人間不信は良くないが、人より苦労したせいか、一条は交渉上手でもある。
バレー部に入る条件として自分をキャプテンにさせるよう聖にせまったが、
当時、バレー部は部員が一人不足しており、廃部危機が目の前にあったため
断ることができないのを読んでいた。
嵐に平手打ちした時も、嵐が自分に暴力をふるえないのも読んでいた。
暴力をふるえば部活停止になるし、何より女性に暴力はみっともない。
伏島から校則違反を指摘された時も「校則は破るためにある」
「優等生は先生に尻尾をふれ」と完全に舐めていた。
一見、無謀に見えるが、言いなりにならず押し返すのは交渉術の基本である。
弱そうな優等生君ならなおさらだ。結局、うやむやで終わって条件闘争に勝利した。
白木が蛇の玩具で驚き、机の上でブルブルしていた時も
「ばかみたい」と強烈にやり返していた。取り巻きがいない時で
かつ相手が弱っている時を的確に狙った頭脳的行動である。
嵐が蛇の玩具で怪我をした時、教頭から誰がやったと追及されたが、
最初は黙っていた。その後、聖が自分から責任をかぶろうと申し出た後に
自分がやったと言った。人が良い聖なら、自分から責任をかぶるぐらい
のことはすると読んでいた可能性が高そうである。
大原律子に売り込む際も無理して手首を痛めたが、
あそこは一条にとって、就職試験であり、人生の一大場面でもある。
試合以上に力を入れてしまったのだろう。
絶好のタイミングを逃さないというのは交渉上手でもある。
また交渉術は結果が全てであり、実業団スカウトはその最たる例だろう。

ちなみに一条明日香という名前、昔の正統派主人公らしい名前である。
一条は公家に通じ、名家であり、古風(純日本)でもある。
おなじく明日香も飛鳥、奈良に通じ、古風(純日本)だ。
お父さんが灯台勤務で海上保安庁ということもあり、日本を守る思いから
保守的な名前をつけたのかもしれない。
ただ不思議なもので、そういう思いが現実には逆に出てしまうことが
ままある。人間不信、破天荒で攻撃的になってしまった。だがこれは
母亡き後から改心するまでの心が荒んだ一時的な話ではないだろうか。
本来はやさしくて家庭的な思いやりのある女性だったのだろう。