269のつづき。

恐怖より怒りのほうが強かった俺は玄関のドアを開けた。いや、開けたというよりドアノブを下げて外に押した、というほうが正解か。
開かなかったんだ。ドアが。
咄嗟にドアスコープを覗いた。なぜかヤツがドアノブをしっかり抑えてやがった。あんなにガリガリなのに異常に力が強く、ドアノブがびくともしなかった。
それより、あんなにインターホンを鳴らして覗き込んでまで俺のことが気になっているくせに、いざ俺が出ようとすると拒む。何なんだこいつは?

自慢じゃないが俺は多少鍛えていて腹も割れてる。見るからにムキムキじゃないが細マッチョってやつか。普段筋トレとかしてる割にこんなガリヒョロに力負けしてる。なんかそれも気に食わなくてさらに怒りが倍増した。
「おい!お前なにしてんだよ!手離せよ!!俺に何か言いたいことあんだろ!?」
全体重をドアノブにかけながら外にいるであろうヤツに向かって叫んだ。すると急にドアノブが軽くなった。と、同時に死ぬほど力を込めてた俺はドアが開いた瞬間に外に転がり落ちた。
思いっきり腹を強打した。しばらく痛みにうずくまってたが、だんだん痛みが引いていくうちにヤツが居ないことに気付いた。

逃げたんだ。まだ近くにいるかもしれない。俺はまだ地味に痛ぇ腹を抑えながら周りを確認した。すると数百メートル先の坂の上にヤツがいた。
こっちを見ていた。ヤツはギョロっとした目を歪ませて、笑っていた。異様に嬉しそうだった。