夕刻、仕事で遅れるという夫より先に、まず親友が現れた。ふくよかな奥様になっていた。
痩せ衰え死にかけの下賤な貧民と化したかつての親友を目にした奥様は、一瞬ギョッとし
青ざめてベッドに縋り付いて、恋に勝利しても この数十年 罪悪感で心穏やかでなかったこと、
家を追い出されたと知って行方を探したけど見つけられなかったことを告げ、謝罪した。

老女は、ならば夫へ真相を打ち明け
30年前 自分が最後まで婚約者に誠意を持って接していたことを証するよう言うが、親友は取り乱し
「それだけは! 今の私達には、士官になった息子も、結婚して孫を産んだ娘もいる。
子や孫には罪は無い。どうか今さら私達の家庭を壊すような事だけはしないで」と懇願する。

迷った末、老女は「…いいわ、あなたを許す。彼が真実を知ることは決して無い。
あなた(質屋娘)も口外しないで」と告げて、思い出のティーポットを抱いて息を引き取った。
死後、恰幅の良い紳士となった元婚約者が到着した。
「間に合わなかったか。だが、今となってはどうでもいい。彼女は愚かに心変わりし、私を裏切った。
その結果がこの惨めな有様だ。おかげで、私は今の最良の妻を得ることができたが。」
「最良の妻ねぇ?」質屋娘はよっぽど真相をブチまけようかと思ったが、約束に従い思い留まった。
老女が胸に抱くティーポットの中身を知れば、決して並んでは出て行かなかったであろう妻と二人
部屋に背を向けて元婚約者は去って行った。