>>240
 つまり、食べ物を見つけて、食って、消化するためだけに1日15時間も掛かるんです。
 残りの10時間は寝る時間ですから、マジで、物を食った後でダラダラしているだけの
動物園とかにいる猿と同じように生活せざるを得なかったんですね。
だから「メスを取り合うために戦う」なんてことには、1日1時間とか2時間くらいしか使えないんですよ。

 そして、生の食物を消化できるような大腸を維持するためにも、多くのエネルギーが必要でした。
とにかく脳を維持するために、ものすごくエネルギーを使うし、
また、それに匹敵するくらいのエネルギーを腸が使ってたんですね。

 「なぜ、200万年間、俺たち人類は食物連鎖の真ん中辺りで地味な種属に甘んじていなければいけなかったのか?」
というと、これが理由なんですよ。

 確かに脳は巨大化したんですけども、同時に、いろんなものを食べて消化するのが大変だったから、
腸もでかかった。この2大臓器のために1日15時間くらい行動を制限されていたから、
僕らは森の中で地道に暮らすしかなかったということですね。
・・・
 それが、火が使えるようになったおかげで、行動範囲が広がった。
 火を使えれば、さっきも言ったように、僕らを襲って捕食するような肉食獣も近づかないんですよ。
 おまけに、それまで食べられなかった高カロリーな食材を、簡単に食べれるようになる。
 さらに、森を焼いて環境自体を変化させることができるようになったんですね。

 環境を変化させる生物というのは、人類以外にも、ビーバーなどの動物がいるんですけど、
あいつらはダムを作るのに、やっぱり何週間とか何ヶ月という時間が掛かるわけじゃないですか。

 ところが、森を焼くのは、半日か1日、長くても数日あれば出来る。
それだけの時間で劇的な環境変化を起こせるようになったんですね。
 つまり、“環境コントロール”の力も持ってしまった。

 おまけに、噛む時間と消化するための時間を合計して、1日10時間くらいが必要なくなった。
 これによって人類は、火という武器であり防具でもある道具と、
おまけに土地と時間、これら全てを手に入れることが可能になったんです。
・・・
 これが30万年前の出来事です。
 ホモ・サピエンスだけでなく、ホモ・エレクトスとか、ホモ・ネアンデルタールとか、
そういった我らホモ・サピエンスを含む人類のほとんどは、火が使えるようになったんですね。
 それによって、ようやっと“薄暗い森の中”から抜け出して、その結果……
同じように“薄暗い洞窟”の中で生活するようになるんですけど(笑)。
 まあ、この時点では、食物連鎖の位置は、あまり変わらなかったんです。

 では、まとめの2番目です。

(パネルを見せる)