X



【古典部シリーズ】氷菓 第205号

レス数が1000を超えています。これ以上書き込みはできません。
0001名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ a392-r8vT)
垢版 |
2021/06/09(水) 16:15:32.82ID:DGQ495gC0
!extend:checked:vvvvv:1000:512
!extend:checked:vvvvv:1000:512
冒頭に↑を三行重ねてスレ立てして下さい
立てると一行減ります

米澤穂信の推理小説作品『〈古典部〉シリーズ』のTVアニメ化!
不干渉主義で“省エネ”が座右の銘の奉太郎は、成り行きで入部した「古典部」の仲間に依頼され、
日常に潜匿する不思議な謎を次々と解明していく事に。爽やかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリー!
===========掟===========
・著作権法の精神に照らして、投稿動画(公式配信を除く)に関する話題・URL貼りは厳禁。
・荒らし、煽りは徹底放置。→削除依頼:http://qb5.2ch.net/saku/
・5chブラウザ(無料、「人大杉」回避)の導入を推奨。
・sage進行推奨。E-mail欄(メール欄/メ欄)に半角小文字で「sage」と記入。
・次スレは>>980が宣言してから立てる事。無理ならば代役を指名する事。
========================
●TV放映/WEB配信日程 2012年4月より放送開始!
・千葉テレビ (CTC)   毎週日曜日 24:00〜
・テレビ埼玉 (TVS)   毎週日曜日 25:00〜
・TVQ九州放送 (TVQ) 毎週日曜日 26:30〜
・テレビ神奈川 (tvk) 毎週月曜日 25:00〜
・京都放送 (KBS) 毎週月曜日 25:00〜
・サンテレビ (SUN)   毎週火曜日 24:00〜
・岐阜放送 (GBS)    毎週水曜日 24:15〜
・東京MXテレビ (MX)  毎週水曜日 24:30〜
・三重テレビ (MTV)   毎週金曜日 25:50〜
・日本BS放送 (BS11) 毎週金曜日 27:00〜

●スタッフ
・原作/構成協力:米澤穂信 (角川文庫刊「古典部シリーズ」から・少年エース連載)
・シリーズ構成:賀東招二   
・監督:武本康弘
・キャラクターデザイン:西屋太志 
・音響監督:鶴岡陽太
・美術監督:奥出修平         
・音楽:田中公平
・撮影監督:中上竜太         
・色彩設計:石田奈央美
・設定:唐田洋              
・アニメーション制作:京都アニメーション
・編集:重村建吾            
・製作:神山高校古典部OB会

●前スレ
【古典部シリーズ】氷菓 第204号
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/ranimeh/1606609655/

おいこら回避:おいこら
VIPQ2_EXTDAT: checked:vvvvv:1000:512:: EXT was configured
0900名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/14(日) 13:21:39.94ID:qQ7Pl0Xv0
 
俺は伝統ある古典部部室に響き渡る大声で断言した。

「……千反田は自分から生おっぱいを見せるっ!」

「え…」

絶句する里志。しょせん凡人に過ぎないヤツは少し引いていたのかも知れない。
だが俺には確信があった。頭の中でシミュレーションは完了している。
千反田にはただ簡単にこう言うだけでいいのだ。

「俺と里志に立ったまま生おっぱいを出して見せて欲しい。
 あ、いや厭なら別にいいんだが」
0901名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/14(日) 13:22:56.16ID:qQ7Pl0Xv0
 
「付け加えるとブラジャーは外した方がいいな。そのあとセーラーの前をめくり上げて見せてくれ。
 手短に。」

千反田はまず硬直するだろう。神山祭の十文字事件で卑猥な話の件を持ちだしたときのアレだ。
そして紅潮した顔で考える。俺にはその後の千反田の行動と考えが手に取るように読めた。

(いくら折木さんの言う事でもそれはあんまりでは……でも……)

(こんなはっきり物を要求する折木さんは見たことがありません。きっと何か意味があるのではないでしょうか。
 それに今日わたしは生理日前で今朝お風呂で確かめたところではいつもより肌に艶がありますし
 きっと見られただけで乳首は立ってしまうものと思います。こんなに近くでお二人に正面からそんなわたしの
 生おっぱいを見せたとして折木さんはそのとき私の生おっぱいを一体どうするつもりでしょう。
 眺めたり触ったりまた眺めたりするのでしょうか。 なんだかわたし…とても気になります)

千反田の目は考えすぎでぐるぐるしているはずだ。そしてそんな瞳のまま結局、自分から
制服の前から生おっぱいを自分の指ではみ出させる事になるに違いないのだ。俺たちは
何もせずその過程を楽しく眺めていることが出来ることになる。これが正しい省エネというものだろう。
0902名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/14(日) 13:24:31.30ID:qQ7Pl0Xv0
 いったんそんな風に千反田が自分の生おっぱいを自分で丸出しのもろ出しのむき出しにしてしまったなら
その後は千反田の生おっぱいはしたい放題だ。里志はさわり具合を楽しむだろうし、少なくとも後ろから
剥き出しのそれを黒髪の背中越しに揉みしだく位の事はするかも知れない。俺の場合はまず、その辺に
寝転がりリラックスした俺の傍らで千反田自ら生おっぱいを俺の顔の上に乗せることを要求する。
そのままでもいいが顔の上で揺らしたり、押しつけたりするのも悪くない。そうして千反田の乳首を噛んで
高校の残り2年間を過ごすのもさらに悪くないだろう。

それから……
0903名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/14(日) 13:26:18.05ID:qQ7Pl0Xv0
「折木。最低!」

(……あ、口に出てたか?)

伊原の鋭い一言で俺は生おっぱいの桃源郷から引き戻された。どうやら夢想していたらしい。白昼夢というやつだ。
俺は自分の信条を心から大事にしている。そこからしても同時に二つの事をスルのは信条にもとると言えた。
(省エネとは言えないか……)だが効率的でないとは……必ずしも言えないかも知れない。俺の目の前には後ろの俺を振り返り、
それが持ち味のキッとした瞳で睨む伊原の顔があった。

自分でも意外な事にそういうときの伊原の表情は嫌いではない。怒っているのだが持ち前の気丈さで
むしろそういった感情を認めまいとして作った無表情の上に大きく見開かれた不思議な瞳の色の読み難さ。
俺は自分も感情を読まれないようになるべく無表情を装ったまま、その実、その瞳から目が離せないまま
上から左右を両手で掴んだ伊原の裸の尻を引き寄せるようにして、夢の余韻でいつもより
膨らんだ状態の俺の性器を突き入れ一番奥でしっかりと固定した。

「〜〜〜〜〜っ!」

後ろ向きに両手両足を床に付いた小柄な裸の姿の短い髪、その下の剥き出しの肩と裸の背中の震えごと
じっとりと汗ばんだ尻肉の奥の伊原の性器が俺を咥えこんだまま小刻みに痙攣するのが感じられた。
素っ裸で四つん這いで腰をくびらせ尻を突き出した姿勢の伊原は髪型も相まってまるで猫のようだ。
それも背中じゅうの毛を逆立てた猫に後ろから挿入しているみたいだと皆の居る部室で言ったら殴られそうだ。

だがどんな気持ちがするものだろう?と俺は考えざるを得ない。小学・中学・高校と同じで顔見知りで、
昔の自分も相手も良く知っていて、ただいつのまにか体格に差がついて自分が納めるには手に負えないモノを
自分に入れたがる’男’になってしまった相手に挿入される気持ち。しかもそれは数年越しの自分の想い人の
友人でさらに挿入の今このときも一緒ときていたら?
0904名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/14(日) 13:28:56.81ID:qQ7Pl0Xv0
しかしだ。どうせ解らない物を考えていても仕方がない。俺は先を急ぐことにして自分も
一度ブルッと身を震わせたあと、猫の姿のまま俺に挿入され続けている伊原の目を見ながら
無言で自分の考えを伝えた。

(まあ、お前が俺をあまり好きでないのは知ってるし、不本意なのも実に尤もな話だが
 付き合いが長いのも本当だし……今回も良いよな?そろそろ省エネということもあるし)

「……折木。……本っ当に最低!」

「まあまあ摩耶花。こっちもお願いするよ」

罵倒の言葉で、言葉なしでも瞳で意思が十分に伝わった事を知り満足の想いとともに
俺は伊原に思い切り射精した。頭を里志に押さえられるのを嫌がり身悶えしていた伊原は
俺に射精されているのに気付くと今度こそ本当に後ろから俺に性器を奥深くまで突き立てられた猫の姿で
体の大きな肉食動物にのしかかられ押さえこまれ牙を突き立てられている最中の小動物のような
長い叫びで俺の射精を受け入れた。伊原の声のおかげかとても良い射精だった。男だからといって
女なら射精するのは誰でも良いというわけではないし、どんな相手でも気持ち良く射精できるわけではない。
伊原に射精するのは今回が初めてではないが、今までに射精した相手の4番目、いや3番目位には気持ちが良かった。
そういうことが伊原に解って貰えそうにないのは残念だがそういうことはままある事なので仕方がない。

というか付き合いを周囲に明かし公認となったのはいいが、それを境にのべつまくなし
古典部部室でまでさかってとうとう俺まで巻き込みやがってお前ら本当に節操がないぞ。
だいたい省エネが信条の俺に後ろとはどういうことだ今度は前にしろ。
俺の射精の後も盛り続ける里志と伊原にそう言い捨てた後、俺は手早く身支度をすると部室を後にした。

そういえば今日は千反田の姿を見かけなかったが休みだろうか?
……まあいい。今日は十分働いたしな。最初はどんな話だったか思い出せないのがアレだが……
おそらく続きはないものと思う。

(終わり)
0907名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/15(月) 00:26:32.50ID:fev+FEeS0
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 古典部部室に気まずい沈黙が訪れている。
 いや、気まずいのは俺だけなのかもしれない。千反田は俺に抱き付いているし、伊原は呆れた表情で、里志はニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「あー……なんでちーちゃんが折木に抱き付いているのかな?」
 伊原が沈黙を破って質問をしてくる。
 それに答えるのは簡単だ。だが、馬鹿らしくて真面目に話す気にもならない。しかし伊原を納得させるような適当な理由も思い浮かばないので、俺はやむなく説明することにした。
「思ったより野菜ジュースが不味くてな」
「は?」
「つまり……」

  * * *

 今朝のことである。
 家を出る直前に姉貴から飲み物のパックを一本渡されたのだ。
『それ、新作の野菜ジュースだって。栄養ばっちりらしいから飲んどきなさい』
 それを鞄にしまったのを放課後まで忘れていた俺は、一番乗りした部室で取り出した。
「紅汁……?」
 青汁のパクリか? だったら少し不味いかもしれんな。
 そう思いつつストローを差して吸い、口に含む。
「ぶはっ! ごほっ、ごほっ!」
 な、なんだこれ!? もはや不味いってレベルじゃないぞ! 良薬口に苦しとは言うが、それでも限度を越えている。
 思わず吹いた液体をとっさに手で受け止めたものの、机や制服にまで赤いものが飛び散ってしまっていた。
 掃除とか面倒だな、とか考えているとドサッと鞄が落ちるような音がする。
 俺のではない。入口に立っていた千反田が取り落としたものだ。ちょうどやってきたとこなのだろう。
 くそっ、飲み物を吹くなんて恥ずかしいところを見られてしまったか。
「お、折木さん……それは、どうして……」
「ああ、いや……思ったよりずっとマズくて」
「!!」
 千反田の表情が悲壮なものに変わる。
 ああ、そういえばこいつは農家の娘だったな。食べ物や飲み物を粗末にするのは許せないのだろう。
「すまん、千反田。そして迷惑をかけたな」
 俺はなるたけ真摯に謝った。
 ついでに部室の机を汚してしまったことも謝罪する。
「それで、その……できればこの事は他の人には黙っていてほしい」
「な、何でですか!?」
 何でって……恥ずかしいからに決まってるじゃないか。
「できれば千反田にも忘れてほしいんだが……」
 そう言った瞬間千反田が泣きそうな顔になる。
「嫌、嫌です! 好きな人のを忘れるなんて!」
0908名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/15(月) 00:27:32.35ID:fev+FEeS0
 何だと!? まさか弱味を握ったと言うのか。千反田に限って?
 俺が混乱してるところで千反田が駆け寄ってくる。
「死んじゃ嫌です折木さん!」
「えっ?」
「折木さんがいなくなったらわたし、わたし………………え、お野菜の匂い……?」

