそれを成す人物に出会う。そう、雪兎だ。
桃矢との喧嘩を自然に止め、さくらへの思いにいち早く気付き、いつも笑顔で応援してくれた。
自分自身の存在のあやうさ、儚さを常に隠して明るく振る舞うその存在は、魔力の魅了を抜きにしても
小狼に『尊敬できる人間像』を見せてくれていた。

 雪兎は眼鏡をはずして涙をぬぐうと、さくらと小狼を交互に見つめ、もう一度言う。
「本当に、ありがとう。僕は今日、本当に生まれることが出来た。」
その言葉に笑って頷くさくらと小狼。今、二人ははじめて雪兎と同じ目線で相対できた気がした。

 ふと、雪兎はさくらの胸にかかるネックレスを見る。これは・・・
後ろにいる桃矢をちらりと見る。彼も雪兎が人間に慣れたことを喜んでくれている、
ただ、このネックレスは・・・
「ねぇさくらちゃん、そのネックレス、僕にもらえないかな?」
突然の雪兎の提案、彼がさくらに何かを求めるのは珍しい。ただ、このネックレスを
ホープにもらった時こう言われていたのを思い出す。

−それを必要としている人がいます、その方に差し上げて−
0300無能物書き
垢版 |
2019/04/07(日) 22:12:35.29ID:2t3ZP2UQ0
「いいですよ。」
さくらは笑顔でそのネックレスを外し、雪兎に手渡す。
「ありがとう!」
そう言ってネックレスを受け取り、ちらっと桃矢を見て笑う。桃矢は普段見せない思わせぶりな
雪兎の表情に、頭にハテナマークを浮かべている。

「ふぁ、さすがに徹夜は疲れたわ。帰って寝ましょ。」
そう提案したのは苺鈴だ。そういえば夕方からアリスの本に突入し、今は早朝。
みんな眠気も疲れもピークに来ている。
「そうね、幸い今日は日曜だし、ゆっくり休みましょ。」
観月の言葉で、その場は解散となる。と、苺鈴は桃矢と共に帰ろうとするさくらに尋ねる。
「ねぇさくら、これで本当に良かったの?魔力を失っちゃって。」
さくらはその言葉に笑顔で返す。
「うん、苺鈴ちゃんも言ってたじゃない。」
そう言って一呼吸おいて、力強くこう続ける。

「翼が無いなら走っていくよ、行きたいところまで!」
0301無能物書き
垢版 |
2019/04/07(日) 22:14:05.71ID:2t3ZP2UQ0
>>262
というわけで、54人目は彼でした。
いよいよ次回最終回、お楽しみに。
0302無能物書き
垢版 |
2019/04/07(日) 22:15:54.21ID:2t3ZP2UQ0
ぎゃあぁぁぁ・・・タイトル抜けてるorz
以下を>>292の冒頭に付けてください・・・やっちまったよw

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第26話 さくらと魔法の終わる日
0303CC名無したん
垢版 |
2019/04/08(月) 07:50:18.43ID:plozWfb20
いい話をありがとう👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨
次回で終わるのは寂しいけど楽しみにしてる
0304CC名無したん
垢版 |
2019/04/08(月) 19:12:34.97ID:wQQX4Se50
どんだけ愛があるねん...
雪兎とウェイが似てるとか普通気付かんやろ。
言われてみたらめっちゃ似てるし。
0305無能物書き
垢版 |
2019/04/12(金) 22:41:21.69ID:yhCs9aXY0
いよいよ最終回、私の妄想もここで打ち止めですw
読んでくれた人ありがとー。

「ふぅ・・・これでよろしいですかな?」
トントンと自分の肩を叩く初老の紳士、偉望(ウェイ・ワン)。その足元には、
まるでイモムシのごとく地面に突っ伏している者が4名、いずれも魔導士としては高位の、
紫や銀色のローブを纏った若者たち。
後ろ手に魔力による拘束の呪を手錠のようにはめられ、うつ伏せに倒れてその紳士を睨(ね)めつける。

