夏樹静子「死ぬよりつらい」

ぐっすり寝ている赤ん坊の一人娘を起こすのがかわいそうだからと、寝室の窓を開けたままで(団地の上階なので、不用心なわけではない)夕食の買物に出掛けた若妻。
戻ると、風に吹かれたらしいビニール袋が顔に貼り付いていた娘、窒息死。
子煩悩な夫に申し訳ないから自殺しよう、と思ったら夫、帰宅。
お土産のお人形だの寝顔を見ながら晩酌だのとうるさい夫を、やっと寝てくれたとこなのに!と阻止する。
酔った夫がうとうとし始めたので、この隙に遺書を書いて自殺しよう、と思った若妻、時間稼ぎのため睡眠薬を、二日酔いの薬と嘘をついて飲ませる。

夫がコブ付き中年女(上司の未亡人)と浮気していてそのコブからパパと呼ばれている事。
中年女には親しい年下男が複数いてコブは中年女に近づく男をみんなパパと呼ぶ癖がある事。
子煩悩な夫が中年女に、箱みたいな団地と箱みたいな工場を往復するだけの毎日、晩酌のアテも毎日おんなじ、楽しみは娘だけ、と愚痴をこぼしていた事。
…を、ひょんな事から知った若妻、睡眠薬が効いて眠る夫を寝室に引き摺って、冷たくなった娘を押し潰す形に寝かせる。
夫は、寝返りを打って娘を窒息死させたと思うだろう。子煩悩な夫には死ぬより辛いに違いない。