 * * *

「つまり折木がなんかの病気で血を吐いたと勘違いしたちーちゃんが安心した反動で甘えているわけね」
「……まあそうだな」
「アホらし」
 俺もそう思う。
 だから説明したくなかったのだ。
「帰ろ、ふくちゃん。バカップルに付き合ってられないわ」
「そうだね。ここは二人にしといてあげよう」
 里志と伊原が立ち上がる。
 おい、こんな状態の俺たちを放っておく気か。
 恨みがましい視線を向けるが、二人は意に介さず部室を出て行ってしまった。
 あとには俺と俺に抱き付く千反田が取り残されている。
「……おい千反田、もういいだろ。いつまで抱き付いてるんだ」
「嫌です。あの時わたし凄い悲しくなったんですから」
 顔を俺の胸に預けたまま動こうとしなかった。こうなったら千反田が満足するまで好きにさせるしかない。
 俺は軽くため息をつき、そっと千反田の頭を撫でる。
 きゅっと千反田の力が強くなった。
 艶やかな髪を梳くように俺は指を絡めて頭を撫で続ける。
 しばらくそうしていると、ようやく千反田が顔をあげた。
「安心しろ千反田、俺は勝手にいなくなったりしないから」
「本当、ですか?」
「ああ」
 少し潤んだ目でじっと見つめられるのは正直恥ずかしいが、そこはぐっと我慢して見つめ返す。
 やがて千反田の目が閉じられ、俺はゆっくりと顔を近付けた。
 二つの唇の距離がゼロになり、沈黙が訪れる。先程とは違う、暖かな心地良い沈黙。
 すっと離れると、千反田の頬が上気して息が少し荒くなっていた。
 もう一度唇を合わせようと寄ってくるのを俺は慌てて押し止める。
 不満そうな千反田を宥め、内側から部室の鍵を閉めた。いつ誰がやってくるかわからないからな。
 俺は再び千反田を抱きしめ、唇を重ねた。
 今度は少し濃厚で、激しい、キス。
 互いに吸い合い、舌を絡めて唾液の交換を行う。
 身体の力が抜けてくったりとした千反田を机の上に横たわらる。
 野菜ジュースからこんなことになるとはな。姉貴に感謝するべきか文句を言うべきか。
 そんなことを頭の片隅で考えながら俺はその身体を弄り始めたのだった。



終わり
0910名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-Ur+a)
垢版 |
2021/11/15(月) 07:35:18.40ID:fev+FEeS0
「はあ……」
「何よ折木、辛気臭いわね」
 何度目かもわからぬ溜め息に伊原が眉根を寄せる。
 俺の様子に千反田と里志も怪訝そうな表情をしていた。
「そうだよホータロー、明日から冬休みだというのに何でそんな憂鬱そうなのさ」
「いや、どうかしてた昨日の俺をぶん殴りたくなっててな」
「な、何かあったんですか!?」
 わたし、気になります!と言わんばかりに千反田が詰め寄ってくる。
 言いたくない。
 省エネ主義者であるこの俺が今から行うことを考えると憂鬱にもなろうというものだ。
 だが、行わなかった場合は昨日したことや色々なものが無駄になるわけで、それこそ省エネではない。
 俺は覚悟を決めて立ち上がる。
「折木……さん?」
 訝しげな千反田を尻目に俺は普段は誰も使わない部活用の棚を開けた。
 そこから朝一番に隠しておいた三つの包みを取り出す。
「里志、千反田、伊原、メリークリスマスだ」
 そう言ってそれぞれに包みを渡す。
「「「……………………え?」」」
 あまりの事態に三人が硬直している。
 そりゃそうだ。こんな行動俺自身が信じられない。
「と、突然どうしたのさホータロー!?」
 パニックから最初に抜け出した里志が素っ頓狂な声を上げる。
 それにつられてか千反田も伊原も我に返ったようだ。
「お、折木、あんたどうかしちゃったの!?」
「折木さん!? 折木さん!?」
「だから、どうかしてたって言っただろ」
 予想通りの反応に俺は椅子に座って頭を抱える。
 一昨日の夜、俺は酔っ払った姉貴に酒を飲まされた。
 その時の会話の中で『たまにはお世話になってる部活の友達とかにプレゼントとかしてみたら?』とか言われ、言葉巧みに誘導されたのだ。
 俺も酔った勢いで了承してしまい、『あいつらの欲しそうな物をプレゼントする』と言ってしまう。
 しかも録音までされ、約束を破ることさえできない。プレゼント用の資金まで渡されてはもう逃げ場もなく、寒い中俺はクリスマスムードの商店街に出向く羽目になってしまった。
「まあ……俺からというのが信じられんのならサンタから貰ったとでも思っとけ」
「あ、うん……ね、ねえ開けてみていい?」
「好きにしろ、大したものは入ってない」
 ガサガサと三人は包装を解く。
0911名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-Ur+a)
垢版 |
2021/11/15(月) 07:36:01.49ID:fev+FEeS0
「お手軽裁縫セット新バージョン!? 買おうか悩んでいたやつだ!」
「あ、スケッチブック……そろそろ残りが少ないって思ってたのよね……」
「わあ、可愛い髪留めとヘアゴムですね。ちょうど前のが古くなって新しいのが欲しかったんです!」
 三者三様に声を上げ、それを聞いて顔を見合わせる。
 そのまま一斉に俺の方に向けた。
 俺はぷいっと視線を逸らす。
「折木……あんた何でわたし達の欲しいもの知ってるのよ?」
「偶然だ」
 そう、偶然だ。
 一緒に帰った時に店の前での里志の目線に気付いたのも、部室でペンを走らせていた伊原のスケッチブックの残りが少ないのに気付いたのも、千反田の髪を縛るヘアゴムがヘタっていたのに気付いたのも。
 本当にたまたまだ。
 ふっと里志が柔らかく笑う。
「ありがとうホータロー、大事に使わせてもらうよ」
「そうね、礼を言うわ。ありがとう、折木」
「あ、ありがとうございます折木さん……その、わたし、お返しできるものがいま何もなくて」
「いらん、何か欲しくてしたわけじゃない」
「で、でもそれではわたしの気がすみません!」
「……じゃあ今度メシでも食わせてくれ。それでいい」
「はい、わかりました!」
 学食か喫茶店で適当に奢ってもらおう。
 そのときはそう考えていたのだが。
 別れ際に改めて三人から礼を言われ、帰宅すると人の気配がない。
 親はわかるが姉貴はどうしたのかと思っていると書き置きを見つけた。
 どうやら友人宅に招かれたので泊まってくるようだ。夕飯は心配するなと書いてあるが、どこかに用意してあるようには見えない。
 何かないかと周囲を見回していると玄関のチャイムが鳴る。
 誰だこんな時にと思いながらドアを開けると、そこには頭脳明晰容姿端麗の我が古典部部長が立っていた。
「こんばんは折木さん」
 俺はドアを閉める。
「ちょっと折木さん! 顔を見るなり酷くないですか!?」
 ドンドンと激しくノックされ、俺は再びドアを開けた。
 幻覚でもなんでもない、本物だったようだ。
「何をしに来た」
「お昼に言ったじゃないですか、ごはんを食べさせてほしいって」
「いや、あれは」
「お姉さんに確認したら『今日出掛けるからちょうど良かった』って言われまして。腕によりをかけて作っちゃいますよ」
 千反田はそう言って両手に持っていた食材の袋を見せつけてくる。
 こうなると何を言ってもお手上げだ。俺は諦めた。
「……上がれ」
0912名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-Ur+a)
垢版 |
2021/11/15(月) 07:37:36.41ID:fev+FEeS0
「はい!」
 千反田は嬉しそうに俺のあとについて玄関に入る。
 まったく。夕飯は心配するなとはこのことか。姉貴なんかコンビニで宅急便の客に割り込みされてしまえ。
 器の小さい呪いを願いながら益体もないテレビ番組を眺める。
 台所からはとんとんとリズミカルな包丁の音が聞こえてくる。まあ千反田の料理の腕前は確かだし、楽しみではあるな。
 しばらくしていい匂いが漂ってきたので、俺は皿を用意して食卓に並べていく。
「じゃあいただくとするか」
「はい、いただきましょう!」
 少し多めの豪勢な夕食を前に俺は手を合わせる。
 味の心配はまったくしていない。当然のようにどれもこれも美味く、箸が進む。
 そんな俺の食いっぷりに千反田は嬉しそうに微笑んでいた。
 そういえば。
「髪留めとヘアゴム、早速つけてくれてるんだな」
「あ、はい! 早くつけてるところを折木さんに見せたくて」
「そうか……そ、その、似合ってる、ぞ」
「あっ、え、あ、ありがとう、ございます」
 なんとなく恥ずかしくてお互い俯いてしまう。
 なんだこの状況は。
 俺はごまかすように目の前の料理をかっこむ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
 手を合わせて軽く頭を下げた。
 千反田が食器を洗っている間に俺はお茶の用意をした。湯呑みに注いだところでタイミングよく千反田が洗い物を終える。
 俺が座るともじもじしながら千反田が聞いてきた。
「あ、あの、折木さん。隣に、座っても、い、いいですか?」
「あ、ああ、構わないぞ」
「で、では失礼します」
 すとんと千反田は俺の横に腰掛ける。
 その身体からはふわっといい匂いがした。
 俺はそっと千反田の肩に手をかけ、抱き寄せる。
「あっ……」
 小さく声を上げるが抵抗はせず、離れもしない。
 それを確認して、俺は千反田の頭を優しく撫でた。
 千反田は心地良さそうな表情をし、俺に体重を預けてくる。
 しばらくそうした後、かちりと二人の視線が合う。
 そのまま距離がどんどん狭くなり、目を閉じると同時に互いの唇が触れる。
 短くも長くも感じられる時間が過ぎ、唇が離れた。気のせいか千反田の頬が心なしか上気していた。
「なあ、千反田」
「はい……」
「その、今日は、うちに泊まっていかないか? いや、無理にとは言わないが」
「ふふ、わたしはそのつもりでしたよ折木さん。着替えも持ってきてます」
「そ、そうか」
 ならば是非もない。
0913名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-Ur+a)
垢版 |
2021/11/15(月) 07:39:46.36ID:fev+FEeS0
 俺は千反田の背中に腕を回し、きつく抱き締める。
「千反田、いいか?」
「はい……で、でもここじゃ嫌です」
「わかった、俺の部屋に行こう」
 手を繋ぎ、俺と千反田は二階に上がる。
 部屋に入ったところで俺はもう我慢がきかず、再び千反田を抱き締めて唇を合わせる。
 千反田も同じだったようで、舌を突き出しながら激しく俺の唇を貪ってきた。
 舌を絡め合い、擦り合い、互いの唾液を啜り合い、吸い合う。
 その合間に服に手をかけ、少しずつ脱がしていく。
 直接肌と肌が触れ合って体温を感じると、愛しさがどんどん募っていくばかりだ。
 俺は千反田をベッドに押し倒した。
 生まれたままの姿になったその全身をじっくりと愛撫する。
 俺の。
 手で。指で。舌で。唇で。
 千反田の。
 唇も。頬も。首も。胸も。腕も。腹も。脚も。そして女性器も。
 余すとこなく愛していく。
 充分に準備が整ったところで俺たちはひとつになる。
「ああ……折木さん、好きです、大好きです」
「千反田、好きだ、大好きだ」
 互いの名前と愛を囁き合いながら、俺は千反田の中に果てた。
 乱れた息を整えながら俺たちは横になる。
 俺の腕を枕にした千反田が呼び掛けててきた。
「折木さん」
「なんだ千反田」
「こんなに幸せなクリスマス、わたし初めてです。今までの中で一番幸せなクリスマスです」
「……クリスマス限定なのか?」
「はい。だって人生の一番は折木さんと初めてひとつになれた日ですから」
「そ、そうか」
 また恥ずかしいことをあっさりと。
「折木さんはどうなのでしょうか?」
 ……ごまかすのは簡単だが、せっかくのクリスマスだ。
 昨日に引き続き、今日の俺もどうかしてるということにしておいてほしい。
「千反田がいるんだ。毎日が新しい幸せで更新されている」
 その言葉を聞いて千反田は満面の笑みを浮かべ、俺の身体に腕を回して抱きついてきた。
 頭を撫でてやりながら時計を確認すると、間もなく日付が変わろうとしている。
 最後にもう一度だけ言っておくか。

『メリークリスマス』
0917名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-Ur+a)
垢版 |
2021/11/15(月) 22:50:25.47ID:fev+FEeS0
「千反田の裸、きれいだ……!」
「折木さん、私うれしいです! でもそんなに見られると恥ずかしい……」
「こんなにきれいなものを、俺一人が独占するのは申し訳ない。デジカメで撮って、ニフティサーブにアップロードしよう!」
「きゃー! やめてください!!」
0922名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ a5b8-9gYj)
垢版 |
2021/11/16(火) 02:08:39.56ID:qtnuK08K0
「摩耶花」
「なによ」
「虫が出た」
「ふーん、それで?」
「なんとかしてくれ」
「自分でなんとかしなさいよ」
「怖いきもい」
「あんた男でしょ!」
「仕方ない、千反田に頼むか…」
0927名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 15:34:08.87ID:rKyknbHG0
1.