 イギリスのロンドン、魔法協会本部。その地下の広い部屋、主に魔法の儀式や実験、
または実戦などの場として使われるスペース。
 その正面の机には、いかにも年経た魔法使いというい風貌の老婆が、やれやれとため息をつき
書類にペンを走らせる。、
「魔道具『夢の杖』および『輪廻の時計』を魔導士ユナ・D・海渡に譲渡した事を認む、と。
これでよろしいですね、ウェイ。」
その書類を差し出す老婆。
「結構でございます、ライマー・D・シュタイフィーネ会長。」
うやうやしくそれを受け取るウェイ。その光景に地面に倒れたひとりが怒りの声を上げる。
「か、会長!待ってください、そんなことを認めたら・・・」
0306無能物書き
垢版 |
2019/04/12(金) 22:41:59.13ID:yhCs9aXY0
「お黙り!」
老婆が一括して若者を黙らせる、杖をどん!と地面に打ち付け、続ける。
「自分から言い出しておいてそのザマは何だい!それでよく『D』の称号を名乗れたものだよ。」
ぐっ、とうめいて顔を伏せる若者、アイン・D・スティ。魔法協会の若き精鋭の一人であり、
最高位の『D』の称号を与えられ、次代のリーダーとして期待された人物。
 また、協会から魔道具を盗んだユナ・D・海渡を敵視する派閥の一人でもある、倒れている
他の3人も彼ら同様、海渡を断罪しようと敵視していた高位の魔術師。
 彼ら4人の魔力なら、後ろ手に拘束している呪などテイッシュのように破ることが出来るはずだ。
しかし今はそれが出来ない、ウェイに腕をひねられ、腕の腱を伸ばされ、体術で組み伏せられた状態で
仕掛けられた呪は、はずそうとする以前に腕がつって動かせず、痛みで魔力の集中もままならない。

 今朝がた魔法協会を訪れた来客、それは香港で名うての魔道の名家、李家の頭領の女性、李夜蘭と
その執事の老人ウェイ、そして夜蘭の弟子の王林杏とステラ・ブラウニーの4名。
 彼らが求めたのは、ユナ・D・海渡への敵対行為の終了と、そのために彼が盗んだ魔道具の所有権を
海渡に移すこと。むろんその真意は秋穂や、その友人である小狼やさくらに魔法協会との確執を
生まないための配慮。
 それは無論、海渡を敵視するアイン達には受け入れられるものではなかった。相手が香港を代表する
魔術師ということが逆に彼らに蛮勇を誘発する、自信家にありがちな自惚れ。
 魔術の世界は実力が全て、要求を通したいなら実力を示せ、我々と戦って勝ったなら
その要求を聞き入れてやろう、と自信満々に対決を挑んできたのだ、負けることなど微塵も考えずに。
0307無能物書き
垢版 |
2019/04/12(金) 22:42:32.34ID:yhCs9aXY0
 で、今この状況。4対4のはずが、最初に出てきたウェイに4人まとめてねじ伏せられて
あえなく要求は通されたわけである。
 隅のソファーには中国式の魔術の衣裳を纏った李夜蘭が無表情で鎮座している。
傍らにいる林杏とステラは出番が無い事にほっとしつつ、迂闊にウェイの相手を引き受けた4人に
同情の目を向けている。

「あ、あなた、一体何者なの?」
倒れている4人のうち唯一の女性魔導士がウェイに問う。それはせめて自分たちをこんな惨めな目に
合わせた人物が、それ相応の者であってほしいという慰め。
「わたくしは会長とは魔法学校(マジックアカデミー)の同期でしてな。」
そのウェイの言葉に、4人は少し溜飲が下がる気がした。この会長と同期の人物ならそれなりに・・・
「もっとも会長は首席で卒業されましたが、私は途中で強制退学でしたよ、魔力不足でね。」
 4人の表情が絶望に代わる。彼らもまたアカデミーを首席や次席で卒業した優等生であり、
その自負もある。それがはるか昔とはいえ、魔力不足による落ちこぼれ相手にこの体たらくとは。

