驚いた私がベッドから起き上がろうとすると同時に、携帯の光と振動で隣に寝ている女性も目を覚ました。
そして、混乱する私をよそ目に、「おそかったねぇ、おかえりー」と何事もなかったかのような反応。
その、あまりにいつも通りの反応が、私をかえって混乱させました。
「ふざけるな、おまえは誰だ!」と怒鳴りつける私に、「え、ちょっと、なに言ってるの、K(彼女の名前)だよ、Kだよ」と逆に向こうが怯えている様子。

もう何がなんだか分からなくなった私は、ベッドが飛び出し、急いで部屋の明かりを付けました。
ベッドの上に座っているKだと名乗る人物は、やはり私の知っている彼女ではありません。
「顔が全然違うじゃないか!」と怒鳴る私に、
その女は、「何言ってるの、私はずっとこの顔だよ」と言ってきます。
確かに、その声や言葉遣いは、私の知っているKです。
その後、少し冷静になった私は、自分の記憶にあるKと、
今、目の前に座っている女性の顔が全然違うということを素直に告白してみました。

私が激務で頭がおかしくなったと思ったのでしょう。
彼女は泣きながら、これまでの二人の思い出をいろいろと語り出しました。
そして、自分がKである決定的な証拠として、これまで一緒に取った写真を出してきたのです。その中にいるのは、間違いなく、いま目の前にいる女性でした。
彼女がした思い出話にも、なんらおかしな点はありません。
けれど、その共通の思い出の中で、私が思い浮かべる彼女の顔は、
まったく別の女性のものなのです。

結局、その日は、私が疲れすぎているということで話は落ち着きました。
その後、共通の友人にあっても、誰も今のKを不思議がる人はいません。
そして数年後、私は彼女と結婚し、子どもも産まれました。
けれど、あの日以前の記憶の中にいる彼女は、今でも別の顔の女性のままです。