 目的のためには手段を選らばないというのは、まあ、立派な一つのやり方といえようが、手段が目的と化してしまうのは、本末転倒というべきだろう。
 省エネ主義の俺からすれば、目的が果たせるならば、それで良いではないかと思ってしまうのだ。
 おにぎりがあるなら炊飯器は要らないし、どこでもドアがあれば自動車は必要ない。

 帰り道でばったり出会った福部里志が中古車を買ったと、しきりに自慢するので、からかい半分にそんな話をした。
「はは、つまりホータローがドライブを楽しめないのは、省エネ主義のたまものだと言いたいわけかい?」
「まあ、そうだな。目的地こそが重要であって移動はその手段だろう。特に目的地も無く、移動を楽しむなんぞ、俺には理解できんね」
 そう言ってため息を一つ吐く。
 里志と会うのも半年ぶりだ。昔は遠目には女と見まがうような姿をしていたが、ずいぶん男っぷりが上がったものだ。神山高校を卒業してから一年近く経つのだから当然か。
「いやしかし、ホータローが運転免許を取ったと聞いたときは驚いたよ。ホータローは運転なんて一度もしないで一生を終えるものだと思っていたからさ」
 俺を何だと思っているんだ。
 まあ、確かに姉貴の命令が無ければ、俺が自発的に免許を取ることはまず無かっただろうが。教習所の代金を半分持つとまで言われては、素直に従わざるを得なかった。
 まあ、あの姉貴が素直に弟のためを思っているわけはないから、飲み会の時の足にでも便利に使おうという腹だろう。その程度のことは、今さら勝手だとも思わない。
「お前は、ドライブを楽しんだりするのか?」
「あたり前さ! この間も摩耶花と県境の海岸線を飛ばして……」
「神山市に海はないぞ」
「まあ、気分の問題さ。僕もデートにドライブなんて月並みかとも思ったんだけどね、あれはあれで意外と悪くないものさ。風を切る爽快感はサイクリングに劣らないね」
 さいで。
 伊原との仲はまだ続いているのか。仲睦まじくて結構なことだ。
0928名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 15:34:45.90ID:rKyknbHG0
「ホータローもドライブが嫌いなんて言ってないで、運転したらどうだい。ちょうどいいじゃないか。東京まで行って、千反田さんを誘っておいでよ」
 む……。
「気が進まん。だいたい免許取り立てで県道のつづら折りを通るのは怖い」
「じゃあ、乗せていってあげようか……摩耶花と三人で東京までいくかい」
「結構だ。お前らの仲の良さを見せ付けられるのも癪だしな」
 それに馬に蹴られる趣味は無い。
「なんだ、楽しい旅行になると思うんだけどな」
「伊原が嫌がるだろう」
 二人のドライブに俺が割り込む形だ。伊原も嫌だろうし、俺も嫌だ。
「そんなことないさ。摩耶花のホータローへの評価は、昔よりは上がってるんだよ」
 ほう。
「『ナメクジよりはマシになったわね』って言ってたよ」
「……そいつは光栄だと伝えてくれ」
0929名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 15:35:20.91ID:rKyknbHG0
 里志と別れ、家に帰った俺は自室にこもり、千反田のことを考える。
 千反田は神高を卒業した後、かなり偏差値の高い東京の大学へ進学した。なんでもその大学は商品作物の改良研究に関しては国内随一だそうだ。
 千反田は東京に行き、俺は神山市に残った。それ以来、千反田とは会っていない。
 一応、何かあった時のためにと、俺の携帯電話の番号は教えてあるのだが、連絡すら来たことがない。俺から連絡しようにも、あいつは未だに携帯電話を持っていない。
さすがに『豪農千反田家』に直接電話する勇気は俺には無かった。
 
 俺は千反田に何も伝えていない。
 俺が自分の想いに気付いた時には、あいつは既に東京で農業の研究をすることを決めていた。
 そんなタイミングで告白しては、まるで俺が千反田を引きとめようとしているみたいではないか。俺はあいつの足かせにはなりたくなかった。
 そうとも。俺は省エネ主義の折木奉太郎だ。千反田は既に将来を見据えている。ここで、俺があいつの未来を邪魔するのは「やらなくてもいいこと」に違いない。
 
 それから俺は東京の大学に合格できるようひそかに勉強を始めた。そうすることで、千反田の隣に立つ資格ができるのだと思っていた。
 まあ「手短に」とはいかなかったが、これは「やらなければいけないこと」だ。

 無事合格できればよかったのだが、そうそう上手くことが運ぶはずもなく、俺は浪人、千反田は無事に合格し、神山高校の卒業式をもって、俺たちは別の道を歩くこととなった。

 そして、それきり何も無く、今に至る。
 
 
 卒業式の日の千反田の姿は、いまでもまぶたの裏に焼きついている。
「折木さん、お元気で」
「ああ、お前もな」
 別れの言葉はそれだけだった。
0930名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 15:36:12.94ID:rKyknbHG0
 俺は何か間違っていたのだろうか。時々思い返して考えてみるが、いつも答えは出ない。
 と、その時、机の上の携帯電話が震えた。表示されているのは見知らぬ番号だ。
「……姉貴か?」
 おれの携帯電話にかけてくるのは姉貴か、せいぜい里志くらいのものだ。
 確か、姉貴はおととい、尖閣諸島に行くとか言って出かけて行ったが。
 コールボタンを押す。
「もしもし?」
「あ、もしもし、夜分遅くにすみません、折木さん」
 この声は。間違いない、間違えるものか。――それは俺が一番聞きたかった声だった。
 驚きに、俺は声が出せない。 
「あの……折木さんですよね? どうかしましたか?」
「いや、千反田、なのか?」
「ああ、すみません! 名乗るのを忘れてましたね。そうです、千反田です。お久しぶりです折木さん」

「どうした、お前が連絡してくるなんて」
「実はご相談があるんです。お力をお借りできませんか?」
 少し逡巡する気配が受話器の向こうから伝わってきた。
「大学でおかしなことがあったんです。でも、どうしてそんなことになったのか、わからなくて、わたし、わたし……」
 ああ、つまりいつものあれか。
 俺は、次に千反田が言う言葉が何か知っている。

「ええと、つまりですね……わたし、気になるんです」
0933名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 18:22:45.84ID:rKyknbHG0
「千反田、もうイきそうだ」
「はい。折木さん来てください」
「うっ!? ち、千反田、脚を外してくれ!」
「中に、中に出して……」
「そんなこと、は……」
「折木さん、お願い!」
「クッ。ダメだ、出るっ……!」
「ああ、折木さん、あったかいです……」
0935名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 20:40:40.84ID:rKyknbHG0
 俺は何か間違っていたのだろうか。時々思い返して考えてみるが、いつも答えは出ない。
 と、その時、机の上の携帯電話が震えた。表示されているのは見知らぬ番号だ。
「……姉貴か?」
 おれの携帯電話にかけてくるのは姉貴か、せいぜい里志くらいのものだ。
 確か、姉貴はおととい、尖閣諸島に行くとか言って出かけて行ったが。
 コールボタンを押す。
「もしもし?」
「あ、もしもし、夜分遅くにすみません、折木さん」
 この声は。間違いない、間違えるものか。――それは俺が一番聞きたかった声だった。
 驚きに、俺は声が出せない。 
「あの……折木さんですよね? どうかしましたか?」
「いや、千反田、なのか?」
「ああ、すみません! 名乗るのを忘れてましたね。そうです、千反田です。お久しぶりです折木さん」

「どうした、お前が連絡してくるなんて」
「実はご相談があるんです。お力をお借りできませんか?」
 少し逡巡する気配が受話器の向こうから伝わってきた。
「大学でおかしなことがあったんです。でも、どうしてそんなことになったのか、わからなくて、わたし、わたし……」
 ああ、つまりいつものあれか。
 俺は、次に千反田が言う言葉が何か知っている。

「ええと、つまりですね……わたし、気になるんです」
0936名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 20:41:01.50ID:rKyknbHG0
2.

「大学に入って仲の良いお友達ができたんです。針見さんという方です」
「男か?」
 思わず訊いてしまった。
「いえ女性です。背が小さくて、とてもかわいらしい方ですよ。同じ学部で、ゼミも同じなんですよ。入学以来仲良くしているんです。その針見さんのことなんですが」
「なにかおかしな奴だったのか?」
「いえ、そういうわけではありません。とっても素敵な方ですよ。……でも、不思議なんです」
 千反田は少し言葉を切ってからこう続けた。
「折木さん、好きな人を嫌うということがあるでしょうか?」
「……すまんが順序立てて話してくれんか」

「針見さんには好きな人がいるんです。同じゼミの北浦さんという男の人なのですが。
 実はその北浦さんから、わたし、相談を受けたんです。というのも、北浦さんも入学した時から針見さんのことが気になっていたそうなんです」
「それのどこが不思議なんだ。よくある青春の一ページってやつだ」
「わたし、北浦さんから協力を請われました。『針見さんを食事に誘いたいから、彼女の予定が空いてる日をそれとなく聞き出して欲しい』と。
 だからわたしは針見さんから予定の無い日を訊いて、それを北浦さんに伝えたんです。北浦さんはその日に彼女をお食事に誘いました。でも――」
「針見は、北浦の誘いに乗らなかった、と」
「そうなんです。好きな人からのお誘いを断った理由……。わたし、気になります」
 
 ふむ。好きな男の誘いに乗らない女、か。理由はいろいろ考えられる。
 親が厳しくて男女交際が許されていないとか、短い間に他に好きな男ができたとか
 だが、わざわざ考えなくともだ。
0937名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 20:41:43.50ID:rKyknbHG0
「本人に訊いたらいいだろう。『なぜ誘いを断ったのか』ってな」
「いえ、訊いたんですが、どうも要領を得なくて。『行きたかったけど、北浦さんに嫌われたくない、幻滅されたくない』と針見さんは言っていました」
「行きたかったが、行かなかった? まるで禅問答みたいな話だな」
「あと、『面倒な女だと思われるかもしれない』とも言っていましたね」
 ということは、先に考えたような外的な理由ではなく、あくまでも針見自身に誘いに乗らなかった理由があるということか。
「幻滅ねえ。よっぽど作法が悪いとか、食べ方が汚いとか、くちゃくちゃ音を立てて食べる癖があるとか、それで食事を渋ったんじゃないか」
「そんなことはないですよ。いつもお昼を一緒に食べるのですが、少なくとも針見さんがお弁当を食べるときは、食べる姿勢もきれいですし、マナーも常識的だと思います。あ、お箸の持ち方も正しかったですね」
 適当に思いついたことを言ってみたのだが、千反田は律義に返してくれた。
 しかし、適当に考えたわりに、この方向は、悪くないかもしれない。

「お前、いつも昼飯は一緒に食べるのか?」
「ええ、都合が合うときはいつも」
「さっき、『針身が弁当を食べる時』と言ったな。ひょっとして、針見は常に弁当持参じゃないのか?」
「そうです。でもどうしてそれを知ってるんですか?」 
 そうか、ではやはりそうかもしれない。一つわからないことはあるが……。
「千反田、俺の考えを言おう。なぜ針見は北浦の誘いを断ったのか」
「わかったんですか!」
「確証はないがな」
 一呼吸置いて、俺は言った。
0938名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 20:42:07.94ID:rKyknbHG0
3.

「……確かに言われてみれば、彼女のお弁当にはお肉やお魚は入っていなかった気がします。
でも、たとえ彼女がベジタリアンだったとして、それが食事の誘いを断る理由になるんでしょうか? 自分はベジタリアンだと言えば良いことじゃないですか」
「まあ、当事者じゃないからお前はそう言うがな、男の側から想像してみろ。
 彼女のために、美味いレストランを予約したが、肝心の彼女はサラダしか食べられない、とかな。
しかもその向かいで自分だけステーキを食ってたりしたら、男にとってかなり情けない状況だと思わないか。周りから何事かと思われるぞ。
 店を替えるにしてもベジタリアンのための店なんて急に見つかるものかな? 探すのは『面倒』なんじゃないか」
「それはそうかもしれませんが」
「さらに、店を見つけられて食事にありつけたとしても、北浦の方は食べたくもない野菜料理で我慢することになる」
「北浦さんは、そんなに度量の狭い方ではないと思いますが」
「一度のデートなら我慢もできるだろう。だが、今後ずっと付き合っていくとなるとどうだ。これは面倒な女だと考えないだろうか。
 いや、北浦がどう考えるかは問題じゃない。針見が『北浦がそう思うかもしてない』と懸念をした、ということだ。
 針見はじっくり探るつもりだったのかもな。北浦が自分のライフスタイルを受け入れてくれる人間かを」
「そこに急に誘いが来て、焦って断ってしまったのでしょうか。……わたし、悪いことをしてしまったかもしれません」

「まあ、とにかく、理由がわかってスッキリしました。折木さん、ありがとうございます。また、電話してもいいですか?」
「構わんが、もう謎解きは勘弁してくれよ」
「では夜分遅くにすみませんでした。わたし、明日は発芽の実験があるので始発で家を出なくてはいけないんです。
 もう少しお話をしていたいのですが……。おやすみなさい」
 俺もおやすみを言って、通話を切った。
 しかし、俺には一つわからないことが残った。
 なぜ、千反田はこんな『作り話』のために電話してきたんだろうか?
0939名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 20:42:48.71ID:rKyknbHG0
5.

