稲川淳二みたいな口調のスレですよ 第八拾壱話目
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稲川淳二みたいな口調のスレですよ 八拾スレ目
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アタシ次は>>980さん目安に立てて欲しいんですよ、えぇ こんばんは
今日もアタシが真夜中にちょっとした異界に皆さんをご案内したいと思います
皆さんは、腕時計をしていらっしゃいますでしょうか
…アタシは、腕時計を装着する事も勿論ですが、装着よりも集める事の方が好きでしてね
よくアンティークショップを見かけては、レトロな腕時計を探すような日々を送ってるんですね
今回は
アタシが5年程前に、あるアンティークショップで見付けた、珍しい腕時計にまつわる不思議なお話です
もしかすると、皆さんの腕時計にも、起こっている事かもしれません… 5年前の梅雨時でしたかねぇ
仕事が終わって、いつもの道を歩いて駅の方向に目指していると、フッと何かが見えた気がしたんですね
何と無しに横を見ると、いつもの道の路地奥に見慣れないアンティークショップが薄っすらと見えてるんだ
「あれぇ…?こんな所にこんな店あったっけ…?」
この時期には珍しい天気雨で夕焼けと雨雲がいいあんばいでもってその店を照らしてましてね
でも、美しい夕焼けの光で照らされたその店の外見は築数十年を思わせるボロボロの洋風造りなんですよ、えぇ
しかし躊躇する事無く、無意識にスーッとアタシは足を運んでしまったんだ
で、ドアをイィィィーって引くと、ドアにくくりつけられたベルがカランカランって鳴ったんですね
店内に入ると、外装のおんぼろ具合とは裏腹にかなり綺麗でしてね
ドアの正面に位置に昔ながらのレジがあって、そこに地味ですが黒髪の美人な女性が座っていたんです
こじんまりとした空間に所狭しと骨董品とおぼしき年季の入った商品の数々が綺麗に並べられている、その中央で
「…いらっしゃいませ」
その店主はとても上品な笑みを見せてアタシを歓迎したんだなぁ 「…あ、どうも。ついお店が目に入ってしまいましてね。いやーいつも表の通りを通勤に使っているんですが今まで気付かず損してましたねこれは。」
とアタシが社交辞令で返すと、その店主は一瞬ニヤリとしたような気がしたのですが、まぁ気のせいかと思って流したんですね
上で述べた通り、アンティークショップでのアタシの目的はレトロな腕時計ですから、大量の骨董品をよそに腕時計が無いかどうか見渡したんだ
ところが、どうやら置いてないらしい
(店主さんは感じがいいし、店内も綺麗で品数は豊富だが…腕時計が無いとなるとここには用はもう無いなぁ…)と思って、ドアの方に翻そうとすると
「…何かお探しのようですね」
黒髪の店主がにっこりとして私に話しかけてくる
と、(実は…)と言いかけた所で、私の発言の出鼻をくじくかの如くタイミングでその店主は何やら奇妙な木箱を私の前に差し出したんです
「…?これは…?」
店主が言うんです
「…実はつい失念してまして。…私、この店は気が向いた時にだけ開ける事にしてるんですよ。」
「は、はぁ…そうですか(汗)で、その箱と何か関係があったりするんですか?」
とアタシが困惑しながら質問をすると何やら店主が不思議な事を言い始めたんです 「この箱はですね。私が気まぐれで店を開けた時に来たお客様の中で、この人になら譲ってもいいなと思える人に渡そうと決めていたものなんですよ。」と言うので
「えっ…?売り物ではないという事ですか?」とアタシは対応に少し困ってしまったのですが、店主が微笑みながらその木箱を目の前で開けて見せたんです
「おっ…おおお…?」
見ると、何やら西洋で造られたと思われるかなり洒落たデザインの腕時計が入っていたんだ
しかしかなり年季が入っていて、時計の長針と単身の先が少しねじけている
更にそそられたのは、秒針が円盤の中央からではなく、円盤の外周に付いている見たことすらない代物だったんですね
アタシの反応を見て店主が
「気に入っていただけたようですね」
と想定通りの事として悟っていたかのような不思議な眼差しでアタシを見つめて微笑んだんだ
この時アタシは怖いとか不気味とかいう感情は全く無く、その時計をどうして店主さんがアタシに譲ろうとしているのかを知りたくて気になったんですね
「はい…とても素晴らしい品だと一目で分かりました。ですが…この様なものを、初見の者に何故譲ろうとするのですか?私ならきちんと対価として代金を払ってでも頂きたいと思ってますよ。」
とアタシが述べると
「この時計は『所有して頂くにふさわしい主』を求めているんです。私はその橋渡しとして役目を司ってるんですよ。ですから、これで商売をするつもりは無いんです」
と、奇妙な事を言い出したので(…この女性店主…アタシが表の通りを通勤路として使っている事を知ってて店を開けるタイミングを…?いやいや、じゃあ何故今まで気付かなかった)等と考えていたら
