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【妄想を】CCさくらSSスレ【垂れ流せ】

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0001CC名無したん
垢版 |
2018/11/06(火) 20:56:10.87ID:dLExxYrD0
カードキャプターさくらのSSを投稿するスレです。
書式、構成等の上手下手は問いません、好き勝手に書きなぐりましょうw
ただし来た人が引くようなエログロは勘弁な。
参考スレ
【禁断】小狼×知世をひっそり語るスレ【村八分】
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/sakura/1523196233/l50
0137無能物書き
垢版 |
2019/02/25(月) 00:47:06.82ID:MNoq0k+G0
感想忘れてどーするw
>>133
私なりの見解ですけど、雪兎に対する「好き」は、アイドルや王子様といった
女の子の「憧れ」を具現化したものだと思ってます。気に入ってもらえて何より。
>>134
ありがとうございます。世に出るとすさまじい勢いで叩かれるのは目に見えてますので
ここでひっそりとやっていきたいと思ってます、こういう時、過疎板は便利ですw
>>135
私自身も「アニメ・クリアカード編」の消化不良にアレ?と思ったクチですから。
少しでもそれを補完できるストーリーを目指してはいます。おこがましいですが・・・
0138CC名無したん
垢版 |
2019/02/25(月) 08:59:54.73ID:8C4uf4hZ0
>>136
全然上手いじゃんか!
続き楽しみにしてるけどマイペースでええでー
0139CC名無したん
垢版 |
2019/02/26(火) 19:22:54.68ID:WsUzTmyD0
絵まで書いちゃうなんてすげえ
0140無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:17:45.76ID:16GnSLmW0
>>138-139
あんがと。受け入れられて良かった。ドン引きされたらどうしようかと・・・
そもそも「こにゃにゃちわー」を忘れてるよ俺orz

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第12話 さくらと部活と新学期

『それでは次に、夏休み中のクラブ活動、成績優秀者の発表を行います。』
始業式、友枝中体育館において、校長の長〜い話の後、そうアナウンスされる。
壇上に上がる4人の男子生徒、そのうちの一人は、さくらもよく知る人物。

「男子ラクロス部、関東大会準優勝、よく頑張ったね、おめでとう!」
校長先生直々に、賞状とトロフィーが手渡される、主将と副主将がそれぞれを受け取る。
「また、壇上の4名は本大会において、優秀選手賞も受賞しました。」
さすがに『最優秀選手賞』は優勝チームに持っていかれたが、それでも全10名の
優秀選手賞のうち、4つを友枝中チームは獲得していた。
「和田祐樹主将、立原昇副主将、藤田正和君、そして、山崎隆司君、おめでとう!」
4名にそれぞれ賞状が渡される。それと同時に体育館に拍手が沸き起こる。
 中でも注目を集めているのは、一年生にしてレギュラーとして活躍し、チームを
決勝まで引っ張った一人として認められた山崎だった。
『それでは次、夏休み期間に行われたなでしこ祭の・・・』
0141無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:18:28.99ID:16GnSLmW0
 お昼休み、いつもの面子でいつもの中庭、お弁当を広げつつの話の話題は
やはりラクロス部に所属する山崎が中心になる。
「なんかねぇ、ボクの顔を見た相手選手が油断するみたいなんだよ・・・マークも全然されないし。」
不本意そうな顔でそう語る山崎。
「まぁ、緊張感や闘志とは無縁な顔してるもんね、山崎君は。」
「おかげで『友枝中のステルス戦闘機』なんてアダ名が付いてるのよ。」
奈緒子の感想に、千春が解説を入れる。男子ラクロスはフィールド球技と格闘技の
両方の性質を持つ。当然選手は皆、ヘルメットの中で厳しい表情を見せる。

 そんな中、山崎ののほほんとした表情は、どこか緊張感や警戒感を薄れさせる
効果があったようだ。
元々日本ではあまりメジャーでない競技、関東大会でもチーム内に1〜2名は
初心者がいるチームも珍しくない、山崎もまたそういう目で見られ、実際初心者でもあった。
 しかし彼の身体能力は並ではなかった。長身に加え瞬発力、持久力に優れた彼は
小学校時代からスポーツイベントでは多くの活躍を見せていたほどの実力があった。
 試合が進み、相手チームが山崎をマークするころにはもう手遅れであった、
序盤で点数を稼ぎ、逃げ切る友枝中のスタイルは、万年1回戦負けの友枝中を
決勝まで進出させるに至ったのだ。
「はぁ、おかげで目標だった『落語研究会』の創設が・・・」
「作らなくていいわよ!」
折角カッコよくなった山崎が、また笑いの世界に走ってはかなわないとツッコミを入れる千春。
0142無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:19:02.51ID:16GnSLmW0
「でも次からは警戒されるだろうし、戦力補給が急務なんだよね、ウチの部。」
言って山崎はちらりと小狼の方を見る。
「ここに一人、格闘技と球技が得意そうな、有望な人材がいるんだけどねぇ〜」
その言葉に全員が小狼に注目する。
「い、いや・・・俺は駄目だ。やらなきゃならない事があるからな。」
その小狼の言葉にがっくりと肩を落とす山崎、そして、さくら。
「前にもおっしゃってましたわよね、まだその御用は終わらないのですか?」
秋穂が訪ねる。もう二学期なのに、と心の中で付け足して。
 その隣で知世が優しい眼差しを向ける、彼の最重要の用事は、さくらの事であることは
間違いないと確信をもっている、さらっと言葉でその背中を押す知世。
「李君がラクロス部に入部したら、きっと優勝も夢ではないですわ、そうすれば
さくらちゃんの応援もますます可愛くなること請け合いですわね♪」
あ、そっちなのね。という表情で知世を見るさくら。知世にとっての最優先事項も
やっぱりさくらのようだ。

「さて、ラクロスって言うのはねぇ・・・」
満を持して山崎の解説が始まる。例によって真剣な表情で聞き入るさくら・小狼・秋穂。
始業の予鈴が鳴る頃には、千春のツッコミの声と音が中庭に響き渡る。
「本職がもっともらしい嘘を教えるなーっ!」
−すっぱあぁぁぁん!−

 放課後、チアリーディング部は2学期最初の活動を迎えていた。
その内容は『3年の引退式と引き継ぎ』である。3年生は来年の高校受験に備えて今日で引退、
短い間だったが、お世話になった先輩との別れを惜しむさくら達。
新たなキャプテンも決まり、新体制のチア部発足となる。終わりに3年生から最後の演技を
披露される、なでしこ祭でも見た先輩たちの見事な演技、その技術を、精神を、
さくらたちは受け継いでいく、自分たちが卒業する時、後輩に渡すその時まで。
0143無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:19:33.98ID:16GnSLmW0
 下校中、さくらは充実感を感じていた。部活動に所属するという事の自覚と責任、
人とつながり絆が生まれる、多くの仲間と一つの目標に向かって邁進する、
喜びも悲しみも分かち合う、そんな仲間たちとの青春の1ページ。

「さくら!」
ふと我に返る、目の前に私服姿の小狼が立っている。
「あ、小狼君!」
「今帰りか、お疲れ様。」
小狼は買い物袋を下げている、例によって夕食の食材の買い出しの帰りにばったり
部活帰りのさくらと遭遇したわけだ。
「送っていくよ。」
そう言う小狼に笑顔で返す。
「うん!」
思わぬ幸運にさくらの顔もほころぶ、帰宅までのわずかな時間、一日のおもわぬご褒美。

「ねぇ、小狼君。」
「なんだ?」
「やっぱりまだ、部活とかは出来ないの?」
自分が今味わっている充実感、出来れば小狼にも体験してほしかった。
そんな彼の行動にブレーキをかけている原因が、自分だとうすうす気づいているから尚更だ。
「ああ。でも『まだ』じゃなくて・・・俺は、部活動をする気は、ない。」
「どうして?」
不思議そうに見上げるさくら。小狼はさくらの正面に向き直り、こう言った。
「俺には、魔力があるからな。」
「・・・え?」
0144無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:20:02.17ID:16GnSLmW0
 理解できない、といった表情で小狼を見るさくら、それを察して小狼が続ける。
「例えば、俺がラクロス部に入ったとして、試合で魔法を使って勝ったとしたら、どう思う?」
さくらはありえない、という表情で返す。
「もちろんダメだよ、それに小狼君はそんなこと絶対にしない!でしょ?」
「じゃあ、俺が全力を出さずに、手を抜いたプレイをしたとしたら?」
「それも絶対にないよ、だって・・・だって小狼君だもん!」
自信を、いや確信を持って言える。さくらの知る李小狼という人間に、そのどちらも当てはまらない。

「今、俺が言ったふたつの仮定が、矛盾していることに気づいたか?」
「ほぇ?」
理解が追い付かず、ついつい口癖が出るさくら。
「なぁ、さくら。全力、ってどういう字を書く?」
「全ての力を使う、でしょ・・・あ!」
全ての力。それはその人間の持っている力をさす。運動神経、頭脳、筋力、センス、
そして・・・小狼やさくらにとっては『魔法』も力の一つであることに違いは無い。

「魔法を使わなければ、俺は全力を尽くしていないことになる。かといって魔法を使えば、
勝負にすらならなくなってしまう、相手も仲間も、彼らのしてきた努力すら無駄にしてしまうほどの
反則な力・・・そんな力がある俺が、みんなの競技の邪魔をする訳にはいかないんだ。」
「そんな・・・小狼君、真面目すぎるよ!」
反論するさくらに、小狼は悲しい目をして告げる。
「『特別』な力を持つっていうのは、そういう事なんだ。」
0145無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:20:35.49ID:16GnSLmW0
「俺は香港でいる時、学校で魔法を使った事があるんだ。」
小狼は話す。彼の家が香港で有名な魔術の家で、あちらでは日本より魔法の存在が
信じられている事、そんな中、学校に起こった魔法による災い、魔力を持った低級な霊が
クラスメイトを傷付けようとして、とっさに魔法を使ったこと。
そしてその一件以来、小狼が学校で孤立してしまったこと、まだ小学2年生の時の話だ。
恐れられ、特別視され、羨ましがられる。幼いクラスメイトにとって、その力が小狼にあって
自分たちに無いことは、受け入れがたい不公平であった。

「よくケンカを仕掛けられたよ。俺が負けたら『魔法を使えよ、手を抜くな』って言われて
勝ったら『魔法使ったんだろ!』って言われる。ケンカだけじゃない、体育の授業でも、
ずっとそうだった。」
さくらは言葉もなく小狼を見ていた。そして初めて日本に来た頃の彼を思い出す。
不愛想で、余裕が無くて、いつも張り詰めている。初めて桃矢と合った時、ためらわずに
ケンカをする姿勢を取った小狼。それは彼の香港での日常をそのまま映していたのだ。

「俺は、日本が、友枝町が好きだ。」
そう言ってようやく笑顔を見せる小狼。
「だから、この日本での日常を壊したくない。俺は、怖いんだ。魔法を使って恐れられることが、
魔法を使わずに、全力を出さなかったことが仲間に知られることが・・・だから、部活は出来ない。」
「・・・そう。」
さすがにしょんぼりするさくら。小狼の境遇ももちろんだが、そんな彼に対して何もしてあげられる
事が無いことが悲しかった。この前、海で「力になりたい」と言ったばかりなのに・・・
0146無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:21:04.96ID:16GnSLmW0
 その瞬間、周囲が闇に包まれる。夕焼けの通学路は一瞬にして漆黒の闇へと姿を変える。
「さくら!」
「小狼君!これって一体・・・」
と、さくらは思い当たる気配があった。今年に入ってから経験してきた不思議な現象、さくらだけが
感じられる魔力の気配と、それを固着することによるカードの入手。
それに気づいた時、どさっ、と地面に人が倒れる音。小狼が地面にうつぶせに倒れ、
苦しそうな表情をさくらに向ける。
「小狼君っ!!」
駆けつけるさくら。小狼を抱きかかえようとするが、小狼がそれを制する。

「いいから・・・カードを、封印、するんだ。」
小狼には既視感があった。これは、何者かに魔力を封じられている状態、急速に眠気が襲ってくる。
かつて柊沢エリオルと対峙した時に感じた、魔力封印の圧。
「俺にかまうな、カードを封印してしまえば、元通りになる・・・」
「分かった!待ってて小狼君!」
闇に向き直り、首に下げている夢の杖を取り出す。
「レリーズ!」
杖をかざし、構える。目を閉じ、闇の中で気配を探る。いる!
「主無き者よ!夢の杖のもと・・・って、速い!」
気配は縦横無尽に動いている、闇の中で。とても姿の見えないさくらがピンポイントで
固着できる状況ではなかった。

「なんとか動きを止めないと・・・」
そう嘆くさくら。その声を聴いた小狼は、ひとつの方法を思いつく。が、それを実行するのは
不可能であった。魔力が失われている自分にそれをする術はない。
体を起こそうとして、力が入らず転がる。その勢いでさくらの反対方向に向く小狼。
「あ・・・」
さくらの反対側、闇の向こうにうっすらと景色が見える。さっきまで歩いていた通学路、
この闇は、さくらに近づくほど濃くなっている、ということは・・・。
0147無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:21:33.35ID:16GnSLmW0
 力を振り絞って、体を横に転がし闇の外を目指す。やがて闇から転がり出る小狼。
それと同時に、彼は何事もなかったかのごとく体力と、そして魔力が戻っていることに気づく。
 この空間は、魔力を『奪う』んじゃない。魔力を『封じる』空間なんだ。
目の前にあるドーム状の闇を見据えて立ち上がる、これなら出来る、さくらの力になれる。
 小狼は魔力を開放し、宝玉のついた剣を取り出す。その宝玉に封じられている精霊から
最高位の一体を呼び出す。
「闇を照らせ、ライト(光)!」
今度こそ小狼の魔力は急激に失われていく。クロウ・カード改めさくらカードの中でも
ケルベロス配下第一のカードであるライトの発動は、小狼の魔力を容赦なく奪っていく。

「固着(セキュア)!セキュアっ!」
闇の中、気配を頼りにな何度も夢の杖を打ち据える。しかし目標には命中せず、さくらの杖は
むなしく空を切り続ける。早くしないと小狼君が・・・
 その瞬間、さくらの頭上に太陽のような光球が出現する、それは瞬く間に拡大し、さくらの周囲を
明るく照らし出す。その中にいるのはさくらともう一人、ローブを纏った老人のような精霊。
それは突然の光に目を抑え、動きを止めていた。今がチャンス!
「主無き者よ、夢の杖のもと我の力となれ、固着(セキュア)!」
老人に杖を打ち下ろす。その瞬間、老人は光の泡となり、杖の周りに収束されていく。

 光が消え、闇が晴れ、残ったのは1枚のカード。
それを手に取ると、すぐに小狼を探すさくら。さっきの光、あれはもしかして・・・
いた、小狼君。剣を杖にしてへたりこんでいる。使ったんだ、魔法を。
「小狼君!大丈夫!?」
駆けつけるさくらに、顔を上げて答える小狼。
「ああ、大丈夫。それより、カードは・・・?」
「うん、封印できたよ。これ・・・」
二人してカードを覗き込む、そこには先ほどのローブの老人とともに、こう書かれていた。
0148無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:21:58.32ID:16GnSLmW0
『封(sealed)』

「封・・・封印系のカードか。俺の魔力を封じていたのもこのカードの力だったんだな。」
「魔力を・・・封じる。」
さくらはそう嘆く。ここの所のカードの出現は、その時のさくらの思いに対応した能力を持つ
カードばかりだ。マーチングの練習の時には『律動』、そして今、小狼君が魔力にとらわれず
自由に部活をできるようにと思った時には、この『封』。
うすうす気づいていたけど、やっぱりこのカードは、私の魔力が生み出している。
さくらは少しづつ、この透明なカードに不気味さ、怖さを感じていた。

 と、小狼が突然、そのカードを手に取り、食い入るように見入る。
彼は、ひとつの可能性を感じていた。
「(もし、このカードでさくら自身の魔力を抑えることが出来たら・・・)」
今現在も進行しているさくらの魔力の影響、それを抑えることが出来るかもしれない。
「さくら、このカード、役に立つかもしれない。」
「え?」
「だから大事に持っていてくれ、でも使うなよ、よくないことが起こるかもしれない。」
「うん、分かった。」
小狼の真剣さにさくらも頷く。元々小狼君に役に立てたいという思いが生んだカード・・・だと思う。
大事にしないという選択肢は無かった。

「(あとは、柊沢。お前が日本に来られれば・・・)」
小狼は手を打っていた。エリオル達が日本に来られるようにする手を。

 その時こそ、事態は動き出す、きっと、いい方向に。
0149CC名無したん
垢版 |
2019/03/01(金) 18:30:28.44ID:Q8mV8ilD0
本編より楽しみにしているかも…
0150無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:23:06.59ID:00UdefLf0
>>149
無茶振りすぎるー!ハードル上げんといてー(ケロ風)
本編と言えば、面白くなってきましたねぇ、まさか小狼が子供化するとは。
0151無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:24:10.55ID:00UdefLf0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」
第13話 さくらとみんなのお墓参り

−これは、夢?−

久しぶりに見る夢。大きな歯車と、その上に立つフードを被った人、
その向こうに、大きな大きな・・・真っ黒い蛇のような生き物が浮かんでいる。
たぶん、竜。そう呼ばれる現存しない生き物、それらがこちらを向いている。
フードを被った人がふと、身をひるがえし背中を向ける。そして竜に向かって
歩いていく、空中を、まるでそこに道があるかのように。

 ふと、その人のフードが取れる、そのまま風に任せてフード全部が脱げ、空を舞う。
その中にいた人、男の子。私のよく知っている、私の大好きな人の後ろ姿。
彼はそのまま竜の頭に乗る。ダメ、そっちに行ってはいけない。
竜の遥か後ろ、遠くに一つの縦に伸びる線、柱。いや、行かないで!