 折木さんには、伯父さんの件を始めとして、何度も助けていただきました。あの人の鋭い推理と、時折見せる優しさに、わたしはどのくらい救われたかわかりません。
 多少無愛想で、ものすごく面倒臭がり屋ですが、心の深い所では温かいものを持っています。
 そうです。わたしは、折木さんのことが好きです。この気持ちは異性として好き、と言って差し支えないと思います。
 何度わたしはその気持ちを伝えようとしたことでしょう。折木さんは、その、ああいう方ですから、わたしから告白しないと、関係をはっきりさせられそうにありませんでしたから。
 
 でも、それを躊躇わせる疑念がわたしにはありました。
 わたしは折木さんの能力に惚れたのではないか、という疑問がいつもついて回るのです。

 はたしてわたしは、伯父さんの件を解決してくれたのが折木さんではなく別の人だったら、折木さんを好きになっていたのでしょうか。

 仮に折木さんが、頭の冴えが全く無い人間だったとしても、わたしは折木さんを好きになっていたのでしょうか。

 わたしのこの気持ちが、折木さんの頼れる推理能力に裏打ちされていないと、誰が言えるでしょう。

 もし、仮に福部さんが数々の謎を解いていたら、わたしは福部さんを好きになっていたのではないでしょうか。

 そうだとしたら、わたしはとても不誠実な人間です。
 折木さんの人格ではなく、能力を利用したいと思って好きになったと言われても仕方ありません。
 能力だけで人を見るなんて、それは「傲慢」でしょう。
 もちろん、能力も含めて、それが一つの人間性だということは理解しているつもりです。
 ですが、この疑念が一度生じてしまった以上、わたしはこの問題について明確な答えを出さない限り、折木さんとの関係を変えることはできないと思ったのです。
0940名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 20:43:51.40ID:rKyknbHG0
 プラットホームに立つわたしの前に、始発が滑り込んできました。
 大学ももうすぐ冬休みです。
 冬休みは少し早めに神山市に帰るつもりです。
 陣出よりも先に、折木さんのおうちに寄って、その時、改めて、わたしの気持ちを伝えようと思います。

 折木さんを想うと、まるでそこに折木さんがいるかのような錯覚を起こします。
 ほら、そこに立っている乗客は、ちょうど折木さんくらいの背丈で、折木さんのような髪型で、折木さんのように少し気怠そうで――
「折木さん……?」
0941名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/16(火) 20:50:08.81ID:rKyknbHG0
6.

「どうして折木さんが、ここにいるんですか!?」
 千反田が、目を丸くして詰め寄ってくる。
「夜通し運転してきたんだ」
 おかげで体がだるい。
「折木さんが免許を取っていたなんて……意外です」
「自分でもそう思うよ」
 姉気に感謝せねばなるまい。免許が無ければとうてい始発のこの時間に東京に来ることなど叶わなかった。
それとも姉貴はこの事態まで予見して俺に免許を取らせたのだろうか。……まさかな。そこまでいくと預言者だ。さすがにそれはありえない。

「東京まで運転だなんて疲れたでしょう? やらなくてもいいことはやらないのがモットーだったのでは?」
 そう言って千反田は笑った。その笑顔を見て、俺も自分が笑っているのを知った。
 ああ、俺が見たかったのはこの顔だ。会いたかったのはこいつだ。
「やらなきゃいけないことだったんだよ。まあ、手短にはいかなかったが」
 俺は千反田の電話の理由に気づいたから東京まで来た。要するに俺と同じなんだと気が付いたのだ。

 俺は言う。
「俺はずっと千反田に会いたかった。声が聞きたかった。愛していた。そして、これからもそうしていたい」
 千反田はうっすら涙を浮かべていたが、それでも笑って頷いてくれた。
0942名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ 2b1d-5Y5F)
垢版 |
2021/11/17(水) 00:16:05.94ID:jh7bD/oo0
終わる時は勝手にdat落ちする
0943名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-mclz)
垢版 |
2021/11/17(水) 00:36:10.08ID:g4KUo/cv0
「ごめんホータロー! この埋め合わせは必ずするから!」
 手を合わせて頭を下げる里志に俺はため息をつく。
 その向こうでは同じように呆れた表情をした伊原の姿が見える。
「俺は別に構わんが……何というか、もう少ししっかりしろ」
 ダブルブッキング、というわけではない。
 ただ単に放課後に俺に買い物に付き合ってくれと昨日頼んできた里志が伊原との約束を忘れていただけだ。
「ごめんね折木。ふくちゃんがホントに」
 すまなそうにする伊原に特に気にしてないように肩をすくめてみせ、さっさと行くように促す。
 苦笑いしながら伊原に引きずられる里志を、俺はひらひらと手を振って見送った。
 さて。
 思わぬ暇な時間ができてしまった。
 何となく帰宅する気にもならないので、部室にでも行くことにしよう。近いうちに提出する課題もあることだしな。
(おや?)
 部室の鍵が借りられている。
 消去法で借りたのは千反田だろうが、俺が今日行かないことは昨日のうちに言ってあるし、里志も伊原も先ほど伝えたと言っていた。
 誰も来ない部室で何をしているのやら。まあ俺と同じように課題か復習でもしているのだろう。
(校舎の端の端なんて誰も来ないしな)
 周囲にまったく人の気配を感じないまま俺は部室の前にたどり着く。
 ここで声をかけるなり、あるいはノックをするなりしていればこの後の展開はまた違うものになっていただろう。というかいつもの日常が繰り広げられていただけの話になるはずだ。
 だが、俺は無造作に、何も考えずに、千反田がいるはずの部室のドアを開けた。
「…………っ!」
 中にいた千反田が驚愕し、信じられないものを見るような目でこちらを見る。
 その時俺の表情はどんなだっただろうか。
 少なくともこれまでの人生で最も狼狽したことは間違いない。
 何せ。
 『女生徒の自慰行為』など今まで目にしたことなどないのだから。
 制服の裾から手を突っ込んで胸を揉み、スカートを捲り上げて下着の上から指を押し当てる行為など自慰以外の何物でもない。
 二人ともしばらく固まっていたが、いち早く冷静さを取り戻したのは俺の方だった。
 そのまま部室に入り、後ろ手にドアを閉める。
 このまま見なかったことにして部室から去ることも考えたが、あの体勢ではもはやごまかしようがない。せめて机に突っ伏しながらとかならまだ言い訳のしようもあったろうに。
 ならば何らかのフォローが必要だ。
0944名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-mclz)
垢版 |
2021/11/17(水) 00:36:35.91ID:g4KUo/cv0
 俺が近付いていくと、今更ながらに千反田はばばっと服の乱れを整え、顔を俯かせる。
 椅子を引いて座るとびくっと千反田は肩を震わせた。
「お、折木さ……」
「鍵もかけずに不用心なことだな」
「う……え、えと、まさかいらっしゃるとは思わなかったもので……」
 それにしたってなあ。
 まだ俺だから良かったものの、気まぐれでいつ誰が訪れるかわかったものじゃないというのに。
 前々から思っていたが、千反田には危機感が足りないのではないだろうか。少しお灸を据えてやる必要があるかもしれない。
「あ、あの……このこと、だ、誰にも言わないでください!」
「……さて、どうするかな」
「お、お願いします! 何でもしますから!」
「そうか……じゃあさっきの続きをしてみてくれないか?」
「え……」
 千反田が顔を上げて戸惑った表情を見せる。
 が、俺は構わずに続けた。
「普段からどんなふうにしているのか教えてくれ」
「っ! …………うう」
 顔を真っ赤にして再び俯いてしまった。
 もういいだろう。
『冗談だ。もう二度と学校でこんなことはするなよ』
 俺はそう続けようとしたつもりだった。
 しかしそれより先に。
「わ、わかりました」
 千反田から放たれた言葉に俺の口から出掛かった言葉と思考が止まる。
 え?
 今何と言った?
 俺が混乱から抜け出せてないまま千反田は脚を開き、スカートを捲り上げた。
 程よく肉の付いた太ももがあらわになり、千反田らしい真っ白な下着が晒された。が、その中心部は先ほどの行為による染みができている。
 その光景に俺はごくりと生唾を飲み込んだ。
「わ、わたしがするときは、む、胸を揉みながら、こんなふうに下着の上からいじったり、します」
 そう言って裾から片手を入れて胸を揉み、下着にもう片方の手を寄せて指を押し当て、先ほどと同じような姿勢になる。
 そのまま小刻みに動かしだし、声を堪えるかのように唇をきゅっと結んだ。
 もういい、止めろ。誰にも言ったりしないから。
 そう言おうとした俺の口から発せられた言葉は。
「どんなことを考えながらしているんだ?」
 だった。
 理性が効かない。
 千反田の切なげな表情に嗜虐心が頭をもたげてくる。
「う……お、男の人に、胸を揉まれたり、身体中をさわられたりっ……します……」
 それは。
「こんなふうにか?」
 手を伸ばし、制服の上から空いた方の胸を鷲掴みにする。
「ん……は、はい」
0945名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-mclz)
垢版 |
2021/11/17(水) 00:38:13.26ID:g4KUo/cv0
 ブラがずれているのか、思った以上に柔らかな感触が俺の手に伝わる。
 そのままむにゅむにゅと揉みしだくと千反田がびくっと身体を反応させながら眉根を寄せた。
 それを見られている事に気付くと慌てて顔を逸らそうとするが、俺は空いた手で顎を押さえ、真っ正面からじっと見つめてやる。
「千反田、続けろ」
「っ! ……も、揉まれるだけじゃなくて……先っぽを摘んだり、指で弾いたり、してきてっ……ああっ!」
 俺は直に服の中に手を突っ込み、その言葉通りにしてやる。
 ぴんぴんに尖って固くなった乳首を二本の指で挟み込んでくりくりと刺激すると、甘い嬌声が千反田の口から漏れ出た。
 その声をもっともっと聞きたくなり、顎を押さえていた手を下腹部に持っていき、千反田の手を掴んでぐっしょりの下着の中に両者の指を突っ込ませる。
 すぐに敏感な陰核を探り当て、二人でそれを弄くり回すと更なる嬌声が発せられた。
 さすがに外に聞こえたらまずいので一旦動きを止める。
「はあっ……はあ……っ」
 イったわけではないようだが思った以上の快感に体力を消耗したのか、千反田はぐったりしていた。
 そんな姿を後目に俺はドアに向かい、施錠を確認する。
 まあ念のためだ。
 もうここまで来たなら俺も止まれない。行けるところまで行くつもりだ。
 俺が再び千反田に近付くと、千反田はのろのろと椅子から降りて俺の前に座り込む。
 そのまま俺のズボンに手をかけ、脱がそうとしてきた。
「ち、千反田!?」
「……わたしの身体を弄くったあと、男の人は、自分の服を脱いで」
 どうやら先ほどの妄想の続きのようだ。
 やがてギンギンに固く反り返った肉棒が千反田の目の前に晒される。
 それを見て千反田は目を見開いたが、すぐに言葉を続けた。
「男の人の……が、無理やり、わたしの口に……」
 そう言って口を大きく開き、はむっと先端をくわえ込む。
 柔らかくて暖かいぬるぬるとした感触に思わず声を上げそうになったが、何とか歯を食いしばって堪える。
 俺はそのまま千反田の頭を両手で押さえ込み、腰を揺すって口内を肉棒で陵辱し始めた。
 唇の輪っかが先端から根元を幾度も滑り、とてつもない快感を俺に与えてくる。
 このまま射精したい誘惑をなんとか断ち切り、俺は口内から肉棒を引き抜いた。
「あ……」
 千反田が名残惜しそうな声をあげるが、それを無視して千反田を立たせて上半身を机に伏せさせる。
0946名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-mclz)
垢版 |
2021/11/17(水) 00:39:15.31ID:g4KUo/cv0
 ちょうど尻をこちらに突き出すような格好だ。
 スカートを捲って下着を下ろし、しとどに濡れた女性器を露わにさせる。
 千反田に何の言葉も抵抗も発させないまま俺は焦点を合わせて腰を突き出し、一気に蜜壷の最奥部まで肉棒を埋めた。
「ああっ……!」
「くっ……」
 千反田が仰け反りながら声をあげ、俺の口の端から呻き声が漏れる。
 ぎちぎちに締め付けてくるのに柔らかいという相反する感触が肉棒を包み込む。
 俺は本能のままに腰を振って千反田を犯し始めた。
「んっ……ああっ! すご……ほんもの……きもちいっ……ああああっ!」
 ほんもの。
 千反田は男を受け入れるのは初めてなのだろうか。スムーズに挿入できたのもこんなに敏感なのも自己鍛錬の賜物か?
 気になった俺は千反田の背中に覆い被さり、耳元で囁くように尋ねる。
「随分と感じているみたいだが、自分でするよりいいのか?」
「は、はいっ……初めてなのに、すごくっ……ああっ!」
 俺は両手を千反田の胸に回し、揉みしだきながら乳首を摘んだ。
「ここもこんなに固くして、お前淫乱な女だったんだな。名家の娘が聞いて呆れるな」
「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……でも……ああっ!」
 千反田は謝りながらも自ら腰を揺すって快感を得ようとしている。
 俺は身体を起こして千反田の腰を掴み、膣内に出し入れする肉棒の動きを速めた。
「なら、そんなお嬢様には罰を与えないとな。このまま中で全部出してやる」
「えっ!? だ、ダメです折木さん! 赤ちゃんできちゃいます!」
「いいぞ、妊娠しろ、俺の子を孕め。それにお前の妄想でも男は中出ししたんだろ? ならお前はそれを望んでるってことだ」
「そ、それは……ああっ! そこは、ダメですっ! ああっ!」
 膣内で千反田の感じる箇所を見つけ、俺はそこを重点的に責める。
 俺の言葉でさらに締まりがきつくなったあたり、千反田は相当な被虐趣味気質のようだ。
「お願いします折木さん! 何でもしますから、中には出さないでください!」
「俺もそうしてやりたいんだがな。お前のココが『離したくない、中で出して欲しい』って締め付けてきて抜けないんだよ」
 事実どんどん締まりは良くなっているし、口ではああ言いながらも腰を振るのを止めないでいる。
 身体は正直、というやつだろうか。
「折木さんっ! 折木さんっ!」
「イきそうなんだろ? イっていいぞ」
0949名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/17(水) 05:26:15.43ID:g4KUo/cv0
 俺は再び耳元に口を寄せ、絶頂へ導くように囁く。
 右手を結合部付近に伸ばして陰核をいじり、大きな声を出さないように左手で千反田の口を覆う。第三者からしたらレイプしているように見えるかもしれない。
 千反田の身体がぐううっと仰け反る。
「イけ、イってしまえ」
 そう言って耳たぶを少し強めに噛んだ。その瞬間。
「んふぅっ! んうううううううっ!」
 びくんびくんっと千反田の身体が大きく痙攣し、俺の手の下の口から悲鳴のような声が吐き出される。
 肉棒を包み込んでいる襞が様々な動きで収縮し、より一層の快感を与えてきた。
 もう俺にも余裕がない。ギリギリまでその中を味わい、射精寸前で引き抜く。
「うっ! ううっ! く……うっ」
 自分の手でしごき、大量の白濁液を千反田の形のいい尻にぶちまける。
 その白く綺麗な尻が汚れていくさまに更なる興奮を覚えながら全てを出し切った。
「はあ……はあ……っ……」
 俺は肩で息をしながらティッシュを取り出し、自分と千反田の下半身の後始末をはじめる。
 千反田は気を失った、というわけではなさそうだが、どこか目が虚ろで反応が鈍く、体勢も変わらない。
 予想以上に激しく達してしまったのだろう。
 下着もしっかり穿かせて着衣の乱れを整えてやった。
 そうこうしているうちに外はすっかり暗くなり、完全下校時間の放送が流れはじめる。
 終始千反田は夢うつつのような状態だったので手を引いて駐輪場から千反田の自転車を回収し、ゆっくりと歩きながら千反田家まで送ることになった。
 到着するころには平静を取り戻したようで、顔を赤面させながら俯いている。
 そんな千反田に自転車を渡しながらそっと一言囁き、俺はそそくさと帰路についた。

