>>125
平日の昼下がり。
長年の激務から開放された富田耕生は近所の公園で一人、のんびりとしていた。
夕暮れにさしかかった頃、砂場で遊ぶ一人の少年をみつける。小学校低学年と見られる
その少年は、小さい体に似合わない大きな黒ぶちの眼鏡をかけ、一人黙々と砂山を作る。
「おっちゃんもお手伝いしていいかな?」
少年はパッと顔をあげ、か細い声で
「うん・・いいよ」
と答えた。少年の横に座り、砂山に砂をかけていく富田耕生と少年。
「一人で遊んでるのかい?友達とは遊ばないのか?」
砂山にまっすぐ視線を向けたまま、少年は答える。
「僕・・・今日は友達と喧嘩しちゃったんだ・・あいつすっごい凶暴な奴でさ、気にいらないとすぐ
僕の事殴るんだよ」
富田耕生は目を細めながら少年を見つめる。あぁ、君みたいな子をワシは知ってるような気がするなぁ・・と。
「なぁボク、ドラえもんてアニメ知ってるか?」
「知ってるよ。僕タケコプターが欲しいな。あれがあれば毎日遅刻なんかしないのに!」
「おっちゃんはね、ドラえもんの物真似ができるんだぞ。」
「本当に?やってみせてよ!」
少年は初めて小さな笑顔を見せてくれた。

「・・・・・あ〜らよっと!!・・・・・・・・」

ふと見ると、少年の顔が引き攣っている。「ジジィ・・・」
「ドラえもんの声は、そんなおっさん臭い声じゃないよ。全然にてないじゃないか。うそつき!」
砂山をぐしゃりと潰し、走り去っていく少年。富田耕生は何もいえなかった。
あたりは暗くなり始めていた。
「・・・・・・・・・・風邪、ひいてまんねん・・・・・・」
今夜はぶり大根にしよう。カミさんと一杯呑みながら。