宮崎駿「これは先輩から聞いた話ですが、「西遊記」の製作に手塚さんが参加していたときに、挿入するエピソードとして、孫悟空の恋人の猿が帰ってみると死んでいた、という話を主張したという。
けれどなぜその猿が死ななくてはならないかという理由は、ないんです。ひと言「そのほうが感動するからだ」と手塚さんが言ったことを伝聞で知ったときに、もうこれで手塚治虫にはお別れができると、はっきり思いました。」

「先輩から聞いた話」であって、本当は手塚治虫はそんなことは言っていなかったかもしれない。
仮に「そのほうが感動するからだ」と手塚治虫が言ったとして、宮崎駿は手塚治虫の真意を理解していないのではないか。
宮崎駿は「なぜその猿が死ななくてはならないかという理由は、ない」ことをしたり顔で手塚治虫の限界と決めつけているが、逆に、この発言は、宮崎駿自身の限界を露呈している。
現実世界を振り返って見て、理由なく、理不尽に死んでいく人はいくらでもいる。
実際、明確な理由があって死ぬ人なんているのか?
手塚治虫は孫悟空の恋人の猿の死で、理不尽に人が死んでいく現実世界の不条理さを描き、「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね」と言いたかったのではないか。