>>153
 さっき話したように、この壮大にカッコいい部分というのは、湯婆婆のペントハウスなんですけど。
ここには「客室」と書いてあります。
 これ、宮崎駿が初期に描いたもので、まだ、上の部分に湯婆婆のものすごく豪華な部分が乗ってないんですけど。
下半分は、さっき言ったようにコンクリート造りなんですね。

 大門から入って、お風呂場の部分が全て吹き抜けになっていて、その周りに客室がついていて、
裏側に従業員の宿舎が張り付いているというような構造になっています。

 1階に番台と風呂場があって、2階部分は全て吹き抜け。3階と4階は吹き抜けの周りに、
客室がある感じですね。そして、5階以上が湯婆婆のペントハウス。

 この建物を、宮崎駿は擬洋風というふうに呼んでいます。
 擬洋風というのは建築界の用語であって、どういう意味かと言うと、巨大なボイラーハウスが下にあることからもわかるように、
これ、コンクリート建築なんですね。つまり、和風建築ではなくて、コンクリートの偽物なんです。

 このように、西洋建築の技術を取り入れた和風建築のようなものを、建築業界では擬洋風というふうに言います。
明治時代によく建てられた「和風建築の偽物」……と言うよりかは「洋風建築の偽物」と言うべきか。

 だいたい、明治時代に、西洋建築の建て方をよく知らない大工達が、新しく入ってきた素材とか設計図とか材料で、
見様見真似で洋風建築みたいなのを作ったんだけど、上にはデカい瓦とかを載せちゃう、と。そういうのを擬洋風と言うんですけども。
 これね、宮崎駿の強烈なメッセージなんですね。

・・・

 何かと言うと、日本のアニメーションそのものを指して「擬洋風」と言っているんですよ。
 つまり、ディズニーなんかの西洋が始めた芸術に、日本のセンスを乗っけただけなんですね。
宮崎駿も、よく「日本のアニメーションのやっていることというのは、所詮は西洋が始めたものに
自分なりのセンスを乗せているだけだ」って言ってるんですけども。

 つまり、『もののけ姫』そのものなんですね。この建物自体が、自分の作品である『もののけ姫』を強烈に皮肉っているんですよ。
 「いくら室町時代を描こうが、縄文時代を出そうが、針葉樹林文化論を出そうが、そういう神話を描こうが、
所詮、自分の作ったアニメーションというのは擬洋風であって、西洋が作ったアニメーションの技法、
西洋が作った映画の文法の上にのっとってやっちゃっている」ということなんですね。

 そして、この油屋というのは、かつて自分が作った『もののけ姫』そのものであると同時に、スタジオジブリそのものでもあるんですね。
 「この中で、女の人ばかりが働いている」というのにも理由があります。
当時のジブリというのは『もののけ姫』の時にトラブルがあって、大量にアニメーターが辞めたんです。
その結果、残ったのは女性の新人ばっかりが多くなって、一時期は「ジブリのアニメーターって女の子ばっかりだ」って言われてたんですけど。
そんなふうに、女の子がいっぱいいる体制だったんですね。