>>858
みなもと:これが私の一番悪い癖で。
 『風雲児たち』というマンガが、どうしてこんなに長いのかっていうのも、全部、私がこういうことをやるからです、はい。
 で、50歳になって、もう仕事を、毎月30ページの『風雲児たち』だけに絞ったら、時間が空いた。
 その空いてる時間で何をやろうかというときに「趣味のマンガに専念しよう」と。

(中略)

岡田:今日、ちょっとお伺いしたかった1つ目の質問なんですけど。なにが、マンガを日本に普及させたんでしょうか?
 日本だけ……ということはないんですけど。フランスやベルギーみたいな「バンド・デシネ」先進国もあれば、
 アメリカみたいにアメリカンコミックがある国もあるんですけども。
 でも、日本人だけが、なんでこんなにマンガを読むだけでなく、描くという特殊な形になったんでしょうか?

みなもと:もともと、紙の文化だったからです。紙が安かったんです。それも、奈良時代からずっと。

岡田:奈良時代からずっと!

みなもと:わりあい、他所の国よりも、紙は潤沢だったようです。
 だから、当然、江戸時代なんかでも、他所の国では人形劇が発達していくところが、日本では紙を使った娯楽が発達していったようで。
 例えば、「挿絵」であるとか、浮世絵の中にも子供のための「玩具遊び絵」なんてのがありますよね?
 あとは、もうちょっと後の時代になりますが「すごろく」とか。要するに「紙で楽しむ」という文化が日本にはずーっとあるんです。それが1つです。
 それと、もう1つは「物語を紙で楽しもう」という感覚が、これが本当に、いまだに謎なんですが、日本には最初っからあるんですよ。
 例えば、「絵巻物」ってあるでしょ?

岡田:この本の中で、僕も初めて知ったけど、絵巻物って日本人の発明だそうですね。

みなもと:まあ、「発明」とまでは私は断言できませんが。
 とにかく、私が素人考えでいた頃には「絵巻物も、どうせ中国にルーツがあって、向こうには、
 いっぱい古い絵巻物があるんだろうな」と思っていたんです。
 しかし、中国人のマンガマニアの人なんかと知り合って聞いてみると、「そんなものはない」と。
 確かにそれから専門的な本を調べてみても、ないんですよね、絵巻物が。
 だけど、日本人は「絵巻物のような形式でストーリーを描き表していく」ということを、奈良時代からすでにやり始めているので、
 「なんなんだ、これは!?」と。この理由については、私もわかりません。
 だから、『鳥獣戯画』という、カエルとウサギの相撲だけをマンガのルーツと考えるんじゃなくて、
 日本人は「連続した絵を使ってストーリーを追いかけて行く」という発想を、もう最初から持っていたんですよね。
 他の国に、まだそんなものがない時代に。
 だから、ようわからん。