 彼らは知らない。かつてウェイがその結果にどれほど屈辱を感じ、どれほどの努力と研鑽を経て
今の強さを身につけたか。魔法で足りない分を鍛えた肉体や技、心理学や洞察力で補い、
悔しさをバネにしてここまで上り詰めたのかを。そういったことを理解するには、4人はまだ若かった。
 そしてそんな彼の経験が、クロウカード争いに敗れた小狼を立ち直らせ、魔力を持たない苺鈴の
良い指針となったのだ。
0308無能物書き
垢版 |
2019/04/12(金) 22:43:02.37ID:yhCs9aXY0
「(まぁ、あの子たちにはいい薬になったでしょう、感謝しますよ)」
会長がそっとウェイに耳打ちする。最近の彼らの増長ぶりには彼女も手を焼いていたらしい。
ウェイは微笑みで返すと、夜蘭に向き直り、報告する。
「では奥様、終わりました。御足労をかけて申し訳ございませんでした。」
うやうやしく一礼するウェイに対し、無表情ながら少し嬉しそうな色を浮かべ、立ち上がる夜蘭。
その横で林杏とステラが何かに期待する眼差しでウェイを見る。それを察してウェイが続ける。
「どうですかな、せっかくイギリスまで来たのですから、みなさんで見聞を広められては。」
 要するにせっかく来たのだから観光していこうと言うことだ。夜蘭は手持ちの扇子を口に当て
やれやれ、という表情で告げる。
「いいでしょう。」
やった!と飛び跳ねる林杏とステラ。

 部屋を出る直前、ようやく枷を外し立ち上がったアインがウェイを呼び止める。
香港に帰る前にもう一度勝負しろ、と食ってかかる彼の要求を、ウェイは笑顔で了承した。
3日後、再勝負でも全く歯が立たず、再びねじ伏せられるアイン達。
 後に彼らはウェイに弟子入りし、自らを鍛えなおす。そして27年の後にその実力をもって
人々の知らない世界の危機を救う英雄になるのだが、それはまた別のお話。
0309無能物書き
垢版 |
2019/04/12(金) 22:43:36.37ID:yhCs9aXY0
 季節は流れ、冬。
友枝町にもちらちらと雪の舞い踊る、そんな寒い日のこと。

「おーい桃矢ー、こっちこっちー」
オープンカフェに立つ雪兎が手をぶんぶんと振り、親友を呼ぶ。そこに小走りで駆けてくる桃矢。
「どうしたぁ?ユキ、いきなり呼び出して。」
またなんか企んでるのか?といった表情で雪兎を見る桃矢。
「うん、紹介したい人がいるんだ、桃矢に。」
「紹介したい奴・・・?」
いぶかしがる桃矢。と、彼は雪兎の後ろに隠れている人間に気が付く。雪兎にひしっ、と
しがみ付く少女に。
「うん、ぼくの妹!」
「はぁ!?」
雪兎に妹?そもそもこないだ人間になったばかりの雪兎に肉親はいないはずだが・・・
いぶかしがる桃矢の前に、雪兎は後ろの少女の背中を押し、立たせる。
「ほら、挨拶して。」

 その姿を見て桃矢が、げっ!と固まる。大人しそうな整った顔立ち、緑がかった長い髪には
見覚えある赤いリボン。
「月城、鏡(つきしろ、かがみ)と申します、はじめまして、桃矢さん・・・」
顔を赤らめながら頭を下げる鏡。桃矢は頭を抱えて特大のため息一つ。
「はじめまして、じゃねーだろ・・・」
 どこからどう見ても彼女はクロウカード改め、さくらカードのミラー(鏡)だ。
彼女だけは本の中で生きていくことを選ばなかったらしい。よく見れば、さくら達が本から
帰ってきた時に持っていたネックレスを首に巻いている、どうやらペンダント部分に
化けていたようだ。
 どーすんだよこれ、といった表情で雪兎を見る桃矢。
0310無能物書き
垢版 |
2019/04/12(金) 22:44:02.92ID:yhCs9aXY0
「まぁ、これからいろいろ大変だから、協力よろしくね、桃矢♪」
桃矢が見抜いてることを見越した上で理解を求める。彼女は普通の人間ではない、さくらが
ケロを隠して居候させてる苦労を桃矢も請け負うハメになりそうだ。

