>>767
 パズーがタイガーモス号のエンジンルームに行って「よし、手伝ってくれ」って言われた時に、
何をやっていたのかというと、ギアの切り替えやってるんですよ。

 そこからも、このタイガーモス号というのは、蒸気機関が主流であるこの世界の中では、
かなり複雑な動力伝達をやっているということがわかります。

 さらに、こういった描写からは、「タイガーモス号の実際の操作は全てエンジンルームでやっている」ということがわかります。
 プロペラの動きの切り替えとか、翼の向きを変えるというのは、機械的に
「この歯車をこっちへやって、このベルトをこちら側に入れ替える」みたいな方法で操作しているんですね。

 なので、タイガーモス号の先端にあるドーラ達がいるブリッジでは、伝声管で命令しているだけなんですね。
ドーラ達は、あそこで飛行船をどう動かせばいいかを命令しているだけであって、実際に動かす作業は全て現場でやっています。

 この「命令はブリッジでやって、操作は現場で行う」というスタイルも、19世紀末にしてみれば、やっぱり最先端の思想なんですね。
これが後に、オートメーションシステムというのを生んでいく流れになります。

 ちなみに、タイガーモス号は、船体に向かって後ろ側にフラップターの飛び出し口があるんですけど、これは『機動戦士ガンダム』へのイヤミです(笑)。
 『ガンダム』では、ホワイトベースにしろ、ジオンのガウ攻撃空母にしろ、全部、船体の前面から戦闘機が飛び立つんですよね。
現実の飛行機ではありえないことなんですけど。「そんなことがあるはずがねえ! 飛び出し口があるとしたら、全部、後ろだ!」ということで
、宮崎駿は、わざわざ後ろから飛び立つシーンを見せているんです。

 ということで、『ラピュタ』の中に出て来るメカとしては、タイガーモス号は“ギリギリ冒険モノレベルの技術”で作られているんです。
・・・
 では、次に、ドーラ一味が乗る“フラップター”というはばたき飛行機を考えてみましょう。
 フラップターという飛行機は、実は、人工筋肉を電気で動かして羽を振動させて飛ぶという機械。なので、まあ“半分だけSF的な技術”です。
 機体の前面に空いている小さな穴にクランクを差し込んで、グルグルと手で回してエンジンを動かしている描写があるので、
なんとなくレトロな印象があるんだけど、発電機で電気を生み出して動力にするという思想は、実は産業革命当時にしても、かなり新しいものでした。

 実は、発電機というのは、モーターよりも先に発明されているんですよね。
 モーターの発明自体は、1873年のウィーン万博で発電機の展示をした時に、技師が配線を間違えて、
本来は発電機から電気を流すはずだったところを、逆に発電機の方に電気を流してしまったんですよ。

 しかし、その瞬間、発電機が勝手に動き出したものだから、みんな「えー!?」と驚いた。
そんな事故によって、モーターというものは発見されたんですけども。

 フラップターを作ったドーラの元・愛人は、そういった発電機とモーターの関係を知らなかったので、
エンジンで発電機を動かして電気の力で人工筋肉を作動させて動かそうというふうに考えたわけですね。