>>335
内側から壁を叩く音、上方から男性の呻き声。この時点でもまだ心霊現象と決めつけたくなく、頭がおかしくなったのか? 悪い夢かも? などと思考を繰り広げていましたが、3つ目の音が、加わりました。

『ウ〜〜〜ウ………ウ〜〜〜ウ………』

警報音です。
心霊現象!? と怯えていた思考は瞬時に消え去り、ホテル内で発生したと思われる火災か何かへの恐怖へと変わりました。
ベッドを飛び出した私は部屋のドアを開け……る前に、のぞき穴から廊下の様子を伺おうとしました。同じように他の宿泊客たちが部屋から出てきているかもと思ったからです。
ですが、私の期待とは正反対の、それも想定外の光景が広がっていました。

白く発光した人影が、薄暗い廊下に鮨詰めになっていたのです。

見えるはずのない光景に慄いた私は気づいたらベッドへUターンし、息を殺しながら涙をぼろぼろ零していました。
母の声が聞きたいとスマホを握りしめましたが、時間は深夜3時。ついさっきまで1時だったはずなのにこんなに時間が経っていたのかとパニック状態でした。流石にこんなに遅い時間に娘が号泣しながら電話をかけてきたら、心配をかけ過ぎるかもしれない……と通話のボタンを押すことはできませんでした。
今すぐにでもこの部屋から、ホテルから退散したかったですが、抜け出した後の行き先も無かったため『朝一でチェックアウトしよう』と、そのまま布団にくるまって朝が来るのを待っていました。

朝の6時。
気絶か睡眠か区別はつきませんでしたが、数時間意識を手放せていたようです。鳴り響いていた三つの音は止み、静寂が広がっていました。
握りしめていたままのスマホから直ぐさま母に電話をかけましたが、それでも早朝でしたし、何より電話をしながら私はまた泣き出してしまったので結局は母を驚かせてしまいました。