▼孫に三次元の理論を教えようとしたこと、その成果 -3 フラットランド

孫が部屋に入ってくると、わたしは用心してドアに鍵をかけた。
そして、彼の傍らに座り、君たちが線と呼ぶだろう数学用の書板を手にして、昨日の授業を再開しようと告げた。
点が一次元の中で動くと線になること。線が二次元の中で動くと正方形になることを、もう一度教えた。

その後、作り笑いをしながら言った。
わたし(正方形): 「さてと、わんぱく坊主、お前は、同じように正方形が北ではなく、上へ%ョけば、別の図形、三次元にある超正方形のようなものができると、わたしに信じさせようとしたね。あれを、もう一度言ってごらん」  

そのとき、外の通りから、議会の決議を布告する伝令兵の「よいか! よいか!」という声が、また聞こえてきた。

孫は幼いが、歳のわりには非常に聡明で、円たちの権威を完全に敬うように育てられていたので、想定外に鋭く状況を察した。
彼は、布告の言葉が聞こえなくなるまで沈黙を守り、それから急に泣き出した。

孫(六角形): 「おじいちゃん、あれはただの冗談だったんだ。もちろん、何の意味もないんだ。あのときは、新しい法律のことを知らなかったし、三次元について何か言ったつもりはないよ。
北ではなく、上へ≠ネんて一言も言ってない。そんな馬鹿げたこと。そうでしょ? ものが北じゃなく、上に動くなんて。北ではなくて上なんて! 
僕が赤ん坊だったとしても、そんな馬鹿なこと言いやしないよ! ほんと馬鹿げてるよ! アハハ!」

わたし(正方形): 「馬鹿げてなんかいやしない!」わたしはカッとして言った。「たとえば、この正方形を手にとって」と言いながら、手元にあった、動かせる正方形をつかんだ。
「動かすぞ、ほら、北へではなく、そう、上へだ。つまり、北へではなく、どこか別の方向にだよ、正確にはこんなふうじゃなくて、どうにかして、ほら……」
わたしはここで言葉を失い、正方形のカードをむやみに振りまわした。
孫は面白がって、いつもより大声でげらげら笑い出すと、勉強を教えてくれるどころか、冗談ばかり言って、とドアの鍵をあけて、部屋から走り出ていってしまった。
こうして、三次元の福音で弟子を宗旨替えさせようという試みは失敗に終わった。