>>926
 この『未来のミライ』というのは、細田版の『千と千尋の神隠し』なんですよ。

 『千と千尋の神隠し』というのは、「千尋という女の子が異世界に行って、
いろんな人のしがらみとか呪いとかを解除してあげる」という話なんです。

主人公が呪いにかかったようなていなんですけども、実は、他人にかけられたいろんな呪いを解除してあげたことで、
最後には親の呪いも解除して帰っていくというような話なんですね。

 ポイントがあるとすると、「千尋が異世界に行くことになった理由もルールもない」というところなんですよ。
迷ってたらとりあえず着いちゃったという。これ、今回の『未来のミライ』と似てるんです。

 『未来のミライ』というのは、この『千と千尋の神隠し』を逆変換した作品なんですね。
 例えば、「異世界に行く」のではなく、「向こうの世界が来る」。
あとは、『千と千尋』の舞台となる湯屋は縦にすごく長い建物なんですけど、
『未来のミライ』では、斜めに階段がある高さのある構造の個人住宅として、ちょっと置き換えてます。

 何より、『未来のミライ』というのは、「血縁関係にある人達が過去や未来からやって来て、
主人公の男の子と交流したり話し合うことによって呪いとかコンプレックスから解放される」という話なんですね。
 そういうふうに見ると、何が作りたかったのかというのがわかりやすいんです。

 例えば、ひいひいじいちゃんという一番イケメンのヤツがいるんですけど、
こいつがオートバイを修理しているところに、くんちゃんという主人公の男の子が実体化するんです。

 ひいひいじいちゃんには「戦争で足を痛めた」というコンプレックスがあったんですけど、
この男の子を馬とかバイクに乗せてガーッと走る。すると、くんちゃんが「お父さん」って言うんですね。
これは、くんちゃんの勘違いなんですけど、そう言われた時、ひいひいじいちゃんは絶妙な顔をするんです。

 これ、どういうことかというと、くんちゃんから「お父さん」と言ってもらったことによって、
ようやっと「自分もやっぱり、こんなふうにお父さんと呼んでほしいんだ」と気がついたということなんです。

 そして、その結果「自分は足が不自由だから、もう一生、結婚は出来ない」というコンプレックスがあったところから、
「あ、俺、本当は子供が欲しいんだ。じゃあ、気になっていたあの女の子に、思い切ってプロポーズしよう」ということになる。
 たぶん、くんちゃんが現れなければ、あそこで血筋は途絶えていたわけですね。

 あとは、くんちゃんのお母さんが「本当は弟と仲が良かったよ」と説明するシーンがあるんですけど、
劇中には仲が良かったようなシーンが全然ないんですね。