>>218
 新海誠というのは、そういう方式で十数年間、頑張ってきた上で、
「ああ、この方法では先が見えない」と思い直して、徹底的にベタの方向に振った。
 その結果、まあ、大ヒットしてるんじゃねえかなというふうに思います。

(録画映像終了)

 ……いやあ、2016年の俺は、ものすごく口が悪いね(笑)。
 今だったら、まず、言わない言い方してます。「3年前の俺は、もう怖いものなんてなかったんだなあ」と思いますけど。
 本当に口が悪くてビックリしました。

 コメントで、ちょっと聞かれたんですけど、『君の名は。』というのは、SFなんですよ。
 というのも、科学的な縛り、例えば「複雑に混じっている世界線」とか、「タイムパラドックスの矛盾」とか、
「ティアマト彗星の軌道」とか、そういう科学的な縛りというのを、全部、楽しんで使いこなしてる。
 この感覚がSF特有だと思うんですけどね。

 さっき話した中で「ベタ」っていうのは何かというと、「わからない人にもわかるような感動をさせる表現」
というのを、ベタと呼んでいるんですけど。

 同時に、「作家性の諦め」というふうにも言いました。

 これはどういう意味かというと、「自分の中で考えた、ストーリーとかテーマを作家性にするのではなく、
自分が持っている絵の力、絵の表現というのを作家性と決めた」ということです。

 その結果、ドラマ部分というのは、あえてベタの方に思い切って持っていっちゃった。
そういうところが、『君の名は。』のすごいところだと思います。

 絵の力というのは、例えばどういうものかと言うと。
 『君の名は。』にタイムラプス的な表現というのが出てくるんですよ。
タイムラプスというのは、「日が昇って、その後、日が沈んでいく」というのを早回しにして見せるみたいなものなんですけど。
 これは、『AKIRA』というアニメの中で使われた、ストリーク表現のようなものなんです。

 バイクが走る時、テールランプがビューっと後を引く。こういうのをストリーク表現と言うんですけど。
 ストリークというのは、もともとビデオカメラのレンズの奥にある光学センサーの限界によって発生するものなんですね。
ビデオカメラの光学センサーの処理速度が、現実に求められているより遅いから、光っているものが動いた場合、
尾を引いているように見えてしまう。つまりは、ビデオカメラの欠点なんですけど。

 『AKIRA』という映画では、それをあえてバイクが走るシーンに入れることによって、逆にリアリズムを表現したんです。