「李くん、本当に逞しくなられましたわね…」

陰り始めた陽が斜めに差し込む部屋のソファに知世は一人佇んでいる。採寸に呼ばれて照れる小狼と苦笑いのさくらが先程まで居た空間は、まだ僅かな温もりを残しているようだ。
小狼の採寸のために使われた巻尺と裁縫道具はテーブルに置かれたまま。なぜだか片付ける気になれない。

「李くんにも素敵な衣装を作りませんと。さくらちゃんも、かっこいい李くんのお姿をご覧になりたいでしょうし!」

もちろん、誰よりも大切なさくらが喜んでくれるように。きっと赤くなりながらも満面の笑顔を見せてくれるはずだ。
小狼をのことも思い浮かべてみる。渋りながらも、ちゃんと袖を通してくれるだろう。彼の優しさをよく理解できるくらい付き合いは長くなった。

ふと、巻尺を手に取って自分の肩幅を測ってみる。
「やはり殿方とは違いますわね」
言葉にしてみて、急に自分の行為が恥ずかしく思えた。ついさっき小狼に当てていたものだ。随分と大胆なことをしてしまった気がする。
「…さくらゃんに悪いですわ!」
それにしても、どうしてこんなに胸が高鳴っているのだろう。
知世は平静に戻るまで、短いとは言えない時間を、またこの部屋で過ごすことになった。