俺たちはランタンとスプレーを構えながら
ゆっくりと、唸り声がしたと言う方向に向かいました。
夜の山は昼間とは雰囲気が全く異なり、
真っ暗闇で不気味な静けさにつつまれていましたが、
崖の下の林の方からかすかに、唸り声のようなものが聞こえていました。
俺たちは、得体の知れない恐怖と5月の夜の寒さに震えながら、林の中に入りました。

しばらく、歩くとだんだん声は大きくなり
俺たちは対象物との接触を覚悟しました。
そして、それはランタンの明かりに照らされては姿を現しました。
熊だと思っていたそれは、人間で、
こちらに背を向けた状態で立ちながら、ずっと下を向いて唸り声をあげていました。

俺はさっきまでとは別のベクトルの恐怖を感じました。
これは絶対関わっちゃダメだ、早く逃げよう…
そう思った時Dが
「すいません、大丈夫ですかぁ?」とそいつに声をかけた。
その声でようやく俺たちに気づいたのか、そいつはゆっくりとこちらを向いた。

そいつは頭が半分なかった。
いや、ぐしゃぐしゃに潰れていた
首もあり得ない方向に曲がっていて体中血まみれだった。
かろうじて残っていた左目は白く濁っていたが、
確実に俺たちを見ていた。

そして、ゆっくりこちらに近いてきた。