>>770
 ラピュタのロボットは、墜落して壊れたものが分解された状態で映されるので、部品の繋がりや組み立てた痕跡というのも、
かろうじてわかるんです。つまり、iPhoneみたいなもので、どんなに不思議な存在のように見えても、バラせるんですよ。

 でも、飛行石はバラせない。1つの透明な結晶なんですね。全く理解できない。仕掛けが分からないどころじゃなく、1つの塊なんですよ。
 この飛行石が、ラピュタの方角を示す光をパーッと出すシーンがあるんですけど、その発光源すらわからないんですね。
中心の適当な位置から光がピューッと伸びているだけ。

 これは、「宮崎駿が科学に無知だから」じゃないんですよ。
 そうじゃなくて、クラークの第3法則というのを知り尽くしているからこそ、
ラピュタの科学力の段階差を少しずつ見せるために、そう表現しているんです。
・・・
 この飛行石は、声に反応するから、少なくとも音声認識機能があるんでしょうし、
その声の主がラピュタの王位継承者かどうかもわかるから、遺伝子認証みたいな機能もあるんでしょう。

 そこまではいいとしても、反重力に使われたエネルギーというのは説明つかない。
 仮に、シータの体重が40kgだとしたら、40kg×重力加速度9.8km/sの2乗。1000mの高さから落ちたとすると、
それを中和するには、およそ400万ジュールくらい。カロリーベースでいうと90万キロカロリーに相当するエネルギーが必要なんですけども。
「それをわずか5g程度の飛行石から得ようとしたら、“核反応”くらいしかないんじゃねえのか?」っていうようなエネルギー効率の良さなんですね。

 核反応というと、パズーとシータが最後にたどり着いたラピュタが樹木に覆われているのは、
宮崎駿の趣味であるのと同時に、飛行石には植物を育てる力があるからなんですね。

 これについては、宮崎さんもインタビューで「宇宙の聖なる根源であるから。シータがそれまで一人で生きてこられたのも、
飛行石によって畑がよく実ったからだ」と答えています。
 では、なぜ飛行石の近くにあった畑がよく実ったり、ラピュタで木々が過剰に育っていたのか?

(パネルを見せる)

 これは、手塚治虫の『火の鳥』という作品に出て来る“アイソトープ農場”のシーンです。
この農場の中心には放射線を出すタワーがあるんですね。
 まあ、漫画の中では、その放射線タワーの近くで、男の子が壊れたロボットに抱えられたまま半日置かれたことで
、重大な放射能障害を負ってしまうというお話なんですけど。ロビタが後に死刑になる原因になった事件ですね。

 このアイソトープ農場というのは、1960年代に実際に検討されていたんです。
「放射線の作用によって、明らかに植物の育ちがよくなる」みたいなことが50年代60年代にはよく報告されていたんですね。
 ただ、もう、今ではアンチ原子力という流れが強いので、その辺のことを研究する人もいなくなって、元データもわからなくなってるんですけど。

 そして、劇中での飛行石というのは、「人間が作り出した、自然の中にある膨大なエネルギーであり、
触ってはいけないもの」であり、なおかつ、「青い光を放つもの」なんですね。
(パネルを見せる)