   * * *

 次の日。
 登校して下駄箱付近で千反田に会った。
 千反田はきょろきょろと周りを確認したあと、人目がない隙をついて俺の手を取り、自分の胸に押し当てる。
 むにゅ、と柔らかな弾力が俺の指を押し返した。
「い、言われた通り今日はブラをつけてないです……こ、これからも何でも言う事を聞きますから……今日もお願いしますね」
 顔を真っ赤にしつつもどこか嬉しそうに言ってきた。
 その笑顔に心を奪われながらも俺は曖昧に頷く。
 昨日のことで千反田は蜘蛛に捕らわれた蝶のようだと思ったものだが、ひょっとして捕らわれたのは俺の方だっだろうか?
 俺はそんな益体もないことを考えた。
0950名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/17(水) 05:27:22.73ID:g4KUo/cv0
読み終えて、「わたし、気になるんです」が入ってないからかな?と思った。
その好奇心をきっかけに奉太郎が応じざるを得ない状況になっていくといいかなとか。

でも、久々にエロかったですよ。乙!
0951名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/17(水) 05:28:02.23ID:g4KUo/cv0
>>283
GJ!

コレジャナイ感は、ラスト付近?

奉太郎の一人称だと、ヤシは
そもそもが面倒くさがりな上に
デフォが鬼畜要素すくないもんな

文体とオチが原作の雰囲気に合ってる希ガス

このあとどうなっていくのか
わたし、気になります!(アニメ版お料理研部長風<そっちか!?)

とにかくGJ!!!
0952名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/17(水) 05:29:10.76ID:g4KUo/cv0
「カ、カラオケか……遠慮する。俺は無駄な事はやらない主義なんだ」
「ほ、奉太郎……お前まさか……人前で歌うのが恥ずかしいのか?」
「違う!!俺は"やらなくても良い事はしない、やるべき事なら手短に"というのが人生の――」
「いいよ、いっしょに行こう折木」
「Oh my god!! Oh my god!!」

「ほら、折木もなんか歌えば?」
「いいよ俺は」
「ひょっとして……飲まないと歌えないってタイプ?」
「いや、そういうんじゃなくてだな……」
「じゃー、とりあえずビールを」

「…………ギャ〜〜〜〜〜ハッハハ! ふざけんなよ! 摩耶花〜!」
「なんだこいつ、むちゃくちゃ酒ぐせわるいな」
「なんだとこの、ぶっとばしちゃうぞ」
「折木、ふざけないでy――」スパッ
「あ、あああ……普段は無気力なくせに酔ってめちゃくちゃ強くなってる……」
「どうしたんだ摩耶花、あの日でも無いのにそんな出血しちゃって?」
「い、今、折木に話しかけないほうがいいよ。チョット酒を飲ませたらえらいことになってしまった」
「ちょっと奉太郎、一体どうしt」
「あーーーん なんなんだよ」
「だめ……だめだ、直ぐに逃げよう摩耶花。既に奉太郎は灰色熊と門田京平のハイブリッドになってる、もうシャレは通じない」
「歌うぞ!! おい、そこのホームズとワトソン、どこへ行くのかね。ジュースでも飲みながら私の歌を聞きなさい」
(ホームズとワトソンって……そりゃあんた、ホモでんがな……)
0953名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/17(水) 05:30:05.78ID:g4KUo/cv0
>>291の冒頭に「ある日、里志と摩耶花からカラオケに誘われた奉太郎だったが……」

「まずは『優しさの理由』!!」〜退屈な窓辺に 吹き込む風に〜♪ 
ブーーーーッ
奉太郎の歌には音調と音程というものがなかった。ただひたすらに、推理小説で用いられる兇器を思わせる
怪音波を口腔から発していた。その音は百人がいっせいに黒板を引っかき、千人がいちどに紙にマジックで線を引く……
それ以上に耐えがたき何かを折木奉太郎、いや、灰色熊と門田京平の融合体は出し続けていた。
〜目覚めるまま走れ〜蜃気楼を追いかけて〜♪
「福ちゃん!ここで目覚めて走らなかったら死ぬよ!!」
〜好きにフェードアウト〜ゆえにフェードイン〜〜♪
「だ、脱出しなければ……あたし達に待っているものは確実な死……」
〜それからそれから次のページ〜♪
「や、やっと出入り口まで来た。ふ、福ちゃん……助かったy――」
〜キミのミステリー〜解いてみたい〜少年の〜ヒミツめいた背中探せ〜♪ ズズズズズズ
「ギャ〜〜〜〜!!!!!!」

「ここでいったい何があったんですか、お客さん」
「い……インシテ、ミル……」

伊原摩耶花はカラオケショップの店員に謎のメッセージを残すと、倒れた。
翌日、二人の唐突な病欠が気になった千反田は奉太郎と一緒に推理したが、結局は解き明かされないままに終わってしまった
しかし倒れた二人だけは知っている。ここ神山市の某カラオケショップで"6曲分のデス・ゲーム"が開催されたことを――
0954名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/17(水) 06:24:31.57ID:g4KUo/cv0
 さて、ここからは心を入れ替えて真面目に勉強しよう。教えてくれる千反田にも悪いしな。
 いまから本気出す!
 だが、そう決断してみたものの、すんなりと頭のスイッチは切り替わってくれない。どうし
たことか? 俺はその原因を考察してみた。

 そもそもこのコタツというものがいけないのだ。
 男女の下半身が密閉された空間を共有している。まかり間違えば、瞬く間にふれあい広場と
化してしまう。なんと卑猥な代物《しろもの》なのだろう。
 いまこのコタツの中には、千反田のすらりとした両脚と、黒いストッキング越しに薄っすら
透けて見えるであろう白いパンツが存在している。いや、パンツの色が白なのかどうかは知ら
ないが、黒いストッキングには白いパンツが良く似合う。それにおとなしい千反田のことだ。
パンツの色は白に決まってる。白であって欲しい。白であるべき。俺の勝手な願望だ。
 まあ、それは置いといて、いわばこのコタツ布団が千反田の両脚とパンツを隠す、スカート
の役目を果たしていると言っても過言ではない。そう、いまの俺は千反田のスカートの中に、
思いきり足を突っ込んでいる状態なのだ。否、それどころではない。腰まで入っているという
ことは、俺の逸物が千反田のスカートの中へと進入している状況なのである。
 そんな想像をしていたら、俺の欲望(棒)がむくむくと鎌首をもたげ始めた。これでは勉強す
るどころではない。
 やばい。コタツやばい。

「折木さん、何がやばいのでしょうか?」
 千反田が小首をかしげて問いかけてくる。しまった。うっかり口に出していたようだ。
 俺はコタツの中のきかん坊(棒)をなだめつつ、言い訳を考えた。
「いや、その……、そ、そうだ! 昼飯のことをすっかり忘れてた!」
 苦し紛れに出た言葉だが、忘れていたのは本当だ。不思議そうな顔をしていた千反田も一応
納得してくれたようだった。
「ピザでも頼もうか?」
 無難な提案をしてみる。もしくは冷蔵庫の中にある食材を使って料理の腕前を披露してくれ
やしまいか、と千反田に期待を込めた視線を送った。すると、
「実は――、お弁当を作ってきたんです」
 千反田は一旦、脇に置いてあるバッグに目をやり、俺に微笑みかけた。これは嬉しい誤算だ。
そしてなんと気が利く娘なのだろう。流石は俺の嫁。ありがたいことだ。
「わざわざ作ってきてくれたのか。ありがとう、千反田」
「いえ、頑張る折木さんのお手伝いができて、わたしも嬉しいです」
 千反田は、はにかみながらそう答えた。
 俺は何も言えなかった。こんなに尽くしてくれる彼女に対して、俺ときたら勉強そっちのけ
で不埒なことばかり考えて……。とんだ大馬鹿野郎だ。――――猛省しよう。
 千反田の期待を無下にせぬよう、今度こそ真面目に試験勉強に取り組むことにしたのだった。
0955名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/17(水) 06:25:11.56ID:g4KUo/cv0
 時計の針は十二時を指していた。
 試験勉強は千反田の助けも借りて順調に捗り、数学の出題範囲はすべて網羅した。
「きりもいいし、時間も丁度いい。ここらで昼飯にしようか」
「はい、そうですね」
 千反田も、笑顔で俺に同意した。

