>>138
 当然、侘びという概念は周りの人からもよく理解されません。劇中、千利休は秀吉にも「なぜ、黒なのか?」と聞かれるんです。

(パネルを見せる) http://livedoor.blogimg.jp/okada_toshio/imgs/6/8/680d7ed0.png

これは、1巻の後半に載っているエピソードです。
 「だが、わからないことが一つある。千利休殿は何ゆえ黒を好むのか? 黒というのは喪に服す色だ。
死を司る色だ。日常に用いる色ではない。南蛮でも明でも朝鮮でも、古今東西、黒が最も格好良しとは聞いたことがない。
なぜ、わざわざ黒く作るのだ? こんなものは、下賤な者から高貴な者まで誰も欲しがらぬ」と、秀吉は言います。

 まあ要するに「普通に考えたら、黒がカッコいいはずがないじゃんか」と言っているんですね。
 今、コメントで「でも、黒猫はカッコいいですよね」って流れたけど、そう思えるのは、
僕らが、千利休が作った「黒はカッコいい」と思える世界を通ってるからなんですよ。
千利休の以前の時代というのは、確かに、古今東西、「黒はカッコいい」なんていう文明なんて、まあ、なかったわけですから。

 さて、秀吉の問いかけに対して、千利休は「それが私の業にございます」と答えます。
 「何事も、続けていれば無駄を見つけてうるさく感じる。その無駄を省いて省いて省くと、最後はこの色のごとくなる。
この黒こそが、私の理想とする色であり、理想の生き方。世にいう“名物”というのは全て渡来のもの。
その価値を破壊してでも、私は黒こそが至高だと証明したく存じます。それが止むに止まれぬ業なのです」と。

 つまり、「外国から来たものこそが最も価値があるという、その当時の常識を破壊してでも、
国産のものが最も優れていることを証明したい」と言ってるんですね。

 それを聞いて驚いた秀吉が、「新しき価値観を天下に押し付けると申すか!?」と言うと、
「信長公のもとではそれはかないませぬ。それを実現するには、私の道を知り、野心をともにする……」と答えます。

このあたりから、秀吉に対して「信長、殺しましょうよ」という説得が始まるんですけど、すごく良い導入でしょ?
 つまり、千利休にとって、舶来好みな信長の作ろうとしている華やかな世界というのは邪魔なんですね。
・・・
 一方で、信長とはどういうセンスを持った人物だったのかというと。

(パネルを見せる) http://livedoor.blogimg.jp/okada_toshio/imgs/7/e/7e10b85e.png

 これは、主人公の古田織部が、まだ“古田佐助”と呼ばれていた時代に、安土城に行くシーンです。
 安土城に行くと、安土城は真っ黒な漆に塗られているんですよね。
この黒い城、一応、千利休的なセンスによって黒く塗られてるんですけども。
そこに金色の龍がワーッと描かれていて、まあ、メチャクチャカッコいいんですよ。