 と、雪兎のスマホが鳴る。電話を取って二言三言話し、切る。
「ごめん桃矢、急用ができたから、あとよろしくねー。」
そう言って名前のごとく脱兎する雪兎。とりつくシマも無くふたりきりにされてしまった。
 今の絶対嘘電話だろ、と毒づく桃矢の横で、 鏡は人差し指を胸の前でちょんちょん合わせて
桃矢のアクションを待っている、赤い顔で。
桃矢はやれやれ、という顔をしてひと息つくと、鏡の頭にぽんっ、と手を置く。
「んじゃ、そのへん散歩でもすっか。」
「は・・・はいっ!」
嬉しそうに桃矢を追いかける鏡。桃矢はまたややこしい事態になりそうだ、と頭をかく。
 
 でもまぁ、それも面白いかもしれない。
0311無能物書き
垢版 |
2019/04/12(金) 22:44:38.37ID:yhCs9aXY0
 ホールに響く美しい合唱の声。春の音楽発表会、現在は友枝中学コーラス部の演唱中。
歌の区切りの部分で一人の少女が前に出る、そしてそこから切なく、悲しい歌詞を紡ぐ大道寺知世。
彼女のソロが終わるころ、入れ替わりにひとりの少女が前に出る。そして前任の悲しい歌から
まるで立ち直るような力強さで歌い上げる、人間の強さを感じさせる声量、歌詞で。

 詩之本秋穂。かつてこの体を奪っていたアリスが入部したコーラス部、本人はむしろ運動系の
部活に入りたかったところだが、入ってしまったものは仕方ない、やるなら徹底的に、と考えた彼女は
先輩の米田歩や、その母で吹奏楽部顧問の米田先生(元オペラ歌手)に師事し、歌唱力を
鍛えに鍛えていった。その結果、まだ2年にして知世と双璧の戦力として抜擢されるほどになる。

 その歌を観客席の最前列で聞きながら、じんわりとした感動を噛みしめるユナ・D・海渡。
彼女は帰ってきた。自分の恋心を受け入れてくれた、アリスと共に。
そして昔から変わらぬその行動力で毎日をたくましく生きている。その歌唱力、コミュ力、
そしてそれを生み出す人間力。
「魔法具?そんなちっぽけなもので括るような人じゃないですよ、秋穂さんは。」
ヒザの上に乗せているウサギのぬいぐるみに語る。ねぇモモ、と。

 やがて合唱が終わる。万雷の拍手が会場を包む、海渡は席を立ち、帰途に就く。
彼女の為においしい紅茶を淹れる為に。そして話そう、今日の合唱の事を。
二人きり、で。
0312無能物書き
垢版 |
2019/04/12(金) 22:45:07.17ID:yhCs9aXY0
『次は友枝中、チアリーディング部による演技です!』
 夏の日差しが照り付けるグラウンド、さくら達チア部のメンバーがフィールドに出る。
フィールドの外には、ユニフォームを身にまとった友枝中ラクロス部の一同が拍手する。
その選手のひとりをちら、と見るさくら。昨年冬から入部した小狼がそこにいる。目が会い、微笑む。
よし、出番だとテンションを上げるさくら。すぐ横では千春が同じように山崎を見て
にこっ、と笑顔を見せる。

