>>621
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 もし、自分が人類の中で孤立して生き残ってしまって、他に生きているものもいるかもしれないとなったら、
中学生や高校生くらいの時の僕だったら、絶対に人を探さなかったはずなんですね。

 自分の父親がそうだったように「核シェルターみたいなものを作って、食料を保存して、自分1人が暮らしていければいいや」
と思ってたんですけど。

 やっぱりね、この本の中の後半の方にも書いてあるんですけど、そういう状況で1年2年生きられる人間は、すごく珍しいんですね。
どんどん無気力になっていって、だいたい、最初の冬が来る頃に自殺してしまうというような心理実験結果も出ているんです。

 そんな環境の中で、たくましく生き伸びられないんですよ。特に「誰もいなくなったんだったら、俺一人で生きていこう」
と思うような人であればあるほど、自殺みたいな方向に行っちゃうという感じが、僕にもやっぱりわかるんですよね。

 なので、やっぱり「集まって、自分達が知っていることを繋ぎ合わせる」というのが、一番良いと思うんですけど。
 まあ、そんな中で女の人と男の人が出会えたら、ひょっとしたら子孫を残せるかもわからない。

 じゃあ、そうやって、何十人かの集団が出来れば、やがてそれは数百人、数千人になって、文明は保存できるのか?
いや、これが安心は出来ないんですよ。

 あのね、人類の大半がいなくなって、生き残りが集まってなんとか暮らして行ったとしても、
50年くらい経ったら、それまでの文明の遺産は少なくなってくるんですね。

 消滅以前の文明社会を覚えている人間は、生き残り世代にしかいないんですよ。そして、おそらく、
生き残りの世代が作った子供達の世代というのは、親が言うところのかつての文明には興味がないんですね。

 なので、「かつての文明を取り戻そう」ではなくて「いかに美味しいものを再発見するか?」とか
「いかに冷凍されたものを再発見するのか?」という、かつての文明を見つけることばっかりに興味を持ってしまう。

 そんな状態が50年くらい続いた後、つまり、生産を全く考えず、消費のみの世代が50年間続いた後、
そんな第2世代しか生きていない時に、僕らみたいな文明社会を知っている第1世代がバラバラと死んで行く。

 そんな中で、保存食料や石油がなくなってきたらどうなるのか? たぶん、100年後には、生き残り世代は全部死んでしまって、
おそらく文字を読める人もほとんどいなくなる。つまり、溜めていた本も無駄になるんですね。

 こうなると、文明は完全に失われてしまいます。