つい最近のことだ。
俺の上司だったAさんが、旅行から帰ってきたと思ったら、それから一週間も経たないうちに死んでしまった。

Aさんは口数の少ない人で、誰かと仲良さそうにしているところを見たことがなかった。
だからか葬式も思ったほど人は集まってなくて、義理と思って斎場までやってきた俺は、なんだか少し損をした気分だった。

で、参列者が一人ひとりお棺の前で手を合わせるんだけど、誰もお棺の中のAさんを見ようとはしないんだ。
俺も噂で聞いていた。Aさんは死ぬ直前、爪が皮膚に食い込むほどの力で顔をかきむしっていたらしい。
いまどきは死に化粧の技術なんかもずいぶんと良くなってるんだろうけど、それでもひっかき傷でめちゃくちゃになった死人の顔なんて、見たがるやつはそうそういない。

皆が拝むのもそこそこに席へつく中、俺の番が回ってきた。
別にそこまで仲が良かったとか、何かお世話になったわけでもない。ただ、皆が忌避しているものに興味がわいただけだった。
俺は少し大股に踏み込んで、棺の窓を覗き込んだ。