 中学生ラクロス関東大会決勝のハーフタイムを使った応援合戦、先に対戦相手の頼位南中の
応援が終わり、友枝チア部の番が来た。
 昨年のラクロス全国覇者である頼位南中に前半1点ビハインドで折り返している友枝ラクロス部。
去年はワンサイドゲームで惨敗した相手に、ここまで善戦できている要因の一つが、抜群の運動神経と
格闘技経験を生かしてフィールドを駆ける新戦力、李小狼の存在であった。
決して大きくないその体躯で、巧みに小回りを利かせディフェンスをすり抜け、ポイントゲッターの
山崎たちに的確なパスを出す。その活躍は見る者にとって、さくらならずとも輝いていた。

 特別な力を持つがゆえに『仲間と競い、共に戦う』ことが出来なかった小狼。しかしアリスの
本の世界で魔力を無くした小狼は、その枷を外された。彼は魔力と引き換えに『少年の青春』を
手に入れることが出来たのだ。
 そして今、さくらはそんな小狼に勇気と応援を送るため、フィールドに立つ。
魔力を失ったさくらは、もうその魔力で他人を魅了する心配はない。小狼を、友枝中ラクロス部を
奮い立たせるのは純粋な自分の、自分たちの演技。

 小狼君が頑張っている、そんな小狼君に何かをしてあげられる、そんな誇りと嬉しさを胸に
さくらは踊り、舞う。夏の太陽に汗をきらめかせて。

−フレー、フレー、ト・モ・エ・ダッ!−
0313無能物書き
垢版 |
2019/04/12(金) 22:45:35.12ID:yhCs9aXY0
「で、結局負けたんかい。」
『まぁ仕方あるまい、相手は全国屈指の強豪だ。李小狼が入ったからと言って、劇的に
差が埋まるものではないだろう。』
 ケルベロスとユエがノートパソコンの画面を通して話している、さくらが留守の時は
わりとお馴染の日常。
以前と違うのは画面の向こうでユエが茶菓子をつまんで食べていることだ。こっち側の
ケロも負けじとクッキーを頬張って返す。
「しっかしお前、そんなに食って家計は大丈夫なんか?ゆきうさぎもめっちゃ食うのに・・・」
『ああ、鏡(かがみ)が食べ物を倍に増やしてくれるので問題はない。』

 その言葉にぶふぉっ!とクッキを吐き出すケロ。
「なんやてぇ、それはズルいで!つかワイにもちょい寄こせや!」
赤いおはぎを頬張るユエに抗議するケロ。どうも木之本家は洋菓子がメインなので、
和菓子メインの月城家のおやつが美味しそうに見えて仕方ない。

 そんな講義をさらっと流して、お茶をすすりつつ続けるユエ。
『で、主(あるじ)は今日、李小狼と逢引きか。』
「普通にでーとって言わんかい!まぁ小僧も大会が終わって部活も休みやし、ええんちゃうか?」
『そうか・・・』
それだけ言って茶を飲み干し、ふぅ、とひと息ついて遠くを見るユエ。
「なんや、いきなりたそがれてからに。」
『いや・・・主が魔法を使えなくなって、我らの日常はこのままこんな感じでずっと続くのかと
思ってな。』
0314無能物書き
垢版 |
2019/04/12(金) 22:46:04.00ID:yhCs9aXY0
「なんや、そんなこと心配しとったんかい。」
その言葉に無言でケロを見返す、画面越しに。
「ええか、さくらは運命に導かれてワイと出会うたんや、そして様々な経験や出会いをして
立派なカードキャプターになった。」
一度言葉を区切って、こう付け加える。

「その『縁』が、そーかんたんに切れると思うか?」
『・・・どういう、ことだ?』
「さくらの魔力は完全に無くなったワケやないやろ。今はまだ普通の人並みやけど、いつかまたさくらは
魔法を使い、カードを追いかけるようになる!あの本も、中のカード達も待っとるコトやしな。」
 後ろ手に指さす先、引き出しの中の2冊の本、クロウカードの本と時計の国のアリス。
そこにはカード達との約束、いつかまた会う、その為には魔力が必要なのだ。
さらにその際にある数枚の透明な『クリアカード』。彼らもまた、主の復活を心待ちにしているのだから。