 彼から離れたフードがふわりと舞い、さくらのすぐ後ろに飛んでくる。
そのフードの中には、いつのまにか別の人。さくらのよく知る娘がいつのまにか
そのフードを纏っていた。
黄金色の髪、胸の前でくるくる巻きにした髪型、柔らかで、寂しそうな、まるで
秋に揺れる麦帆のような金色の髪、彼女の名前をそのまま光景にしたような、髪の毛。

 ふり向くさくら。彼女はそのフードを纏ったまま、歯車の動く下へ落ちていく、ゆっくりと。
少年は竜に乗り、ゆっくりと昇っていく。柱に向かって、その頂上にある十字架に向かって。

ダメ・行っちゃだめ!いや・・・行かないで!

前方の昇っていく少年に、後ろの落ちていく少女に、さくらは呼びかける。
と、少年がさくらの方を振り向く。少女がさくらを見上げる、そして二人は同時につぶやく。

−お前はもう、戻れない−
−あなたはもう、戻れません−
0152無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:24:50.18ID:00UdefLf0
 悲しい夢を見て、目が覚める。
「夢・・・」
さくらは泣いていた。どうしてなのかは分からない、ただ、大事な大事なものが無くなる、
そんな喪失感に満たされて。
むくりと上半身をベッドから起こす。夢、だよね。うん、夢だ。夢でよかった・・・

 外を見る、まだ朝は早く、景色も薄暗い。時計を見る、朝の5時半。
前を見る、小さな星のペンダントが宙に浮いている。これは・・・夢の杖?
さくらは静かにそのペンダントを手にする。呼んでいる、そんな気がして、静かに呟く。
「レリーズ。」
ペンダントが杖へと変化する。その杖を取り、目の前の虚空に掲げて言う、封印の言葉を、
生気のない、悲しい声で。
「主無き者よ、夢の杖のもと・・・わが力となれ、固着(セキュア)」

 杖の先に光の粒子が舞い、やがてひとつのカードとなる。ふわり、とさくらの
目の前に舞い、止まる。それを手に取り、名前を見る。
「フューチャー(先)・・・」
さっきの夢で見たフードを被っている、少年とも少女とも分からない人物が描かれたカード。
そのカードはどこか寂し気で、そして・・・少し怖かった。カードそのものよりも、
これを使った結果が。

「うーん、こら・・・スッピー、そのたこ焼きはワイのや・・・」
場違いな寝言が聞こえた。と、さくらは現実に引き戻される。
ケロちゃんの寝言、自分の部屋、ベッド、ようやく夢から現実の日常に戻った気がする。
「ありがと、ケロちゃん。」
起こさないようにそう囁くと、ベッドから起き出し、服を着替える。

 今日は特別な日、さくらにとっても、木ノ本家にとっても。
0153無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:25:25.66ID:00UdefLf0
「もう10年ですか、早いものですね。」
さくらの父、藤隆が車を運転しながら、桃矢とさくらに話す。
 今日はさくらの母、撫子の10回忌。母と繋がる人々の、ひとつの区切りの日。
車は走る、郊外にある彼女の墓へ。それぞれの思いを乗せて。

 お供えの花をヒザに乗せたさくらが、藤隆と桃矢に問う。
「ねぇ、お母さんってどんな人だった?」
彼女が無くなったのは、さくらがまだ3歳の時。母の記憶は、その笑顔しか無い。
「そうですねぇ・・・明るくて、いっしょにいるだけで楽しくなる人でしたよ。」
「少なくとも怪獣じゃあなかったなぁ。」
感慨深く答える藤隆に対し、桃矢はさくらを茶化す。
「お兄ちゃん!」
「ははは、今日はいろんな人が来るから、聞いてみるといいですよ。」

 やがて車は秋の空の下、郊外の墓地の駐車場に進み、止まる。
車を降りたさくらを迎えたのは、いつも見ている黒髪の少女と、その母親。
「知世ちゃん。」
「おはようございます、さくらちゃん。」
「今日も可愛いわねぇ〜、さくらちゃん、こんにちは。」
相変わらず母娘そろってさくらに夢中である。周囲にいるボディガード達も
サングラスの下で、やれやれ、という表情を隠す。
「園美さん、よく来てくれました。」
「ふ、ふん。そりゃまぁ、撫子の10回忌ですもの、私が来ないとでも?」
藤隆に斜に構えながら園美が返す、さすがにさくらの手前、藤隆とやり合うわけにはいかない。
0154無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:25:59.77ID:00UdefLf0
「父さん、ひいお爺さんも見えてるよ。」
桃矢が後ろを指さす。そこには撫子の祖父、さくらと桃矢の曽祖父である老人、雨宮真嬉。
「おっと、いけない。挨拶してきます。」
「私も行くよ。」
さくらと藤隆は真喜のもとに向かう、さくらはこの老人が好きだった。避暑地でお世話になり
その後も度々さくらに世話を焼いてくれてる、前には小狼も紹介し、歓迎してくれた。
「お爺様、よくお運びくださいました。」
「ああ、車に長い時間乗るのはしんどいがな。」
素っ気ない返事を藤隆にした後、さくらを見てその表情を和らげる。
「おお、さくらちゃん、こんにちは。元気だったかね?」
「はい、お爺様もお元気そうでよかったです。」
花が咲いたような笑顔でさくらが返す。雨宮コーポレーション会長の気難しい老人も
その笑顔の前では、ただの好々爺になってしまう。

「それにしても園美君、『あれ』はまた来ないのか。」
真喜の問いに、園美は申し訳なさそうに答える。
「はい、今はニューヨークに・・・」
園美の夫、つまり知世の母であり、大道寺グループの総帥でもある人物。
世界中を飛び回り、こういった身内の集まりに顔を出すことはまずない。
そのため、さくらも桃矢も面識は全くなかった。
「まぁよろしいんじゃありません?仕事バカは放っておきましょう。」
園美の提案に誰も逆らわない。真喜は次にさくらに問う。
0155無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:26:30.15ID:00UdefLf0
「そういやさくらちゃん、あの彼、そう李小狼君だったかな、彼は元気かね。」
「あ、はい。実は今日も誘ったんですけど・・・『身内の集まりに出るべきではない』と。」
「ははは、彼らしいな。」
本音を言えば、さくらは小狼には来て欲しかった、ふたつの意味で。
 ひとつは、親しいお付き合いをしている少年の、身内への紹介。もちろんさくら自身が
そんな恥ずかしい事は出来ないだろう。が、小狼なら例えこの場にいても、ちゃんと礼を尽くした
挨拶ができるだろう、そういう意味で小狼は、さくらよりはるかに大人びている所があった。
 もうひとつ、今朝見た夢と、朝一番で封印したカードの事。こちらは魔力に関する問題だけに
小狼以外に相談できる人間は限られている。出発前、ケロに事情を話し、ユエと小狼に
相談するようお願いはしてきたのだが・・・

「さて、みなさん揃ったようですし、いきましょうか。」
藤隆が手をたたいて皆を先導する。彼を先頭にぞろぞろと参道を歩き、向かう。
ほとなく『木ノ本家之墓』と掘られた墓石の前に到着、桃矢が水の入った桶から柄杓で
水をすくって花瓶に注ぎ、残りの水で墓を清める。
さくらはその花瓶に花を活け、揃える。母の名前でもある撫子の花を一番目立つようにして。
そして藤隆は線香に火をつけ、最初に墓の正面に立つ。

「撫子さん、今年もみんな集まってくれましたよ。」
今年も、という言い方には少々の理由がある。藤隆と雨宮家や大道寺家の仲は
決して順風満帆というわけではなかったからだ。
箱入り娘の撫子をさらった男として、藤隆は両家から好ましく思われていなかった。
3年前、真喜はさくらと出会い、そして知る。藤隆と撫子の時間が幸せな時間であったことを。
以来、命日にはわだかまりを消して会うようになっていた。それも今年で3年目。
もうこの二人にぎこちない感情は無かった。
そのことを撫子に報告する意味も込めて、藤隆はそう言って手を合わせる。
0156無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:26:55.37ID:00UdefLf0
 そして次に長男の桃矢が墓の前に立つ。次に控えるさくらはいち早く桃矢の異変に気づく。
ふらっ、とヒザを折ると、桃矢はそのままその場に前のめりに倒れる。
「お兄ちゃん!」
「桃矢君!」
両脇にいたふたりが桃矢を支えようと手を伸ばす、が、間に合わない。
そのまま墓の根元に倒れるかと思った時、ふっと別の『手』が、桃矢を『正面』から支える。

 その人物は、そのまま桃矢を抱え上げると、桃矢を藤隆に渡す。
まるで小さい頃に、母親にだっこされた幼子を、父親に渡すように。
ゆるくウェーブのかかった長い髪の毛、清楚な白い顔に微笑みを浮かべるその女性。

 さくらも、藤隆も、真喜も、園美も、知世も、ボディガード達も、はっきりと目にする、
そこにいる『はずの』人物、そこにいる『はずの無い』人物。
誰も声が出ない、ただただ呆然とその人物を見るしかできない。藤隆は気絶した桃矢を抱えて
やっと一言を絞り出す。

「撫子・・・さん。」
0157CC名無したん
垢版 |
2019/03/02(土) 02:16:18.54ID:qkjEcHQP0
ワイ木ノ本家のエピソードに弱いんや…😢
0158無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 08:39:18.56ID:Jw0v0zy80
大ポカ・・・orz

>>154
✕園美の夫、つまり知世の母であり
〇園美の夫、つまり知世の父であり
0159無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 11:57:29.75ID:Jw0v0zy80
>>157
あれもCCさくらのひとつの目玉ですよねぇ。
今回はそういうお話、天とかアカギとか言わないで欲しいw

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第14話 さくらとお父さんとお母さん

「来たようですね、その時が。」
カーテンの閉め切られたその薄暗い部屋、中心には魔法陣。西洋のそれと
東洋の風水版の模様が入り混じったその中心に立ち、ユナ・D・海渡は薄い笑いを浮かべ
そう呟く。
「ようやく、ですか。」
兎のぬいぐるみを模した魔法生命体、モモがそれに相槌を打つ。
そして両名とも、後ろを振り向く。ソファーの上に横たえられている一人の少女を。
「ええ、ようやく、です。」
決意と、力と、覚悟を備えた言葉でそう返す、彼らしくない感情のこもった言葉で。
彼は眠る秋穂を見る。愛情と、そして憎悪をないまぜにした目で。
「では、行ってきますよ、待っててください、秋穂さん。」
その部屋にあった魔法陣がすっ、と消える。特定の人間の魔力、霊力を感知するための魔法陣が。
 代わりに秋穂の眠るソファーの下に魔法陣が現れる、そして秋穂は横たわったままふわりと浮き
まるで無重力空間にいるように空中にとどまる。傍らには本が不規則にページを揺らしながら
漂っている、『時計の国のアリス』が。
 海渡がきびすを返し玄関に向かう、モモもそれに続く。目的の物、それを手に入れるために、
最強の魔術師がついに動く。
0160無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 11:58:03.54ID:Jw0v0zy80
「みなさん、今日は本当によく来てくれました。」
墓の前、木之元撫子はその存在(幽霊?)に似つかわしくない笑顔で、来訪者に頭を下げる。
「これは・・・奇跡か!?」
老人の真喜が目を丸くして、驚いた表情でそう呟く。なつかしいその姿、我が孫娘が
当時そのままの姿でこちらを見ているのだから。
「お久しぶりです、おじいさま。」
そう言って一歩、真喜の前に踏み出す撫子。しかし墓の段差に足を引っかけ、ぐらぁっ、と
バランスを崩す。両手をばたつかせ、必死に体制を直そうとするが・・・
「ふ、ふあぁぁぁっ!」
べしゃっ。顔面から地面に落ちる撫子。全員が心の中でツッコむ。幽霊が段差につまづくな!

「あいたたた・・・」
顔面を抑えながら立ち上がる撫子。痛いんかい!とまたも心のツッコミ。
ぷっ、と笑ったのは園美だ。そこからさらにお腹を抱えて笑い出す。
「まったく、変わらないんだから・・・相変わらずドジねぇ。」
藤隆は桃矢を抱えたまま、さくらに向き直り、一言。
「こういう人なんですよ、撫子さんは。」
「ほ、ほぇ〜」
天然な人だとは聞いていたが、聞きしに勝るキャラクター。その姿はいつも写真立てで
見ているが、会ってみるとイメージが全然違って見える。

「今日は、最後のお別れに来たの。」
その撫子の言葉に、周囲がはっ、と覚醒する。10回忌、ひとつの区切りの年。
これが夢でないとするならば、撫子は亡くなってから10年、成仏せずに幽霊として
この世に居続けたことになる。
「おひとりずつお話をしたいんですが、いいかしら?」
笑顔で、しかし真面目な表情でそう告げる撫子。皆は顔を見合わせ、藤隆に判断を仰ぐように
注目する。
0161無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 11:58:47.03ID:Jw0v0zy80
「わかりました、では、お爺様から。」
そう決めたのには理由がある。ほんの1年前ほど、藤隆は撫子の霊と遭遇したことがある。
それはが柊沢エリオルから返された魔力のせいであることは知らなかったが、とにかく
彼にとってこれは初めての経験ではなかった。そして知っていた、桃矢も、さくらも
そういった経験があったことを。
ならばその経験のない真喜を優先するべきだろう、という藤隆の配慮。真喜を残し、
他の面々は墓から少し離れた場所に移動する。

 真喜との話は5分ほどだった。遠目に見ていても痛々しかった、その厳格な老人は
涙を流し、嗚咽を漏らし、撫子に抱き着いていた。まるで子供のように。
そんな真喜を撫子は優しく慰める。お先にお待ちしていますから、またいつか会いましょう、と。

 次は園美。かつて憧れていた女性との邂逅、届かなかった思い、その先にある自分の人生。
後悔が無いと言えば嘘になる、妥協に流されて彼女は今の人生を手に入れた。そして彼女は今も
撫子の影をさくらに追い求めている。
そんな彼女に撫子は諭す。貴方はもう少し、貴方の娘の方を見るべきです、と。

 次に知世。撫子は感謝と笑顔を向ける。娘と仲良くしてくれてありがとう。でも貴方は
もっと自分を出していいのよ、と。
「私は、さくらちゃんの撮影こそ生きがいなのですわ〜」
そう返す知世にさすがの撫子も困り顔、でっかい呆れ汗が顔の横を下にスライドする。
0162無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 11:59:17.24ID:Jw0v0zy80
 その後も一人ずつ、参列者と会話を交わす。他の親族はもちろん、知世のボディガード達すら
一人ひとりに、感謝と別れの言葉を告げる。
あと残りはさくら、桃矢、そして藤隆。しかし桃矢は未だに気絶したままだ。
「お兄ちゃん!起きてよ、お母さんだよ!」
さくらは桃矢を揺り動かすが、反応が無い。せっかくのこの機会、撫子と話すチャンスを逃させる
わけにはいかない。
「仕方ないわね、ほら。」
園美が桃矢の腕をを肩にかついで起こす。反対側を藤隆がかつぎ、二人で桃矢を支えて墓に向かう
さくらもそれに続く。
「さくらさん、お先にどうぞ。」
そう藤隆に促される。それはさくらに気を使ったように見えるが、藤隆の『最後は私ですよ』という
決意でもあった。それを察してさくらは撫子の前に出る。