 コタツの上をきれいに片付けた後、弁当の準備は千反田に任せ、俺はキッチンで湯を沸かす
ことにした。賓客に茶のひとつも出さずにいたのは失態だった。舞い上がっていたせいなのか
すっかり失念していたのだ。
 まあ、コタツの上に教科書やノートやらを開いているときにカップを倒して大惨事、という
ことも無きにしもあらずなので、これはこれでよかったのかもしれない。
 いや、待てよ。こぼれた液体が千反田の服に飛び散って、
「服にシミがつくから、早く脱いだほうがいい。その服は洗濯機で洗うから」
というベタな展開もありえたかもしれない。そして洗濯機を回している間に、千反田は汚れた
身体をシャワーで洗い流し、俺は浴室ドアの擦りガラス越しに、
「なあ、千反田。俺も一緒にシャワーを浴びていいか?」
と訊いてみる。その質問に千反田は、しばし沈黙した後、
「……いいですよ」
と、か細い声で答えるのだ。俺は高鳴る鼓動を抑え、服を脱ぎ捨て、いざ尋常に勝負!
 ドアを開けた俺の視界に飛び込んできたのは、湯気に包まれた――――。

 ここで甲高い音がキッチンに鳴り響いた。
 俺の意識は妄想から現実へと引き戻され、目の前で湯気を吹き上げる笛吹きヤカンが、早く
火を消してくれと言わんばかりに泣き喚いていた。
 ……いいところだったのに。俺は溜息をついてコンロの火を止めた。
 まあ、いいさ。ここからが本番だ。勉強がひと段落したら続きをして欲しい。千反田は確か
にそう言った。接吻して、抱擁して、押し倒して――、その続きと言ったらもうあれしかない。
俺はごくりと唾を飲みこんだ。昨日里志から貰ったブツをさっそく使うときがきたか。ズボン
の後ろポケットの上から触って、その存在を確認した。
 持っててよかったコンドーム。結婚の約束をしたとはいえ、高校生の身で妊娠はまずかろう。
千反田は名家の一人娘。もしもそんな事態になろうものなら、強制的に別れさせられるだけで
なく、社会的に抹殺される可能性もあるやもしれん。うむ、避妊は大事だな。
 だが、その前にまずは腹ごしらえといこう。腹が減っては戦は出来ぬ、と先人も言っている
しな。
 俺は茶葉を入れた急須にヤカンのお湯を注ぎ、湯呑みと一緒に盆に載せてリビングへと向か
った。
0956名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/17(水) 06:25:53.29ID:g4KUo/cv0
 コタツの上を見て驚いた。てっきり学校で食べるような弁当だと思っていたのだが、千反田
が作ってきたのは漆塗りの重箱二段重ね、花見の席で出るような豪華な弁当だった。きれいに
盛り付けられた色鮮やかなおかずとおにぎりは、一見して、手間暇かけて作られたと思われる
見事な出来栄えだった。
「すごいな、千反田。これ全部、お前が作ったのか?」
「ええ。昨日の今日なので、たいしたものは用意できなかったのですが」
「いやいや、たいしたもんだろう。見た目からして美味そうだ。食べてもいいか?」
「はい、どうぞお召し上がりください」
「いただきます」
 同時に合掌する。まずは卵焼きに手をつけた。焦げ目ひとつないきれいな焼き加減だ。味に
関しては、なんら心配していない。千反田の料理の腕前は知っている。文化祭のお料理研主催
のコンテストでの活躍は全校生徒の周知の通り。あれのせいで千反田のファンが増えたらしい。
里志から聞いた話だ。まあ、そんなことはどうでもいい。いまは千反田の手料理を堪能しよう。
 さっそく食べてみる。ふんわりとした食感と出汁の旨みが口の中いっぱいに広がった。甘さ
控えめの出汁巻き卵だ。実に俺好みの味だった。感想を待っているのだろう。千反田が固唾を
呑んで俺を見つめている。
「うん、美味い」
 俺は素直に感想を述べた。その一言に千反田は、ほっと胸を撫で下ろし笑顔を見せる。
 次は揚げ物に箸を伸ばした。こちらはふわっとした中にぷりっとした歯ごたえ。海老の甘い
香りが鼻腔をくすぐる。これは何かと千反田に問うと、
「海老しんじょの揚げ物です。お椀に入れるのが普通ですが、こうして揚げたものも結構いけ
るんですよ」
「これも美味い。千反田は本当に料理上手だな」
「うふふ、折木さんに喜んでいただけて、わたしも嬉しいです」
 満面の笑みを浮かべる千反田。その喜ぶ姿に俺も自然と顔がほころんだ。
「俺は三国一の果報者だな」
 ぽつりと呟く。それを聞いた千反田が箸を持った手を口に当てて、くすくすと笑い出した。
 何かおかしなことを言っただろうか? どうしたのか問うてみると、
「折木さんって、たまに古い言葉を使いますよね」
 古風な女に古いと言われてしまった。なんだか釈然としない。しかもその指摘は、以前にも
聞いたことがあるような気がしないでもない。
「それに少し大袈裟すぎです。折木さんは三国一の三ヶ国って何処だかご存知ですか?」
 それくらい知っている。馬鹿にするな。俺は間髪入れずに答えた。
「魏、呉、蜀」
「それは三国志じゃないですか。全然違います」
 うん、何かおかしいと思っていた。それじゃどこだと答えを急《せ》くと、
「唐土、天竺、倭国。いまで言う中国、インド、日本ですね。昔の日本人が考えていた全世界
といったところでしょうか」
 つまりは世界一ということか。ふむ、確かに大きく出すぎたかもしれない。
「だったら言い直そう。俺は日本一の果報者だ。これなら文句なかろう」
 ところが千反田は不敵な笑みを浮かべて、
「残念ですが、折木さんは二番目ですよ」
 昔懐かしの特撮番組で聞いたことのあるような台詞を言い出した。なんとなく察しはつくが
その理由を訊いてみると、
「なぜなら、わたしが一番の果報者だからです」
 予想通りの答えが返ってきた。とりあえず矛盾点を指摘してみる。
「その理屈はおかしくないか? 俺は料理上手な彼女がいてくれるから幸せなんだが。お前は
どこが幸せなんだ?」
「わたしの作った料理を好きな人がおいしそうに食べてくれる。それだけで幸せなんです」
 なんとも安上がりな幸せである。しかし、それなら俺の勝ちだろう。
「些細なことで幸せを感じてくれる料理上手な彼女。やっぱり俺のほうが果報者だな」
「いいえ、わたしのほうが果報者です」
「いや、俺のほうだ」
「わたしのほうです」
 俺たちはどうでもいいようなことで意地を張り合った。全くもって不毛だ。だが心地良い。
 しばらくにらめっこ状態を続けた後、お互い耐え切れなくなり同時に吹き出した。
「同率一位ということで手を打とうか」
 はい、と千反田も笑顔で頷く。日本一の果報者同士。別に俺たちだけに限ったことではない。
好き合っている恋人たちは、おそらく皆そう思っているに違いない。自分たちが一番幸せだと。
 嬉しそうに笑う千反田を見て、ふとそんな考えが思い浮かんだ。
0957名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-QjB/)
垢版 |
2021/11/17(水) 06:27:03.23ID:g4KUo/cv0
 俺たちはとりとめのない会話を続けながら、楽しく食事を続けた。
「このおにぎり、美味いな」
 何度も美味いと言っていると、ありがたみがなくなるような気もするが、実際おいしいのだ
からしょうがない。握り具合も申し分なく口の中で、はらりと崩れる。塩梅も良い。何より米
の味が違うのだ。
「今年の新米なんですよ」
 嬉しそうに千反田が言う。どうやら実家の田圃で収穫した米らしい。
「なるほど。これが千反田米《チタンダマイ》か。道理で美味いはずだ」
「普通のコシヒカリなのですが。なんですか? 千反田米って」
 千反田が苦笑する。いま思いついた造語なのだが、語呂はわりかしいいと思う。
「千反田米というブランドを作って全国展開しよう」
 冗談半分に言ってみた。
「千反田という名にブランド力があるとは思えないのですが」
「ないなら、作ればいい」
 常日頃、商売のことに関して敏感な農家の娘は、俺の発言に喰いついてきた。
「どうやるんですか?」
 千反田は真剣な眼差しで俺を見つめる。
「神山市を舞台にした映画やドラマで、それとなく千反田の名を宣伝する」
 俺の提案を聞いた千反田は、落胆の色を顔に浮かべた。
「すごく他力本願で、とてつもなく可能性の低い案ですね」
「待て、早合点するな。そういったものにはたいてい原作があるだろう。漫画とか小説とか。
それを自分たちで作って出版社に持ち込み、大ヒットさせれば、あるいは」
 荒唐無稽なことを言っているが、もちろん作る気など毛頭ない。
「それはまた、とてもハードルの高い案ですね。ところでどんなお話にするのですか?」
 千反田も俺が冗談を言っていると気づいたのだろう。先ほどまでの真剣さはない。
「神山市でおこる連続殺人事件を、安楽椅子探偵が――」
「ひとの亡くなるお話は嫌いです」
 だったな。
「じゃあ、高校を舞台に、高校生が日常に潜む謎を解き明かすという方向でいこうか」
「主人公の男の子は省エネ志向なんですね。わかります」
 千反田が茶化す。
「そこに好奇心旺盛なお嬢様がトラブルを持ち込んでくる、と」
 俺も茶化した。
「わたし、そのふたりの恋の行方が気になります!」
「ふたりとも互いに憎からず想っているが、簡単にはくっつかない。しかし最終的に――」
 千反田が目を輝かせながら、可愛らしく相槌を打つ。俺は言葉を続けた。
「――結婚を誓い合ったふたりは数年後、皆に祝福されながら無事結ばれることとなる」
「とても素敵なお話です。折木さん、さっそく執筆作業に取り掛かってください」
「面倒だから却下」
 千反田が不服そうにくちびるを尖らせる。そんな顔をされると心が痛む。
「いまの案は冗談だから本気にしないでくれ。ところで千反田、以前お前が諦めたと言ってい
た経営的戦略眼についてだが――、代わりに俺が修めるというのはどうだろう?」
 今年の春、言い出せなかった言葉がすんなりと口から出た。あのときは覚悟が足りなかった。
でもいまは違う。俺は千反田の瞳をまっすぐ見つめた。
 千反田は少し驚いたように目を見開き、それから柔らかく笑うと、ゆっくり頷いた。
「では折木さんにお願いします。頼りにしてますよ、旦那様」
 そう返事をしてから急に恥ずかしくなったのだろう。千反田の顔は見る見るうちに紅潮して
いく。らしくない茶目っ気を出すからだ。しかし何故だろう。そんな千反田を見ていると、俺
も無性に恥ずかしくなってきた。顔が火照って熱くなっていく。俺たちはお互い顔を赤らめた
まま、黙って見つめ合う。そして――。

 玄関のチャイムの音が鳴り響いた。俺たちは一瞬びくっと身を震わせた後、顔を見合わせて
苦笑した。
 俺は舌打ちして玄関に向かう。新聞の勧誘だろうか。なんだか嫌な予感がする。
 スリッパをひっかけて玄関に下りて、魚眼レンズから外を覗く。
 出かけたはずの姉貴がそこにいた。
0958名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-yLWo)
垢版 |
2021/11/17(水) 06:30:04.29ID:g4KUo/cv0
「何か御用でしょうか?」
 玄関のドアを少しだけ開けて、隙間からよそよそしい言葉を投げかけた。
「あら、心外ね。古典部OGが可愛い後輩たちに差し入れを持ってきてあげたというのに」
 よく見ると、姉貴は手にケーキの箱のようなものを提げている。
「貰えるものなら貰っておこう」
 ドアの隙間から手を差し出す。受け取ろうとした瞬間、ひょいとかわされ、手が空を切った。
その隙をついて、姉貴はドアを開けて中に入ろうとする。
「ふたりきりにしておいてくれ、と頼んだはずだろう」
「心配しなくても、すぐまた出かけるわよ」
 姉貴は微笑みながら言う。それならまぁいいか、と許したのが間違いだった。