『なんだと!それは・・・いつのことだ!』
守護者として聞き捨てならないその話に、思わず声を荒げるユエ。」
「さぁな、それはワイにも分からん。もしかしたら明日かもしれんし、50年先かもしれん。
それでも必ずその時はくるで。なんつってもさくらは・・・」


 −カードキャプターさくら、やからなぁー



カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

最終話 さくらと小狼と魔法と、そしてこれから
0315無能物書き
垢版 |
2019/04/12(金) 22:55:12.80ID:yhCs9aXY0
以上、お付き合いいただきありがとうございました。
最終話でウェイがいい仕事をするのは「さくらカード編」からの伝統ですw
0316CC名無したん
垢版 |
2019/04/12(金) 23:19:12.33ID:a2Wz3juq0
素晴らしいお話をありがとうございました…!!
世界中のCCさくらファンにすごくいい二次創作がここにあるぞー!と叫びたいところだけどやめときます
0317CC名無したん
垢版 |
2019/04/13(土) 00:55:54.30ID:g2oDJUSH0
さくらカード編最終話みたいにダイジェストが流れていくところまで見えた
大変に読み応えのあるSSでした
素晴らしい作品をありがとう

SS界のDの称号を進呈するんで、スピンオフで27年後のエピソードもよろしくw
0318CC名無したん
垢版 |
2019/04/13(土) 19:54:50.90ID:TFnKB0Ll0
完走乙でした。
もういちど最初から一気読みしてみたけど、ホント凄いなこれ。
ちゃんとクリアカード編の流れから続いて、旧作のエピソードもいっぱいあって
伏線をあちこちに張ってきっちり回収、起承転結もしっかりしてて

何より評価したいのは、きっちり完結させてること。
こういうSSって、たいていは未完で終わるんだよなぁ。
書く人が飽きたり、収集がつかなくなったりして。

無能物書きさん、っていう名前からして、もしかしてプロの方?
別作品とかあったらぜひ見たいです。

>>316さん
いや叫ぼうよw作者さんもとりあえず小説投稿サイトとかに
投稿してみたら?
0320CC名無したん
垢版 |
2019/04/14(日) 11:05:05.41ID:ipGE6uU+0
>>319
何故ここに貼る?
酷い絵なのに上手いのがまたアレだな。
画像スレ立てれば?
0321無能物書き
垢版 |
2019/04/14(日) 19:26:08.17ID:HUQnSvDW0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

おまけ ケロちゃんにおまかせ

こにゃにゃちわ〜!みんな元気にしとったか?
さて、SS「魔法の終わる日」最後まで見てくれてありがとな〜。
ここからは作者を代弁して、わいが作品や作者について語ったるでぇ!
ん、そんなんいらん?まぁそんないけず言わんと、物書きっちゅうのは書き終えた後
そんなことを色々語りたがるもんや。

 まぁ多くの人がアニメ「カードキャプターさくら・クリアカード編」に対して
物足りなさっつーか、消化不良を感じたと思う、作者もそんな奴の一人なんや。
2クール作品にしては進行ゆっくりやな〜と思っとったら、結局最終話でもなんも明かされず
「え、これでクリア編終わり・・・終わり?」って、どっかの金持ちみたいな感想を持ったと。
 旧作の時代やったらまぁ、二期に期待するところやけど、今の時代に放映枠をそんな贅沢に
取れるかっちゅーと正直望み薄やし、原作「なかよし」の進行に期待するしかないかと思たんや。

 ただ作者は妄想癖っつーか、「不満なら自分が続きを考える」っていう身の程知らずなトコあって
それで他の板とかでもSSを投稿したことがあったんや。
ただ、この板にはSSスレが無かったもんで、前にあったスレ「さくらと小狼でお泊り」で
いくつかSSを試し書きした後、このスレを立てて>>2->>14で試運転をやって、手ごたえ感じたもんで
>>40からこの「魔法の終わる日」の連載を開始したんや。