「・・・お母さん。」
「うふふ、大きくなったわね。嬉しいわ。」
未だ信じられないといった表情のさくらに、撫子は柔らかい笑顔を向ける。
「いい縁に恵まれたのね。前にあった時よりずっと奇麗になってるわ。」
「ほぇ、縁?」
きょとんとするさくらに、撫子は顔を近づけ耳元で囁く。
「(いい人がいるんでしょ?そういう顔してる。)」
いい人?一呼吸おいて、さくらの脳裏に浮かぶ小狼の顔。
「ほ、ほえぇぇぇぇっ!!」
ぼふっ、と赤面して硬直するさくら。そんなさくらをぎゅっ、と抱きしめる撫子。
0163無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 11:59:56.09ID:Jw0v0zy80
「ごめんなさいね・・・私、お母さんらしいことは、何一つできなかった・・・」
感極まってさくらにそう告げる。わずか3歳の娘を残して逝った母、その無責任さを
今更のように娘に吐き出す撫子。
「そんなことない!」
さくらは撫子の胸から顔を上げ、はっきりそう告げる。
「お母さんがいたから、みんな幸せなんだもん!知ってるよ、私を頑張って生んでくれたんでしょ?
いつも見てたよ、お母さんの写真、お父さんの写真立ての写真。あんな人になりたいって
ずっと思ってた・・・」
最初は毅然としていたさくら。しかし言葉を紡ぐたび、少しずつ涙声になっていくのが分かる。
その顔、その温度、その優しさ、記憶には無いけど確かに「想い」は伝わる。
「私が風邪をひいた時も・・・見守ってくれたよね。お母さんは・・・ずっと、私の・・・」
そこまでが限界だった。さくらは撫子の胸に顔をうずめ、涙を流す。
母との邂逅に、今日会えた奇跡に、かすかな思い出に、ほどなく訪れる永遠の別れに。

 さくらが離れた後、藤隆が桃矢を連れて行こうとするが、撫子はそれを制する。
「桃矢君とはしょっちゅうお話してるし、もうお別れも済んでるわ。最後は・・・あなた。」
そう言って藤隆を呼ぶ。桃矢を園美とさくらに任せ、前に進み、撫子の前に立つ。

 妻の前に。
0164無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 12:00:27.16ID:Jw0v0zy80
「お元気そうで。」
「撫子さんも。」
何故か他人行儀な会話で始まる夫婦。
「私は、ねぇ、元気といっていいのかしら?」
「その笑顔で十分ですよ、撫子さん。」
にっこりと笑う二人。ふと、撫子は夫に寄りかかる、藤隆は妻を抱きとめる。
ほんのわずかなタイムラグもなく、二人は求めるままに抱き合った。夫婦、そんな二人の絆は
10年という時を昨日のように縮める。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私、何もかもあなたに押し付けて・・・」
息子、娘、親戚との確執、そして『二人でいる幸せ』すらも置き去りにして彼女は逝った。
その後悔を吐き出す、大粒の涙を流して、嗚咽と共に。
そんな撫子を優しく撫でる夫、そしてこう返す。

「ありがとう。」
その言葉の意味を知っている、木ノ本藤隆という人間の人柄が、その言葉の意味を雄弁に語る。
私と出会ってくれてありがとう、私を好きになってくれて、私と結婚してくれてありがとう、
二人の子供を生んでくれて、様々な人との縁をくれて、貴方との楽しい時間をくれてありがとう、
そして今ここに来てくれて、妻として縁者たちに私の顔を立ててくれて、娘のさくらに
母親の愛を伝えてくれて、本当にありがとう。

 さくらは抱き合う二人を見て、すごいな、と思った。
心から通じ合うふたり、それはまるで絵画のようなその光景。暖色と寒色が合わさって
名画になるような。ああ、これが夫婦なんだな、と。
 いつか、私と小狼君もあんなふうになれるだろうか、さくらは心にじわっとした
温かい感動を感じていた。
0165無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 12:00:58.65ID:Jw0v0zy80
「私も、あなたと出会えて幸せだった。」
未だ涙目で夫を見る妻。そして彼女は最後の言葉を愛する人に伝える。
伝えたかった言葉、彼女を10年もの間、現世に縛り続けていたその思いを、無駄とわかっていても。

「でも、どうかこれ以上、私に縛られないで。貴方はあなたの幸せを・・・」

 その問いに藤隆がどう答えたか、それは二人にしか分からない。
ただ、その問いに答えた後、彼女も藤隆も笑顔だったのは確かだ。悲しみの無い満面の笑顔。

 少しおいて、藤隆がさくらを呼ぶ。え、いいの?という顔をして二人に向かうさくら。
「じゃあ、さくら。お願いね。」
「私は目を閉じて、耳を塞いでいますよ。」
その二人の言葉が、さくらは理解できない。ほぇ?と返すしか・・・。
「いつもやってるじゃない、ほら、それ。」
言ってさくらの首元を指さす撫子。ん?と首元をさぐる。喪服の下にはいつも身につけている
ペンダント、今年になって手に入れた鍵、夢の杖。
「え・・・」
「さぁ、気配を読んで。」
「・・・あ!」
言われて気づく、カードの気配。私以外には感じられない、様々な現象を起こす、封印してきた物
クリアカード!
「レリーズ」
囁いて鍵を杖に変える、うしろの皆に見えないように。そして杖を撫子に向け、言う。
「主無き者よ、夢の杖のもと、我の力となれ、固着(セキュア)。」
0166無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 12:01:27.90ID:Jw0v0zy80
 その瞬間、撫子の体が蒼く輝く、そして足元から少しずつ霧散していく。
「お母さん!」
撫子はさくらの頭をぎゅっと抱きしる。
「長い事この世にとどまるとね、悪い霊がついて、私も悪くなっちゃうの。だからさくらに
送ってもらえて、私はとても嬉しい。」
さくらを離し、一番の笑顔を愛娘に向ける。そのまま上半身まで霧散し、光に消える撫子。
その粒子の一部が、さくらの杖の前に集まり輝く。そして一枚のカードとなる。
それを手に取り、カードを見る。母に似た女性が描かれたそのカードを

「スピリット(霊)・・・」

「やれやれ、やっと終わったか。」
後ろで桃矢の声。あれ、目が覚めたんだ。
「桃矢君は、知っていたんですか?」
「ん。母さんとはちょくちょく会ってたからな。」
首をコキコキ鳴らしながら立つ桃矢。どうやら気絶してたのではなさそうだ。
そしてさくらを見て、イジワルそうに言う。
「しかし、珍しくユーレイを見てビビらなかったなぁ♪」
0167無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 12:01:58.39ID:Jw0v0zy80
 その言葉に、さくらの表情がさーっ、と青くなる。」
「ほ、ほえぇぇぇーーーっ!あれって幽霊さんだったのーーーっ!!!」
「何だと思ってたんだよ。」
「ほ、ほえーっ!どうしよう、幽霊さんだよ、会っちゃったよ、どうしようどうしよう・・・」
狼狽えるさくらを見て、周囲から笑い声が起こる。
「やっぱりさくらちゃんはふんわりで、素敵ですわ〜」
知世が言う、今更のさくらの認識に、かつて小狼の好意に全く気づかなかった頃のさくらを
思い出して。

「撫子は、最後に私たちをより強く引き合わせるために、来てくれたのかも知れんな。」
真喜がしみじみ呟く。もともとこういう法事は故人を悼むとともに、その縁者が顔を合わせる
大事な機会でもある。
そんな人達の『縁』を、より強めるためにここに現れ、一人一人と話をしたのだろう。
木ノ本藤隆の妻として。

「さぁ、ささやかな食事を用意してます、いきましょう皆さん。」
藤隆は前を向く。立派な妻に恥じないように、前を見据え、皆を先導する。
秋晴れの空、風は優しく体を撫でる。彼らにとって、今日は忘れられない日になるだろう。
0168無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 12:02:20.50ID:Jw0v0zy80
 料亭の一室、料理が並べられたテーブル、その周囲に大勢の人間が横たわっている、眠っている。
料理にも、お酒にも、ほぼ手を付けていない状態で。
上座の藤隆も、桃矢も、園美も、知世も、ボディガード達も、真喜も、そしてさくらもこんこんと眠る。
そのさくらの際に立ち、一枚のカードとペンダントを手にした男が佇む。

「ご苦労様でした、木ノ本さくらさん、そして、木ノ本桃矢君。」
うすら寒い笑みを浮かべ、ユナ・D・海渡はそううそぶく。
その手にあるカードは、さきほど封印したばかりの『スピリット』のカード。
「やれやれ、すっかり悪役ですね、料理に睡眠薬まで仕込むなんて。」
モモが呆れ声で言う。いくらさくらや桃矢に睡眠魔法が効きづらいからって、と。

「ずいぶん待ちましたよ、このカードを手に入れるまで、ね。」
魂を操る、その力の基礎をもっていた人物、木ノ本桃矢。
クロウ・カードを受け継ぎ、強力な魔力でカードを生み出す能力を持った、木ノ本さくら。
この二人の存在を知り、彼は確信した。私の目的にはこの二人の力が必要だ、と。
 さくらに夢を通じて『夢の杖』を与え、ユエに与えた桃矢の力が回復するのを待った、
その時が来れば、きっとさくらが桃矢の力をカード化するだろう。

 その目論見は見事当たった。ただ、それまでにさくらが夢の杖で自分の魔力を
願望に変えてカードに具現化したせいで、さくらの能力はずっと底上げされていた。
このままでは彼女は魔力で不幸になる、それは避けられないだろう。
 しかしそれは彼女の問題だ、私には私の目的がある、気の毒には思うが
利用させてもらったことに対する後悔はない、例え悪魔に身を落としても、目的を達成する。
「これはもう、返してもらいますよ、木ノ本さくらさん。」
眠ったままのさくらに夢の杖をかざし、そしてきびすを返して部屋を、料亭を出ていく海渡。
ようやく、ようやく悲願が叶う。彼の歩みは自然と早くなる、家路への歩みが。

「待っててください、秋穂さん。きっと、きっと救い出して見せます!!」
0169CC名無したん
垢版 |
2019/03/03(日) 13:43:22.32ID:Hfip0N2R0
(モモは〜よ、〜だわ喋りだね…)
(あと木 “之” 本ね)
0170無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 20:10:48.41ID:Jw0v0zy80
>>169
指摘サンクス・・・校正って大事だよねorz。
山にこもって穴掘って入ってきます
0171無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 00:31:17.96ID:/BT2JDOS0
冬眠終了w

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第15話 さくらと帰ってきたエリオル

 1台のタクシーが詩之本邸の到着する、乗客の海渡は1万円札を3枚
投げるように運転手に渡す、お釣りは結構です、とだけ告げ、足早に玄関に向かう。

−ついにこの時が、待ち焦がれた時が来ました−

 高揚感が足を速める、玄関のドアを開け、中に入る。廊下を走り、居間のドアを開く。
そして止まる、驚愕の表情で。秋穂以外いないはずのその部屋に立つ、その人物を見て。
「なっ!」
それだけを絞り出す海渡、脇にぶらさがっていたモモが続く。
「柊沢・・・エリオルさん、ですわね。」
その眼鏡の少年、エリオルは答えない。杖を手に、紫のローブを纏って、
決して好意的ではない目を、海渡に向けて。

「不法侵入とは感心しませんね。ここは今は、貴方の家ではありませんよ。」
海渡は一歩後ずさり、ヒビのはいった懐中時計を握りしめて言う。
「泥棒に非難される筋合いはありませんね。」
厳しい表情でエリオルが返す。彼の足元には魔法陣、海渡が家を出る前まで使っていた
風水版と西洋の魔法陣を合成したサークル。そしてその向こうのソファーには、
眠る秋穂を抱きかかえる一人の女性と、狼にも似た獣、共にエリオルの従者。
「ええと、ルビー・ムーンさん、それとスピネル・サンさんね。お揃いでようこそ。」
モモは動じない、いささか第三者的なふるまいを感じる。
0172無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 00:32:25.65ID:/BT2JDOS0
「なるほど、大した魔法陣ですよ、世界中の魔力を持つ人間の動向すら探れそうですね。」
足元の魔法陣をサーチしてエリオルが言う。
「こっちはもう消しちゃったよ〜」
女子高生、秋月なくるの姿を取っているルビーがドヤ顔で告げる。秋穂の寝ていたソファーにあった
『眠りの魔法陣』はすでにかき消えている、秋穂は未だ眠ってはいるが。

「驚きましたよ、一体いつの間に日本に?」
魔法陣を介して、世界の主な魔導士の動きは把握していたはずだ、
もちろんクロウ・リードの転生体である柊沢エリオルは、一番の監視対象と言ってよかった。
その彼が日本に来るまで気付かなかったとは・・・一体何故?
「協力者がいた、とだけ言っておきましょう。」
杖を肩から足元、袈裟に振り下ろし、強い調子で海渡に告げる。
「さぁ、さくらさんから奪ったカード、返してもらいますよ!」


『なんやてぇ、カードと杖を奪われたぁ!?』
「奪われたのかわかんないけど、寝てる間に無くなってたの!おまけにみんな寝ちゃってて・・・」
料亭のトイレで、スマホを握りしめてケロに報告するさくら。
『そら取られたんや、間違いないわ。』
「ど、どうしようどうしよう。」
『落ち着け!とりあえず合流するで、ゆきうさぎの家や、はよ来い!』
「分かった!」
電話を切り、料亭の外に飛び出すさくら。と、そこで大事なミスに気付く。
「あ・・・ここから雪兎さんのうちまで、どうやって行けば・・・」
軽く見積もっても20kmはある。運転してきた父は寝ているし、魔法を使って飛んでいく手は
杖が無いため使えない。
「ほ、ほぇ〜、どうすれば・・・」
0173無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 00:33:10.32ID:/BT2JDOS0
 途方に暮れるさくら。と、遠くからやたら回転数の高い車の音が聞こえ、次第に大きくなっていく。
やがて料亭の駐車場にけたたましい音で入ると、急ブレーキをかけて横滑りして止まる。
後部座席から飛び出してきたのは、なんと小狼だ。
「さくら、こっちだ!」
「小狼君!?どうして。」
「理由は後だ、早く乗るんだ!」
「う、うん!」
小狼に即され、後部座席に一緒に滑り込む。前の席、つまり運転席と助手席に坐っているのは
懐かしい顔の二人だ。
「苺鈴ちゃんと・・・観月先生!」
「お久しぶり、さくらちゃん。じゃあ、行くわよ。」
ウインクしてミッションをドライブに入れる。と、苺鈴ががしっ!とドアの手すりを握る。
「しっかり捕まってなさい、この先生の運転は・・・ひゃああぁぁぁ!」
前輪を浮き上がらせんばかりの勢いで加速する、さくらも小狼も対応が遅れてか、シートベルトが
あるにも関わらず左右に振り回される。
「うわあぁぁぁっ!」
「ほえぇぇぇぇぇっ!!」
0174無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 00:33:44.31ID:/BT2JDOS0
 決して制限速度を超過しているわけではないのだが、アクセルもブレーキもハンドルも
ソフトという言葉とは全く無縁のどっかん運転に振り回される。が、問題はそこではなかった。
「先生、そこ左!って、どっち行くんですか、左ですひだりっ!」
走り出してからずっと苺鈴の大声のナビが社内に響く。観月は運転以前に相当な方向音痴のようで
苺鈴が相当前から指示しているにもかかわらず度々道を間違える。
「そっちは行き止まりですってーだからなんでそっちにハンドル切るんですかあああっ!!」

 無駄に体力と精神力と、あとついでにタイヤとガソリンを消費しながら、やっとのことで
月城邸に辿り着く。
玄関に飛び出してきたケロとユエを回収し、再び走り出す。ぎゅうぎゅうの後部座席の中、
小狼が事情を説明する。
「秋穂ちゃんのところの、海渡さんが!?」
「ああ、あいつは何か目的があってこの日本に来たらしい。」
「その奪われた主(あるじ)のカードが目的というわけか。」
ユエが冷静に分析する。が、次の観月の言葉にはユエもケロも、そしてさくらも冷静さを失う。

