人気のない市街に入ると、遠くにぼんやりと見覚えのあるコンビニを見つけた。
直ぐにも市民病院へ向かいたかったけど、喉もからからに乾いていたし気分もすぐれ
なかったので冷たいものでも飲もうと寄ることにした。
がらんとした店内でアイスコーヒーを取ってレジへ向かうと、「山田!」と俺を呼ぶ
声がする。レジに立ってたのは中学高校の同級生の川田だった。そうだ、ここって
こいつんちが経営してるコンビニだったっけ。
川田が懐かしそう語りかけてきた。5年ぶりくらいか。帰ってきたのか?と言うので
親父が市民病院にいるらしくて会いに行くんだ、と言った。
市民病院?あの大池の脇の?と言うのでそうだというと首をひねる。
ちょっといいか?とレジから出てきて飲食スペースの方へ俺を引っ張った。
幸いにも時間のせいか俺意外には客は居ない。
川田が続ける「市民病院だけど、あそここの前の市合併で潰れたよ。隣のF市の病院に
統合されて今廃墟になってる。今の時間行っても誰もいないぞ。ブロックされて入れ
ないようになってるし。」
え?どういう事?と言うと親父さんの電話番号教えてと言う。俺の携帯を見せると
自分の携帯で親父の番号へかけだした。病院いるから出ないよと言う俺を左手で
制するとあ、こんばんはー山田君の同級生です。今隣にいるんで変わりますねと言って
俺にほれっと電話を差し出した。
「もしもし?」と出ると親父の声でああどうした?と聞いてくる。
どうしたも何もあんたが病院居るから来てくれって言ったんじゃんという言葉をぐっと
飲みこんで「いや、別に。親父、体は大丈夫?」と聞く。
「ああ、頭と懐具合は悪いけどそれ以外は問題ないぞ!」と言って快活に笑った。
背後にカラオケが流れてる。12時近いのに元気だな、なるほど確かに病院にはいないし
少なくとも真夜中にカラオケを歌う程度には元気らしい。「ああ、何でもないよ、仕事
で近くまで寄ったんだけどもう帰るからまた電話するから」と言って電話を切った。

電話を切って川田に返す。何なんだ…?と訝っていると「まあいいからアイスコーヒー
飲めよ、今市民病院行く用事ないなら今日は帰った方がいいぞ。あんなとこ行くと
ヤンキーに襲われて大池に沈められるぞ!顔見れて良かったよ」と言ってニコっと笑った。