私は少しビターなものを飲もう。さくらちゃんには美味しいと言ってもらった紅茶を用意しつつ、自分にはほとんどブラックのコーヒーを入れ直して部屋に戻る。

「お待たせしました。ケロちゃんカメラの映像はどうでした?まだ首の座りがお悪いようですから、何か固定策を考えるか、大道寺トイズのほうでブレ補正技術の向上を図ってもらうようにしませんと」
新しい飲み物の香気に助けてもらいながら、部屋の空気を入れ替えんとばかりに、さくらちゃんに色々と話し掛ける。
「さくらちゃん?」
今度はさくらちゃんが呆けたような表情で画面に見入っている。短い同じ場面を何度も巻き戻しては再生しているようだ。
それは友枝中学校の球技大会で、急に雹が降ってきて軒下に避難したときのものだ。襲い来る雹の粒から、李くんが私の両肩を掴んでしっかりと守り通してくれるシーンが、見事に映し出されている。何もそんな数秒間だけブレもせず捉えなくてもいいのに、ケロちゃんたら。

どうぞ、と大好物の紅茶を前に置いても、さくらちゃんの反応は薄い。何か誤解しているのだろうか。それならば解いておかなければ。私と李くんはお友達、さくらちゃんのことが一番大切、だけが共通点なただのお友達なのだと。
「さくらちゃ――」
「あっ、ごめんね!あの、あの、しゃおらんくんがとってもカッコよかったから、つい何度も……」
小狼の部分を平仮名のように発音しながら、さくらちゃんはクッションに顔を埋めてしまった。
「そ、そうですわよね!李くんは誰にでも助けの手を差し伸べる、紳士の中の紳士ですわ」
修羅場、のようなシーンが訪れなかったことに安堵しながら、李くんの行動に賛辞を述べる。こんなさくらちゃんだからこそ、李くんは好きになられたのですわ。そう心の中で付け加える。

それからはケロちゃんの撮影について、あれこれと文句を付けては笑い合ったりして過ごし、また一緒に見よう、と約束してさくらちゃんは帰って行った。
一人になった部屋で、私はもう一度先ほどのシーンを再生させてみる。真剣な眼差し、躊躇のない行動。李くんは本当に誰にでも同じ助けをするのだろう。
分かっている。それでも、何度もそのシーンを再生してしまう。本当に……。
「素敵なシーンですわ」
「素敵なシーンだったな」