「今、エリオル達が先回りして相手してるわ。」
「ええっ!」
「何!?」
「何やてぇぇっ!アイツらも来とるんかいっ!!」
「ええ、本当はもっと早くに来たかったけど、監視されてて来られなかったの。」
「その、海渡とかいうヤツにか?」
「ああ、お前たちも通信や連絡が取れなかっただろう、相当高位の魔法使いだ、油断するなよ!」
「小僧に言われんでもわかっとるわーいっ!」
ピリつく空気の中、さくらだけは不安と疑問でいっぱいになっていた。
「(どうして?秋穂ちゃんの好きな人がこんなことをするなんて・・・)」
0175無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 00:34:15.76ID:/BT2JDOS0
 数十分のすったもんだの後、詩之本邸に到着する車。
全員が勢いよく飛び出し玄関に走る。あの中にエリオルが海渡と対峙している、もしくは
もっと物騒な事態になっているかも知れない。観月を先頭に玄関を開け、廊下を走り、
魔力の溢れる部屋のドアを開ける。叫ぶ観月。
「エリオル!無事!?」

 部屋に入ってほどなく、全員の目が点になる。全くの予想外の風景。
「もちろん無事ですよ、ご覧の通り。」
テーブルに着き、ティーカップを掲げながら笑顔で返すエリオル。傍らには秋月なくるのカップに
にこやかに紅茶を注いでいるユナ・D・海渡。
「「だあぁぁっ!」」
入ってきた全員がずっこける。いち早く立ち上がったケロが平手でツッコミを入れる。
「くつろいでどないすんねんっ!!」
「まぁまぁ、皆さんもお茶でもいかがですか?」
と、さくらはソファーに横たわっている秋穂を見つける。
「秋穂ちゃん!」
駆け寄ろうとするさくらを、海渡が目線で制する。
「大丈夫、眠っているだけです。起こさないであげて頂けますか?」
ティーカップを置き、さくらに正対して続ける。

「事情をお話します、まずはテーブルへどうぞ。」
0178無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:48:34.32ID:/BT2JDOS0
>>174
✕社内 〇車内
冬眠の効果なし・・・orz

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第17話 さくらと秋穂とアリスの本

−2か月前、夏−
「アチャー、やっぱダメね〜。」
「強力な妨害思念を感じます。」
小狼のアパート、パソコンの画面を眺めてステラと林杏が言う。画面にはエラメッセージ
『NOT ACCESS SERVER ERROR』
「もうずっとこんな調子だ、柊沢と連絡を取ろうとすると、どんな通信も繋がらなくなる。」
同じようにエラーメッセージが表示されているスマホを片手に、小狼が言う。
「どうやら通信サーバーにまでマジックが掛けられているミタイネ。」
「通信の電波に魔法を通しているみたいですね、高等技術ですよこれは。」

その後ろに控えるウェイがしみじみと嘆く。
「やれやれ、時代も変わったものです、魔法もインターネットと融合する時代ですか。」
そう言いながらも器用にスマホを操作するウェイ、むろんエリオルとは繋がらないが。
「電話もダメ、ネットもダメ、手紙も押さえられるってコトは、私たちの動きも全部
把握されてるってコトね、ハッポーフサガリヨ。」
「おそらくは魔力を持つ者の動向を探られているのでしょう、そういう魔法陣を
使うものがいると聞いたことがあります。」
「これだけの魔力を持つ相手です、一筋縄ではいかない方のようですね、そのユナ・D・海渡さんと
いう方は。」
0179無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:49:13.15ID:/BT2JDOS0
「だったら、直接行けばいいんんじゃない?イギリスに。」
さらっとそう提案したのは、魔法談議に入れず後ろで静観していた苺鈴だった。
「そう簡単にはいかない、そもそも今やチケットを取るにも通信機器に記録される、
それを察知されたら飛行機すら安全に飛べるとは限らなくなる。」
小狼が反論する。事故に見せかけて魔法で飛行機を墜落させる、強力な魔導士なら
そんな非道な業も不可能ではない。
「魔力を持つさくらや俺たちが、迂闊にイギリスに向かえば、それこそ柊沢に
会って相談してきます、って言ってるようなものだ。」

「私、魔力ないけど?」
苺鈴が自分を指さして言う。小狼が、ウェイが、ステラが、林杏が、目を丸くして吐き出す。
「「それだ!」」


「驚きですね、本当にわずかな魔力すら感じない、こんな人間が存在するなんて。」
海渡が苺鈴に手のひらをかざし、魔力感知の術を当てながら言う。
「人を珍獣みたいに言わないでくれます?」
ふくれっ面で返す苺鈴。ケロがいかにも知っとったで的な顔で続ける。
「ま、無いなら無いで役に立つこともあるっちゅーワケやな。」

「おかげで彼女から事情を聞くのも、日本へのチケットの入手も貴方に感づかれずに
出来たわけですよ。」
エリオルが笑顔で言い、続ける。
「私も、そして貴方も、彼女とは面識があったはずです。ですがお互い気にも留めなかった、
ある意味これは凄い事です。」
「ましてクロウの母方の直系の子孫なのに、ねぇ。」
スピネル(小)がエリオルに続きそう言う。むっ、とする苺鈴に、モモがさらに余計な一言。
「あなた、前世での行いが悪かったんじゃないのかしら。」
0180無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:49:44.66ID:/BT2JDOS0
 がたっ!と立ち上がる苺鈴、ケロとスッピーとモモを両手でかき集めるように鷲掴みにして
顔を近づけて睨み据える。圧縮されタテにカオが伸びる3人(匹?)
「うるさいわね、ぬいぐるみトリオに言われる筋合いは無いわよ!!」
「ま、まぁまぁ苺鈴ちゃん落ち着いて、役に立ったならよかったじゃない。」
さくらがなだめようとするが、この場合さくらでは火に油だ。
「魔力たっぷりのさくらには言われたくないわ・・・」
ジト目で返す苺鈴に、さくらは反論の余地をなくし、ただ苦笑いを返すのみ。

 観月は危険はないと判断し、とりあえず事情を説明しに料亭に向かっている。
ただ、一人で行かせたのは明らかに失敗だっただろう、果たして今日中に帰ってこられるやら・・・

「さて、本題に入るとしましょう。」
その海渡の言葉に全員が注目する。なぜ彼はさくらの杖とカードを奪ったのか、彼のその
目的は何なのか、秋穂との関係は?さくらの夢の正体は?全員にとって興味は尽きない。

「まず、最初に言っておきます。そこにいる秋穂さんは、本物の『詩之本秋穂』ではありません。」

その言葉に全員が驚愕する。秋穂ちゃんが偽物?それは一体・・・
「みなさんは、こんな話を聞いたことがありませんか?」
海渡は語る。おとぎ話で、小説で、創作の番組にいたるまで、よく使われているファンタジーな話。
「その部屋に、空間に、世界に、『一人』しか存在できないお話を。」

 主人公は、その空間に閉じ込められている。たった一人ぼっちで。
彼が外に出る方法はただ一つ、彼の『身代わり』となる人間を、この空間に引き込むこと。
一人が入れば、一人が出られる。そして新たに入った一人がその孤独の空間に閉じ込められる。
閉じ込められた一人は、あらゆる手段で外の人間をこの空間に引き込もうとする、そんなお話。
0181無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:50:25.94ID:/BT2JDOS0
「なんか聞いたことある・・・何だっけ?」
「よくある話ですね、古今東西よく使われる話ですよ。」
さくらとエリオルの言葉に、海渡はひとつの本をテーブルの中央に置く。
「この本が、まさにそうなんですよ。」

 −時計の国のアリス−

「これ、秋穂ちゃんが持ってた本だ!」
「この本が、その物語だってワケ?」
苺鈴の質問に、神妙な顔で答える海渡。
「いいえ、その本は本当に『人間の魂』を閉じ込める能力があるんです、中にいる魂と入れ替えて。」
「ええっ!?」
皆が一斉にその本から引く。海渡はその本を手のひらで抑え、続ける。
「4年前、秋穂さんの9歳の誕生日の時です。送り主不明のこの本、誕生日プレゼントとして
送られたこの本に、彼女の精神と魂は取り込まれました。」

「ですが、今の彼女には魂も精神も宿っている・・・まさか!」
驚愕するエリオルに向き、海渡は答える。その決定的な一言を。
「そう。今、『詩之本秋穂』さんの肉体と言う『入れ物』に入っているのは、別人の魂です。」
ひと呼吸おいて、続きの言葉を紡ぐ。

「彼女の名は、アリス。『時計の国のアリス』。」

言葉を失うさくら。じゃあ、今まで私が見てきた秋穂ちゃんは、本当の秋穂ちゃんじゃない?
人見知りで、丁寧で、歌が上手で、おしとやかなあの秋穂ちゃんが、本当の姿じゃないの?
0182無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:51:00.45ID:/BT2JDOS0
 海渡は語る、4年前のあの時の出来事を、そしてそれ以前の出会いを。
魔法使いの家系に生まれながら、魔力を持たなかった少女、詩之本秋穂。
そんな存在はその家において、大抵は『魔法具』として扱われる。魔力が無いならそれを利用して
都合の良い魔法を使って操る、または魔法の触媒として利用する、等々。
 そんな詩之本の家に、強力な魔力を持つユナ・D・海渡はスカウトされた。秋穂を魔道具として
使用する『マスター』として。

「ですが私は、少しづつ彼女に魅かれていったのです。少なくとも『利用する』なんてことが
出来ないくらいには。」
自虐的な表情をする海渡に、全員が否定的な目を向ける。おかしいのは海渡じゃなくて
人をそんな風に扱う家の方だと。

 そして運命の日、秋穂の9歳の誕生日。本家に呼ばれずに別棟で海渡と二人、ささやかな
誕生日パーティを開いていた最中にその本は届けられた。送り主は不明だったが、海渡は本家の
ささやかな娘に対する慈しみと信じて疑わず、その本を秋穂に渡してしまう。
パーティが終わり、秋穂は寝室に向かう、その本をもって、嬉しそうな表情で。

 翌朝、彼女は豹変していた。元気の塊のようだった秋穂は、気弱な、そして内気な少女になっていた。
昨日までの記憶を丸ごと失って。
やがて彼女はその本に没頭し始める。ほとんどのページが白紙のその不思議な本、文字が書いてある
ページも海渡には読むことが出来ない。秋穂だけがそのページを読み取れた。
 彼女の朗読するその本の内容に海渡は驚愕した。人の精神を入れ替える本、その本に宿る魂は
外に出ることを欲し、秋穂の肉体を奪い、秋穂の魂をこの本に閉じ込めてしまったのだ、と。
 ただ秋穂に入っている魂自身もその自覚は無いようだ。時がたつにつれ、彼女は自分を『詩之本秋穂』だと
自覚し始めるようになる。
0183無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:51:39.95ID:/BT2JDOS0
「私は激怒しました、おそらくはその本を送った『本家』に。」
竜の魔力を持つ海渡は、その怒りに任せ詩之本の本家を没落させる。事業に失敗し、魔術の禁忌を犯させ
社会からも、魔法協会からも切り離し、衰退の一途を辿らせるように。

 同時に彼は秋穂を元に戻す方法を模索していく。今の秋穂の魂を本の中に返し、本の中の
秋穂の魂を取り戻すために。
それを成すには、人の魂を操る魔法が必要だ。しかし『魔力』と魂に通ずる『霊力』は全くの別物だ。
魔力で霊力を操るには、それに適した魔道具が必要となる、が、そんな魔道具は聞いたことも無かった。

「調べるうちに私は知ったのです、強力な霊能力を持つ兄と、クロウ・カードを使う妹の存在を。」
さくらを見てそう言う海渡に、さくらは、はっとして言う。
「私と・・・お兄ちゃん。」
こくり、と頷く海渡。懐からふたつのアイテムを取り出し、テーブルに置く。そして言葉を続ける。
「私は魔法協会から必要な道具を拝借しました。時間を操るこの時計と、魔力を本人の馴染の深い
アイテムに具現化する、この『夢の杖』を。

「それですべては合点が行きました。あなたはさくらさんがお兄さんの力をカードに変えることを期待して
その杖をさくらさんに与えたんですね。」
エリオルが問う。霊力を操る魔道具が無いなら作ればよい。それを成せるものに作らせればよい。
たとえその過程で、さくらがどんな目に合おうとも。
0184無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:52:19.11ID:/BT2JDOS0
「そのために!さくらを利用したのか!!」
立ち上がり、机を叩いて激高する小狼。お陰でさくらは次々と自分の魔力をカード化し、その魔力を
高めていってしまった。それがさくら自身を不幸にするレベルまで。
「小狼君!待って。」
さくらが小狼をなだめる。さくら自身、自分の魔力が大きくなりすぎることで小狼を苦しめていることは
なんとなく察しがついていた。
 さくらは海渡に向き直り問う。
「だったらなぜ、最初から相談してくれなかったんですか?」
さくらも、兄の桃矢も、そんな話を聞いたなら協力は惜しまなかっただろう。そうすればさくらが
クリアカードを次々に生み出し、魔力を増やすこともなかったはずだ。

「私は魔法協会から破門された身です、今でも彼らは私を追い詰め、奪われた魔道具を取り返し
私を断罪しようとしています。そんな私に協力すれば、貴方も罪を問われかねません、それに・・・」
ひと息ついて海渡は、ソファーに横たわる秋穂を見て、言う。さくらに背を向けて。
「私の計画に、『あの魂』を救うプランはありません。」

 さくらは背筋に冷たいものを感じた。出合ってから今まで仲良くしてきた秋穂、一緒に料理して
一緒に山崎の嘘に騙されて、ケロとモモを見せ合って、授業でお互いを応援してきた。
その秋穂が、今度は本の中に閉じ込められることになるのだ、たった一人で。
「そんな・・・」
泣きそうな顔で、海渡に懇願するさくら。
「何とかならないんですか?それじゃあ今の秋穂ちゃんが、可哀想です!」
そのさくらに厳しい視線を向け、海渡が返す。
「本物の秋穂さんは、もう4年もその世界に閉じ込められているのですよ!」
 返す言葉が無かった。『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の物語でも
主人公アリスが異世界に囚われていた時間はそう長くない。それが・・・4年?
そしてもし助けなければ、これからもずっと・・・?
0185無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:52:56.70ID:/BT2JDOS0
「ちょっとまてーい!」
割って入ったのはケロだ。彼は腕組みしながら海渡を睨んで言い放つ。
「そもそも証拠はあんのか?今の彼女と以前の彼女が別人っちゅー証拠が。」
「同感だな、お前の話には仮定が多すぎる。」
ユエがそれに続く。そんな二人にこう返す海渡。
「今の彼女には魔力がある、明らかに別人のレベルでね。」
「それだけでは証拠にはならないでしょう。」
エリオルが冷静に返す。海渡は夢の杖を手のひらに乗せ、言う、決定的な言葉を。
「その彼女の魔力をこの杖で具現化したのが、そこのモモなんですよ。」

「ま、そーゆーコトですわ。そして私はその『時計の国のアリス』の登場人物でもあるのよ。」
秋穂に寄り添うウサギのぬいぐるみ、本の中ではアリスを導く大ウサギ、言葉をしゃべる白兎。
秋穂の一部がその本のキャラクターである以上、今の秋穂がアリスであることは疑う余地が無い。

 呆然とする一同。信じられない話ではあるが、疑う根拠もまた存在しない。
「秋穂さんは、さくらさんに似ていました。元気で、活発で、スポーツが得意で、そして真っすぐで。」
モモは知っている。海渡のさくらを見る目が、懐かしさと、そして憎しみの眼差しであることを。
本来なら秋穂が持っているべきものを、さくらは持っている。秋穂が失った、奪われた性格。
秋穂にもまた、同じ目を向けていた事。大事な少女の体と、それを本に押し込めたアリスへの憎しみ。
0186無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:53:34.57ID:/BT2JDOS0
「少し休憩しましょう。」
海渡は立ち上がり、ティーポットを持って台所に向かう。残された全員が、今聞いた難題に沈む。
そんな空気を察してか、モモがひとつ教える。
「この本、2年前から無くなっていたのよ。でも今年の1月、ここに家を再現したら出てきたの、
書斎の机の上にね。」
「え・・・家を再現?」
頭にハテナマークを浮かべてなくるが問う。
「さくらさん達なら気付いていたんじゃないかしら、この家は元々取り壊されて遊園地になってたの。」
「「あ!」」
さくらが、小狼が、そして苺鈴が発する。確かにそうだ、ここは一度遊園地になり、そしてクロウカード
『ナッシング』の騒動の舞台となった後、廃園になり取り壊されたハズだった。

