>>145
先ほどまで自分の目の前に広がっていた場所は何だったのか?
頭が真っ白になり動けず、足元もとい奈落の底から目を離すことが出来なくなっていました。

その断崖絶壁からは真横に数本の木々が伸びていました。
時計の針でいう3時の方向に樹木が伸びているのです。

方向感覚が90度ずれ、視界がゆがむ感覚。
自分が今いる場所が正しい面なのか、足元に広がる面が正しい面なのか。そんな不思議な感覚です。

子どもの私は、山だから真横に木が生えているのかな、なんて思ったものです。

そして。
その木々や岩肌をつたい、こちらによじ登ってくる影がいくつか見えたのです。
眼下、遠くに見えるとはいえ人にしては少し小さい、猿のような黒い影が。

灰色の断崖絶壁。
そこから垂直に伸びる白い樹木、そしてそのはるか下に広がる雲(霧)。
その中をユラユラとよじ登ってくる黒い影、この世の景色ではありませんでした。