この時になって初めて、娘は間男の正体と、Cこそが実の父だったのだと理解した。
それからというもの、母と暮らしながら間男に犯されるという日々が続き、娘は数人の子供を産んだ。
その間も、Cは何度も娘に会いに来て、「一緒に暮らそう。子供達の面倒も見てやる」と言い続けてくれた。
しかし娘は、初めて会った際に邪険に扱ってしまった罪悪感から申し出を素直に受け入れる事が出来ず、尚も父を邪険に扱って拒み続けた。
Cは雪の日も娘に会いに現れ、会う度に痩せ細っていった。
やがて、Cは会いに来てくれなくなった。
そしてある日、とうとう娘はその生活に耐え兼ね、間男を包丁で刺し、子供達を連れて逃げ出した。
せめて子供達だけでも父に預かってもらおうとしたが不在であり、診療所に居ると耳にし、ここにやって来たのである。

「父の最期はどのようなものでしたか?」と娘に問われ、赤ひげは「お前の父は、苦しまず、安らかにこの世を去った」と答える。
「ところで、どうして間男を刺したんだ?
間男に殺されそうになって、咄嗟に身を守るために刺したんじゃあないのか?
いや、そうなのだ。そうに違いないのだ。
お前の罪が軽くなるよう、俺からもお上に証言してやろう」
さらに赤ひげは懐から自分の金を取り出すと、「これは、お前の父がお前のために貯めていた金だ。暫くは、この金で子供達の面倒を見るといい」と言って娘に渡した。