「この時計の力よ。」
モモはテーブルに置かれた時計をちょんちょんと突き、示す。時間を操作できる魔法具、壊れたものを
過去の姿に再現できるアイテム。
それでかつての柊沢邸を再現した時、この本が自然にそこにあったと言う。
「私は、見たことがありませんでした。この本は。」
エリオルはそう答える。再現されたのではなく、おそらくは秋穂たちが来るのに合わせてここに
出現したのだろう。この世に偶然は無い、すべては必然だから。
0188無能物書き
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2019/03/12(火) 23:16:18.77ID:Gz9bgqRl0
>>178
✕第17話 〇第16話
もうミスはこのSSの名物にして、間違い探しを楽しんでもらおう(嘆
>>187
有難いお言葉感謝。しかし『神ってる』ももうすっかり使わなくなりましたね・・・
流行り廃り早い世の中だな・・・
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第17話 さくらとあぶないティータイム

 沈痛な空気の中、海渡は紅茶を淹れなおしたティーポットとお菓子を満載した
台車を押してやってくる。
「とりあえず、甘い物でもどうぞ。考えがまとまりますよ。」
そういってお菓子の数々をテーブルに並べる。クッキーにチョコレート、そして・・・
「あ、ケルベロスさんとスピネルさんはこちらがお好みでしょうか。」
そう言って丸い物体が山盛りのボウルを前に置く。それを見たスッピーの目がキラキラ輝く。
「こ、これは・・・たこ焼き!」
「おお!わかっとるやないかぁ!!」
言うなり数個を口の中に放り込むケロ。スッピーもつまようじに1個刺し取り、口に放り込む。

「相変わらずの食い意地だな。」
「まったく、どこに入るのやらねぇ。」
香港コンビがジト目でケロに毒を吐き、反論を待つ。が、ケロはたこ焼きを口にほおばったまま
見る見るその顔を青ざめさせていく。
「ちょ、ちょっとケロちゃん、どうしたの?」
「ノドにでも詰まらせたの?」
心配するさくらとなくるをよそに、たこ焼きを飲み下し、一息ついて絶叫する。
0189無能物書き
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2019/03/12(火) 23:17:15.28ID:Gz9bgqRl0
「なんやこれわあぁっ!!甘い、甘いで!ほんでもって美味いやないかあぁぁぁっ!!!」
全員がずるっ、と脱力する。しかし、甘いたこ焼きって?
「広島県にある『ケーキお好み焼き』をアレンジしてみました、お気にいって頂けて何より。」
してやったり、という表情で海渡が笑う。ホットケーキの生地を丸めて焼き、ソースの代わりに
チョコレート。中のタコはグミ、砂糖菓子の青海苔とかつお節がいい細工をかもし出している。

「ん?」
ケロが体を硬直させ、さくらの方を向いたまま冷や汗を流す。
「甘いお菓子・・・ちゅうことは・・・まさか。」
恐る恐る後ろを振り向くケロ、たこ焼きケーキと、その向こうにいるスッピーの方に。

ごおぉぉぉっ!
次の瞬間、テーブルに火炎の花が咲く。スッピーが高笑いと共に吐いた火炎が。

「あはははははは、おいしーーーーいっ♪」
たこ焼きケーキの入ったボウルを丸ごと取ると、大口を開けて一気に飲み込む。
そして猛スピードで飛び回り、そこかしこにぶつかってスーパーボールのように跳ね回る。
頬を真っ赤に染め、とろんとした目でハイテンションに暴れまわるスッピー。
「酔っぱらった!?」
驚愕する苺鈴。突然の豹変に事態が呑み込めず、事情を知ってそうなケロを探す。
あれ、どこ行った?

 きょろきょろと見まわすと、なんとケロは部屋の隅で、本来の獅子の姿に戻って
壁に向かって呟いてる。
「ああそうや、分かっとるんや、所詮わいはお風呂スポンジなんや、最近は知世も
ちっとも撮ってくれへんし、それどころかカメラ担当にされる始末やし・・・」
真っ暗な表情で床に「の」の字を描き、壁に繰り言を並べるケルベロス。
「ちょ、いったいどうしたのよ、あんたのキャラは・・・」
そこまで言って、苺鈴はいきなり背後から抱き着かれる。このノリは・・・なくる?
0190無能物書き
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2019/03/12(火) 23:17:52.23ID:Gz9bgqRl0
「えへへー、苺鈴ちゃ〜〜ん♪」
「さ、さくら!?」
頬を赤らめ、目を逆Uの字にして、猫のような笑顔で苺鈴に手と足でしがみつくさくら。
「さ、さくらまでどーしたのよ!てかあんた顔真っ赤よ!?」
「ねぇ〜苺鈴ちゃん、怒ってる?私が小狼君と付き合って怒ってる?」
「い、今更何言ってるのよ、っていうか正気に戻りなさいっ!」
「怒ってないの〜?」
「怒ってないってば、だから離れなさいよっ!」
その返事を聞いたさくらはそのまま苺鈴に頬ずりする。
「えへへーやっぱ苺鈴ちゃん、大好き。」

「ちょ、ちょっと小狼、代わりなさいよ、こーゆーのはあんたの担当でしょっ!」
「落ち着け苺鈴!」
小狼は真顔で苺鈴を制する。この事態にあって小狼は冷静だった。
「こういう時は、素数を数えるんだ。1,2,3,5,7,11・・・」
「全然冷静じゃない!?」
「83.89.97。よし!観月先生、100まで終わりました!」
言ってインテリアの女神像におじぎする小狼。

「えええーっ!小狼までおかしくなっちゃったーっ!」
言って周囲を見回し、まともな人間を探す。そうだ、柊沢エリオル!あの最強の魔導士なら・・・
「ちょっと柊沢君!一体これはどーなってんの?」
机に突っ伏しぐーすかイビキをかいているなくるの横で、エリオルは笑顔で答える。
「ああ、みなさん酔っぱらっているようですねぇ。」
「なんでまた!?」
「スピネルさんは、甘いものを食べると酔っぱらっちゃうんですよ。」
「へ?そうなの・・・」
でも他のみんなも、と言おうとした時、エリオルが機先を制して続ける。
0191無能物書き
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2019/03/12(火) 23:18:25.45ID:Gz9bgqRl0
「ちなみに、酔うって言うのはですね、本来は古代中国発祥のお酒に『余威(よい)』って
いうのがありましてね・・・」
「へ?」
「それを酔拳の達人が愛飲して、御前試合に勝利したことから、お酒に『酔う』っていう言葉が・・・」
「なにそのいかにも即興なトリビアは!あなたは山崎君か!」
駄目だ、彼すらマトモではない。なんか向こうでユエが真っ赤な顔で絶叫してるし・・・
「クロウ―!何故私を置いて死んでしまったのだーーっ!!」

 暴れるスッピー、鬱なケロ、ハイテンションなさくら、真顔で謎行動の小狼、泣き上戸のユエ、
爆睡するなくるの横で誰にともなく延々と謎知識を披露するエリオル、なんというカオス!

ふと、飛び回るスッピーを目で追っていて、天井の模様に気づく苺鈴。
「え・・・てっ、天井に、魔法陣?」
「気付かれましたか。」
背後から声をかけられ、振り向く苺鈴。そこには海渡が笑顔で、少し赤い顔をして立っていた。
「やはりあなたには効かなかったようですね、本当にわずかな魔力もお持ちでないようです。」

「これは・・・あなたの仕業なの?」
一歩後退し、構えを取る苺鈴。海渡はにやりと笑い、続ける。
「あの魔法陣は、その場で一番テンションの高い人間の精神状態を全員が共有する魔法です。
スピネルさんがお菓子に酔うことは知ってましたし、お酒に強い観月歌帆さんは出ていかれました、
条件がそろったので発動させて貰いましたよ。」
エリオルの方を向き、こう付け足す。
「魔法陣が必ず足元で発動するとは限らない、さすがに柊沢さんもそこまでは想定外でしたね。」
言って少しふらつきながら、懐から1枚のカードを取り出す。絵のない部分が透明なそのカードを。
彼がさくらから奪った、クリアカード、スピリット(霊)。
0192無能物書き
垢版 |
2019/03/12(火) 23:18:55.89ID:Gz9bgqRl0
「さて、はじめましょうか。」
テーブルの上の夢の杖を取り、秋穂のいるソファーに向かう海渡、本を抱えて続くモモ。
少々千鳥足なところを見るに、彼ら自身も魔法にかかってはいるようだ。
自分すら巻き込む魔法だからこそ、エリオルも察知できなかったのか・・・

「ま、待ちなさいっ!」
苺鈴の言葉に足を止め、振り向く二人。海渡は苺鈴を見返し、一言こう告げる。
「戻るべき人が、戻るべきところに戻るだけですよ。」

その言葉が終わった瞬間、海渡とモモの背後に透明なカベが高速で降り、こちらとの空間を遮断する。
駆け寄ってカベを殴る苺鈴、しかしビクともしない。
「それは魔法ではありません、偏光性アクリルガラスです、無茶をしてもケガするだけですよ。」
次の瞬間、ガラスは鏡に代わる。苺鈴の視界から海渡と、モモと、横たわる秋穂が遮断される。
後に残されるのは、唯一正気な苺鈴の後ろで乱痴気騒ぎをする一行。
「ちょ、ちょっとさくら!詩之本さんがピンチなのよ!スピネルと一緒に踊ってる場合!?
小狼!円周率なんか唱和してないで正気に戻りなさい!柊沢、あんたそれでもクロウ・リードの・・・」
必死に事態を打開しようとするが、もはや苺鈴一人にどうにかできる事態ではなくなっていた。

 壁を隔てた向こう側、海渡は横たわる秋穂の前に立つ。その際でモモが本を広げ、構える。
0193無能物書き
垢版 |
2019/03/12(火) 23:19:26.99ID:Gz9bgqRl0
「レリーズ(封印解除)。」
その言葉と共に小さな鍵のペンダントは、長さ1mほどの『夢の杖』へと姿を変える。
そして手に持っていたカードを、秋穂とモモの真ん中に投げ、空中に固定する。
杖を振りかぶり、目を閉じる。決意の言葉を紡ぐ海渡。
「秋穂さん、今助け出して見せます。必ず!」

「カードよ、少女の魂をあるべき所に返せ、スピリットーっ!」
カードに打ち下ろされる杖、カードが光り輝き、そこからさくらの母である撫子に似た精霊が
秋穂の体にまとわりつき、人の形をした霊体を引っ張り出す。
 それは、秋穂とは違う少女。本の挿し絵にも描かれた金髪の、寂しげな表情の女の子。
「やはり!さぁ、いるべき所に帰るのです、そして秋穂さんにこの体を返しなさい!」
やがて少女はカードの精霊に連れられ、モモが広げている本の中へ帰っていく。

そしてスピリットの精霊はカードに戻る。後に残ったのは、本と、モモと、海渡と・・・

 魂の抜けたままの、人形のような秋穂。
0194CC名無したん
垢版 |
2019/03/14(木) 08:34:23.31ID:nVd3aVMI0
暴れるスッピー、鬱なケロ、ハイテンションなさくら、真顔で謎行動の小狼、泣き上戸のユエ、
爆睡するなくるの横で誰にともなく延々と謎知識を披露するエリオル、なんというカオス!

までのくだり、爆笑したわww
あと、ケロちゃんは犬です、犬!冥界の番犬なの!!
絶妙にぶち込んでくる間違い探し嫌いじゃないw
0195無能物書き
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2019/03/16(土) 01:49:53.08ID:vLMAiT+e0
>>194
あれ犬なんですか?確かにケルベロスっていうと地獄の三つ首の番犬ですけど
スッピーと比べるとどう見てもビッグキャット(ネコ科の大型獣)にしか見えませんけど・・・

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第18話 さくらと消えた秋穂

「何事だこれは・・・。」
部屋に入るなり、木之本桃矢の呆れ声。無理もない、部屋の中はまるで全員が
酔っぱらったような有様だ。
 いや、全員ではないか、李苺鈴だけは疲れ切った表情で地面にへたり込み、こっちを見る。
「あ、観月先生、大道寺さん、それから、さくらのお兄さん・・・ども。」
「苺鈴ちゃん、いったい何があったんですか?」
知世の質問に、天井の魔法陣を指さして示す苺鈴。

「なるほど、この魔法陣のせいでこうなっているのね。」
観月はカバンから手の平ほどのリングを取り出す。かつて持っていた、『クロウの鈴』に
代わるアイテム。製作者の名を取るなら『エリオルのベル』とでも言うべきか・・・
そのリングを握り、天井の魔法陣に向けて振る。と、シュウゥゥゥ、という音を立てて
魔法陣がかき消えていく。

 その瞬間、酔っぱらっていた全員が、はた、と正気に戻る。
いや、スッピーだけは未だに酔いどれ状態でテーブルの上をごろごろ笑顔で転げる。
それをがしっ!と抑えるエリオル、ひきつった、汗ばんだ顔で。
0196無能物書き
垢版 |
2019/03/16(土) 01:50:29.15ID:vLMAiT+e0
「エリオル〜、この有様は一体何、か・し・ら?」
満面の笑顔で、しかし全く笑っていないその目でエリオルに詰め寄る観月。
冷や汗をだらだら流しながら、顔をこわばらせて答えるエリオル。
「や、やぁ歌帆、思ったより早かったね、まだ1時間くらいしか・・・」
「ああ、桃矢にマメにナビしてもらったのよ。帰りは大道寺さんの車に送ってもらったし。」
ひと呼吸置いて、さらに一歩詰め寄り、エリオルにぐっ、と顔を近づけて言う。
「で、最高の魔導士さんがいながら、この有様は一体何か・し・ら?」
再度の圧に、観念したようにエリオルはがっくりと俯く。
「・・・申し訳ない。」

「酔っぱらっとったぁ?」
皆の驚きを最初に代弁するケロに、ジト目で苺鈴が答える。
「ええそりゃあもう、みんなの中の闇をたっぷりと拝見させてもらったわ。」
「わ、ワイは別に闇なんかないで!なんつっても太陽のシンボルである守護神やから・・・」
「思いっっっきり、鬱入ってたわよ、アンタ。」
苺鈴の指摘に、まるでムンクの『叫び』のようなひぇぇぇ顔になるケロ。

「まったく、普段から騒がしいからこういう時に醜態をさらすのだ。」
「・・・貴方が一番取り乱してましたわよ、ユエさん。」
苺鈴の言葉に、え?という表情をするユエ。次の瞬間、彼は全身を羽で包み、光り輝く。
羽がほどけて消えると、中にはユエではなく月城雪兎の姿があった。
「・・・あれ?ここは、どこかな?」
「ユエの奴、逃げおったあぁぁぁぁぁ!」
0197無能物書き
垢版 |
2019/03/16(土) 01:51:00.88ID:vLMAiT+e0
「ええと、苺鈴ちゃん、私は大丈夫、だった、よね・・・」
さくらの言葉に、はぁ、とため息ひとつ、小狼の両肩をがしっと掴む苺鈴。
「な、なんだ?」
「いい小狼、将来さくらに絶対、お酒飲ませちゃダメ。いいわね!」
「え?あ、ああ・・・」
「ほ、ほえぇぇぇ!私一体何してたの!?」

「って、それどころじゃないわ!みんな、あいつが杖とカード持って、詩之本さんを!」
「「ええっ!?」」
その一言で全員の表情が変わる。
「そんな!どこに行ったの?」
「そっちの鏡の向こう、でもどうやっても開かなくて・・・」
皆が大きな鏡の壁に向かう。確かにさっきまでは無かった壁。エリオルは表面に触れ、確かめる。
「本体はアクリルですが、魔法で固定され、表面を鏡面化しているようですね。」
観月に目配せを送るエリオル、彼女は、はいはい、という表情で鏡の前に立ち、リングを構える。
まるでノックをするように、リングでこん!と鏡をたたくと、その鏡が壁ごとボロボロ崩れる。

