>>785
岡田:
 先生の書かれた『マンガの歴史』という本を読んで、僕も初めて知ったけど、絵巻物って日本人の発明だそうですね。

みなもと:
 まあ、“発明”とまでは私は断言できませんが。
 とにかく、私が素人考えでいた頃には「絵巻物も、どうせ中国にルーツがあって、向こうには、
いっぱい古い絵巻物があるんだろうな」と思っていたんです。
 しかし、中国人の漫画マニアの人なんかと知り合って聞いてみると、「そんなものはない」と。
確かにそれから専門的な本を調べてみても、ないんですよね、絵巻物が。
 だけど、日本人は「絵巻物のような形式でストーリーを描き表していく」ということを、
奈良時代からすでにやり始めているので、「なんなんだ、これは!?」と。この理由については、私もわかりません。
 だから、『鳥獣戯画』という、カエルとウサギの相撲だけを漫画のルーツと考えるんじゃなくて、
日本人は「連続した絵を使ってストーリーを追いかけて行く」という発想を、もう最初から持っていたんですよね。
他の国に、まだそんなものがない時代に。

岡田:
 僕、何か月か前から“ゴシック建築”にやたらハマってしまって、ヨーロッパに行って、
ゴシックの教会とかを見ているんですけど。
 ゴシックって、建物の中にある彫刻とかを使って世界観を見せますよね。例えば、「キリスト誕生の瞬間」とか、
「マグダラのマリアがこんなことを言った」という、細かいエピソードを1枚の絵で見せることはやりますけども、
それを連続性を持った絵ではやらない。西洋人は、むしろ、それらを同時にいっぱい見せることによって、
渾然一体とした世界を作りますよね。
 だけど、1つの大きい流れというのはわりと作らない。あの辺、なんかヨーロッパ人って面白いですよね(笑)。

みなもと:
 あっちでは、そういう流れというのを“音楽”で代用していたのかもしれないね。
盛り上がったり、盛り下がったり、静かなところから突然、ドラマティックになったりするじゃないですか、交響楽団っていうのは。
 とにかく、日本は見る文化なんですよ。“紙芝居”だって、当然、外国にあると思っていたら、ないんだもの! 「え!?」って思うでしょ。

岡田:
 人形劇はあるけど、紙芝居はないんですよね。

みなもと:
 「世界には紙芝居がない」っていうのを知った時、本当に「なんなんだ、この国は!?」って、逆にびっくりしたよ。