>>771
 メスは、オスが寄ってくるように化学物質を出すんですけど。チョウチンアンコウのオスというのは、
本当にメスの身体の数十分の1という小ささなんです。

そんなオスは、化学物質を頼りにメスの身体を探し当てると、
その身体のどこかにかじりつくんですね。
すると、その瞬間から、オスの組織と循環系というのはメスの身体と一体してしまう。

 そこから先は、栄養はメスの血液を通じて得るようになり、
目も手足もヒレも他のほとんどの内臓も退化してなくなってしまって、
単なる「メスが産卵する時に精子を放出するだけの器官」になっちゃうんですね。
メスの内臓の一部になっちゃうわけです。

 これが、チョウチンアンコウという生物の特殊なところなんです。

 そんな生き物を、わざわざ「グランマンマーレの本体だ」と設定したということは
「フジモト以外の夫、オスというのは、全てグランマンマーレの体内に吸収済みだ」ということなんですね。

・・・

 じゃあ、なぜ、フジモトだけは吸収されていないのか?

 実は、フジモトという男についても、これは『ポニョ』のパンフレットとかガイドブックにも書いてあるんですけど、
「『海底2万哩』に出て来るノーチラス号の船員の生き残り」という設定があるんですね。

【画像】1871の壺 ?2008 Studio Ghibli・NDHDMT
https://d2l930y2yx77uc.cloudfront.net/production/uploads/images/14127210/picture_pc_38cf33f8be26437052b12df50cd98c51.png

 フジモトが、自分の船の中で海の生命のエキスを抽出しているシーンで、
一番古い壺には「1871年」という年号が書いてあるんです。

 要するに「フジモトが作った生命の水の中で、一番古い壺が1871年製だ」ということなんですけど。

 なぜ、ここだけ具体的な数字を出しているのかというと、
「ジュール・ベルヌが『海底2万哩』を出版したのが、1870年だから」なんですね。
この『海底2万哩』というのは、ノンフィクションという体で出版していたので、
「ちょうどその時期にノーチラス号の沈没事故があった」と書かれているわけですよ。

 フジモトは、沈没があった1870年にグランマンマーレに助けられ、そこから生命の水の精製を始めた。
だから、最初の壺に書かれた年号が1871年になっているという設定なんだと思います。