 全員が中に入る。そこにいたのはソファーに横たわったままの秋穂と、その際、ソファーの
ひじ掛けに腰掛けて本を開け凝視する海渡、離れてやれやれ、というジェスチャーをするモモ。
全員が入ってきたことを確認し、海渡は本をぽふ、と閉じる。『時計の国のアリス』を。
「海渡さん、秋穂ちゃんは・・・どうなったんですか?」
さくらの問いに海渡は立ち上がり、光を失った目で、語る。
「アリスは・・・本に返しました。ですが、秋穂さんは・・・」
「秋穂ちゃんは?」
「・・・戻ってきません。」
0198無能物書き
垢版 |
2019/03/16(土) 01:51:35.20ID:vLMAiT+e0
「ええっ!そんな・・・」
ソファーに駆け寄り、秋穂をゆり動かすさくら。
「秋穂ちゃん、しっかり!私だよ、さくらだよ、起きて、起きてってば!」
そんなさくらを見て感情を高ぶらせる小狼。つかつかと歩み寄り、海渡の前に立ち、睨む。
「どういうことだ!アリスを本に返せば、詩之本は帰ってくるんじゃなかったのか!」
「・・・もちろんそのはずでした。しかし、現実に彼女の魂は戻ってきませんでした。」
「くっ!」
怒りに任せ、拳を作る小狼。その手を桃矢が抑える。
「じゃあ、どうやったら彼女は戻ってくるんだ?」
「それが分かってれば、とっくにやってるわよ。」
モモが口を挟む、投げやりな声で。

 ソファーではエリオルが秋穂を診察している、傍らで不安そうに見守るさくらと知世。
瞳を覗き込み、脈を計り、手をかざして魂のありかを探る。
「どうやら、完全に魂を失っています。このままでは彼女は一生、目を覚ましませんよ。」
立ち上がり、海渡に向かって言い放つ。
「先走りましたね、貴方のやったことは完全に裏目に出たようです。」
厳しい言葉に、海渡は反論しない、出来るはずもない、その通りだ。
「なぁ、なんか方法は無いんか?心当たりとか。そもそも秋穂はホンマにその本の中に
おるんか?」
ケロが問う。少し前なら確信をもってイエスを言えた海渡だが、今となってはそれも怪しい。

「手がかりが、ひとつだけあります。」
ややあって海渡が口を開く。その言葉に皆が注目し、次の言葉を待つ。
海渡は本を開き、一番後ろのページを開く。厚紙でできた本の外回り、そこに印字された文字。
−〇△◇〇 2072−
見知らぬ文字の後の数字、それだけが広い裏表紙の真ん中に小さく書かれている。
雪兎がそれをの祖き込み、アゴに手を当てて言う。
「発行年、かな?」
「え?つまり、この本が書かれた年月日?」
なくるが続く。その言葉にこくり、と頷く海渡。
0199無能物書き
垢版 |
2019/03/16(土) 01:52:04.66ID:vLMAiT+e0
「え・・・2072、って、ほえええーーーっ!?」
「まさか、この本って・・・」
さくらと小狼の言葉に、目線を合わせずに答える海渡。
「ええ、おそらくは『未来』に書かれた本なのでしょう。」
「はぁ?何言うとんねん。未来に書かれた本がなんで今ここにあるっちゅーんや。」
反論するケロを制して、観月がずいっ、と前に出る。
「そう、だから・・・『時計の国のアリス』なわけなのね。」

 時間を超える魔道具。魔法の中でも超高等な技術で作られた、極めてまれなアイテム。
クロウ・さくらカードの『リターン』や、海渡が魔法協会から奪った懐中時計と同じ能力を持つその本。
まだまだ謎な部分はあるが、この本の一つの謎がそこにあるような気にさせる。

「未来に行って、その本を書いた人物に会えば、何かが分かるかもしれません。ですが・・・」
海渡はテーブルに置かれたままの懐中時計に目をやる。かつてエリオルの魔力と張り合い
その際に出来たひび割れが痛々しい時計を。
「もう、使えないのですか?その時計は。」
エリオルの問いに海渡が頷く。
「少しくらいの時間操作はできますが、未来に行くほどの魔力は失われてしまっています。」
がっくりと肩を落とす一同。

「あ!」
さくらは思わず声を上げる。全員の注目を浴びながら、ポケットのホルスターから1枚の
クリアカードを取り出す。そして無言で皆にそのカードを差し出し、見せる。
0200無能物書き
垢版 |
2019/03/16(土) 01:52:37.37ID:vLMAiT+e0
−Future(先)−

「今朝、封印したの。これって『未来』っていう意味だよね。」
悲しい夢から覚めた今朝、自然にさくらの前に現れたそのカード、まるでこの時のために
用意されたように。
 皆がそのカードを覗き込む。その図柄には少年とも少女とも取れる、ローブを被った
子供が描かれていた。そのカードを見て海渡が、モモが驚愕する。
「このローブは・・・」
モモはいち早く、その部屋のクローゼットに向かう。扉を開けて、ハンガーにかかった
一着の服を持ってくる。
「これは、詩之本家に代々伝わるローブです。」
全員が驚く。それはまさに今、さくらが示したカードと同じローブだったから。

「偶然とは思えませんね・・・」
エリオルが頭をひねってそう言う。もしこの時のために用意されたカードなら
ここで使うべきカードなのかも知れない。
 しかし、その雰囲気に小狼がストップをかける。
「ダメだ!これ以上さくらがカードを使ったら・・・まして時間操作のカードは!」
必要とする魔力の量がケタはずれに多い。リターンの時も月峯神社の桜の木の魔力を借りて
やっと過去に飛ぶことが出来た。しかも、魔力を消費すればするほど、回復の幅も大きくなる。
今のさくらがそんな膨大な魔力を使えば、回復したのちの魔力は確実にさくらをより不幸にする。
小狼にとってとても承諾できる行為ではなかった。

「しかし、他に方法がありません。秋穂さんを見捨てるなら話は別ですが・・・」
海渡は脅迫めいた態度を隠さず、さくらに問う。だが嘘ではない、秋穂の魂の行方を突き止めない限り
彼女を救う手立てはないのもまた事実なのだ。
0201無能物書き
垢版 |
2019/03/16(土) 01:53:09.98ID:vLMAiT+e0
 さくらはすぅっ、と息を吸い込み、深呼吸する。そして小狼の方に向き直り、言う。
「ありがとう、小狼君。心配してくれて。」
ひと息ついて続けるさくら。
「でも、私は秋穂ちゃんを助けたい、アリスさんも。未来に行ってこの本を書いた人に会えば
その方法がわかるかもしれない。だから・・・やってみる!」
「さくら・・・」
その決意の瞳を見て、小狼は何も言えない。昔からそうだ、さくらは誰かのために常に
損な役割を引き受けてきた。ソードに操られたクラスメイトを傷付けないように助け、
タイムの潜む時計塔を壊さずに時間の流れを元に戻した、それで余計に苦労する羽目になっても。

「わかった、だけど必ず、無事で返ってきてくれ。」
「うん!」
不安は尽きない。小狼も、そしてさくらも。
だからこういう時は、さくらは無敵の呪文を使う、懐かしいあの言葉を。

「絶対、だいじょうぶ、だよ。」


 さくらと海渡は向かい合って位置する。今の膨大な魔力を持つさくらと、稀代の天才魔術師の
海渡の魔力をもってすれば、時間をめぐるカードの発動も可能だろう。
何より秋穂を助けたいと願うこの二人が未来に飛ぶ、その意志こそが成功の原動力になるだろう。
さくらはカードを空中に放り投げ、夢の杖を打ち据え、発動させる。

「我らを未来へ送れ、フューチャーっ!!」
その瞬間、ローブを被った精霊がカードから飛び出し、そのローブが広がってさくらと海渡を包む、
やがてローブはまるでテントのように二人を包み込み、光り輝き、そして消えていく。
0202無能物書き
垢版 |
2019/03/16(土) 01:53:33.84ID:vLMAiT+e0
 その時だった、そのローブの精霊が発した一言と共に、不快な金属音が部屋に響く。

「お前はもう、戻れない」
−ぱきいぃぃぃぃ・・・ん−

 やがて消えるさくら達。後に残された者たちが見た物は、部屋の中央に散乱している破片、
つい先ほどまでさくらが振るっていた杖だった物体、魔法を発動させるのに必要不可欠なアイテム。

−砕け散った、『夢の杖』の残骸−
0204CC名無したん
垢版 |
2019/03/16(土) 09:26:05.11ID:GyDSS+ex0
去年か一昨年のさくらフェスでもケロの正体について言及があって
久川さん(ケロの声優)が「犬だよ」って言って出演者が驚くっていうくだりがあったな

しかし、確かに月は都合が悪くなると雪兎になって逃げそう!
0205無能物書き
垢版 |
2019/03/18(月) 00:23:00.10ID:ZhiMbkbm0
>>203
ああごめん、不穏な展開はこっからがピーク・・・
>>204
やっぱ犬だったんだ、あの体格ならそーとーゴツい犬だなぁ、飼いたくねぇw
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」
第19話 さくらと壊れた未来

 そこは、白と黒のタイルがチェック柄に2列並んで、遥か向こうまで宙に浮かんで
真っすぐに続いている。
 タイルの外は下。霧に包まれてどこまで落ちるかすら分からない。まるで雲海の上に浮かぶ
板の道のように、その幅1mほどの足場の上にさくらと海渡は立っていた。
「ここは?」
後ろを振り返れば、足場はもうない。先に進むしかなさそうだ。
さくらと海渡は一歩踏み出す。その時二人は理解する。進んだのは「距離」ではなく「時間」。
歩くほどに二人の時間が進んでいくのがわかる、もし魔法や車などで猛スピードで進んだら
自分の老化すら自覚するだろう。

「これは・・・時間の回廊とでも言いましょうか。」
「うん、先に進むたびに、自分の時間が進むのが分かる。」
自分の手をじっと見て、やがて決意する海渡。
「2072年に着く頃は、私はもうお爺さんですね、これは。」
そう言って歩みを速める海渡、たとえ自分がどうなろうと、彼にとって迷いにはならない、
さくらを置いて、すたすたと進む。さくらが追いかけようとした時、その姿が霧に消える。

「え、あ!海渡さん、待って!!」
小走りに追いかけるが、海渡の姿は見えない。進むごとに変化する自分の体を恐れ、歩みを止める。
と、タイルの道の際に、下に降りる階段がある、いつの間に・・・
「こっちに行ったのかな?」
さくらは恐る恐るその階段を降りる。霧に包まれた『下』へと。やがて足元しか見えなくなり
さらに降りて霧の下へと抜ける。

 −そこにあったのは、友枝町−
0206無能物書き
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2019/03/18(月) 00:23:38.57ID:ZhiMbkbm0
「さくら!起きんかーい!」
「ほぇ!?」
目が覚めた。いつものベッド、ケロに怒鳴り起こされるいつもの朝。
服を着替えて荷物をまとめ、階段を降りる。テーブルにはいつもの藤隆と桃矢、
そして写真立ての中の撫子。
「今日から高校生ですね。」
そうだ、今日から私も高校生。さすがにお兄ちゃんももう私を怪獣とか言わない、
そりゃそうだ、もうお兄ちゃんも社会人なんだから。
「行ってきます。」
笑顔の二人に見送られ家を出る。そしてさくらは目にする、耳にする。非日常を。

「きゃあーっ!」
「来た来たーっ!」
「さくら様よ、さくら様がご登校ですわ。」
「「おはようございまーす!!」」
「今日も素敵ねー♪」
「そりゃそうよ、なんてったってさくら様ですもの。」
「こっち見たわ、あはぁ、嬉しい♪」

「ほえっ!?」
戦慄するさくら。なんと家を出た道路に大勢の人が待ち構えていた。彼らは全員が
さくらに好意と、憧れと、恋慕の瞳を向けている。
「な、何?なんなの・・・」
 大勢に囲まれ、詰め寄られる。その異様な空気に背筋が寒くなるさくら。
よく見るとそれは知らない人もいるが、大半はさくらも知る近所の人達だ。
分からないのは彼らの態度だ、老若男女の別なく、さくらに上気した意志を向ける。
「わ、私、学校行かなきゃ・・・どいて下さいっ!」
不気味な怖さに怯え、人をかき分けて駆け出すさくら。「どいて」の一言に
まるでモーゼのように道を開ける人の海。
0207無能物書き
垢版 |
2019/03/18(月) 00:24:08.81ID:ZhiMbkbm0
 走ってる最中も、四方からさくらを称賛する声と、好意の圧が押し寄せる。
知らない、こんな世界は知らない。まるで世の中全員が知世ちゃんになったような、
いや、それ以上に強く、おぞましさすら感じる好意を、全ての人間がさくらに向けてくる。

 走り、校門をくぐり、教室に入る。そこにいたのは知世、奈緒子、千春、山崎、利佳、
おなじみの面々と、そして新たなクラスメート。

 彼らはさくらを待ち構えていたように、ドアの周りを取り囲み、さくらを包囲する形で
一斉に唱和する。
「「おはようございます、さくらちゃん」」
「ひっ!!」
思わず悲鳴を上げる。皆も同じだ、知世も、利佳も、奈緒子も、山崎すらも、まるでさくらしか
見えてないと言った表情を向け、囲む。

「み、みんな・・・何か変だよ。」
冷や汗をかきながら一歩引くさくら。
「何がですの?あ、いえ。そもそもそんなことどうでもいいですわ。それより今日も
本当に可愛いですわ〜♪」
知世が答える、どこか朦朧とした目で、頬を染めて。まるで恋する少女のように。
「ホントホント、さくらちゃん素敵ねー。」
同じ表情で、奈緒子と利佳がうなずき合う。その横では山崎が普段閉じてる目を開いて
さくらに熱い視線を送る。
「え、あ・・・山崎君?そういう目は千春ちゃんに・・・」
「なんで?」
真顔で答え、千春を見る山崎。千春も顔を見合わせ、ふたりして頭でハテナマークを作る。
「山崎君なんかどうでもいいわよ、それよりさくらちゃん、今日もホント美人ね〜。」
そう返す千春。さくらは自分の血の気がさーっ、と引く音を聞いた。
0208無能物書き
垢版 |
2019/03/18(月) 00:24:39.31ID:ZhiMbkbm0
 授業が始まり、知らないはずの高校生の勉強を進める。何も頭に入っては来ない、
代わりに来るのは先生からすら向けられる好意。怖い、怖いよ。なんなの一体・・・

 放課後のチャイムと共に、さくらはまた皆に取り囲まれる。怖い、誰か、誰か助けて!
そこでさくらは、ひとつの失念していた事を思い出す。いつも私を助けてくれた存在を。
「ねぇ!小狼君は、小狼君はどこ?」
 そのさくらの言葉に、全員がきょとんとした表情を向ける。知らないの?と言わんばかりに。
やがて知世がさくらに向き、言う。
「李君なら、東京タワーですわ。ご存知かと思っていましたが・・・」
「・・・え?」
東京タワー?どうしてそんな所に。あそこに就職でもしたのかな・・・
「まぁでも仕方ないわよねぇ。」
「うんうん、さくらちゃんを独占しようなんて、許せないよねー。」
「まぁ当然の処置だよね。」

「・・・ねぇ、何それ、なんの話?」
さくらが千春たちに詰め寄る。が、彼女らはさくらとの距離が近づいたことを喜ぶばかりで
周囲も「いーなー」と声を出すだけだ。
 駄目だ、ここにいても何もわからない。そう判断したさくらは教室から飛び出す。
東京タワー、あそこに小狼君がいる。行くんだ、今からでも。

「フライ!(翔)」
カードを使うでもなく、ただそう叫ぶ。さくらの背中に翼が生え、虚空に舞い上がる。
0209無能物書き
垢版 |
2019/03/18(月) 00:25:15.53ID:ZhiMbkbm0
 オレンジ色に染まる空と、世界。
空を飛んでいても届いてくる、下界にいる人たちの私への好意、まるで影絵のような人々が、
口を三日月のようにゆがめて笑っている。
誰も私が空を飛んでいることに驚かない、そもそもそんなことに興味も無い、それが分かる。
彼らの興味はひとつ、私への・・・

 思考を振り払い、怖気に耳を塞ぎ、飛ぶ。地平の向こうに見える東京タワーへ向けて。
その天頂部分のアンテナ、一本の線が伸びている、その一番上に、一本の横線が入っている
まるで東京タワーの一番上に、十字架が記されているように。

