>>219
 それと同じように、『君の名は。』でも、タイムラプス的な映像を入れることによって、リアリズムを出している。
 つまり、僕らが持っているリアリズムというのは「現実にどういうふうに物を見えるのか?」ではなく、
「日常的にどういう映像を目にしているのか?」によって出来ているわけですね。

 なので、あえてビデオ風に荒くした画面にリアリティを感じる場合もある。
ストリーク的な表現や、タイムラプス的な表現というのを、あえてアニメの中でやることによって、
ドキッとするくらいリアリティが出る場合もあるんです。

 あとは、新海誠の絵の力というのは……ちょっとこれ、説明しにくんだけど。説明できるかな?
 空に鳥の影があるんですよ。

(ホワイトボードに図説する)【画像】鳥の影  https://epbot.site/img/semi/nico_190630_03027.jpg

 すみませんね、絵が下手で。ええと、これ、わかりますかね?
 太陽が沈んでて、空に鳥が飛んでるんですけど。鳥の後ろの空に、影がちょっとあるんですね。
 これ、現実にはありえないんですよ。空に影が落ちるなんてことなんて、あるはずがない。
でも、新海誠の『君の名は。』の中には、空を飛んでいる鳥の後ろに軽く影が落ちているシーンが、何ヶ所かあるんですね。

 これも、現実ではないんですよ。むしろ、マンガの表現に近いんですよね。
 つまり、マンガの表現に近いことをあえて映像の中でやることによって、
「これ、なんか見た事ある!」っていう感じを出してるんですね。

 僕らがそれを見たのは、さっきのストリークやタイムラプスと同じように、作られた映像の中なんですよ。
 それを、あえて入れることによって、ドキッとするようなリアリティを出す。

 『君の名は。』というのは、新海誠の作家性というのを、こういった絵としての表現の部分に限定して、
テーマ的、ストーリー的なところは思い切ってベタな方に振ってしまった。
 つまり、ハイ・ドラマというのを押し付けず、ドラマの中に隠すことをしたわけですね。