高港基資 恐之本 より「雪女」

一流企業の社員だったものの、今はホームレスに転落した平井は女子大のボランティアの炊き出しに世話になる毎日だ。

ある寒い冬の日、ホームレスの師匠である満田が声をかけてきた。
ホームレス仲間の関という男が手足がもげるほどの酷い凍傷になり、「ダルマ」になってしまったと。

関は口の中に酷い疾患を抱えており、酷い口臭から「口臭関ちゃん」と呼ばれているような男だった。
また、麻薬中毒の錯乱から自分の顔の皮膚をはいでしまった「バケモンのもんちゃん」と呼ばれるホームレスも、やはり凍傷で手足を失った。
そして二人とも「雪女だ」とうわ言をいっていたという。

そんな話をしながら満田はボランティアの女子大生に次々とセクハラしまくり、平井は慌てて止めにはいるのだった。

その夜は雪がつもり、平井と満田は寒さに震えていた。
満田は公園のベンチに置き忘れられていた、酒のパックに気がついた。
レジ袋に入ったまま誰かが忘れていったらしい。
平井は下戸だが、大喜びの満田に誘われて晩酌に付き合うことになった。

酒を飲んで二人が寝入った深夜、平井がふと目を醒ますと満田がいない。こんな夜に外に出たら凍死確定だ。
平井は酒の残る体で、這うようにして満田を探しに出た。