僕はこの部屋にゐると、まるで囚人のような気持ちになる。
四方の壁も天井も真っ白だし、すりガラスの回転式の小窓の隙間から見える外界も、何か脅威を含んでいる。
絶え間ない飢餓が感覚を鋭くさせるのか、ガラス一重と薄い板壁からなる、この部屋の構造が、外界の湿気や狂気を直接皮膚のように吸収するのか、――じっと座って考え込むことは、大概こんなことだ。
それにしても、何という低い天井で狭い小さな部屋なのだろう。
僕の座っている板敷は、それがそのまま薄い一枚の天井となっているので、ちょっと身動きしても階下の部屋に響く。
そして、階下ではちょっとした気配にも耳を澄ませているこの家の細君がいるのだ。
たとへば、僕が厠へ行くため、ドアをあけて細い階段の方へ出たとする。
すると、この家の細君は素早く姿を消して次の間に隠れる。
僕と顔を逢わすことを避けているのだ。
……僕はこの家の細君と口をきくことはまるで無いし、細君の弟が一人いるのだが、それとももう言葉を交はさなくなっていた。