今日も、知世ちゃんの歌を見学させてもらった。もちろん伴奏は李君だ。
曲のテンポやタイミングを打ち合わせるため、知世ちゃんがピアノの前に座る李君に話しかけている。それに真剣な眼差しで答える李君。
黒髪がさらさらと揺れて抜けるように白い肌が眩しい知世ちゃんと、少し気の強そうなところもあるけど紳士的な振る舞いの李君は、お世辞抜きに絵になっている。二人とも落ち着いていて、まさに良家のお嬢様、御坊ちゃまの図。
実際、知世ちゃんは大きな会社のお嬢様だし、李君も香港ではものすごいいいとこの御曹司なんだっけ。山崎君情報も時には侮れない。
そっとさくらちゃんの方を見てみる。さくらちゃんは楽しそうに奈緒子ちゃんと秋穂ちゃんとおしゃべりをしていて、その笑顔は幸せそのものだ。

私たちが着席して曲が始まる。他の人は目を瞑ったりして(山崎君の目が元から開いているのか閉じているのかよくわからないってことは置いておいて)聞こえてくる音に耳を澄ましている。けど、私は二人を見ていた。
歌い出しのタイミングを見計らって李君が知世ちゃんををちらりと見る。
伴奏の複雑なところで、知世ちゃんが李君の方をさりげなく気にする。
当たり前のことなんだろうけど、お互いをちらりちらりと伺う様子はなんだかこそばゆい。
二人の目があって、思わず微笑みあっている姿は見ているこちらがドキドキしてしまう。
世界にはまるで二人しかいないみたいで、少し、羨ましいーー。
魔法みたいな時間が終わって知世ちゃんが礼をした。一斉に拍手が湧き上がって、私の隣に座っていたさくらちゃんが駆け寄る。
「知世ちゃん、すっごく素敵だったよ!小狼君もすごいね!」
口々に感想を言い合う友達たちを遠巻きに眺めている私に山崎君がぽつりと言った。
「僕たちにできることは、彼らがどんな未来を選んだとしても、幸せであるように願うことだけじゃないかな」
そうだね、山崎君。さくらちゃんも知世ちゃんも李君も、みんな大切な友達だもの。
……って、山崎君、嘘を振り撒きに行かないの !!