人がいる、あの十字架に磔にされている。誰かが。

さくらはそれが誰なのか知っていた。夢で見ていた。でも、それが逆夢であることを信じ、飛ぶ。
しかし近づくにつれてその期待はどんどん崩れ落ちていく。さくらの顔がこわばり、震え、
嗚咽と涙が漏れる。距離がゼロになった時、わずかな希望も絶望へと変わる。

「いやあぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!」

東京タワーの天頂で、磔にされている少年、李小狼。
目は光を失い、体にはわずかな温もりも維持していない。
死んでいる、さくらの愛しい人が。さくらが誰より好意を向けてほしかった、大事な人が。
「どうして、どうして、どうしてっ!」
小狼の目の前に浮いたまま泣き崩れるさくら。
0210無能物書き
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2019/03/18(月) 00:25:43.42ID:ZhiMbkbm0
「そりゃあまぁ、さくらちゃんは『みんなの』さくらちゃんだからね。」
その声、知ってるその声、知ってる人。下から聞こえた、涙をぬぐい、さらに溢れる涙を拭いて
下を見る。
「・・雪兎さん。」
展望台の上に立ち、さくらを見上げる雪兎。かつてユエと対峙したその場所に笑顔で立っている。
その際からひょっこり顔を出すケロ。
「せやせや。なのにあの小僧ときたら、さくらの『いちばん』になろうやなんて、
とんでもないやっちゃ。」
うんうんと雪兎も頷く。

「どうして?雪兎さん、私の『いちばん』の人がきっと見つかるって・・・小狼君がそうだって聞いて
応援してくれたのに・・・」
雪兎とケロが顔を見合わせ、やれやれ、と言う表情でさくらを見る。
「何言うとるんや、さくら。そもそもさくらの願いやったやろ。みんなと『なかよし』に
なりたいっちゅうのは。」
「さくらちゃんは魔法でその願いを叶えたからね、世界人類の『いちばん』でなくちゃダメだよ。」

「え・・・そんな。私そんな願いを叶えたの?」
「さくら自身がやったわけやないけどな、さくらの体から溢れ出る『魔力』がそうさせたんや。」
「そんな!勝手だよ。私はそこまで望まないよ!」
「魔力っていうのは、そういうものなんだよ。その人の心の中にある願いを叶えてくれる、
素晴らしい力なんだ。」
雪兎が笑顔でそう答える。素晴らしい力?これが?
0211無能物書き
垢版 |
2019/03/18(月) 00:26:11.14ID:ZhiMbkbm0
 さくらは目の前の小狼に視線を戻す。現実は変わらない。彼が死んでいるのも、
下界の人々が、さくらに理不尽な行為を向けているのも。
「このため、だったの・・・だから小狼君は私が魔力を強くするのを、止めたの?」
思い出す。なでしこ祭の時、一緒に飛びたいといった自分の愚かさを。
知世の家で見たビデオ、懸命に結界を張り、自分の魔力を封じてくれていた小狼たちの奮闘を。

 世界が壊れてしまった、私が壊してしまった。
そして、愛する人も、私のせいでこんな目にあってしまった。

 さくらは小狼に近づき、すがりつく。すでに体温は無く、異臭すらするその躰に。
「ごめん・・・小狼君。私、バカだよ、世界一の・・・バカだ。」
魔法を使った、魔力を高めた。その結果がこれだ。そして今この時も、魔法を使って飛んでいる。
どれほどバカなんだろう、私は。
 さくらは小狼にそっとキスをする。そして離れ、彼に正対し、涙を流して、告げる。

「ごめんね、ありがとう。」

さくらは魔法を解く、東京タワーの天頂で。
せめてこの愚かな魔法使いが落ちて死ねば、少しは彼の魂が浮かばれることを祈って−

薄れる意識の中、さくらはその手を誰かに捕まれる、そして声を聞く。

−無敵の呪文はどうしたのよ!−
0212無能物書き
垢版 |
2019/03/18(月) 00:31:42.44ID:ZhiMbkbm0
やっと>>40の伏線回収、こっから巻きに入ります。あと4〜5話かな?
0214無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:36:16.03ID:HRCjl+bE0
苺鈴ちゃん好きすぎる。ということで苺鈴回。
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第20話 さくらと苺鈴の素敵な魔法

「ちょっと、重いわよ、もう片方の手もあげなさい!」
「・・・え?」
さくらは右手を誰かに捕まれ、空中にぶら下がっている。その手の先は霧に隠れ、
誰なのかは分からない。ちょうどその手の上に濃い雲がかかっているかのように。
 さくらは言われるまま左手も上げる。と同時にその左手もばしっ、とつかまれる、
「はぁーーっ!」
気合一閃、さくらはそのまま一気に持ち上げられ、雲の中へ。霧をすり抜けると
そこは昨日さくらが下りてきた階段と、その上には白黒の通路、時の回廊。
そして、さくらを引き上げたのは、彼女も良く知る人物。

「苺鈴ちゃん!」
苺鈴は階段の踊り場でヒザをつき、ふぅっ、と一息つくと、きっ、とさくらを睨み、叱る。
「ちょっと!何やってんのよ、こんなトコで折れてる場合じゃないでしょ!」
「え・・・あ。」
さくらはぱちくり、とまばたきして苺鈴を見る。そしてふるふると震えながら、涙目になっていく。
「どうしたの?」
苺鈴の言葉にかまわず、がばぁっ、と抱き着くさくら。
「よかったぁー、苺鈴ちゃんはいつもの苺鈴ちゃんだよぉー」
「え、え?ええーっ!?」

「ふーん、みんなが貴方を好きな世界、ねぇ。」
「うん・・・」
時の回廊を歩きながら話す二人。先を行く苺鈴の背中を追いかけ、とぼとぼと付いて行く。
「みんな、おかしくなっちゃった。それに、小狼君が・・・」
うつむいて涙声で話すさくら。二人は先に歩いている、時の回廊を未来へ。
つまり、この先の時代に李小狼はいない、どこまで進んでも。
0215無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:37:00.83ID:HRCjl+bE0
「私、苺鈴ちゃんがうらやましい。魔法なんてなくても、しっかりしてて、カッコよくって。」
独白するように、聞いてほしいように、さくらは呟く。
「なんで魔法なんて使えたんだろう、こんな力が無ければ、こんなことにならなかったのに。」
と、くるっ、と振り向き、さくらを見る苺鈴。凛とした目で。
「贅沢よ、それ。」
「え・・・?」

 苺鈴は語る。魔法の一族である李家に生まれ、魔力を持たない苺鈴がどれだけ肩身の狭い
想いをしてきたか。
小狼の婚約者として彼と並び立つ資格のない自分を、どれほど嘆いたか。
「だから体を鍛えたのよ。魔力なんて無くても負けないくらい強くなろう、って。」

 しかしクロウ・カード集めの時、彼女は自分の努力が徒労であったことを思い知る。
さくらと小狼のカード争奪戦に割って入ることはできず、ソングのカードの時は知世にすら
後れを取った。シュートのカードの時に至っては自分の不注意で小狼を傷つけてしまった。
「でもでも、ツインのカードの時はうまくいったじゃない。」
さくらのフォローに、苺鈴は冷めた返事を返す。
「あれは同じ武術を学んでただけよ、正直ウェイの門下生なら誰でもできるわ。」
「そんな、こと・・・」
「さくらは『私にしかできないことがある』って言った。小狼は『お前がいて迷惑なことは無い』
って言った。」
そこで言葉を区切り、一度目を伏せてから、顔を上げて言う。

「それは、『持ってる人』の言う事よ!」
さくらはその表情に、胸を矢で貫かれたような、ずきり、とした痛みを覚えた。
0216無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:37:33.21ID:HRCjl+bE0
「『持ってる人』に言われても、そんなの慰めでしか無いわ。私がクロウ・カード集めの時
さくらにも小狼にも負けずにカードを手に入れられた時があった?」
言葉に詰まるさくらに、苺鈴はこう続ける。
「さっき何て言った?私が羨ましい、ですって!?私はずっと昔から思ってたわよ!
さくらが羨ましいって!魔力を持つあなたが、あのヌイグルミ(ケロ)に選ばれたさくらが!」
そう吐き捨てる苺鈴。言葉を紡ぐたびに感情的になっていく気持ちを抑えられずに、叫ぶ。

「あんたは特別なのよ!カードに受け入れられ、小狼に受け入れられ、皆に受け入れられる。
それを自覚しなさいっ!!」
苺鈴の叫びがさくらの胸に響く。さくらはいつか小狼が話してくれた言葉を思い出す。

−特別な力を持つって言うのは、そういう事なんだ−

 特別な力、それは他人に劣等感を感じさせる、否応なしに。
普通なら『仕方ない』と諦めることも出来ただろう。しかし魔法の一族に生まれながら
それを持たない、その悔しさを努力で埋めようと頑張ってきた苺鈴にとって、その心は、矜持は、
さくらが思う以上に傷ついていたのだ。
「私・・・どうすれば、いいの?」
顔を伏せたままさくらが呟く。自分の魔力が人を魅了し、人を傷つける。
そんなさくらに苺鈴は声のトーンを下げて、語る。
0217無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:38:05.47ID:HRCjl+bE0
「ねぇ、ライト兄弟って知ってる?」
「ほぇ?う、うん。初めて飛行機で空を飛んだ人、だよね。」
「じゃあ、オットー・リリエンタールは?」
さくらはふるふると首を振る。
「フランツ・ライヒェルトとか、イスマーイール・ブン・ハンマード・ジャウハリーは?」
全然知らないよ、と言った表情で苺鈴を見つめるさくら。
「今言った人、みんな天才よ。当時のトップクラスのね。そして、空を飛ぶことを夢見て・・・」
「それで?」
「落っこちて死んじゃったの。」
えっ、という顔で驚くさくら。
「ライト兄弟が飛行機っていう機械にしがみついて空を飛ぶまで、他にも多くの天才や偉人たちが
命を落としたのよ。そんな空を飛ぶ、っていう行為を魔法使はいかにもたやすくやっちゃう。
これだけでも、自分がいかに『持ってる』人間か理解できるでしょ?」

 さくらは痛切する。初めてフライのカードを封印し、ケロに勧められるまま空を飛んだ。
さくらカードに変える時は杖の羽から背中に羽を移した。クリアカード『フライト』では
蝶のように空を舞い、ミラーでコピーして小狼すら一緒に飛んだ。
 全ては『特別な』ことだ。人間は飛べない、自分の力では決して。心から『空を飛びたい』と
思う人にとってそれはあまりに理不尽で、差別的で、屈辱的な能力。
魔力に選ばれた一握りの人間だけが成し得る、理不尽で不公平な奇跡。

「李家に伝わる家訓の一つなの。自分がいかに特別な人間か理解するためのいい実例だ、って。
もっとも、私には必要なかったけどね。」
そう言ってペロッと舌を出す苺鈴。
「大事なのは、あなたがその力とどう付き合っていくのか、真剣に考える事。
ただダダ洩れにしてるだけじゃ、そりゃあちこちおかしくなっちゃうでしょ!」
0218無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:38:33.59ID:HRCjl+bE0
 その苺鈴の言葉に、さくらは呆然として顔を上げる。
「じゃあ・・・そうすれば未来を、変えられるの?」
「さぁね。」
背を向け、そっけなく言う苺鈴。そもそも魔力の無い苺鈴に、この魔法で超えてきた未来が
不変なのかそうでないのかなんて分かるはずがない。
「でもね、私だったら諦めないわ。」
「え?」
「私には魔力が無い、だから空は飛べない。だったら空を飛ぶより速く走って、彼らより早く
目的地についてみせるわ。」
 さくらの心に、苺鈴の思いが染み渡る。どんな理不尽にも諦めない、その強い心が。
「さくらはどうなの?諦めてこの未来を受け入れる?それとも・・・」
振り向いて言う苺鈴に、さくらの目の前が開ける。そうだ、私の前にどんな困難にもめげずに
挑める人間がいる。手本にするべき、指針となるべき友達が。
「苺鈴ちゃん、ありがとう。私、やってみる。小狼君も、秋穂ちゃんも、そして私も助けられる世界を。」

 もう迷いはない、やるべきこと。それを成し、帰る。

−絶対、だいじょうぶだよ−
0219無能物書き
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2019/03/21(木) 23:39:05.52ID:HRCjl+bE0
 詩之本家、砕け散った『夢の杖』の周りに駆け寄り、全員が驚きの表情を見せる。
「これは・・・」
エリオルが嘆く。と、その上に浮いていたクリアカード『フューチャー』が、その輝きを失い
1枚のカードに戻って、ひらりと床に落ちる。
「大変なことになりました。」
目の前の現実に愕然としながら、エリオルは続ける。

「どういうことだ!」
桃矢が問う。杖が失われ、カードが発動を終えたことが、最悪の結末を予感させる。
「このままでは、さくらさんは・・・二人は戻ってこられません。」
「何ですって!?」
驚きの言葉を上げる苺鈴、他の全員も悪い予感を隠せない。
「どうすればいい?」
小狼の問いに、しばし考え込んで答えるエリオル。
「誰かが未来に行って、連れ戻すしかありません。」
「未来へ・・・どうやって?」
小狼の問いにエリオルが返す。
「まず、さくらカードを元に戻します、準備を!」

 小狼は一度アパートに戻り、さくらカードの精霊が宿るクマのぬいぐるみを取ってくる。
雪兎は再びユエに戻り、預かっていたさくらカードの「原紙」ともいえる透明なカードを持ってくる。
再び詩之本家、床にカードを並べ、小狼が精霊を一気に開放する。
「あまたの精霊たちよ、汝らのあるべき姿に戻れ、さくらカードっ!」
エリオルが杖で精霊たちを照らす、それにこたえて精霊たちは、それぞれのカードに戻っていく。
0220無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:39:42.66ID:HRCjl+bE0
「ふぅ。」
「くっ・・・」
膨大な魔力を使ったエリオルと小狼は、その場にへたり込む。
「それで、これからどーするんや!さくらカードに未来にいくカードなんかないで。」
そのケロの質問に答えたのは、エリオルではなく観月だった。
「でも、その反対の能力を持つカードならあるわ。」
「そらまぁ・・・リターン(戻)ならあるけど、過去に行ってもしゃあないやろ!逆や逆!」
そこまで聞いて、あ!という表情でエリオルを見る小狼。

「ミラー(鏡)のカードか!」
分身を生む、光を跳ね返す等、さまざまな鏡の能力を持つミラーのカード。
その能力を応用して、過去に戻るリターンの能力を反転させ、未来に送ることが狙いだ。
「しかし・・・」
果たして本当にそんなことが可能なのか、仮にできるとしても、ミラーを使う者、リターンを使う者
そしておそらく時間を制御するためタイム(時)のカードも必要となるだろう、それを使う者も。
 いずれのカードも相当な魔力が必要となる。言うまでもなく、ケルベロス、ユエ、スピネル、そして
ルビー・ムーンの4人は自分でカードを使うことは出来ない。まして今、エリオルと小狼は膨大な魔力を
消費したばかりだ。

「リターンは私と歌帆が担当します。」
エリオルの言葉に頷く歌帆。膨大な魔力を必要とするリターンは、今のエリオル一人ではきついらしい。
「タイムは・・・相性の良い李小狼、いけますか?」
その問いに小狼は力強く頷く。さくらを助けるため、出来ることは何だってやる決意だ。
「あとはミラー・・・」
そう言って、桃矢の方を見るエリオル。
「さくらさんのお兄さん、お願いします。」
0221無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:40:11.74ID:HRCjl+bE0
「えっ!俺?」
驚く桃矢にこくりと頷く。
「あなたとミラーには何か『縁』を感じます。ユエ、彼のサポートを。」
「分かった。」
そう言ってミラーのカードを広い、桃矢に渡す。
赤いリボンが巻かれた少女の図柄を見て、やれやれと息をつく。
それぞれがカードを持ち、向かい合って立つ。

「で、誰が未来に行くんや?」
そのケロの言葉に全員が硬直する、その人選が抜けていた。
本来ならリターンを使う二人が行くのだろうが、これはさくら達を『呼び戻す』ための時間飛翔だ。
リターンのカードはさくら達を引き戻すためにも使い続ける必要がある。
人間でないケロ、ユエ、スピネル、ルビー、そしてモモはカードで飛ぶことは出来ない、となると・・・

 全員が注目する、知世と苺鈴に。
「じゃあ私が・・・」
いそいそとビデオを用意する知世に、苺鈴が平手でツッコミを入れる。
「大道寺さんはダメ!財閥の令状が帰ってこられなくなったらオオゴトでしょうに。」
「ですけど・・・」
「私はいいの、これで結構自由な立場だし。それに・・・他にも理由はあるしね。」

 桃矢の手の中でミラーのカードが発動する。桃矢の背中にはユエが付き、体内の魔力の流れを
調整している、かつて桃矢の力を受け継いだユエだからこそ出来るサポート。
具現化したミラーは、桃矢を見て少し嬉しそうに微笑んだ後、正面のリターンのカードと、
それを使うエリオル達に向き直る。
 次に歌帆がリターンを発動、ミラーはそれを鏡に映し出す。その正反対の能力を持つカードとして。
そしてエリオルがその鏡に映ったさくらカード『フューチャー』に手をかざす。小狼もまた
時間制御のため、カードに剣を突き立て、発動させる。
0222無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:40:47.32ID:HRCjl+bE0
「フューチャー!」
「タイム!」
3枚のカードの真ん中にいる苺鈴が、3方からの魔力を受け、うっすらと消えていく。
それを見た知世が苺鈴に叫ぶ。
「苺鈴ちゃん!」
振り向く苺鈴、知世はその顔を見て言葉を続ける。
「他の理由って、いったい何ですの!」
親友の言葉に、苺鈴は手を挙げて返す、消える直前に。

「ずっとさくらに言いたいことがあったのよ、じゃあ、行ってくるわね!」
0223CC名無したん
垢版 |
2019/03/22(金) 01:47:26.05ID:HXwfwRoL0
読みたかったパーツがまるで導かれるみたいにはまってく。繋がっていく
どこが無能やねん
有能すぎるわ
0224CC名無したん
垢版 |
2019/03/22(金) 02:13:02.51ID:dcKqOXCq0
アニメ劇中のあの音楽と効果音が頭の中で再生される
デデデデッデデデデー♪
0225CC名無したん
垢版 |
2019/03/22(金) 10:06:36.80ID:Xo8o9GLu0
大川七瀬がこれ読んだら感服するレベルやんけもうこれ
0226無能物書き
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2019/03/24(日) 01:04:24.27ID:5OxW+Yck0
>>223-225
ここは無能をおだてて木に登らせるインターネッツですか?いや登るけどw
>>223
ロジックが多いとそのへん苦労しますが、わりとうまく収まりそうです
>>224
1話1話、アニメの1話またはA,Bパートを意識して書いてます、脳内BGMが付くと嬉しい
>>225
いやいや、後出しの二次創作など相手にせず突っ走ってほしいものです

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第21話 さくらとアリスの本の秘密

 さくらと苺鈴は歩く。時の回廊を、とりとめもない思い出話をしながら。
初めて会った時、水に落ちたさくらが、苺鈴が小狼にプレゼントした服を着ていたこと。
香港に来た時、またも水に濡れたさくらが今度は小狼の実家で着替えたこと。
 揚げ物の授業の時、パニックに陥った時に危険を顧みず火を止めてくれたり
ミラーの騒動の時に非行に走ったと勘違いされて叱られたこと。
ビッグのカードの時の巨大さくらの戦いが特撮的で楽しかったこと、
 体育のマット運動で、マラソンで、ケーキ作りで、ゲーセンのモグラ叩きで
いつも張り合ってたこと。

 そして、時間を違えて同じ人を好きになったこと。
0227無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:05:14.59ID:5OxW+Yck0
 魔力の有無を除けば、私たち結構似てるのかな、という話になる。
「そういえば、本物の詩之本さんもさくらに似てる、って言ってたわよね、あの人。」
「うん、おっとりな秋穂ちゃんからは想像できないけど・・・」
「もしそうなったら、今度は3人で競争かしら?」
あのお嬢様気質な秋穂が、苺鈴もかくやな態度でさくらたちの勝負に参入してくる姿を
想像して、二人で笑う。
「案外、どおりゃあー!とか言って月面宙返り決めたりして。」
「ぷくくくっ・・・ちょっと苺鈴ちゃんやめてよ、想像しちゃった・・・」
それはそれで楽しそうだ、とさくらは思う。秋穂に宿ったアリスは確かにさくらに
似ていたところがあったが、どちらかというとふんわりな部分が、いや今は苺鈴と一緒だから
ぽややんな部分が似ていたから、そういう部分も似ていたらさぞ楽しいだろう。

「その為にも、彼女を助けないとね。」
「うん。それで、できればアリスちゃんも。」
と、苺鈴がその足を止める、その先には下に降りる階段。
「終点みたいね。」
「うん、先の道が無い・・・海渡さんもここから降りたのかな?」
「多分ね。しっかしさくらって、おばあさんになっても美人よね〜、羨ましい。」
「ほぇ?」
ふと自分の頬に手を当てるさくら。そのほっぺたも手の平もしわしわなのに今更驚く。
「ほぇえぇぇっ!私、おばあさんになってる!」
「気付いてなかったの?」
「でもでも、苺鈴ちゃんはそのまんまだし・・・」
驚くさくらに、少し考えて答える苺鈴。
「あー、多分『来た方法』が違うからかもね。」
0228無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:06:26.77ID:5OxW+Yck0
「そうだったの・・・杖が。」
「さっきも試したんだけど、私は階段の下には降りられないみたい。上から見ることは出来るし
腕くらいは掴めるみたいだから、帰りたいときは腕を上に上げなさい、引っ張ってあげるから。」
「うん、じゃあ行ってくる!」
「あ、ちょい待って。一言いっとくけど・・・」
そう言って階段を降りようとするさくらを止める。

「その年で『ほぇー』は止めときなさい、似合わないから。」
「・・・ぷっ!あははははは・・・」
大笑いする二人。さくらは思う、苺鈴ちゃんが追いかけてきてくれて、ホントに良かった。

 さくらは階段を降りる。多分この先は目的の2072年、『時計の国のアリス』が完成した年。
秋穂とアリスの魂を開放する、その方法を探るためにここに来た。階段の最下段に立ち、
後ろの苺鈴を振り向いて手を上げる。笑顔で手を振り返す苺鈴。
 そしてさくらは、その階段の下に身を踊らせる。

−そこは、見たことのない風景。山岳地帯にある湖と、その脇に建つ古風な小屋−

 遠くには雪山、空気は澄み、冷たい。人の気配のない豊かな自然の中に、ぽつんと小屋がある。
さくらはその小屋の前に立つ。ここに来たということは、何か意味があるということ。
こんこん、とドアをノックするが、返事は無い。ノブに手をかけ回す、カギはかかっていない。
きぃ、という音を立ててドアを開ける。
0229無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:06:58.34ID:5OxW+Yck0
 殺風景な小屋の中。その隅、窓際に机と安楽椅子がある、そこに座っているのは一人の老人。
さくらを見て、言う。
「・・・来ましたか、木之本さくらさん。」
痩せ型で白髪、精悍な表情が、かつてハンサムだったことを思わせる男性。
「私を、ご存知なんですか?」
さくらが返す。今は自分もお婆さんだ、その上で自分を知ってる人って?

「あなたのことはよく知っていますよ、ふたつの意味で。」
「ふたつ・・・?」
「ひとつは、この世界を崩壊に導いた魅惑の魔女として。」
「え、ええええっ!?」
なにかとんでもない評価を受けて驚くさくら。確かに見かけはお婆さんだが、心はいまだ
十代なのに魅惑とか魔女とか・・・あ!
 さくらは思い出す。自分の魔力が周囲に与えていた影響を。そしてそれが高校生になる頃には
世界を歪めてしまうまでになっていたことを。

「心当たりがあるようですね。」
安楽椅子を回し、さくらに正対して老人は言う。
「世界って・・・崩壊したんですか?」
さくらはこの時代はここしか知らない、今の世界がどうなっているのかは知る由もない。
「人類はね、貴方以外を愛せなくなったんですよ。」
「そんな・・・」
「もう40年くらいになりますかね、この世界に「赤ちゃん」がいなくなってしまったのは。」
老人は語る。さくらの発する魔力は世界中に生きわたり、世界人類すべてがさくらを愛するように
なってしまった。男も女も、若者も老人も子供も、その子供が大人になってからも。
「誰も結婚しない、誰も子供を産まない、ただただ貴方の虜になって生きるだけの存在。
社会は機能しなくなりました。そして、繁殖を忘れた人類は、あと70年もすれば滅ぶでしょう。」
0230無能物書き
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2019/03/24(日) 01:07:30.02ID:5OxW+Yck0
 さくらは愕然とする。前に降りた時代ですら小狼を失い、身の回りの人間関係は壊れていた。
千春と山崎はただのクラスメイトになり、利佳はかつての好きな人を忘れたかのように
さくらに好意と恋の目を向けていた。
それが今では、人類全てが?
 一瞬気落ちしかけて、ふるふると首を振る。いけない、めげてちゃ駄目だ。
ついさっき苺鈴ちゃんに言ったばかりだ、こんな結末を変えるんだ、私が。

「そして、もうひとつの意味で、私はあなたを知っています。」
老人が続ける、さくらから視線を外さず、かつ、さくらの魔力に魅了されていない目で。
「私と一緒に、時を超えてここに来た人間として、です。」
「ええっ!そ、それじゃあ・・・あなたは」
老人は頷き、さくらを見据えて言う。
「ええ、ユナ・D・海渡です。」

 彼は二年前にここに来て、この時代の自分と融合し記憶を共有する。そしてさくらが来るまで
彼はここで待っていた、やるべきことを進めながら。
彼は机の上にある本をさくらに見せる。見覚えのある表紙、忘れられない色、作り、サイズ、厚さ
そして、その本のタイトル。
「時計の国のアリス!海渡さん見つけたんだ!!」
 この本の秘密を解き、秋穂の魂を救う。その為に二人は時を超え、この時代にまでやってきた。
「見つけたのではありませんよ。」
「・・・え?」
その次の言葉が、この本の謎を雄弁に語る。
「この本は、私が書いたんです。」
0231無能物書き
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2019/03/24(日) 01:08:02.47ID:5OxW+Yck0
「先ほども言いましたが、この世界はあなたへの愛で壊れてしまっています。」
海渡は語る。彼の目的は変わらない、秋穂を救うこと。
しかしその対象は全く違うものになっていた。
「私は、秋穂さんが好きでした。いえ、好きになろうとしていた、というべきでしょうか。」
彼は秋穂が7歳の時、詩之本家に行き、秋穂に出会った。自分が使うべき『魔法具』として。
それは言い換えれば、彼女とこれから長い時間を一緒に過ごすということ。
「気持ちの良い娘でした。私は昔、人と違う力を持つゆえに暗く歪んでいたんです。
でも、彼女はそれを自然に癒してくれた。その明るさで、笑顔で。」

「いつしか私は、秋穂さんを好きになってしまっていました。おかしいですよね、まだ彼女は
10歳にもなっていなかったのに・・・」
 さくらはふるふると首を振る。知っている、『好き』に年齢は関係ない。かつてのさくらと雪兎のように
先生と生徒で想い想われる仲であったクラスメートのように。
「そして、あの事件が起きました。秋穂さんが本に魂を奪われる事件が。」
ひとつ区切って、意を決して続ける。
「あれは、『今の』私の仕業なんです。」

 この時代に来て、さくらの魔力で壊れたこの世界で、海渡は事件の真相を知る。
あの本は人の魂を食らう本ではない、理不尽な魔力から人の魂を守るシェルターであることを。
「私は、耐えられなかった。秋穂さんが、貴方の虜になることが・・・だからこの本を作ったんです。
時を超えて、貴方がその魔力を撒き散らす前に、秋穂さんを救うために。」
「私の・・・魔力から守るために?」
「ええ、私は秋穂さんを欲した。秋穂さんの心が貴方に奪われるのを止めたかった。
いいえ、本当は私が秋穂さんの『いちばん』になりたかったんです。」
 だから彼はこの本を作り、過去に送る。さくらが魔法に目覚めるその前の時代に。
秋穂やさくらが9歳の時代、さくらがケロと出会い、クロウ・カード集めを始めるその時代に。
0232無能物書き
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2019/03/24(日) 01:08:35.28ID:5OxW+Yck0
「この本の中には世界があります、私が魔法で作った世界が。閉じ込められた秋穂さんが
寂しくないように・・・いつか私の魂と出会えるその時まで。」
「じゃあ・・・アリスさんは?」
「彼女も、私が作った魂です。秋穂さんとの思い出と、私の彼女に対する想いを込めて。」
さくらは納得する。知り会った秋穂は、その心の中にあるアリスの魂は、常に海渡に恋していた。
それは海渡が秋穂を想う恋心そのままだったのだ。
 本の中に世界がある以上、その中に登場人物は必要だ。アリスを作り、モモを作って
秋穂がその本に入るまでその本を生かせていた。

「この本の中には、もうすでに秋穂さんが入っています、アリスもね。」
さくらから視線を外し、外の窓を見て、こう呟く。
「あとは、私が死ぬだけです。そして、私の魂がその本に入ることが出来れば、再び出会えます、彼女と。」
「・・・そんな!」
さくらは叫ぶ。そんな恋なんて可哀想だ、終わった世界で本の中に閉じこもって一緒になっても
そんなのきっと幸せじゃない。

「海渡さん!」
さくらは海渡に詰め寄り、胸に手を当てて宣言する。
「私、もう決めたんです。世界をこんな風にしないようにやり直すって!」
その言葉にうつろに振り向き、さくらを見て自虐的に笑う。
「無理ですよ、未来を見た以上、その運命は変えられない。もう夢の杖は失われたんですよ。
私たちはもう、あの時代には帰れないんです。」
知っている、夢の杖がもう砕け散って、フューチャーのカードが発動を終えていることを。
だけどさくらは諦めない。自分一人の力じゃどうにもできないことも、一緒にやってくれる人がいることを。
0233無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:09:07.18ID:5OxW+Yck0
「海渡さん、秋穂ちゃんともう一度会いたくないですか?こんな世界じゃなく、あの頃に戻って。」
さくらの真剣な提案に、海渡の瞳にわずかに光が灯る。
「もし、もしも海渡さんがそれを望むなら・・・手をあげて下さい、力いっぱい。」
 さくらは両手を天高く突き上げる。
その姿を見た海渡は、そのさくらの意思と決意を感じ取り、立ち上がる。僅かな奇跡を信じさせる
そのさくらの瞳を見て。
「さぁ!」
さくらが再度即する。立ち上がった海渡は、もうすっかり年老いたその腕を、高々と天に掲げる。
夢見た、もうかなわないと思っていた夢を、今だけは信じて!

 さくらの手が、海渡の手が、ぱしっ!と捕まれる。その上から現れた手に。
「な・・・」
「海渡さん、その手につかまって!」
捕まれていないほうの手で、その手を掴むさくら。海渡もそれにならい、その手を掴む。

「いいよ、苺鈴ちゃん!」
0236無能物書き
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2019/03/25(月) 23:29:56.23ID:xBsJFseB0
>>234
胸熱展開は作者の力量が問われますよね・・・もっとセンス欲しい
>>235
ここからクライマックス突入です、願わくば最後までお付き合い願います。

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第22話 おかえり、さくら

「ぜはーっ、ぜはーっ・・・もう!二人まとめて、引っ張り上げさせないでよ!」
階段の一番下でへたりこみながら抗議する苺鈴。
その際にさくらと海渡がいる。さくらは申し訳なさそうに、海渡は驚きの表情で。
「あはは、ごめーん。」
手を合わせて謝るさくら。そんな二人に海渡が呆然として、問う。
「李苺鈴さん・・・あなたが何故、どうやって?」
息を切らしながら、その質問に答える。
「そうね・・・頑張って来た、とでも言っとくわ。」

 ふぅ、と息を正し、立ち上がって二人を見て言う。
「それで、詩之本さんを助ける方法は見つかったの?」
「え!?あー、何というか、その・・・」
言葉を濁すさくら、海渡が現状を代返する。
「こちらが聞きたいくらいですよ。」
その返事にがくっ、と体を傾ける苺鈴。
「何しに行ってたのよ!」
「あはは、でもなんか、何とかなるような気がするの。」
ふっ、と笑ってさくらを見る苺鈴。相変わらずこの娘は・・・おばあさんだけど。
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