「おいしい! えるちゃんってば料理上手ね!」
 姉貴は俺の真向かいに座って、千反田の料理に舌鼓を打っている。
「なんで姉貴も食ってんだよ」
「何よ、その言い草は。差し入れを買ってきてあげたじゃない」
「このくそ寒い中、アイスの差し入れなんて嫌がらせとしか思えん」
 そう、姉貴の差し入れとは、一ヶ月毎日違う味が楽しめるというのが売りの、某チェーン店
の持ち帰り用アイスクリーム詰め合わせセットだった。
「あったかいコタツに入って食べるアイスってのがいいんじゃない。ねえ、えるちゃん」
「そうですね。わたしも大好きです」
 姉貴と千反田は互いに頷いて微笑む。うーむ、千反田のやつ、すっかり懐柔されてやがる。
「多めに作ってきたので遠慮せずにどうぞ。それに食事は大勢でとるほうが楽しいですし」
「えるちゃんは優しいなあ。うちの弟にも見習ってほしいわあ」
「千反田、あまり姉貴を甘やかすんじゃない。すぐ調子に乗るからな」
「あらあら。奉太郎ってば、えるちゃんの前だとえらく強気なのね」
 姉貴は俺を見てほくそ笑んだ。くそぅ。心中で舌打ちする。できることなら千反田の前では
頼れる男でいたかった。いい歳して姉からいいようにからかわれる弟というのは、傍から見て
格好悪い。そう思う。とは言うものの俺が姉貴に口で勝てるわけもなく……。仏頂面で無言の
抗議をするしかない情けなくも悲しい男の姿がここにあった。
「うふふ、おふたりとも仲が良いんですね」
 千反田が嬉しそうに笑う。思わず姉貴と顔を見合わせた。俺たち姉弟は仲が良い部類に入る
のだろうか。いまいちよくわからない。
「わたしもそうやって何でも言い合えるきょうだいが欲しかったです」
 そういえば以前そんなことを言ってたな。去年の温泉合宿のときだったか。
「尊敬できる姉か、可愛い弟か……」
 思い出してそう呟くと、千反田は嬉しそうにこくりと頷いた。俺たちのやり取りを見ていた
姉貴が何か思いついたのか、ぽんと手を打ち、口を開く。
「あたしがお姉さんになってあげる。奉太郎、いますぐえるちゃんと結婚しなさい!」
 無茶を言う。俺はまだ十七歳なんだぞ。まあ、言われなくても、いずれそうするつもりだ。
姉貴には、まだしばらくは内緒にしておきたいところだが。
「折木家に嫁《とつ》いでくれたら、毎日えるちゃんの手料理が食べられるのね。我ながら名案だわ。
えるちゃんはどう思う?」
 さらっととんでもないことを言っているぞ。我が姉貴殿はこの家にずっと居座る気らしい。
「申し訳ないのですが――」
と、切り出す千反田に、勘違いした姉貴が残念そうに溜息をつく。
「そっか。変なこと言ってごめんね。でも奉太郎もこう見えてわりかしいい男なんだけどね」
 こう見えて? フォローしているつもりなのだろうが、何か引っかかる言い方だ。
 だがそれよりも、いま心配すべきなのは千反田だ。
 コタツの下から足でつつき、千反田の注意を引く。こちらを向く千反田に、姉貴に悟られぬ
よう目で合図した。――いいか、余計なことを言うなよ、と。
 すると千反田は、わかっていますという風に、口の端をぎゅっと引き締め頷いた。そして、
「折木さんは千反田家に婿入りしてもらう約束ですから」
 きっぱりと余計なことを言い放つ。俺は頭を抱えた。以心伝心とはいかないようだ。
 姉貴はというと驚きの声を上げて、
「本当に? 本当にこれでいいの?」
と、俺を指差してこれ呼ばわりする始末。さっきのフォローはいったいなんだったんだ。
 千反田は姉貴の問いかけに満面の笑みで答える。
「はい。折木さんがいいんです」
 そのすがすがしいまでにまっすぐな千反田の返事は、嬉しくもあり、恥ずかしくもあり。
 俺は照れた顔をふたりに見られぬよう、そっぽを向きながらおにぎりを頬張った。
0959名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-yLWo)
垢版 |
2021/11/17(水) 06:31:52.46ID:g4KUo/cv0
 姉貴は千反田が折木家に嫁いで来ないことを残念がったが、俺たちの仲は素直に喜んでくれ
た。困ったことがあれば相談に乗ってあげる、と頼もしい姉貴っぷりも披露する。千反田も、
そのときはよろしくお願いします、と頭を下げた。俺としても姉貴の協力は心強いかぎりなの
だが……。

「それにしても、あんたも隅に置けないわね。えるちゃんみたいないい子を彼女にして、あま
つさえ結婚の約束までしちゃうなんて」
 姉貴がほくそ笑んで俺を見る。やれやれ。こんな風にからかわれるのが嫌だったから、内緒
にしておきたかったんだ。俺は無視して黙々と食事を続けた。
「それにこんな大事なこと、あたしに報告も無しとはいただけないわ。ひとことあってもいい
んじゃない?」
 何様のつもりだろう。俺は箸を休めて文句を言った。
「なんでわざわざ報告しなきゃならんのだ?」
「あら、あたしが勧めなければ、あんたは古典部に入部しなかったでしょう? えるちゃんと
出会うきっかけを作ったのは、この、あ・た・し、なんじゃない?」
 一理ある。が、恩着せがましいにも程がある。そこに千反田が口を挟んできた。
「だとしたら、供恵さんはわたしたちの恋のキューピッドですね」
 千反田は上手いことを言ったつもりなのか、したり顔をする。いまどき、恋のキューピッド
はないだろう。古臭いセンスだ。ある意味、千反田らしくもある。姉貴も同じことを思ったの
だろう。姉弟揃って苦笑いを浮かべた。
「それを言ったら千反田、お前だって伯父の件がなかったら古典部には入部しなかったんじゃ
ないか?」
「そういえば……、そうですね」
 千反田は口元に手を当てて考え込む。姉貴が「どういうことよ?」と訊いてくるので、俺は
千反田の許可を取り、伯父である関谷純のことをかいつまんで話した。
「ふーん、なるほどね。古典部初代部長、関谷純がえるちゃんの伯父さんだったってわけか。
そして伯父に関する疑問を解決するために古典部に入部し、そこで奉太郎と出会った、と」
「そういうわけで姉貴にも一応感謝はするが、姉貴のおかげだけじゃないってことだ」
「そっか。でもなんか面白いわね。古典部がふたりの縁を結んだみたいで」
 姉貴の意見に千反田が賛同する。
「本当ですね。何か運命的なものを感じます。ねっ、折木さん」
 千反田が目を輝かせながら俺を見つめる。無邪気な笑顔が眩しい。女性は運命という言葉に
弱いと聞くが、どうやら千反田も例外ではないらしい。
 俺は運命というものを信じてはいない。だがここは空気を読んで素直に頷いておいた。

「それじゃあ、ふたりを巡り合わせた伝統ある神高古典部に、乾杯!」
 姉貴が音頭を取って湯呑みを掲げた。姉貴の無駄に高いテンションに感化されたか、千反田
も意気揚々とそれに倣う。仕方なく俺も渋々追従した。
「かんぱーい!」
 湯呑みのぶつかり合う音がリビングに響く。お茶で乾杯するおかしな図柄。姉貴と千反田は
笑い出し、俺はそんなふたりを見て苦笑した。
 ふたりが落ち着きを取り戻したところで、俺は長年の疑問を姉貴にぶつけてみた。
「ところで結局、古典部とはいったい何をする部活なんだ?」
「あんた、二年近くも在籍しておいて、今更それを訊く?」

 姉貴は呆れた顔をしながらも、古典部の意義を語り出した。飯を食いながらの、ながら聞き
なので細かいところは聞き飛ばしたが、簡単に言えば、故《ふる》きを温《たず》ねて新しきを知る、温故知新
の精神を学ぶ部活なのだそうだ。姉貴には悪いが全く興味が湧かない。こういう小難しい話は
千反田に任せて、俺は胃袋を満たす作業に専念することにした。
0960名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-yLWo)
垢版 |
2021/11/17(水) 06:33:43.32ID:g4KUo/cv0
 姉貴の話は、「古典を制する者は、世界を制す」と勇ましくも謎なスローガンから、いつの
まにか世界放浪一人旅の話題へと移り変わり、千反田の際限なき好奇心を満たしていった。

「素敵ですね、イスタンブール。わたしも一度行ってみたいです」
 千反田が羨ましそうに言う。俺は口の中のものを飲み込んでから、横槍を入れた。
「千反田、一人旅はやめておけよ。お前は危なっかしいからな」
 その忠告に千反田がむくれる。
「折木さん、わたしのこと子ども扱いしてませんか?」
「いや、そういうわけじゃないが……」
「奉太郎、あんたが一緒について行けばいいじゃない。いっそのこと新婚旅行にすれば?」
 姉貴が横から茶々を入れる。何を言い出すのだろう、この女は。
 千反田は頬を染めて、意味ありげに俺を見つめる。俺の返事に期待しているのか? 困った
ことになってしまった。
 新婚旅行で海外か。正直なところ、気が進まない。外国人相手に俺がコミュニケーションを
取る姿が想像できない。千反田に頼れる姿を見せるどころか、無様な姿を晒しそうだ。
「俺は海外よりも国内旅行のほうがいいと思うんだが……、駄目か?」
 俺の提案に、千反田はくすりと笑って返答する。
「わたしは折木さんと一緒なら、どこだっていいですよ」
 嬉しいことを言う。自然と顔がほころんだ。
「えるちゃん、イスタンブールはあたしと一緒に行こっか? 奉太郎は置いといて」
「それもいいですね」
 悲しいことを言う。自然と仏頂面になる。
「冗談ですよ、折木さん」
 千反田が微笑みながら顔を近づけてくる。うむ、その可愛さに免じて許してやろう。
 俺たちのやり取りを、にやにやしながら見ていた姉貴が千反田に呼びかける。
「えるちゃん、ちょっといい?」
「なんでしょうか? 供恵さん」
「奉太郎のことを『折木さん』って呼んでるけど、あたしも一応、折木なんだけど」
「それは、まあ……、そうですね」
 千反田は、戸惑いながらも同意する。
「だ・か・ら、奉太郎のことも下の名前で呼んじゃえば?」
「それは、その……」
 千反田が困り顔で、ちらりと俺を見る。この展開はよろしくない。俺は助け舟を出した。
「区別はつくんだから、別にこのままでいいだろ」
 しかし千反田は深呼吸した後、意を決したようにこちらに向き直った。そして、
「ほ、奉太郎さん」
 頬を染め、はにかみながら俺を見つめる。その破壊力たるや凄まじいものだった。俺は顔が
にやけそうになるのを我慢してそっぽを向く。視界に入る姉貴のにやけ顔が腹立たしい。
「やっぱり慣れないと変な感じですね。折木さ……ではなくて、奉太郎さんは嫌ですか?」
 嫌じゃない。むしろ嬉しいのだが、姉貴の思惑通りにことが運んでいるのが癪に障る。
「千反田の好きに呼べばいい」
 ぶっきらぼうにそう言うと、千反田は、「はい」と嬉しそうに返事をした。
 そこにまたしても姉貴が余計な口を挟んでくる。
「えるちゃんが下の名前で呼んでるんだから、あんたも下の名前で呼ぶべきじゃない?」
 やはりそうきたか。俺が慌てふためく様を見て楽しむつもりだろう。悪趣味な姉だ。
「勘弁してくれ」
 そう呟き、千反田のほうを見た。上目遣いで俺の目を覗き込んでくる。どうやら呼んで欲し
いらしい。そんな餌をねだる子犬のような瞳で見つめられると、放っておけないではないか。
 仕方ない。言ってやるか。こほんと咳払いをして、
「え……」
 千反田の名前を呼ぼうと口を開いたのだが、いざ言おうとすると、恥ずかしさのせいか声が
出ない。どうしたことか。アルファベットでKの次を言うだけなのに。こんなことでは今後、
ファーストフード店でラージサイズを頼めないではないか。頑張れ、俺。頑張れ、折木奉太郎。
「える」
 勇気を振り絞って千反田の名を呼んだ。千反田は嬉しそうに笑って頷いた。恥ずかしくて、
まともに千反田の顔が見られない。正直、穴があったら入りたい。いっそのことコタツの中に
潜り込んでしまいたい。いや、この状況で潜り込んだら、変態のレッテルを貼られてしまう。
いささか興味はあるが、いま、それはやめておこう。
 その後、俺は女ふたりに会話を任せ、なるべく千反田の名を呼ばないようにしたのだった。
0961名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-yLWo)
垢版 |
2021/11/17(水) 06:36:13.55ID:g4KUo/cv0
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
 箸を置いて合掌した俺は、のんびり食後のお茶を飲む。千反田の弁当は、文句のつけようが
ないくらい美味かった。しかしそれが災いして食べすぎたみたいだ。後半、会話に参加せずに
ひとり黙々と食べていたのがいけなかったのかもしれない。お腹がくちくなる。
 ズボンのベルトを緩めて、寝転んだ。なんだか眠い。小さくあくびをして目を瞑った。
「奉太郎、食べてすぐ寝ると牛になるわよ」
 姉貴が呆れたような声を上げる。
「モー」
 寝たままの状態で牛の鳴き真似をした。千反田のくすくす笑う声が聞こえる。
「手遅れだったみたいね。えるちゃん、本当にこんなやつでいいの?」
「うーん、再考の余地があるかもしれません」
 女たちの笑い声。好き勝手なことを言っている。まあ、言わせておこう。
「ちなみに、えるちゃんは奉太郎のどこが好きなの?」
「そうですね――」
 なんだか気になる話題になった。目を閉じたまま、聞き耳を立てる。
「――可愛いところでしょうか」
 そこかよ! 
「あー、わかる気がするわ」
 わかるのかよ!
「小さい頃の奉太郎はもっと可愛かったんだけどね。いつもあたしの後ろをついて来て」
 俺の記憶だと、無理矢理姉貴に連れ回されていたんだが……。
「わたしも小さい頃の奉太郎さん、見てみたかったです」
「写真ならあるわよ。見る?」
「はい、ぜひ見せてください!」
 千反田の喜ぶ声と同時に、俺の足の裏をくすぐる感触。たまらず俺は飛び起きた。
「奉太郎、あんたのアルバムを持ってきなさい」
 命令口調。俺に拒否権はないらしい。千反田も期待を込めた目で俺を見る。姉貴と千反田の
強力タッグ。ひとりでも逆らえない相手なのに、こうなるともうお手上げだ。
 素直に俺は二階の自室へと向かうことにした。

