知世はハッとした。苺鈴に頼まれてデータをコピーした時、同じフォルダに入っていた自分の歌までコピーしてしまったに違いない。
あれだけのデータを渡したというのに、律儀なことに、小狼はそれまで聞いたというのだ。
「申し訳ありません。入れるつもりはなかったんですが、間違えて一緒にお渡ししてしまったみたいですわ。お聞き苦しいものをお聞かせしてしまいましたわね」
肩をすくめて知世が謝ると、小狼は驚いたような顔をした。
「いや、そんなことはない。あの時は、カードのせいで落ち着いて大道寺の歌を聴くことができなかったから残念だと思っていたんだ。だから」
こほん、と一つ咳払いをした。
「聴けて、本当に良かった」

彼の言葉は不思議だ。私を嬉しくしてくれる。端的で、飾り気のない言葉は、人によっては怒っているように聞こえるかもしれない。けれど、その奥には彼の優しさや実直さが溢れていて、それが私の心を動かして、私の中の「何か」が形を変える。
知世は、映像を見て振り返ってみようと思うほどに自分の歌に価値を見出したことはなかった。しかし、小狼の一言で、知世は初めて思った。
たまには、自分の歌を聞いてみるのも悪くないかもしれませんわねーー。

さくらちゃんへの好きとは違う彼への気持ち。
彼を想う自分は、好きな自分が増えていく。
知世の心は一瞬触れた小狼の指先みたいに暖かかった。

なかなか返事を返さない知世の様子に、小狼は何か勘違いをしたらしい。「あ、いや、もちろんこの間音楽室で歌ってくれた歌もすごく良かったんだ!ただ、あの時は俺がピアノを弾いていたし……詩之本も一緒に歌っていたから…!」
しどろもどろでフォローしようとする小狼があまりに一生懸命で、知世はなんだかおかしくなってしまった。
「李君、そんなに慌てなくても大丈夫ですわ」
くすくすと笑い出した知世に、小狼はあっけにとられている。
「でも、そうですわね、私の歌を良かったと思ってくださるのでしたら……」
緊張した面持ちで小狼が息を飲む。
「また、ピアノで伴奏をしてくださいな」
知世の言葉に小狼の顔に穏やかな笑みが広がった。
「俺でよければ」