「どうしますか?もしお客様がこれを好まないのであれば、私は元の場所に戻して保管しようかと思ってます。」
と切り出されてしまい、うーん…どうしたものか…とアタシは珍しく考えてしまったんです 考えた挙句アタシはこう切り出した
「あの…お譲り頂けるのでしたら是非頂こうかと思うのですが…その…」 店主「?」
「動力って…ぜんまいですか…それとも電池なんですか…」
そこまで語った所でその店主さんが急に吹き出したんです
「あっははは、お客様もしかしてそれで悩まれてたんですか?」
店主がはにかみながら私に言葉を返すもんですから、アタシは少し赤面してしまいましてね
「いやなんていうか…その…せっかく頂くのでしたらやはりといいますか…末永く使いたいと思うので…動力源とかきちんと知っておきたいなと…」とアタシが正直に心情を話した所で
「電池式ですよ。ほらっ」と店主が針を使ってひょいっと盤面裏を開けてアタシに見せたんです
「えっ…!?これ…相当旧時代のものかと思いきや…ギミックは超が付く程アナログなのに、電池は現代のと同じボタン電池?????えぇぇうそぉ???」
と、思わず素のアタシが出た所で店主が更に大笑いするもんですから、よしてくださいと更に赤面する羽目になりました
で、目の前で新品のボタン電池を入れてくれたんですが、電池を装着し蓋を閉めて木箱に戻し、私に改めて渡す時
「1つ、お約束頂いてもいいですか」と、店主が神妙な表情でアタシに言って来たんだ
「はい、何ですか?」と、アタシが返事をすると
「この腕時計、どんな事があっても絶対に時間を調整しないで欲しいんです」と言われアタシはポカーンとしてしまった 「いや…あの…確かに今の時点では時刻は正確ですし調整するつもりすらありませんが…ですが、ボタン電池の寿命が迫れば当然時刻は遅れますし止まりますから調整が…」
とアタシが言い終わる前に店主は少し悲しそうな顔で下を俯き何か言いたそうにしていたんだ
しかしそこで、アタシは箱を閉める前の映像を思い出してハッとしたんです
(待て…そういえばこの時計…時刻調整のつまみがどこにも無かったぞ…間違いなくアナログ駆動なのに…一体どういう事だ)等とアタシが考えていると、店主が
「…この腕時計の赴くままに時を刻ませてやって欲しいんです」
悲しく寂しそうに消え入るような声でそう店内で呟きました
すると呼応するかのように店主の手の中の木箱から確かにチッ…チッ…チッと時を刻む音色が聞こえてくる
色々突っ込みたい所だったのですが、無料で頂けるという事もあり、それ以上ああだこうだ突っ込むのは辞めようとアタシは思ったんですね
「分かりました。その約束、守りますよ」
そうアタシが言うと店主の表情は明らかにパッと明るくなって
「ありがとうございます」と上品に微笑み返してきたんだな
アタシは木箱をそのまま自分の鞄に入れて礼と挨拶を済ませ、店外に出ようとしたとき
「今回で気まぐれで店を開けるのは最後になるかもしれません。迷ったら、また見付けて下さいね。」
と、店主が意味深な台詞をアタシに放ったんだ
アタシはそんな事を気に留める事無く、頂いた時計を自宅で眺める事に心を躍らせていましたから少し愚かだったのかもしれません
程なくして、あの店主のそれぞれの言葉の意味に気付かされるのです 素晴らしい掘り出し物を無料で譲ってもらって上機嫌だったアタシはワインなら何やら買って
もう痛い程ウキウキで自宅に着いたんですね
で、入手し立てホヤホヤの美しいアンティーク時計をテーブルの上に置いて
その秒針の動き・音に加え時計全体の質感・光沢・手触り等を堪能していました
アタシは色んなアンティーク腕時計を所有していますが
この時計はその中でも最高峰と呼ぶにふさわしい一品だと改めて思いに至り
どうせなら、と思って全てのアンティーク腕時計を一堂に介し並べ
その中央に、黒髪店主からの贈り物である腕時計を添える事にしたんです
実際壮観でした、えぇ
しかしそれは壮観から少しかけ離れたものになっていきます (あれっ…遅れてる…?)
貰った時計を中央に添える形で並べてから5分程でしたかね
秒針のみですが、周囲の時計よりも明らかに遅れ始めたんです
(おかしいな…さっきは全部一緒の秒数だったんだが…えっ…?)
いや、違うんだ
秒針の動くタイミングは全く同じなのですが
秒針の触れ幅が周囲の時計に比べ短くなっていたんです
(なんだこれは…?この触れ幅だと秒針が一周しても60秒でなくなってしまう)
時計盤に書かれているのは間違いなく12時間式の文字列だから一周が60秒でないと滅茶苦茶になってしまうのは誰の目から見ても明らかです
しかし件の店主の言葉が引っかかっているアタシは
(…時計の赴くままに時を刻ませてくれ、か…)
と、少し様子を見る事にしたんですね
しかし酒が入っている事もありその日は寝落ちしてしまいました ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています