>>208
 では今週の『なつぞら』からです。
 ついに、なつがアニメーターとして認められるエピソードでした。

 なつは、こういう絵を描いたわけですね。

(パネルを見せる) 【画像】なつの絵 ?NHK https://epbot.site/img/semi/nico_190630_00240.jpg

 ちょっと白黒だから見にくいんですけど。走ってる馬の足を表現しようとして、残像込みで作画して、前足が4本ある馬を描いたんです。
 しかし、これに対して、『わんぱく牛若丸』の監督である露木監督が怒ります。

(パネルを見せる)【画像】監督と作画班 ?NHK https://epbot.site/img/semi/nico_190630_00258.jpg

 真ん中の人が露木監督で、後ろの方で不安げに見ているのが、後の高畑勲なわけですけど。
非常識な4本足の馬に対して怒る露木監督に、作画班が全員一丸となって対抗しているという場面です。
 露木監督が「なんてものを描くんだ! こんなものを客に見せれるか!」と言うと、「いや、これでいいんだ!」というふうに作画班全員がなつを庇う。
 いわゆる「なつが周りのみんなから一人前のアニメーターとして認められた瞬間」というやつです。

 このシーン、『なつぞら』というドラマの中では、割りと美談ぽく描かれているんですけど。
こういうトラブルって、実は実際のアニメの現場でもよくあります。

 つまり、これって作画の暴走なんですよ、ハッキリ言っちゃって。
 「こんなことを勝手に作画がやると、このシーンは目立っちゃうことになるんだけども、それをして大丈夫か?」ということなんですね。
 「この馬は、このシーンで目立っていいのか?」という判断を、勝手に動画がやっちゃったということなんですよ。

 この場面、前後のシーンがないのでわからないんですけど、演出家が「坂を駆け下りるシーンとして一気に見せたい」
と思っていた場合、馬だけがこういう動きをしちゃうと邪魔なんですよね。見ている人の気がお話の本筋から横に逸れちゃう、と。
 そういうのがないように、演出家はドラマを作っているんですけど。

 これって、舞台の例えで言うと「単なるエキストラの通行人が、ちょっと舞台を通る時に、アドリブで一発ギャグをやる」
というのに近いんですよね。

 全体の流れからして、そのシーンを面白いと判断して入れるかどうかというのは、実は演出家の判断なんですよ。
だから、監督、つまり演出の人が、怒って怒鳴り込んでくることになるわけですね。

 なぜこれが作画と演出の対立っぽく描かれるのかと言うと。
 もうね、30年近く昔になるんですけど、押井守監督から聞いた話があって。
「アニメの監督というのは理屈が言えなきゃダメだ!」っていうふうに、押井さんはすごく熱く語ってたんですよ。
「言葉を持ってないとダメだ!」と。