>>290
 まず、完成している背景を、全て机に並べる。次に、完成しているセルを別の机に並べる。
そして、それらを順列組み合わせで撮影する。

 シナリオを読んだら「ああ、ここでこいつが喋る」というのがわかる。その次は、海底で列車が走っているシーンになる。
その次は、列車の中で事故が起こって追いかけられるシーンだ。というふうに、大体の流れは脚本を見たらわかるじゃないですか。

 なので、これを、背景とセルとを組み合わせて「たぶん、こいつが戦うんじゃないかな?」とか、
「たぶん、こういうふうになるんじゃないかな?」と検討をつけて、どんどん撮影に回すんですね。

 あとはもう、手塚先生のコンテが上がって来るのを待って、みんなで「当たった!」とか「外れた!」って言いながら、
当たったらそのままアフレコ、外れたら撮影し直して、なんとかはめ込んでいくということを、本当にやってたそうなんです。
・・・
 これは、当時の手塚プロにいて、『マリンエクスプレス』の制作スタッフの一番下っ端をやってたはずなのに、
次々と先輩たちが倒れたから、結果的に制作デスクまで上がってしまった井上博明さんという、
ガイナックスを僕と一緒に作ったプロデューサーから、僕が直に聞いた話です。

 井上さんは、これを僕に“怖い話”として聞かせたんですよ。
「岡田くん、山賀や庵野を甘やかしたらダメだ! コンテは早目にやらせろ! シナリオは早目にやらせろ!
でないと、こんな恐ろしいことになるぞ!」と。

 だけど、僕にしてみれば、この話はあまりにも面白くて。井上さんが帰った後、“ガイナックス講談会”というのを開いて、
社長の僕が「いやあ、『マリンエクスプレス』すごかったらしいよ。こんなことがあって〜」って話してたら、
もう、アニメーターから背景スタッフまで、全員、大爆笑するんですよ(笑)。

 そしたら、次の日、井上さんが不機嫌な顔で僕の前に現れて、「岡田くん、あれは笑える話じゃないんだ!」って言うんですけども。
僕はもう、それを含めておかしくておかしくてしょうがなかったんですよね。
 まあ、すごい怒られたんですけれど。

 そこで僕が、「アニメ業界って本当に下を見たらいくらでもあるんですね」と言うと、井上さんはこう言いました。
 「アニメ業界というのは“底が抜けてる”から、下を見たら、そりゃ、いくらでも下はある。
だから、絶対に下を見てはいけない。……俺が知る限り、『マリンエクスプレス』が一番の下だけど。
でも、噂によれば、俺が辞めた後、手塚プロではもっとすごいことがあったらしい」って(笑)。
 「放送中に手塚先生が絵コンテを切る」という以上にすごいことって、僕には想像もできないんですけど。
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この記事は『岡田斗司夫ニコ生ゼミ』8月26日分(#245)から一部抜粋してお届けしました。