しずしずと俺の前を過ぎようとしたんで、投げ出してた足をよけた。
そしたら、看護師が乱暴な手つきで車椅子のやつのマスクをはがしたんだ。
焼け爛れた顔が出てきた。たぶん火じゃなく、何かの薬品で。
そいつは俺にその顔を向け、「うーうーうー」とうなったんだが、
崩れた顔だけど、面影に見覚えがある気がしたんだ。見田の兄だと思った。
「うーうー おろうろは しらら」そう言ってがっくり頭を落とした。
看護師があごを持ち上げてマスクをかぶせ、俺を見るともなく、
「こうなりたいですか? 沼のことは人に話してはいけませんよ」
そうつぶやいて、車椅子を押して検査室のほうへ去ってったんだよ。
うん、見田兄の言った内容は後で考えてわかったよ。
「弟は死んだ」これでまちがいないと思う。あれから3ヶ月が過ぎて、
俺の身のまわりに特におかしなことはない。ないが・・・

終わり