 本棚の奥から子どもの頃のアルバムを引っ張り出して、再びリビングへと戻る。はしゃぐ声
に何事かと思えば、姉貴と千反田がどのアイスを食べようかと吟味しているところだった。
「あんたはどれがいい?」
 姉貴が箱の中のアイスを見せてくるが、いまいち食欲が湧かない。首を横に振る。
「腹いっぱいだから、いまはいい。あとにする」
 そう言ってアルバムをコタツの上に置き、踵を返す俺の背中越しに千反田が声をかけてきた。
「どこに行くんですか?」
「眠くなったから、部屋で少し仮眠を取ってくる」
 どうせここにいたって、姉貴にからかわれるだけだ。それに眠いのも事実だった。普段なら
休日は昼近くまで寝ているはずなのだ。

 自室に入る。肌寒い。エアコンのスイッチを入れてベッドに潜り込んだ。
 姉貴はいつ出掛けてくれるのだろう。千反田と仲良くするのは構わないが、俺の邪魔だけは
しないで欲しい。
 目を瞑り、耳を澄ますと階下から微かに笑い声が聞こえてきた。
 疎外感を感じる。千反田を寝取られたような気分になってきた。これは嫉妬だろうか。
 姉貴が女で本当に良かった。姉が女なのは当たり前だが、俺が言いたいのはそういうことで
はない。文武両道で優秀な姉。弟の俺が勝てる要素はどこにもない。勝ちたいと思ったことは
一度もないが、それは端《はな》から諦めているからだ。もしも姉が兄だったら、そして俺と見比べら
れたら、果たして千反田は俺を選んでくれるだろうか。いや、この仮定には何の意味もない。
 しかしこの先、千反田の前に俺よりも優秀な人物が現れた場合、心変わりをしないだろうか。
俺はそれが怖い。それが怖くて千反田と同じ大学に行きたいと願い、勉強を頑張ることにした。
千反田は誤解しているようだが、俺はどうしようもなく臆病で情けない男なのだ――。
 自己嫌悪に陥りながら、俺はいつしか深い眠りへと落ちていった。
0962名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-yLWo)
垢版 |
2021/11/17(水) 06:37:40.69ID:g4KUo/cv0
 深い霧の中をひとり歩いていた。
 辺り一面真っ白な霧。まさに一寸先は闇ならぬ霧、といった状況だった。
 辛うじて見える足元は灰色の砂礫《されき》に覆われ、足を一歩踏み出す度に耳障りな音を響かせる。
 いったいここは、どこだろう。
 いったい俺は、どこへ向かっているのだろう。
 あやふやな記憶を辿りながら、前へ、前へと進んでゆく。
 しばらく歩いていると、どこからか微かに声が聞こえてきた。
 誰かいるのだろうか? 声のするほうへと歩みを速める。
 霧が薄らぎ、視界が広がった。目の前には大きな川が流れている。こちらの川岸は草木一本
生えていない灰色の荒野だが、おぼろげに見える対岸は花が咲き乱れ、薔薇色に染まっていた。
 どうやら声は向こう岸から聞こえてくるようだ。
 女の声? いや、それは女の歌声だった。聞いたことのあるわらべ歌。不思議な調べが俺を
誘《いざな》う。

「ほう、ほう、ほうたる来い。そっちの水は苦いぞ。
                 こっちの水は甘いぞ。ほう、ほう、ほうたる来い」

 ホタルではなく、ほうたる。もしかして俺のことか?
 ほうたるとは、俺がチャットで使うハンドルネームだ。それを知る者は俺以外にひとりだけ
しかいない。千反田だ。
 この声の主は千反田なのだろうか? だとしたら川を渡って向こう岸へ行かなくては――。
 俺は川の水面に目を落とした。川の水は暗く濁り、高く低く波打って流れている。この川を
泳いで渡るのは無理そうだ。
 何か他に渡る手段はないだろうか。注意深く周りを見回した。
 川に架かる橋も、舟もない。あるのは散乱した石ころと、崩れた積み石の残骸だけ。
 ここはもしかして……。『賽の河原』という不吉な単語が脳裏をよぎる。
 もう一度、向こう岸を確認する。よく見ると、ゆらゆらとゆらめく黒い人影のようなものが
ゆっくりと手を振っていた。背筋に悪寒が走る。ここに居てはいけない。直感的にそう思った。
 踵を返して来たほうへと引き返す。俺を引き止めようしているのか、背後から聞こえる歌声
がよりいっそう大きくなる

「――そっちの水は苦いぞ。こっちの水は甘いぞ。ほう、ほう、ほうたる来い」

 あいにくと俺は、甘い水よりも苦い水《コーヒー》のほうが好きなんでな。
 声を振り切るように大きく足を踏み出した瞬間、背後から何者かが俺の手首をつかんだ。
 金縛りにあったように身体が硬直する。身動きできない。辛うじて動く首を回し、恐る恐る
後ろを振り返った。
 髪の長い女が、腕を伸ばして俺の手首を掴んでいる。濡れ羽色をした黒髪が顔の大半を覆い
隠し、わずかに見える歪んだ口元が薄く笑っていた。
 ひっ、と声にならない叫び声が喉の奥から漏れる。
 断じてこれは千反田ではない。俺の千反田がこんなに怖いわけがない。
 これは夢だ。夢に違いない。夢なら早く覚めてくれ。
 目を瞑り、必死になって、そう願った。
0963名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-yLWo)
垢版 |
2021/11/17(水) 06:39:22.85ID:g4KUo/cv0
「――折木さん。折木さん。起きてください」

 俺の名前を呼ぶ声に、はっ、と目が覚めた。
 目の前には、心配そうに覗き込む千反田の顔。愛くるしい大きな瞳が俺を見つめている。
 安堵の息を吐く。夢で良かった。
「折木さん、ひどくうなされてましたよ」
「ああ、たぶん怖い夢を見たからだ」
 上体を起こして目覚まし時計を見る。午後二時前。一時間ほど寝ていた計算か。
「どんな夢だったんですか?」
 千反田がベッドに腰掛けて、興味深げに訊いてきた。俺は大あくびをして言う。
「千反田っぽい化け物に危うく捕まるところだった」
 口走ってから後悔した。これでは誤解を招きかねない。
「……なんですか、それ。わたしが化け物だなんて、あんまりです! ひどすぎます!」
 案の定、勘違いした千反田が涙目で訴える。
「いや、お前のことじゃなくてだな、お前に擬態した化け物だったんだ」
 俺は先ほど見た夢の顛末を語った。それでも千反田は納得してはくれなかった。

「よくわかりました。そんな夢を見るということは、折木さんの深層心理では、わたしを化け
物みたいに恐れているということですね」
 頬をふくらませてそっぽを向く。怒った千反田も可愛らしい。まあ、本気で怒っているわけ
ではないのだろう。なぜなら千反田はベッドに腰掛けたままだからだ。俺は布団から抜け出し
千反田の隣に腰掛けて弁解した。
「夢の話にたいした意味はないだろう。だいたいお前みたいな美人の化け物がいてたまるか」
 そっぽを向いたままの千反田がぴくりと反応する。「美人」という単語に反応したようだ。
 それならば――。
「なあ、千反田。そんな怒った顔をしてると、せっかくの美人が台無しだぞ」
「別に怒ってなんかいません」
 拗ねた口調で俺を見る。照れているのか顔が少し赤い。意外とおだてに弱いな。それとも俺
だからだろうか。愛《う》いやつめ。少し話題を変えてみよう。

「ところで千反田、下の名前で呼ぶのをやめたのか?」
「この場に折木さんは、ひとりだけですから。それに折木さんだって、わたしの呼び方、元に
戻してるじゃないですか」
「恥ずかしいからな」
「ご自分が恥ずかしいと思うことを、人に強要しないでください」
 ごもっとも。それにしても「奉太郎さん」と呼んでくれるのは、うちの家族がいるときだけ
なのか。残念と言えば残念だ。まあ、「折木さん」のほうがしっくりくるから、それでいいか。

「そういえば、姉貴はどうした?」
「供恵さんなら出掛けましたよ。夕方頃には帰ると言ってました」
 千反田が言うには、姉貴を送り出して戸締りをした後、コタツでいくら待っても俺が降りて
来ないので、部屋まで起こしに来たとのこと。
 ふむ。勉強がひと段落した昼下がり。俺の部屋。ふたりきり。条件は整った。これは絶好の
機会ではなかろうか。あとは千反田の機嫌を直すだけ。どうしようかと思案していると、
「それにしても、同年代の男の人の部屋に入ったのは初めてですが、意外と綺麗に片付いてる
ものなのですね」
 千反田は物珍しそうに周りを見渡して言う。
 そりゃそうだ。千反田を部屋に連れ込む可能性を考慮して、昨日の夜、掃除をしたからな。
まあ、それがなくとも、俺は割と綺麗好きなほうなのだ。
「俺は几帳面な男だからな」
 見栄を張ってみた。すると千反田は重大な新事実を発見でもしたかのように目を見開き、
「わたし、ずっと誤解していました。折木さんは、ぐうたらでものぐさで怠け者だとばかり」
 ひどい言われようだ。事実なだけに、面と向かって言われると面白くない。
「悪かったな。ぐうたらで」
 突っ慳貪《つっけんどん》な態度で返事をすると、間髪入れずに千反田が言う。
「さっきの分のお返しです。これでおあいこですね」
 してやられた。
 俺の顔を覗き込む千反田の笑顔は、天使の微笑みか、はたまた小悪魔の微笑みか。
 俺は苦笑しながらも、その笑顔にずっと見蕩れていた。     
0971名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-yLWo)
垢版 |
2021/11/17(水) 06:55:51.27ID:g4KUo/cv0
すいません教えてください
十文字事件であの同人誌をお姉ちゃんが持ってきたのは偶然だったのですか?
偶然でないとすればお姉ちゃんは
「学校で事件が起き、その解決にはあの同人誌が必要」だといつどこで知ったのですか?
気になって夜もウイスキーボンボンなしには眠れません
0974名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-yLWo)
垢版 |
2021/11/17(水) 07:02:02.88ID:g4KUo/cv0
>27
偶然だと思うな、前年の文化祭で面白い同人誌を手にいれて、新刊の発行を予告してたから持ってきたら、壁新聞に予告されたような事件が起きているって書かれてたから、奉太郎が好きそうもしくは悩まそうって思っただけじゃないかな。
0987名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-yRaA)
垢版 |
2021/11/17(水) 07:40:12.02ID:g4KUo/cv0
>>27
16話アバンの後、千反田が廊下で見掛けるのが折木供恵
この時、彼女は十文字事件について詳しく書かれた壁新聞を見て「なるほどね」と呟いています
前年に「夕べには骸に」を買った供恵は当然あとがきも読んでおり、事件を推理するのに「夕べには骸に」が必要なことを理解し、家に取りに戻りました
(なんでそこまでわかるかは考えないでください。彼女は奉太郎をはるかに越える推理力を持つこのシリーズのデウス・エクス・マキナ的な存在なので)
供恵が奉太郎のいる部室に来る前に、2-F委託分が売れて千反田が取りにきたことや朝から通算9部売れたことが説明されているので、供恵が壁新聞を見てから古典部部室に来るまでにかなりの時間がたっていることがわかります
家に取りに戻って、少し探して、もう一度学校に来たと考えるとつじつまが合います

個人的な考えですが、この描写は折木供恵というキャラのものすごさを示し、わらしべプロトコルを供恵で始まり供恵で終わるという形でキレイにまとめるために考えられたのかと思います
また、その折木供恵も認め、新刊を買おうとしていた(だろう)ということで「夕べには骸に」(および書かれなかった「クドリャフカの順番」)への読者(視聴者)の評価を高めることにもつながっているでしょう

長文失礼いたしました
0989名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ed92-yRaA)
垢版 |
2021/11/17(水) 07:48:06.11ID:g4KUo/cv0
姉貴歩いてくる→壁新聞見て「なるほどね」→来た方向へ引き返す
こういう描写でもあればよかったね
アニメの描写では家まで「夕べ〜」を取りに戻ったとはなかなか思いつかない
レス数が1000を超えています。これ以上書き込みはできません。

ニューススポーツなんでも実況