それから一週間ほど経った日。いつものように学校から家に帰る途中で例のおじさんの家の前を通りかかりました。おじさんの家は生垣に囲まれていて大人の目線からでは中は見えませんが、子供が屈むと石段と生垣の間から庭を覗くことができました。私は写真を貰う約束をした日から、もし見かけたら声をかけようと帰り道に庭を覗いてみるのが習慣になっていたのでその日もお辞儀するような格好で覗いてみると、おじさんがいました。何か作業をしていたのかハンカチで顔を拭いています。こちらに背を向けていたので何をしているのかは分かりませんでしたが、声をかけようと玄関の横から庭に入りました。はしゃいでいたのか、こっそり近づいて驚かそうとしたんです。おじさんはまだハンカチで顔を拭っています。あと数メートルのところまで近づいてようやく様子がおかしいことに気がつきました。
 おじさんの手にあったのはハンカチではなく写真でした。そして、汗を拭いていたのではなく写真を舐め回していたんです。
 何が起きているのか当時の私には理解できませんでしたが、目の前にいる人がまともではないことは分かりました。幸い、相手はまだこちらに気がついていません。芝生で足音がしなかった事もあったと思いますが、それだけ夢中になっていたんだと思います。私は音を立てないようにゆっくりと後ずさりで庭から出ようとしましたが、途中で我慢が出来ず走り出してしまいました。そのまま全速力で家に帰り母が帰ってくるまで電気もつけずベッドの中で息を殺していました。
 母が帰ってきた時は本当に安心しました。起きたことを母に伝えるとすぐに警察官が家に来ました。警察官とはほとんど母が話していたので内容はよく覚えていませんがパトカーに乗っておじさんの家に行ったことは覚えています。私はその後すぐに引っ越してしまったのでそれからどうなったのかは分かりません。