 基本コンセプトはクリアカード編のOPにある歌詞「翼が無ければ走っていくわ行きたいところまで」
を軸に、アニメのクリア編の続きに旧作のエッセンスを存分に織り込んで、さくらと小僧の成長を
描こうっちゅう狙いやった。
0322無能物書き
垢版 |
2019/04/14(日) 19:26:39.29ID:HUQnSvDW0
 特に力が入ったんは11話やな。前半はこの話にこぎつける為に書き続けたと言ってええわな。
この話だけで旧作のエピソードがいくつも入っとるで。特に小僧の「空白の夏休み」は
作者的にうまく作れたエピソードやと思っとる。ちゅーもしたし、その後で小僧が
自分の弱さを好きな人に告白するのは、仲を深めるためのええ話やと思うやろ?(ドヤ顔)

 そこを境に、秋穂や海渡の謎に迫ることになるんやけど・・・いかんせん作者の頭では
CLAMP様の発想に及ぶワケないし、全然先が読めんかったんや。
せやからこの辺は自由にこの二人の設定を立てたで、まぁどの二次創作を調べても
あの秋穂が偽物だったなんてゆー話はお目にかかれんやろなぁ、さすが作者、ひねくれとる。
 あとはアリスやから、やっぱ本に入るイベントは必要不可欠やな。ちなみに中で秋穂とアリスが
チェスをしとったんはCLAMP様作品「鏡の国の美幸ちゃん」のパロディやけど、気ぃ付いたか〜?

 前述の通り作者は以前にも別板でSS書いたことがあったし、昔はホームページも持っとった。
ただプロっちゅーワケやない、そもそも作者の文章で金が取れたら苦労はせんわな、あくまで趣味や。
 アニメ違うけどもし興味があったら、作者の別作品も見てくれると嬉しいで、ここに保管されとるで。
https://wikiwiki.jp/arte/オリジナル主人公
こっちでのコテハンは「三流F職人」や、3作品を書き上げとるで。宣伝スマンな〜。
0323無能物書き
垢版 |
2019/04/14(日) 19:27:05.38ID:HUQnSvDW0
 こっからは場を借りてレスしていくで。
>>316
そう叫びたいと思わせるだけでも書いた価値あるで〜、ホンマありがとな。
>>317
常にアニメ化した情景を意識して書くんで、そう言ってもらえて光栄や。
ただ、アイン達の話は正直まーーったく考えてへんで!(威張る)
>>318
わざわざ読み返して貰えるとは光栄の極みやで(感涙)・・・
調べてみたけど、ハーメルンとかに投稿してもええかなって思っとる。
スレがいつ落ちるかわからんしなぁw

 ま、そんなワケや。ここまで長々と付き合うてもろてありがとな。
あとこのスレ、意外に作者以外に書く人がおらん、遠慮せずどんどん投稿したってや〜。

ほな、また!(ぇ
0324CC名無したん
垢版 |
2019/04/15(月) 00:47:12.97ID:jFa0G6MI0
自分も11話好きだな
最終話で偉がどれだけ苦労したのかも明かされて、さらにいいエピソードになったと思う
てか、こんなにいいSS連載されてたら横入り無理っしょw
0325CC名無したん
垢版 |
2019/04/15(月) 18:05:17.47ID:mpqMNw6X0
>チェスをしとったんはCLAMP様作品「鏡の国の美幸ちゃん」
うわ懐かしいwマリ姉が声やってたアレだ
0326無能物書き(三流FLASH職人)
垢版 |
2019/04/15(月) 23:45:02.00ID:GlOvbeKO0
というわけで小説投稿サイト「ハーメルン」に
投稿開始しました、掲載サイトへの報告義務があるらしいので。
よければあっちにも感想下さい(アツカマシイ
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